『ナザレ』のサラ

第一章 エフライム王国

プロローグ

砂埃の舞う荒野の中を、１人の女が歩いていた。


布で体を覆い、砂埃で汚れているが端整な顔立ちで、
どことなく気品のある歩き方だ。


腰には剣が差してあり、何かの紋章が装飾されている。



彼女は立ち止まり遠くを見た。

目の先にぼんやりと巨大な都市が見える。



「あれがエフライム王国。」



彼女は歩を進めた。



ーーーーーーーーー



文明が崩壊して数千年。

正確にはもっと経っている場合もある。

確認出来る範囲で数千年前の文明の欠片が今もあるのだ。

《ロストテクノロジー》失われた技術を蘇らせ使っている者もいる。




サラはエフライム王国に入ると、義勇兵募集の話を聞きに酒場に入った。



キィィィ…



「へいらっしゃい！！」


店主が大きな声で呼び込みの挨拶をしてきた。


周りを見回すと武装したあらゆる闘いのスタイルの戦士達ばかりだ。


「すいません、義勇兵募集は何処でやってるのでしょうか？」


周りの戦士達の視線がサラに集まる。


「おっ！姉ちゃん綺麗な顔して剣士かい？
募集は王宮の前の広場でやってるが、レベルが高いらしいぞ？大丈夫かい？」


すると、１人の戦士が話しかけてきた。



「姉ちゃん止めときな。一丁前に剣を差しちゃいるが、そんな華奢な身体じゃ魔族共の身体に傷一つ付けれねーぜ？」



「そうかもしれませんね。しかしこの剣は普通の剣より100倍は斬れ味が鋭いので、問題ありません。」


軽く笑みを浮かべて返すサラ。



話を聞いていた別の剣士の男が笑いながら間に入る。


「ハハハハハ、そんな鋭い切れ味の剣など、《ロストテクノロジー》で蘇らせたオリハルコン製の剣か、太古の【ニホン】で作られた【ニホントウ】位なもんだ！オリハルコンは幻の金属だし、【ニホントウ】は伝説中の伝説、あるかどうかもわからん。姉ちゃんの剣はそのどっちかかい？ハーッハッハッハッハ！」


他の戦士達も同じように高笑いをする。


剣士が笑うのは当然である。


どちらの剣だとしても、値がつかない程の価値がある。

それを義勇兵募集に来た１人の女剣士が持っているはずもないからである。



「ありがとうございます。」


サラは店主にお礼をすると酒場を後にした。




王宮に向かって歩いてる途中、サラの足が止まった。

狭い牢に入れられた女と小さな女の子がいたのだ。


(奴隷…。)


サラは憤りを感じた。

奴隷が太古の昔にいたことは知っている。
しかし文明崩壊後、無秩序になった世界で人身売買する悪人がいることをまじまじと感じたのだ。


立ち止まった為、奴隷商人が声をかけてきた。

「あんた剣士か。身の回りの世話に奴隷はどうだい？
あんたが男なら別の使い道もあるけどなぁ。へへへへ。」

奴隷商人がニヤニヤしながら話している。


(下衆が。人を物のように扱う態度。)


サラは奴隷商人の首を一瞬の内に切り落としてやろうとおもったが、今は義勇兵募集の前に問題は起こしたくない。


「まぁ今日買い手がいなきゃこいつらは夜には別の街に行っちまうがな。」


サラはその言葉を頭に入れておいた。

奴隷商人の顔と共に。




王宮の前に着いたサラは義勇兵募集の受付の兵士に志願者だと答えた。


「貴公も女か。見たところ剣士のようだが、腕に自信があるのかな？我が国には強い女騎士殿がたくさんいるが、戦はそれほど甘くはないぞ！そこの名簿に名前を書きたまえ。」


サラは義勇兵募集の名簿に名前を書いた。



【フィオラ・ガド・サラ】



『ナザレ』のサラ

の名前がこの地より世界に轟くのである。