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第3章 禁種と覚醒
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まずは目の前の邪魔者を殺す。
殺意を殺意で上書きしたグランホムラは魔核に魔力を込めた。
焼けた喉では詠唱することは叶わず、無詠唱で行使できる魔術のみで行わなければならない。
崩壊しつつある魔核が無理な魔力集中で悲鳴を上げたが、それにすら気付かなかった。
「ブースト」
それに対し、レックレスは略詠唱で身体強化の魔術を発動させる。
命魔術は肉体に関わる魔術がほとんどで、強化・防御・回復などの種類が多い。
彼が発動させたのは身体能力を一時的に強化する能力であり、格段に動きが早くなった状態では直線的な火球など当たるはずもなかった。
それどころか踊るような動きで徐々に間合いを詰めていく。
「我が拳に討魔の力を宿さん・生命の飛沫を光に変えて・悪鬼を砕く鉄槌と成す――チャージ・フィスト・カウント3」
ステップインしながら詠唱した魔術により、彼の拳に金色の光が宿った。
懐に飛び込んだレックレスの腕とグランホムラの歪な腕が交差する。
グランホムラの拳はレックレスの顔をすれすれに横切り、逆に彼の拳は相手の腹部に深々と突き刺さる。
同時に光が炸裂。
何らかの強化が施された攻撃はグランホムラの体を後退させ、巧みな足捌きでさらに追撃を二発、炸裂する拳が唸りを上げた。
光が尾を引いて着弾する様はまるで彗星。
苦悶の声を上げながら振り回した腕をダッキングで掻い潜り、深い踏み込みからのボディーブローを容赦なく突き刺す。
しかし強化魔術は三発で打ち止めだったらしく、炸裂なしの拳では流石に分が悪い。
グランホムラは当初より縮んでいるとはいえ、それでも身長は2m超。
体も分厚く、レックレスとの体重差は相当にあるだろう。
ブーストによる小強化だけでは威力が足りない。
現に先ほどとは違って吹き飛ばされなかったグランホムラは両手を我武者羅に振り回してレックレスを退けた。
更に無詠唱で放たれたファイアランスの乱発。
火槍は初級魔術によるレックレスの防御を貫通する威力だが、強化された拳で別方向へいなすことにより回避する。
それと同時に詠唱も行い、再び肉体を強化する。
魔術以外の攻防と同時に詠唱を行うことを並行詠唱と呼び、これは実戦において奥義と言っても過言ではない。
近接魔術戦闘の教本を見せられているような光景に、若い魔術師二人は絶句した。
「……凄い。リリム、並行詠唱はどのくらいできる?」
「初級魔術ならともかく、中級魔術では絶対に無理だ。歴戦の老兵や一部の天才は可能かもしれないが」
かつてグランホムラはフラムの腕を折ることで魔術を妨害しようとしたことがあった。
結果としてフラムは問題なく発動させたが、それはあくまで例外である。
鋭い痛みや防御・回避を強制させられた場合、魔術は破綻するのが通常である。
魔力を意識的にコントロールするのが魔術であり、意識の乱れは致命的。
だからこそ魔術師には前衛が必要なのだ。
しかし、レックレスはそのセオリーを無視して魔術師単独での高速戦闘を行っている。
卓越した体術と極限にまで短文化された詠唱がそれを可能にしていた。
リリムは水幕越しに両者のやりとりを観察する。
二十代半ばに見える彼は歴戦とは言えないだろう。
ならば近接戦闘に特化した戦闘力こそ彼が持つ禁種としての異能なのだろうか。
「……何て感じに考えているかねえ。だとしたら随分と俺様を見縊っているってもんだ」
彼は戦闘中にも関わらず、いつもの軽薄な笑みを浮かべて見せた。
動きの鈍いグランホムラから少し距離を取り、半身に構えるレックレス。
短いやり取りの中で彼が観察していたのは、相手が何をできて何をできないか。
まず、詠唱ができない。
少しの溜めを挟めば中級魔術までは使えるが、上級魔術はできない。
限界速度、身体の可動域、戦略的思考、癖、等々。
それらを加味した上で、必殺までのプロセスを脳内で構築していく。
超魔紋の刻まれた第三の瞳が大きく見開かれた。
「――我が肉体を器とする」
直後、グランホムラは急襲を仕掛けた。
