異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

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第7章

56話

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 机の上に並べられている革袋をひとつ手に取り、カミーユの前へと差し出す。
 その意図がわからなかった彼女は、眉を寄せながらもそれを受け取った。中を覗き込み、手のひらへと中身を取り出す。

「……治癒の丸薬、ではなさそうだね。色も真っ白じゃないし、黄緑色なのは別の効果があるから。かな?」
「ご名答。一目見ただけでわかるなんて、ある意味で才能があるんじゃないか?」
「たまたまだよ。それで、これはどういう効果があるんだい? 見せるためだけに私を呼んだわけじゃないよね」
「あぁ、効果は3種類。治癒、解毒、気付け。その三つを混ぜ合わせたやつだ」
「また、すごいものを作り出したね」

 呆れ半分、感心半分。と、いったところだろうか。
 まじまじと万能薬を見ているカミーユの表情は好奇心旺盛おうせいな子供のようで、どこかそわそわしているような、どこか楽しそうな。そんな表情を浮かべている。

「うん、新しい丸薬ができた事はわかったよ。効果も」
「うちの助手曰く、値段がわからないそうでな。こいつはギルドに売りつけて、お金に変えようと思ってた品なんだ」
「なるほど……だけど、私にもこれの値段は検討もつかないよ。解毒と気付け、だっけ? 今まで、毒や気絶に有効なものと言えば、薬草そのものだったからね。それに治癒の効果が加わって、それがこれっぽちの大きさなんて信じられないよ」

 興味深そうに丸薬を摘まみ、ころころと指と指の間で転がすカミーユ。

「驚くのはまだ早いぞ?」
「ま、まだなにかあるのかい!?」
「ち、近い近い! 教えるから落ち着け!」

 与一の言葉に、カミーユはぐい、と。身を寄せ、案の定、彼から離れてくれと距離を置かれる。
 突然、異性から近づかれるということは、男性からしたらいろいろと警戒してしまうのだ。それだけではない、与一の場合は女性経験など皆無。親しいからといって、急に近づかれることには慣れていないのだ。

「す、すまない。少し、熱くなってしまったようだ」

 謝罪の言葉を述べ、ごほん、と。咳払いをする。

「他にも驚かせてくれるというのかい? 君は」
「はは。期待に応えれるかどうかはわからない。が、先に聞いておきたいことがあるんだ」
「聞きたいこと? 私に答えられるものであれば構わないよ。代金は既にいただいているからね」
「それは助かる。聞きたいことっていうのは、ポーションの持続時間についてなんだ」
「持続、時間?」

 初めて聞く単語だったのか、カミーユは持っていた万能薬を布袋に仕舞うと、口元に指を添えて考える素振りを見せた。だが、与一のいった『持続時間』。と、言う言葉に覚えがないらしく、首を横に振った。

「すまない。ポーションというものは、飲んだ時に効果が現れるものだから。その、持続時間? と、いうものに関しはわからないんだ」
「ふむ。飲んだことはあるんだよな?」
「あぁ、もちろんだ。時折、世話になることがあったからね」

 飲んだことはあるが、持続しているかどうかは不明。
 もしかしたら、ポーションには持続時間などと言う概念はなく、ただただ即時性のある回復薬的なものなのかもしれない。そうなると、与一の作る丸薬はまた別のものとなってくる。それも、ポーションと同じ即時性の特徴を持ちながら、効果が現れてから消えるまでの時間が3分程度もあるのだから。

「ある意味で、俺はすごいものを作ってしまったのかもしれないな……」
「……? まぁ、君は調合師だからね。私たちの知らない知識と経験で新しい物を作ったとしても、誰も疑いはしないと思うよ?」
「そうなのか? なら、飲んでから3分程度効果が維持されるってのも、納得してもらえるわけだな」
「えぇ!? な、なんだいそれは……もう、私の知っているポーションなどとは別物じゃないか!」

 再度、布袋へと目を向けるカミーユ。

「余計に値段の予想がつかないよ……ってことは、前に貰った治癒の丸薬も?」
「そうだな、あれも同じくらい持つと思うぞ?」
「はぁ、なんかもう。頭が痛くなってくるね……」

 そう言い、頭を押さえる。だが、彼女は困惑した表情など浮かべず、身体の奥底から湧き上がってくるたかぶりに、頬を緩ませていた。
 
「ふぅん、面白いものを作ったのねぇ」
「──っ!? びっくりするなぁ……気配消して部屋に入ってくるのはやめれくれよ、カルミア……」

 びくり、と。小さく飛び退き、胸に手を当てて振り返る与一。

「ふふ、私の本職を忘れたのぉ?」

 彼女の本職は、暗殺者。それは、身を隠して闇夜に活動して人を殺める職。
 自然と馴染んでいるカルミアの職を忘れていた与一。彼女は、毎日のように小言を言いながら自身を罵るだけでのめんどくさい相手──程度にしか思っていなかったのだから、いきなり背後から声を掛けられると、嫌でもあの夜の一件を思い出してしまう。
 彼女は既に寝返った身。今更、そんな気を起こすとは考えられない。それに、カミーユとも仲が良く、アニエスやセシルからも信頼を得ているのだから、居場所を失うようなことはしないはずだ。と、昨今まで警戒していたことを悟られないように、驚いて強張っている身体を落ち着かせようと深呼吸する与一。

「ほんっと、心臓に悪いな……」
「もう身体に馴染んでいるのだから、そんなこと言われても無理よぉ」

 両手を上げて、どうしようもない。と、手振りして見せるカルミア。

「心臓に悪いのは同意するよ。私も、何度もこれをやられているからね……」

 はは、と。元気のなく笑って見せるカミーユ。

「もう、カミーユまでそんなこと言うのぉ? 少し傷つくじゃないのよ……」
「カルミアが拗ねるなんて、珍しいこともあるんだな」
「私を何だと思ってるのよぉ。これでも、まだ若いんだから、それなりに傷つくわよぉ」
「ごめんごめん。それよりも、良い所に来てくれたな。ちょっと、頼み事があったんだよ」
「頼み事? 珍しいのはそっちじゃないのよ。ここ最近働いたり、人に頼ったり。前とは別人みたいじゃないのよぉ」

 その垂れ目を大きく見開きながら、カルミアは与一へと目線を向けた。

「まぁ、な。ちょっとほしいものがあってな、今の俺にできることって言ったら、これしかないからさ」

 机の布袋を指し、にしし、と。力なく笑う与一。

「そう、やっと調合師らしいことをするってことねぇ。それで、頼み事ってなにかしらぁ?」
「あぁ、それはな────」



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