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第3章 禁種と覚醒
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その後、リリムは再び意識を失った。
単純に体力が低下しただけである。
フラムは名残惜しそうに彼女から離れ、再びレックレスの対面に腰掛けた。
彼は湯気の立つカップで何かを飲んでおり、テーブルに片肘を突いてニヤついている。
「お熱いねえ。恋人かい?」
「いえ。ただ、大切な人です」
「そうかいそうかい。じゃあ、話を続けても?」
「はい。途中で抜けてすいませんでした」
またも軽く手を振るだけで応え、レックレスはカップを置いた。
ちなみに室内でも彼は中折れ帽子を被ったままであり、それはこだわりなのか他の理由なのかは彼のみぞ知ることである。
「単刀直入に言おう。俺様の目的は、俺様を禁種に変えた野郎への復讐だ。加えて、禁種もぶっ殺す。フラム君にはそれを手伝ってほしい」
「復讐、ですか」
「禁種は人類の敵だ。それを殺すんだから人類に感謝されることだし、世界中に居る奴らをぶっ殺すためにはこの大陸の外にもいく。フラム君、君たちは船が難破したとかで迷い込んだんじゃないのか?」
「ええ、まあ」
恐らくは海に近い森にいたからそう思われたのだろう。
レックレスの予想は見当違いだったが、フラムは敢えて指摘しなかった。
転移が原因であることは荒唐無稽で説明し難かった。
「俺様がこの大陸に居たのも、さっきの山羊野郎、グランホムラっていう禁種を追ってきたからだ。できれば生け捕りにして情報を得たかったが……。フラム君という戦力を得られたと考えれば悪くはない」
「僕がその話を断ったら?」
「別に何も。今日くらいは泊めてやっても良いが、脱出の手助けをする義理はねえな」
「……禁種というのは、どのくらい居るんですか?」
「俺が知る限りは六匹プラス俺様を禁種に変えた親玉。そのうちの一匹を俺様が、さっきフラム君が一匹殺した。残るは五匹って訳だが」
「親玉が居る限りは増える可能性がある」
「ご明察」
フラムは再び黙考する。
自分たちが探している転移という脱出手段は、あくまでも『あるかもしれない』手段でしかない。
敢えて口に出さなかったのは、目的を否定するのはメンタル的にきつかったからである。
今は割と自活できているので大丈夫だが、転移当初であれば特にリリムは立ち上がれなかっただろう。
そこに来てレックレスの提案は願ってもないものだが、果たして実現可能なお願いなのか。
実際に倒した経験があるのだから可能ではあるのだろうが、今回は相手が遊んでいたから勝機があった。
それはグランホムラの性格もあったし、フラムが子供だったからというのもあるだろう。
普通に戦って高い勝率があるとは思えなかった。
現に自分はあの魔術一発でへろへろである。
外していれば今頃生きてはいなかっただろう。
しかし今後は同じ禁種であるレックレスとの共闘であり、二対一なら、あるいは更に助力を求めれば勝率は上がるはず。
そこから導き出した答えは。
「わかりました。レックレスさん、あなたの仲間になります」
「助かるぜ、フラム君。いや、フラム。君も俺様のことは気さくにレックレス兄貴と呼びな」
「よろしく、レックレス」
「はっはっは。まあ、いいさ」
こうして利害関係ではあるものの、フラムはレックレスと手を組んだ。
フラムは帰国を、レックレスは復讐を。
それぞれの目的を果たすために。
彼はお近づきの印だと謎のお茶を出したが、非常に美味しくなかった。
フラムも喉が渇いていたので仕方なく飲んだが。
張り詰めていた気が緩んだのか、戦闘後の疲労が一気に押し寄せ、フラムは勧められるままに眠りに落ちる。
正直言ってレックレスを信用し切ってはいなかったが、十一歳でしかない彼の肉体はとっくの昔に限界だったのである。
