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第7章
57話
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日が傾き始め、辺りに再び活気が溢れ始める。
昼食を終えた人々が、午後の仕事へと向かい始める頃合いだ。港手前の通りには、昼の漁で得たであろう魚が露店にて並べられており、船乗りであろう白い半袖にたぼたぼな長ズボンを穿いている者たちが声を上げている。
「お嬢さんたち! 獲れたての新鮮な魚だよ!」
「いえ、先を急いでいるので」
ギルドの制服を身に纏い、特徴的な黒みのある紅色の髪をなびかせながら歩くカルミアと、唸りながら眉を寄せて歩くカミーユの姿があった。先ほど、与一からの頼みごとを引き受けてから宿を後にした彼女らは、ギルドへと足を向けていた。
「与一君が調合師として働き始めるなんて、考えてすらいなかったよ」
「ほんとよねぇ。宿でだらだらしているだけの居候が、まさか私に仕事を頼むなんて。誰が予想したのかしらぁ」
「はは、彼にも事情があるんだよきっと。それより驚いたのは、いつも刺々しい態度で接してたカルミアが、与一君の頼みごとを引き受けたことだよ」
行き交う人の邪魔にならないように。と、道の脇を歩くふたり。
毎日のように与一をからかい、働けとまでは言わないがそこそこのお小言を言っていたカルミア。そんな彼女が、与一の話を聞いて、頼まれたことに対して愚痴をこぼすことなく引き受けたのだ。いつも傍にいるカミーユであったからこそ、彼女の行動に驚いていたのだ。しかし、付き合いが短いとはいえ、ここまで打ち解けれているのはふたりの相性がいいからかもしれない。
「私だって鬼じゃないわよぉ?」
「そうかな? 君は、いつだって与一君のことを見下しているような態度だったじゃないか」
「そ、それは……なんか気に食わなかったからよぉ」
「気に食わなかった? 与一君はいい人だと、私は思っているんだけどね」
ヤンサの街は基本的に煉瓦を主とした建築物、通路が多い。それは、他所からでも安く仕入れることができる商人が集まったからこそ、成し得ることができたのだ。元々は、木製の小さな家がぽつぽつとある港町であった。しかし、商人が漁業で手に入れれる海産物を日干しすることによって保存食となる。と、仕事を持ち込んだことがこの街が注目されるきっかけとなったのだ。ふたりの進む道もそうだ。綺麗に整えられた煉瓦によって、何不自由なく進むことができる。昔は砂浜だったこの場所も、利便性を重視して整備されたのだ。
突き当りに差し掛かり、ふたりは緩やかな坂道へと曲がり、ゆっくりとした歩調で進むふたり。
「別に、私だって与一のことはいい人だって、思ってるわよぉ」
「……わかっていて、気に食わないのかい? なんだか、よくわからないことになってきたね」
「大怪我を負った私を助けたのに、あいつったらけろっとしてるじゃない? それが嫌なのよぉ」
人命を救ったのだから、少しは胸を張ってもいい。と、いうことなのだろうか。
依然として、与一自身は調合師としての自覚がない。調合などは楽しそうにこなしているのだが、それらが怪我をした人からすれば、どれほどありがたいものなのかわかっていないのである。カルミアの場合もそうだ。彼女は、襲撃をして返り討ちにあい、そのまま死ぬのではないのか。と、不安を抱きながら、目が覚めたらきれいさっぱり怪我は治っていた。通常、頭から床に投げつけられた場合、後遺症などが残る可能性だってあった。しかし、与一の調合した『治癒の丸薬』の効果は恐ろしく、身体に違和感を感じさせるどころか、絶好調の状態で目覚めることができたのだから。
「まぁ、目覚めてすぐに出会った変態と、まさかこんな形で仕事をするなんて思ってなかったのだけれどねぇ」
「へ、変態とは失礼な! 今すぐにでも、剥いでしまいたいほど、君はいい身体をしているんだ」
「やっぱり、変態じゃないのぉ。って、カミーユの話はどうでもいいのよぉ」
「どうでも……はぁ、これでも自重しているつもりなのだけれど……」
「間接的ではあるけれど、救ってもらった恩は感じてるのよぉ。だから、あいつが働かないのはどこか嫌っていうか……」
どこか気恥ずかしそうに、頬を掻くカルミア。
「なるほど、ね。でもまぁ、彼が調合師としての仕事を始めたんだから、応援してあげたくなるよね」
「応援というよりも、こき使われてる気がするのだけれどぉ。はぁ、私にしかできなさそうだから、仕方がないと言えば仕方がないのよねぇ……」
「それでも、引き受けたからにはしっかりと果たさないとね」
「わかってるわよぉ」
徐々に見えてきた冒険者ギルド。すると、カミーユは『ここで』。と、言い残して小さな通路の奥へと消えていった。彼女を背中を見送り、カルミアは服装に乱れがないか確認をする。
「サブマスターもいろいろと忙しいのに、これを持ち込んだら仕事を増やしてしまいそうねぇ」
