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第1章
8話 another story
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叔父の宿屋を後にし、セシルの背中を眺めていたアニエスはぽつぽつと浮かない足取りで帰路についていた。
原因はわかっている。人助けをして、それを叔父に押し付けてしまったのだ。本来ならば自分のお節介で街にまで連れてきたのだから、自身が責任をもって──
「あぁぁ、っもう! 周りにめんどくさがり屋しか集まってこないじゃないの……っ!」
真っ暗な海へと嘆くアニエス。
「どうしたの?」
そこへ、聞いていたセシルが彼女を窺いながら呟く。
もしも与一が前衛系の職業だったら、パーティーに誘っていたかもしれない。だが、彼は調合師だ。生産職で、しかも貴重な人材と言っても過言ではない。
彼がもし、パーティーメンバーとして一緒に依頼を遂行する際に怪我や負傷を負う事となれば、咎められるのは自分とセシルだろう。
「ううん、ちょっとね……それにしても、まさか与一が調合師だなんて。流石に驚いたわ」
「ふふ、私は薬師でも調合師でも構わない。勉強になる」
「なによそれ。前衛職だったらパーティーに誘いたかったんだけれど──」
考えていたことがうっかり言葉になってしまったことに、アニエスは焦りを感じた。
セシルは基本、人に懐かないことを自身が一番知っているというのに、それを出会った初日であそこまで親しくしていた相手をパーティーに誘うなどと言えば、彼女は賛成するとしか考えられないからだ。
「何言ってるの? 先生はもうパーティーメンバー」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよセシル。あんなめんどくさがり屋で、しかも世間知らずなのよ? 討伐依頼とかでもしものことがあったら──」
「大丈夫。私がなんとかする」
「……はぁ。もう何言っても無駄ね。もう、わかったわよ……明日、彼に話してみましょっ」
やれやれと溜め息をこぼしたアニエスは、言うんじゃなかったと後悔するのであった。
原因はわかっている。人助けをして、それを叔父に押し付けてしまったのだ。本来ならば自分のお節介で街にまで連れてきたのだから、自身が責任をもって──
「あぁぁ、っもう! 周りにめんどくさがり屋しか集まってこないじゃないの……っ!」
真っ暗な海へと嘆くアニエス。
「どうしたの?」
そこへ、聞いていたセシルが彼女を窺いながら呟く。
もしも与一が前衛系の職業だったら、パーティーに誘っていたかもしれない。だが、彼は調合師だ。生産職で、しかも貴重な人材と言っても過言ではない。
彼がもし、パーティーメンバーとして一緒に依頼を遂行する際に怪我や負傷を負う事となれば、咎められるのは自分とセシルだろう。
「ううん、ちょっとね……それにしても、まさか与一が調合師だなんて。流石に驚いたわ」
「ふふ、私は薬師でも調合師でも構わない。勉強になる」
「なによそれ。前衛職だったらパーティーに誘いたかったんだけれど──」
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「大丈夫。私がなんとかする」
「……はぁ。もう何言っても無駄ね。もう、わかったわよ……明日、彼に話してみましょっ」
やれやれと溜め息をこぼしたアニエスは、言うんじゃなかったと後悔するのであった。
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