朝から森を探索し、禁種との死闘を経て自らも禁種に変異し、大魔術により魔力を大量消費し、新たに現れた禁種を警戒しつつリリムを背負って歩き、今やっと落ち着いたのだ。
フラムは普段から魔戦士として鍛えていたし、精神は大人顔負けに成熟しているとは言え、成人前の子供であることには変わりない。
眠りに落ちたフラムの表情は歳相応のあどけない顔をしていた。
レックレスはその寝顔をじっと見ていた。
無表情で無感情に見えるが、その胸中を伺い知ることはできない。
しばらく佇んでいた彼が動きを見せる。
気配を消して歩み寄り、フラムの首元に腕を伸ばす。
相手に気取られないようにという意図が見える、緩慢な動き。
「……弟を思い出すな」
そっと布団を掛け直し、レックレスは自分の寝室に去った。
彼が二人を助けた理由は、打算である。
しかし、だから言ってそこに別の感情がなかったのだろうか。
それはレックレス本人ですら分からないことだった。
翌日。
目覚めたリリムは混乱していた。
知らない天井を見たからでも、あるはずの怪我がないからでもなく。
意中の男性(十一歳)が自分の隣で眠っていたからである。
二人仲良く仰向けに寝転がった格好だ。
リリムは思う。
二人とも死んで天国に来たのか。
いや、生きている。比喩の意味で天国であることには変わりないが。
などと混乱しつつもじりじりとフラムに近づき、頑張って身を寄せようと浅ましくもいじらしい努力を続けていた。
仕方ない、自分はさっきまで寝ていたのだから、少しくらいくっついたっておかしくはないはずだ。
そんな自己弁護をしつつ肩と肩との距離を縮め、ふとフラムの顔を見て気付く。
真っ赤だったはずの髪の毛に、いくつか黒いものが混じっている。
最初は汚れかと思ったが、どうやら一部が黒髪になっているようだった。
超魔紋の影響だろうか、と一番あり得そうな予想を立てた。
彼の右目に刻まれた模様は濃い黒色だった。
髪色もそれを連想させる色調であり、目といい髪といい、彼はかなり変質してしまったことになる。
もちろん彼の本質まで変わった訳ではないが。
自分はきっと彼に守られて、眠っていただけなのだろう。
リリムが更に顔を近付けて観察すれば、小さな傷が顔に走っているし、眠っている最中でも疲れた顔をしていた。
ふと、リリムの視線がフラムの唇で止まる。
自分があまりにも接近しすぎていることに気付きリリムは――チャンスだろうかと考えた。
ちょっとくらいちゅっとしてもばれないのでは、と。
彼女の中の天使は止めている。ファーストキスのシチュエーションにはもっと拘るべきだと。
リリムの顔は後ろに引かれる。
彼女の中の悪魔は勧めている。構わん行け、と。
リリムの顔は前に進む。
どちらにせよいつかキスをする前提なのは業が深い。
しかし無駄に漢らしい彼女の中の悪魔は圧倒的に少数派だったため、分かり易く言えば彼女はへたれだったために犯行には及ばなかった。
リリムは人としての尊厳を保ったのである。
「なんだ、キスするのかと思ったが」
「ぎゃ!?」
絞められた雌鶏のような悲鳴を上げて、リリムはベッドから転げ落ちた。
恋は盲目、という言葉を実践していた彼女はレックレスが今の一部始終を観察していたことに毛ほども気づいていなかったのである。
彼の隠遁術は完璧だったので仕方ないが、ここで発揮すべき技術でないことは明らかだった。
聞き覚えのない声にリリムが恐る恐る視線を向ければ、妙に小綺麗な格好の男が壁際に佇んでいた。
「な、なんだお前は」
「俺様はレックレス。人呼んで、命乞いのレックレス。安心しな、俺が敵だったらフラムは熟睡してねえよ」
リリムからすれば、大自然の中から急に文明的な場所に移動したのである。
昨日目覚めた時は半覚醒状態であったし先ほども色ボケ、いや寝惚けていたために周囲に気が回っていなかった。
レックレスが敵か味方かの区別はつかないが、自分たちが五体満足であることは間違いない。