与一から受け取った布袋を懐から取り出し、ふふ、と。嬉しそうに微笑んだカミーユは、冒険者ギルドの扉を開け、中へと入っていった。
昼食を終えた人々が、午後の仕事へと向かい始める頃合いだ。港手前の通りには、昼の漁で得たであろう魚が露店にて並べられており、船乗りであろう白い半袖にたぼたぼな長ズボンを穿いている者たちが声を上げている。
「お嬢さんたち! 獲れたての新鮮な魚だよ!」
「いえ、先を急いでいるので」
ギルドの制服を身に纏い、特徴的な黒みのある紅色の髪をなびかせながら歩くカルミアと、唸りながら眉を寄せて歩くカミーユの姿があった。先ほど、与一からの頼みごとを引き受けてから宿を後にした彼女らは、ギルドへと足を向けていた。
「与一君が調合師として働き始めるなんて、考えてすらいなかったよ」
「ほんとよねぇ。宿でだらだらしているだけの居候が、まさか私に仕事を頼むなんて。誰が予想したのかしらぁ」
「はは、彼にも事情があるんだよきっと。それより驚いたのは、いつも刺々しい態度で接してたカルミアが、与一君の頼みごとを引き受けたことだよ」
行き交う人の邪魔にならないように。と、道の脇を歩くふたり。
毎日のように与一をからかい、働けとまでは言わないがそこそこのお小言を言っていたカルミア。そんな彼女が、与一の話を聞いて、頼まれたことに対して愚痴をこぼすことなく引き受けたのだ。いつも傍にいるカミーユであったからこそ、彼女の行動に驚いていたのだ。しかし、付き合いが短いとはいえ、ここまで打ち解けれているのはふたりの相性がいいからかもしれない。
「私だって鬼じゃないわよぉ?」
「そうかな? 君は、いつだって与一君のことを見下しているような態度だったじゃないか」
「そ、それは……なんか気に食わなかったからよぉ」
「気に食わなかった? 与一君はいい人だと、私は思っているんだけどね」
ヤンサの街は基本的に煉瓦を主とした建築物、通路が多い。それは、他所からでも安く仕入れることができる商人が集まったからこそ、成し得ることができたのだ。元々は、木製の小さな家がぽつぽつとある港町であった。しかし、商人が漁業で手に入れれる海産物を日干しすることによって保存食となる。と、仕事を持ち込んだことがこの街が注目されるきっかけとなったのだ。ふたりの進む道もそうだ。綺麗に整えられた煉瓦によって、何不自由なく進むことができる。昔は砂浜だったこの場所も、利便性を重視して整備されたのだ。
突き当りに差し掛かり、ふたりは緩やかな坂道へと曲がり、ゆっくりとした歩調で進むふたり。
「別に、私だって与一のことはいい人だって、思ってるわよぉ」
「……わかっていて、気に食わないのかい? なんだか、よくわからないことになってきたね」
「大怪我を負った私を助けたのに、あいつったらけろっとしてるじゃない? それが嫌なのよぉ」
人命を救ったのだから、少しは胸を張ってもいい。と、いうことなのだろうか。
依然として、与一自身は調合師としての自覚がない。調合などは楽しそうにこなしているのだが、それらが怪我をした人からすれば、どれほどありがたいものなのかわかっていないのである。カルミアの場合もそうだ。彼女は、襲撃をして返り討ちにあい、そのまま死ぬのではないのか。と、不安を抱きながら、目が覚めたらきれいさっぱり怪我は治っていた。通常、頭から床に投げつけられた場合、後遺症などが残る可能性だってあった。しかし、与一の調合した『治癒の丸薬』の効果は恐ろしく、身体に違和感を感じさせるどころか、絶好調の状態で目覚めることができたのだから。
「まぁ、目覚めてすぐに出会った変態と、まさかこんな形で仕事をするなんて思ってなかったのだけれどねぇ」
「へ、変態とは失礼な! 今すぐにでも、剥いでしまいたいほど、君はいい身体をしているんだ」
「やっぱり、変態じゃないのぉ。って、カミーユの話はどうでもいいのよぉ」
「どうでも……はぁ、これでも自重しているつもりなのだけれど……」
「間接的ではあるけれど、救ってもらった恩は感じてるのよぉ。だから、あいつが働かないのはどこか嫌っていうか……」
どこか気恥ずかしそうに、頬を掻くカルミア。
「なるほど、ね。でもまぁ、彼が調合師としての仕事を始めたんだから、応援してあげたくなるよね」
「応援というよりも、こき使われてる気がするのだけれどぉ。はぁ、私にしかできなさそうだから、仕方がないと言えば仕方がないのよねぇ……」
「それでも、引き受けたからにはしっかりと果たさないとね」
「わかってるわよぉ」
徐々に見えてきた冒険者ギルド。すると、カミーユは『ここで』。と、言い残して小さな通路の奥へと消えていった。彼女を背中を見送り、カルミアは服装に乱れがないか確認をする。
「サブマスターもいろいろと忙しいのに、これを持ち込んだら仕事を増やしてしまいそうねぇ」
与一から受け取った布袋を懐から取り出し、ふふ、と。嬉しそうに微笑んだカミーユは、冒険者ギルドの扉を開け、中へと入っていった。
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