星火禁滅の火球使い

ブートレガー文学

文字の大きさ
上 下
17 / 21
第3章 禁種と覚醒

幕間 ― 爛れる怒り ―

しおりを挟む
 不死鳥は灰の中から蘇る、という伝説がある。
 火の化身である彼の鳥は、火で死ぬことはないからだ。
 しかしこれは自身の制御下にある火に限ることであり、他者の魔力が込められた炎であれば死ぬ。
 種族特性として火に強い耐性はあるが、火に対して無敵という訳ではない。
 そして、禁種グランホムラも同じく火属性の存在である。
 世界中を探してもグランホムラより火に強い生物は極僅かしかいない。
 例えば、炎龍。
 例えば、炎の精霊。
 そして、フラム・アブレイズもその極僅かに入る存在だった。
 火の禁種として新たに生誕したフラムは、それまで炎の禁種として君臨していたグランホムラをあろうことか火属性で圧倒してみせた。
 同属性の存在として、格の違いを見せ付けたのである。
 彼のファイアボールはグランホムラの尊厳と命を焼き尽くした。
 それは間違いない。

「――ぐ」

 森の一角、何かの灰が堆積している場所。
 その真下にある地中から、土を押し退けて黒々とした腕が生えた。
 地面を掴み、体を押し上げ、元の巨体から半分ほどにまで縮んだ体を地表に投げ出す。
 全身は焦げ付き、あるいは焼け爛れ、いまだに赤熱した部分すらある。
 山羊頭の禁種、グランホムラは死に体でありながら、意識があった。
 彼の命は既にない。
 もう僅かな時間しか残っておらず、その身を意志と魔力だけで動かしていた。
 死ぬのは時間の問題、それは間違いない。
 だが、まだ体が動くのであればグランホムラが成すべきことはひとつ。

「許、さぬ。……ころす」

 爛れた喉は碌に声を発することもできない。
 つまり全詠唱は不可能であり、略詠唱もできるか怪しい。
 高熱により肉体が変形し、複雑な動きは阻害される。
 だが、グランホムラは止まらない。
 彼が成すべきは、尊厳を取り戻すこと。
 奪われた命は取り戻せずとも、それだけは黄泉への旅路に持っていく。
 ひび割れた魔核に誓い、グランホムラは当てもなく足を動かした。
 完全なる偶然でありながらフラムの行く先を引き当てたのは、執念の成す偶然か、悪魔の祝福か。
 獄炎の残火がフラム達に迫っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...