そして、彼の言う通り警戒心の強いフラムが敵前で熟睡しているというのは考え難かった。
カーペットの上に座り込んでいたリリムはベッドに捉まりながら立ち上がる。
「敵ではないのだな? 事情は後でフラムに聞く」
「ご自由に。まあ死域にいるんだ、警戒結構。しかしまあ、俺様は名乗ったんだから名前ぐらいは聞いても?」
「……ワタシはリリム・フィアノーム。フラムの仲間だ」
「仲間? ほ~う、仲間ね。……本当に仲間か?」
「な、なんだと言うのだ」
両手をポケットに突っ込んだままツカツカと歩み寄られ、思わず後退りするリリム。
しかしベッドを背にしていたためにすぐに逃げ場はなくなり、嫌でも顔を突き合わせることになる。
加虐的な笑みを浮かべるレックレスと、小動物の如く怯えるリリムの間にはしっかりとした上下関係が生まれている。
彼女の体を上から下まで嘗め回すように観察し、レックレスは粘ついた口調で言葉を放つ。
「仲間ってのは…………男の寝込みを狙っていやらしいことをするような存在なのかぁ?」
「なっ!?」
レックレスの急な登場で抜けていたが、リリムはフラムの唇に対して顔を近付けたり離したりしているのをばっちり目撃されていたのである。
何を迷っているかは明らかであったし、客観的に見られたらどう思われるかを理解したリリムは顔色を赤くしたり青くしたりと大忙しだった。
弁明せねばならない。
身の潔白を証明――はキスしようと迷っていたことが事実であるが故に不可能だが、どうにか誤魔化さなければならない。
もし先ほどの痴態がフラムに知れたなら、リリムは羞恥でどうにかなってしまうだろう。
「キス、しちゃえば良かったのになあ」
レックレスの愉悦に満ち満ちた表情を見て、リリムは悟る。
これは誤魔化せるような輩ではない。
口封じに消すか。
いや、相手の力量が不明なれば事態を悪化させかねない。
懐柔策。
駄目だ、払える対価などない。
途中で物騒な案もいくつか挙がったが実践するには至らず、悩みに悩んだ末にひとつの結論に至る。
「……か」
「か?」
「か、勘弁してください」
結局、リリムは許された。
単純に体力が低下しただけである。
フラムは名残惜しそうに彼女から離れ、再びレックレスの対面に腰掛けた。
彼は湯気の立つカップで何かを飲んでおり、テーブルに片肘を突いてニヤついている。
「お熱いねえ。恋人かい?」
「いえ。ただ、大切な人です」
「そうかいそうかい。じゃあ、話を続けても?」
「はい。途中で抜けてすいませんでした」
またも軽く手を振るだけで応え、レックレスはカップを置いた。
ちなみに室内でも彼は中折れ帽子を被ったままであり、それはこだわりなのか他の理由なのかは彼のみぞ知ることである。
「単刀直入に言おう。俺様の目的は、俺様を禁種に変えた野郎への復讐だ。加えて、禁種もぶっ殺す。フラム君にはそれを手伝ってほしい」
「復讐、ですか」
「禁種は人類の敵だ。それを殺すんだから人類に感謝されることだし、世界中に居る奴らをぶっ殺すためにはこの大陸の外にもいく。フラム君、君たちは船が難破したとかで迷い込んだんじゃないのか?」
「ええ、まあ」
恐らくは海に近い森にいたからそう思われたのだろう。
レックレスの予想は見当違いだったが、フラムは敢えて指摘しなかった。
転移が原因であることは荒唐無稽で説明し難かった。
「俺様がこの大陸に居たのも、さっきの山羊野郎、グランホムラっていう禁種を追ってきたからだ。できれば生け捕りにして情報を得たかったが……。フラム君という戦力を得られたと考えれば悪くはない」
「僕がその話を断ったら?」
「別に何も。今日くらいは泊めてやっても良いが、脱出の手助けをする義理はねえな」
「……禁種というのは、どのくらい居るんですか?」
「俺が知る限りは六匹プラス俺様を禁種に変えた親玉。そのうちの一匹を俺様が、さっきフラム君が一匹殺した。残るは五匹って訳だが」
「親玉が居る限りは増える可能性がある」
「ご明察」
フラムは再び黙考する。
