星火禁滅の火球使い

ブートレガー文学

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第1章 炎の資質

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 フラムの魔術適性検査は発光の規模こそ規格外であったものの、結果ははっきりと表れた。
 赤い光は火属性を示す色であり、フラムは火の魔術適性がある、という結果である。
 周囲の水晶玉にも魔力が波及する、という事例もない訳ではない。
 その規模があまりにも大きいことを差し引けば。
 紅光が降り注いだ街はそれなりに混乱したが、魔塔が魔術現象を起こすことは日常茶飯事でもあったので、人々はすぐに自分の日常を取り戻す。
 特に被害はなかったのでお咎めもなく、フィアンマは胸を撫でおろしたのだった。

「ちちうえ、ごめんなさい」

「ああ、気にするな。領主様もこの程度でお怒りになるような方ではない」

 魔塔から領主館に直行して事情説明を行ったフィアンマは、領主の執務室から出てきたところでしょんぼりとしたフラムの謝罪を受けた。
 フィアンマは国家魔術師として国に仕えているが、直接の上司は領主になる。
 彼を取り立てたのは領主本人であり、頭が上がらない存在だ。
 しかし上司が狭量な人物ではないことも知っていたため、大きな問題にならないだろうということも予想していた。
 フィアンマはフラムの頭にぽんと手を置いて慰め、家路につくのであった。

「ちちうえ、ボクは火魔法の才能があるの?」

「ああ。鮮やかな赤色は、火魔法に優れている証拠だ。俺は火魔法の他に土魔法も使えるから、もっと暗い赤色だったな」

「そっかあ」

 魔力を込めた水晶玉が発する光は本人の魔術適性によって色が異なる。
 無属性を除いた六大属性のうち、資質がある光が混ざり合って発光するため、複数の属性に適性があれば深い色合いになる。
 逆に単一属性であればその光は鮮やかに輝くのだ。
 属性は互いに影響し合うため、多ければ優れているという訳ではない。
 多属性持ちは多様性と対応能力、単一属性は単純威力、一長一短と言えるだろう。

「すぐにとはいかないが、火魔法なら俺が教えてやれる。火属性は危ないからな、自分だけでやろうと思うなよ?」

「うん!」

 笑顔で頷くフラムの頭を撫でるフィアンマ。
 燃えるような赤い髪は、髪色こそ違うものの自分と同じく柔らかな感触だった。
 彼は思う。
 恐らく、フラムは特別な才能を持つのだろう。
 水晶玉による異常な適性反応。
 3歳にしては早熟な精神。
 親の贔屓目がないとは言い切れないが、客観的に見て特別な子供であると感じられる。
 息子が特別であるなら、自分は何ができるのだろうか。
 二人が自宅に着く頃には、辺りに夕闇が迫っていた。

「ただいま、ライラ」
「ははうえ、ただいま」

 フラムの母親、つまりフィアンマの妻であるライラは、燃えるような赤い髪を豊かに伸ばした明るい雰囲気の女性だった。
 フィアンマは黒髪だが、瞳は彼女と同じく鮮やかな紅色で、そこだけはお揃いだと語り合ったのは彼の記憶に強く残っていた。
 母親の赤い髪と夫婦の特徴である紅眼は息子に引き継がれ、小さいながらも強い存在感を放っている。
 二人の視線の先、微笑を浮かべるライラは何も語らない。
 肖像画の中から、二人を優しく見守るだけである。
 ライラはフラムを生んだ時に亡くなっている。
 フィアンマは、彼女から託された息子を幸せにすることが自分の使命だと思っている。
 それはこれからも変わることはないだろう。

「さあ、フラム。俺は夕食を作るから、お前はテーブルの片づけを頼むぞ」

「はーい」

 素直に手を動かすフラムを見て、フィアンマは微笑を浮かべながら料理に取り掛かった。
 男手ひとつで育児を始めて3年と少し。
 その動きは手慣れたものだった。
 これがフラムの日常。
 何も変わることのない、平和な日々。