感じたのは魔力の集約。
レックレスが自身の魔核に大量の魔力を集めだしたことを脅威と考え、妨害に走ったのである。
「討滅の左腕は進撃の狼煙」
走りながらのファイアボールとファイアランスの連発。
流水の如き動きですべてを回避し、爆発によって生じた土煙に身を隠す。
「破壊の右腕は逆襲の兆し」
土煙ごと切り裂いた必殺の爪撃は、しかし上体を反らす器用な動きによって空を切る。
逆にカウンターで入れられた蹴りは決して威力のあるものではなかったが、軸足の関節を狙った精密な見切りによって態勢を崩すことになる。
「血も骨も魂さえも刃に変えて」
直後、グランホムラは炎上した。
密着に近い距離からの全方位攻撃で回避を許さない狙いだったが、しかしそれは読まれていた。
崩れた体勢の相手から魔力の高まりを感じた瞬間、レックレスは指向性のある攻撃ではないと判断。
グランホムラの軸足に触れていた足をそのまま踏み台にし、後方宙返りで距離をとる。
「力の化身を満たす依り代とせん」
空中で両者の視線が交差する。
片や両目、片や第三の目。
超魔紋が互いを捉え、互いに確信する。
もはや魔術は止まらない、止められない。
レックレスは最後の魔術名を唱えるべく口を開き、グランホムラは迎撃すべく魔力を魔核に込める。
「――制限神化Lv.1」
レックレスの全身から黄金の光が迸った。
彼の肉体が放つエネルギーの正体は、圧倒的な生命力。
極限にまで強化された力を放射するレックレスを何かに例えるとすれば、超新星が相応しい。
充分な距離を保っているにも関わらず後退りしたフラム達を誰が責めることができるだろうか。
だが、そんな力を前にしてもグランホムラの殺意は揺るがない。
目の前の相手がこの場で最も脅威であると判断し、切り札を切るべく魔力を操る。
炭化した喉では詠唱はできないが、たったひとつ無詠唱で放つことができる上級魔術があった。
グランホムラの禁種としての異能。
それは『一日に一度、その日使用した魔術を無詠唱で再現できる』という能力だった。
上級魔術にも適用されるこの異能は、初見の相手にこそ最も効果を発揮する。
無詠唱で放たれる上級魔術で幾度となく相手を灰に変えてきた。
フラムとの戦闘では効果的な場面がなかったが、事前準備して戦闘に臨めば常勝が約束される必殺技。
「いくぜ」
自由落下に従い着地した瞬間、急激な加速でグランホムラへと肉薄する。
その速度は、圏外から見守っていたフラム達に必中を確信させるほどの動きだった。
最も、それは相手が万全を期していなければの話。
グランホムラの手にいつの間にか握られていた炎の杖を見て、レックレスは瞠目した。
火の上級魔術、獄炎魔長の杖撃。
術者であるグランホムラの倍はあろうかという長さに加え、先端にいくほどに瘤のように膨らむ形状は杖というよりも戦槌に近い。
しかし驚くべくはその大きさなどではなく、圧倒的な火力であった。
凄まじい熱量によって空気が滾り、辺りが歪むほどの熱。
命魔術によって防御力が上がっていなければ、間合いに踏み込んだだけで火傷を負っていただろう。
特性として相手の魔核を追尾する動きを取り、術者の予想を裏切る動きで迫ったとしても杖からは逃れられない。
炎杖の巨大な先端が目の前に迫った時、レックレスは不可避であることを悟った。
速度を落とすこともできず、レックレスは黒々とした炎に飲み込まれる。
死んだ。
グランホムラ、フラム、リリムの三者は、立場を超えて同じ気持ちを抱いた。
朗々とした声が、炎の中から上がるまでは。
「制限神化Lv.3」
爆発四散した杖の中から、先ほどよりもさらに光を増したレックレスが飛び出した。
神速とすら思える踏み込みでグランホムラの懐に潜り、腰を落として拳を構える。
彼の黄金光は、全て拳へと集まっていた。
「帰神・貫拳」
ぱきん、という乾いた音。
レックレスが全身をばねにして振り上げた拳は、小さな音を上げて完結した。
それは、魔核を砕く音だった。
生物の中で最も硬い場所、それを飴細工のように砕き、するりと体ごと拳を引く。
やや間を開けて、グランホムラはその場に膝を突いた。
巨体が地面に吸いこまれるかのように倒れていったが、地に伏せるよりも全身が灰になる方が早かった。