自分たちが探している転移という脱出手段は、あくまでも『あるかもしれない』手段でしかない。
敢えて口に出さなかったのは、目的を否定するのはメンタル的にきつかったからである。
今は割と自活できているので大丈夫だが、転移当初であれば特にリリムは立ち上がれなかっただろう。
そこに来てレックレスの提案は願ってもないものだが、果たして実現可能なお願いなのか。
実際に倒した経験があるのだから可能ではあるのだろうが、今回は相手が遊んでいたから勝機があった。
それはグランホムラの性格もあったし、フラムが子供だったからというのもあるだろう。
普通に戦って高い勝率があるとは思えなかった。
現に自分はあの魔術一発でへろへろである。
外していれば今頃生きてはいなかっただろう。
しかし今後は同じ禁種であるレックレスとの共闘であり、二対一なら、あるいは更に助力を求めれば勝率は上がるはず。
そこから導き出した答えは。
「わかりました。レックレスさん、あなたの仲間になります」
「助かるぜ、フラム君。いや、フラム。君も俺様のことは気さくにレックレス兄貴と呼びな」
「よろしく、レックレス」
「はっはっは。まあ、いいさ」
こうして利害関係ではあるものの、フラムはレックレスと手を組んだ。
フラムは帰国を、レックレスは復讐を。
それぞれの目的を果たすために。
彼はお近づきの印だと謎のお茶を出したが、非常に美味しくなかった。
フラムも喉が渇いていたので仕方なく飲んだが。
張り詰めていた気が緩んだのか、戦闘後の疲労が一気に押し寄せ、フラムは勧められるままに眠りに落ちる。
正直言ってレックレスを信用し切ってはいなかったが、十一歳でしかない彼の肉体はとっくの昔に限界だったのである。
朝から森を探索し、禁種との死闘を経て自らも禁種に変異し、大魔術により魔力を大量消費し、新たに現れた禁種を警戒しつつリリムを背負って歩き、今やっと落ち着いたのだ。
フラムは普段から魔戦士として鍛えていたし、精神は大人顔負けに成熟しているとは言え、成人前の子供であることには変わりない。
眠りに落ちたフラムの表情は歳相応のあどけない顔をしていた。
レックレスはその寝顔をじっと見ていた。
無表情で無感情に見えるが、その胸中を伺い知ることはできない。
しばらく佇んでいた彼が動きを見せる。
気配を消して歩み寄り、フラムの首元に腕を伸ばす。
相手に気取られないようにという意図が見える、緩慢な動き。
「……弟を思い出すな」
そっと布団を掛け直し、レックレスは自分の寝室に去った。
彼が二人を助けた理由は、打算である。
しかし、だから言ってそこに別の感情がなかったのだろうか。
それはレックレス本人ですら分からないことだった。
翌日。
目覚めたリリムは混乱していた。
知らない天井を見たからでも、あるはずの怪我がないからでもなく。
意中の男性(十一歳)が自分の隣で眠っていたからである。
二人仲良く仰向けに寝転がった格好だ。
リリムは思う。
二人とも死んで天国に来たのか。
いや、生きている。比喩の意味で天国であることには変わりないが。
などと混乱しつつもじりじりとフラムに近づき、頑張って身を寄せようと浅ましくもいじらしい努力を続けていた。
仕方ない、自分はさっきまで寝ていたのだから、少しくらいくっついたっておかしくはないはずだ。
そんな自己弁護をしつつ肩と肩との距離を縮め、ふとフラムの顔を見て気付く。
真っ赤だったはずの髪の毛に、いくつか黒いものが混じっている。
最初は汚れかと思ったが、どうやら一部が黒髪になっているようだった。
超魔紋の影響だろうか、と一番あり得そうな予想を立てた。
彼の右目に刻まれた模様は濃い黒色だった。
髪色もそれを連想させる色調であり、目といい髪といい、彼はかなり変質してしまったことになる。
もちろん彼の本質まで変わった訳ではないが。
自分はきっと彼に守られて、眠っていただけなのだろう。
リリムが更に顔を近付けて観察すれば、小さな傷が顔に走っているし、眠っている最中でも疲れた顔をしていた。
