異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

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第10章

79話

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 各自がザイス率いる集団と対峙している最中、港の中間地点──造船場の屋根上にひとつの人影があった。
 街の方角を向いているその背中に、海から吹いてくる風が当たる。

「ふむ、状況はこちらが優勢のようじゃな」

 両肩からふたつの矢筒を背負っており、背丈ほどの鉄製の大弓を手に握る──エドワードである。
 与一との一戦から学習したのか、ひとつの矢筒ではすぐに底を尽きると知った彼は、自身が手間暇割いて作り上げた矢を量産しつずけ、今に至る。矢筒から顔を出しているのは、前回に彼が射たそれとは異なり、長さ、矢じり、素材、そのすべてが変わっていた。きっと、大弓専用に作ったのだろう。長距離に特化したその矢は、エドワードの腕よりも少し長く、矢じりに使われているのは鉄製のものではない、銅のような色の先の尖ったひし形のものである。

「ぬぅ? あれは、小僧と……なんとかベルトではないか!」

 エドワードの視力は非常に高く、常人のものとは異なる超人の領域に属する。故に、造船場から、1キロメートルほど離れた小さな点ですら、なにであるかを見分けることが可能だ。戦況を一目で判断できる場所に行くよう指示したカミーユは、エドワードを最も適した場所に配置したと言えよう。

「しかし、前まであんなでかい男がおったじゃろうか?」

 妻の仇を取るためだけに所属したとは言え、一度は顔を合わせた者もいるのだろう。が、首を傾げるエドワードは与一の前に現れたアルベルトと同格、もしくはそれ以上の体格をした男に見覚えがなかった。

「ふぉあ!? こ、小僧が飛びおったぞ! いやはや、前にも見たがあの瞬発力は細身のあやつのどこから出ているのじゃ……」

 与一が3階の建物の高さまで跳躍したのを目視したエドワードは、どこか楽しそうに呟いた。
 
「い、いかん。あのままでは小僧が囲まれてしまう。カミーユからは合図があるまで射るなと言われておったが、小僧が死んでしまっては元も子もないッ!」

 大弓を構え、矢筒から矢を抜く。矢を構えてから引き、ぐぐぐ、と。限界にまで引いて狙いを定める。
 遠距離から射貫く際、居場所がばれてしまうと後々逃げ道がなくなる可能性がある。ので、エドワードは水平に構えることはせず、空目掛けて矢を放った────



 丸薬の効果は平均して3分。大きさが均等ではないので、目安程度に考えて服用しなければならい。だが、与一が現在置かれている状況下で、そのようなことを考える余裕などない。先ほど飲んだ丸薬の効果が次第と薄れていく感覚を覚えながら、ここのままでは不味い。と、ムキになりはじめそうになる与一。

「同時に服用すれば、熱で倒れるしな……っと、あぶないだろ!」
「へへ、ぶつくさと喋ってるのが悪いんだろ!」
「こっちは真剣なんだ。あっちにいっててくれッ!」

 正面から、槍を構えた男が間合いを詰めてくる。
 それに対応するかの如く、与一は姿勢を屈めてから低く、素早く足元へと潜り込む。

「っち、お前はなんなん──だっはぁああああッ!?」

 足を掴み、力任せにくるりと回りながら投げる。
 並大抵の筋力ではない馬鹿力に、槍を落とした男はされるがままに宙を飛ぶ。

「うわぁああああ──ッ!?」

 がっしゃぁん、と。盛大な音を立てながら建物へと突っ込んでいく。
 危機が去ったと安堵の息をつく間もなく、次から次へと与一目掛けて武器が振るわれる。それらが触れる寸前で反応して回避を試みるのだが、所詮は素人。何度も肉を斬り付けられ、時には強い打撃を身体のあちこちへと叩き込まれた。しかし、服のみがぼろぼろになっていくだけで、与一本体へのダメージは即座に治癒されていく。
 恐れおののき、次第と『化け物』と呼ばわりされ始める。

「こ、この化け物め!」
「剣を受けても傷がないだとッ! 貴様も人間じゃないのか!」
「貴様『も』?」

 ふと投げられた言葉に、与一はすぐさま確信を得た。
 この街で人種ではない人物と言えば、ひとりしか思いつかなかったからだ。エルフであるカミーユだ、と。

「カミーユもこの場にいるのか!」
「カミーユだァ? んなこったぁ知らねぇな!」

 効果が切れてしまったのか、避けようと駆け出した与一には先ほどまでの素早さはどこにもなかった。
 しまった。と、与一は自身の目前にまで迫っている剣を前に血の気が引いた。このままでは自分に待っているのは『死』だ。必死に身体を動かして、腕を犠牲に胴体を守ろうとした時、突如として真上から飛来した一本の矢によって腕は無事に済んだ。代わりに、脳天から矢を受け止めてしまった男は、自らの身に何が起きたのかすら理解できずに力なく倒れる。

「う、うわぁッ!? あのジジィの仕業だな!?」

 いきなり骸が足元に転がったのだ。頭から血を流しながら転がるそれに、多少なりと目を背けたくなるのは平和に生きてきた証であると言えよう。しかし、そんな与一に構わずに輩たちは襲い掛かる。
 
「よそ見してんじゃ──ぅ?」
「矢なんて連続で放てないはず──でぇ!?」
「殺してや──るふぅ!?」

 与一に近づこうとすると、天高くから降ってくる矢によって命を落としていく。
 遠見の弓師。その実力を目の前にした与一は、エドワードを敵に回せば自身もこのような一方的な殺戮をされていたのだろう。と、肝を冷やした。一本一本の矢を移動する者に射る正確さと、遠くから相手を狙い定めるほどの視力。敵対する側からすれば、いくら頭数を揃えたとしても、こうも容易く葬られてしまっては不利。
 取り囲んだ獲物よいちに近づいた者から死んでいく。と、理解した輩たちは無暗やたらと詰めてこなくなった。すると、先ほどアルベルトを弾き飛ばしたブギーなる者が、引きずる錨から鳴り響く重たい金属音と共に現れ。

「もう、にがさない!」

 必要最小限の反撃と、逃走を繰り広げていた与一へと指をさした。
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