真っ黒な灰の山。
それが炎の禁種グランホムラの末路だった。
殺意を殺意で上書きしたグランホムラは魔核に魔力を込めた。
焼けた喉では詠唱することは叶わず、無詠唱で行使できる魔術のみで行わなければならない。
崩壊しつつある魔核が無理な魔力集中で悲鳴を上げたが、それにすら気付かなかった。
「ブースト」
それに対し、レックレスは略詠唱で身体強化の魔術を発動させる。
命魔術は肉体に関わる魔術がほとんどで、強化・防御・回復などの種類が多い。
彼が発動させたのは身体能力を一時的に強化する能力であり、格段に動きが早くなった状態では直線的な火球など当たるはずもなかった。
それどころか踊るような動きで徐々に間合いを詰めていく。
「我が拳に討魔の力を宿さん・生命の飛沫を光に変えて・悪鬼を砕く鉄槌と成す――チャージ・フィスト・カウント3」
ステップインしながら詠唱した魔術により、彼の拳に金色の光が宿った。
懐に飛び込んだレックレスの腕とグランホムラの歪な腕が交差する。
グランホムラの拳はレックレスの顔をすれすれに横切り、逆に彼の拳は相手の腹部に深々と突き刺さる。
同時に光が炸裂。
何らかの強化が施された攻撃はグランホムラの体を後退させ、巧みな足捌きでさらに追撃を二発、炸裂する拳が唸りを上げた。
光が尾を引いて着弾する様はまるで彗星。
苦悶の声を上げながら振り回した腕をダッキングで掻い潜り、深い踏み込みからのボディーブローを容赦なく突き刺す。
しかし強化魔術は三発で打ち止めだったらしく、炸裂なしの拳では流石に分が悪い。
グランホムラは当初より縮んでいるとはいえ、それでも身長は2m超。
体も分厚く、レックレスとの体重差は相当にあるだろう。
ブーストによる小強化だけでは威力が足りない。
現に先ほどとは違って吹き飛ばされなかったグランホムラは両手を我武者羅に振り回してレックレスを退けた。
更に無詠唱で放たれたファイアランスの乱発。
火槍は初級魔術によるレックレスの防御を貫通する威力だが、強化された拳で別方向へいなすことにより回避する。
それと同時に詠唱も行い、再び肉体を強化する。
魔術以外の攻防と同時に詠唱を行うことを並行詠唱と呼び、これは実戦において奥義と言っても過言ではない。
近接魔術戦闘の教本を見せられているような光景に、若い魔術師二人は絶句した。
「……凄い。リリム、並行詠唱はどのくらいできる?」
「初級魔術ならともかく、中級魔術では絶対に無理だ。歴戦の老兵や一部の天才は可能かもしれないが」
かつてグランホムラはフラムの腕を折ることで魔術を妨害しようとしたことがあった。
結果としてフラムは問題なく発動させたが、それはあくまで例外である。
鋭い痛みや防御・回避を強制させられた場合、魔術は破綻するのが通常である。
魔力を意識的にコントロールするのが魔術であり、意識の乱れは致命的。
だからこそ魔術師には前衛が必要なのだ。
しかし、レックレスはそのセオリーを無視して魔術師単独での高速戦闘を行っている。
卓越した体術と極限にまで短文化された詠唱がそれを可能にしていた。
リリムは水幕越しに両者のやりとりを観察する。
二十代半ばに見える彼は歴戦とは言えないだろう。
ならば近接戦闘に特化した戦闘力こそ彼が持つ禁種としての異能なのだろうか。
「……何て感じに考えているかねえ。だとしたら随分と俺様を見縊っているってもんだ」
彼は戦闘中にも関わらず、いつもの軽薄な笑みを浮かべて見せた。
動きの鈍いグランホムラから少し距離を取り、半身に構えるレックレス。
短いやり取りの中で彼が観察していたのは、相手が何をできて何をできないか。
まず、詠唱ができない。
少しの溜めを挟めば中級魔術までは使えるが、上級魔術はできない。
限界速度、身体の可動域、戦略的思考、癖、等々。
それらを加味した上で、必殺までのプロセスを脳内で構築していく。
超魔紋の刻まれた第三の瞳が大きく見開かれた。
「――我が肉体を器とする」
直後、グランホムラは急襲を仕掛けた。
感じたのは魔力の集約。
レックレスが自身の魔核に大量の魔力を集めだしたことを脅威と考え、妨害に走ったのである。
「討滅の左腕は進撃の狼煙」
走りながらのファイアボールとファイアランスの連発。