 それから二年後。 
 フラムは五歳になった。
 国家魔術師として日中は仕事をしているフィアンマは、フラムのために家政婦を雇っている。
 雇った際の条件は三つ。
 家事全般、子供に一般教養を教える、可能なら魔法の心得もある。
 最後だけはあまり期待していなかったが、運よく条件を満たした相手が見つけたのが四年前。
 ニマという、元ハンターの女性だった。
 ハンターとは、魔獣討伐や未開地域の探索を行う職業だが、依頼次第ではどんなことでも行う何でも屋に近い。
 ハンターは全世界で組織化されており、ハンターズ・ギルドといえば国家運営にも影響をもたらす巨大組織でもある。
 ニマは腕利きの魔術師としてハンターを生業にしていたが、結婚を機に退職して今は一般人である。
 彼女にも子供がおり、自分の娘と一緒にフラムの面倒を見る、という形でフィアンマ宅の家政婦をしているのだった。

「ニマさん、今日も魔術の授業をお願いします」

「え~。あたしはもっと外で遊びたい」

「あらあら、キスカ。さぼったら年下のフラム君に追い抜かれちゃうわよ?」

「あたしは別に魔術師を目指してないもん」

 ニマの娘、キスカは七歳であり、遊びたがりな性分を隠さない活発な女の子だ。
 彼女にも魔術適性があり、水と風の才能がある。
 しかし本人は魔術にさして興味がなく、勉強嫌いも相まってさぼりがちなのであった。
 ニマとしては折角の才能を腐らせるつもりもなく、意欲の高いフラムをきっかけにしようと考えていたのだが、うまくいっていないのが現実だった。

「キスカ、魔術が使えた方が色々と便利だよ?」

「たとえば?」

「キスカなら水と風の魔術が使えるから飲み水には困らないし、夏は涼しく過ごせるよ!」

「確かに最近は暑いわね。でも、そんなのはフラムが覚えれば良いでしょ」

「僕は火魔法しか使えないんだけど」

「そうだったわね・・・」

 色々と言い訳しつつも母親に言いくるめられ、結局は授業を受けるキスカなのだった。
 魔術の勉強とはいえ、子供相手では大したレベルではない、というのはフラムが三歳になるまでの話。
 魔術適性検査から一気にやる気を出したフラムは砂が水を吸うように魔術知識を身に付けていった。
 本人に言わせれば、それまで分からなかったことが一気に分かるようになった、らしい。
 幼少時は成長によって魔核の大きさが変動するために魔術の扱いが難しく、魔核が安定する七~八歳になるまでは魔術を扱えないのが一般的である。
 しかしフラムは四歳の頃には魔力操作を覚えており、初級魔術であるファイアボールを既に会得していた。
 これは単一属性使いであるために適性属性の扱いに長けているというのも理由の一つではあるが、フラム個人の才能によるところが大きい。
 魔核の安定が早かったからではなく、不安定な状態でも魔力を操ることができるほど、魔力操作能力に秀でていたのだ。
 フラム自身、魔術の勉強が楽しくて仕方がなかった。
 勉強すれば沢山の魔法を覚えられるだろうし、魔術がうまくなれば父親に褒めてもらえる。
 そんな素朴な理由が、彼が持つ向上心の源泉だったのだ。

「フラムは魔術が好きよねえ」

「うん。僕、魔術が大好きだよ」

 その後、魔術の勉強の他に読み書き計算などの一般的な勉強も怠らない。
 家の仕事だって手伝いもする。
 キスカと一緒に外で遊んだりもした。
 魔術好きな点こそ目立つが、それ以外はごく普通の子供であった。
 ニマの仕事は夕食をつくるまでである。
 彼女にも家庭があるため、夕食はフィアンマ宅ではとらずキスカを連れて帰宅する。
 その頃にはフィアンマも仕事を終えて帰宅するため、二人で食事をするという流れだった。

「フラム、今日も良い子にしていたか?」

「うん。ニマさんに教えてもらって、魔力を上げる瞑想を覚えたよ。これはゆっくりした気持ちになれるから好きだな」

「瞑想か。俺も師匠に教わったが、あれは好きじゃなかったなあ。集中しないと師匠にどやされたし」

「どやされる?」

「怒られる、っていう意味だ。俺ができないことが得意だなんて、そこは母さん似だな」

「母上も得意だったの?」

「ああ。母さんは気が強・・・真面目な性格でな。瞑想の時は一点の乱れもなかった」

「ふうん。じゃあ、僕が父上に教えてあげるね」

「ははは。じゃあ後でお願いしようかな」

 父子二人、団欒の時間はゆっくりと流れていくのだった。
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