ふと、リリムの視線がフラムの唇で止まる。
自分があまりにも接近しすぎていることに気付きリリムは――チャンスだろうかと考えた。
ちょっとくらいちゅっとしてもばれないのでは、と。
彼女の中の天使は止めている。ファーストキスのシチュエーションにはもっと拘るべきだと。
リリムの顔は後ろに引かれる。
彼女の中の悪魔は勧めている。構わん行け、と。
リリムの顔は前に進む。
どちらにせよいつかキスをする前提なのは業が深い。
しかし無駄に漢らしい彼女の中の悪魔は圧倒的に少数派だったため、分かり易く言えば彼女はへたれだったために犯行には及ばなかった。
リリムは人としての尊厳を保ったのである。
「なんだ、キスするのかと思ったが」
「ぎゃ!?」
絞められた雌鶏のような悲鳴を上げて、リリムはベッドから転げ落ちた。
恋は盲目、という言葉を実践していた彼女はレックレスが今の一部始終を観察していたことに毛ほども気づいていなかったのである。
彼の隠遁術は完璧だったので仕方ないが、ここで発揮すべき技術でないことは明らかだった。
聞き覚えのない声にリリムが恐る恐る視線を向ければ、妙に小綺麗な格好の男が壁際に佇んでいた。
「な、なんだお前は」
「俺様はレックレス。人呼んで、命乞いのレックレス。安心しな、俺が敵だったらフラムは熟睡してねえよ」
リリムからすれば、大自然の中から急に文明的な場所に移動したのである。
昨日目覚めた時は半覚醒状態であったし先ほども色ボケ、いや寝惚けていたために周囲に気が回っていなかった。
レックレスが敵か味方かの区別はつかないが、自分たちが五体満足であることは間違いない。
そして、彼の言う通り警戒心の強いフラムが敵前で熟睡しているというのは考え難かった。
カーペットの上に座り込んでいたリリムはベッドに捉まりながら立ち上がる。
「敵ではないのだな? 事情は後でフラムに聞く」
「ご自由に。まあ死域にいるんだ、警戒結構。しかしまあ、俺様は名乗ったんだから名前ぐらいは聞いても?」
「……ワタシはリリム・フィアノーム。フラムの仲間だ」
「仲間? ほ~う、仲間ね。……本当に仲間か?」
「な、なんだと言うのだ」
両手をポケットに突っ込んだままツカツカと歩み寄られ、思わず後退りするリリム。
しかしベッドを背にしていたためにすぐに逃げ場はなくなり、嫌でも顔を突き合わせることになる。
加虐的な笑みを浮かべるレックレスと、小動物の如く怯えるリリムの間にはしっかりとした上下関係が生まれている。
彼女の体を上から下まで嘗め回すように観察し、レックレスは粘ついた口調で言葉を放つ。
「仲間ってのは…………男の寝込みを狙っていやらしいことをするような存在なのかぁ?」
「なっ!?」
レックレスの急な登場で抜けていたが、リリムはフラムの唇に対して顔を近付けたり離したりしているのをばっちり目撃されていたのである。
何を迷っているかは明らかであったし、客観的に見られたらどう思われるかを理解したリリムは顔色を赤くしたり青くしたりと大忙しだった。
弁明せねばならない。
身の潔白を証明――はキスしようと迷っていたことが事実であるが故に不可能だが、どうにか誤魔化さなければならない。
もし先ほどの痴態がフラムに知れたなら、リリムは羞恥でどうにかなってしまうだろう。
「キス、しちゃえば良かったのになあ」
レックレスの愉悦に満ち満ちた表情を見て、リリムは悟る。
これは誤魔化せるような輩ではない。
口封じに消すか。
いや、相手の力量が不明なれば事態を悪化させかねない。
懐柔策。
駄目だ、払える対価などない。
途中で物騒な案もいくつか挙がったが実践するには至らず、悩みに悩んだ末にひとつの結論に至る。
「……か」
「か?」
「か、勘弁してください」
結局、リリムは許された。
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