流水の如き動きですべてを回避し、爆発によって生じた土煙に身を隠す。
「破壊の右腕は逆襲の兆し」
土煙ごと切り裂いた必殺の爪撃は、しかし上体を反らす器用な動きによって空を切る。
逆にカウンターで入れられた蹴りは決して威力のあるものではなかったが、軸足の関節を狙った精密な見切りによって態勢を崩すことになる。
「血も骨も魂さえも刃に変えて」
直後、グランホムラは炎上した。
密着に近い距離からの全方位攻撃で回避を許さない狙いだったが、しかしそれは読まれていた。
崩れた体勢の相手から魔力の高まりを感じた瞬間、レックレスは指向性のある攻撃ではないと判断。
グランホムラの軸足に触れていた足をそのまま踏み台にし、後方宙返りで距離をとる。
「力の化身を満たす依り代とせん」
空中で両者の視線が交差する。
片や両目、片や第三の目。
超魔紋が互いを捉え、互いに確信する。
もはや魔術は止まらない、止められない。
レックレスは最後の魔術名を唱えるべく口を開き、グランホムラは迎撃すべく魔力を魔核に込める。
「――制限神化Lv.1」
レックレスの全身から黄金の光が迸った。
彼の肉体が放つエネルギーの正体は、圧倒的な生命力。
極限にまで強化された力を放射するレックレスを何かに例えるとすれば、超新星が相応しい。
充分な距離を保っているにも関わらず後退りしたフラム達を誰が責めることができるだろうか。
だが、そんな力を前にしてもグランホムラの殺意は揺るがない。
目の前の相手がこの場で最も脅威であると判断し、切り札を切るべく魔力を操る。
炭化した喉では詠唱はできないが、たったひとつ無詠唱で放つことができる上級魔術があった。
グランホムラの禁種としての異能。
それは『一日に一度、その日使用した魔術を無詠唱で再現できる』という能力だった。
上級魔術にも適用されるこの異能は、初見の相手にこそ最も効果を発揮する。
無詠唱で放たれる上級魔術で幾度となく相手を灰に変えてきた。
フラムとの戦闘では効果的な場面がなかったが、事前準備して戦闘に臨めば常勝が約束される必殺技。
「いくぜ」
自由落下に従い着地した瞬間、急激な加速でグランホムラへと肉薄する。
その速度は、圏外から見守っていたフラム達に必中を確信させるほどの動きだった。
最も、それは相手が万全を期していなければの話。
グランホムラの手にいつの間にか握られていた炎の杖を見て、レックレスは瞠目した。
火の上級魔術、獄炎魔長の杖撃。
術者であるグランホムラの倍はあろうかという長さに加え、先端にいくほどに瘤のように膨らむ形状は杖というよりも戦槌に近い。
しかし驚くべくはその大きさなどではなく、圧倒的な火力であった。
凄まじい熱量によって空気が滾り、辺りが歪むほどの熱。
命魔術によって防御力が上がっていなければ、間合いに踏み込んだだけで火傷を負っていただろう。
特性として相手の魔核を追尾する動きを取り、術者の予想を裏切る動きで迫ったとしても杖からは逃れられない。
炎杖の巨大な先端が目の前に迫った時、レックレスは不可避であることを悟った。
速度を落とすこともできず、レックレスは黒々とした炎に飲み込まれる。
死んだ。
グランホムラ、フラム、リリムの三者は、立場を超えて同じ気持ちを抱いた。
朗々とした声が、炎の中から上がるまでは。
「制限神化Lv.3」
爆発四散した杖の中から、先ほどよりもさらに光を増したレックレスが飛び出した。
神速とすら思える踏み込みでグランホムラの懐に潜り、腰を落として拳を構える。
彼の黄金光は、全て拳へと集まっていた。
「帰神・貫拳」
ぱきん、という乾いた音。
レックレスが全身をばねにして振り上げた拳は、小さな音を上げて完結した。
それは、魔核を砕く音だった。
生物の中で最も硬い場所、それを飴細工のように砕き、するりと体ごと拳を引く。
やや間を開けて、グランホムラはその場に膝を突いた。
巨体が地面に吸いこまれるかのように倒れていったが、地に伏せるよりも全身が灰になる方が早かった。
真っ黒な灰の山。
それが炎の禁種グランホムラの末路だった。
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