ベルベットの涙

あすまろ

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私は

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私は椅子
ベルベッド素材の生地の椅子
人気のない小さな駅の待合い室の片隅に居る
昔は富裕層の家庭に居たが、いつしか人気のない小さな駅に移動された。
私の椅子には様々な人が座ってくる
その度に座ってくる人の人生模様が少しだけ垣間見ることができる。

初めて私に座った人は確か…100年位前だったかな
100年前、私は上品で高級な家具が配置され1人で過ごすには少し広い品のある部屋に居た。
その部屋に杖をついた背の高い、髭を生やした
優しい顔の、お爺さんが私に座ると小さな溜息をしていた

暫く経つと胸ポケットから写真を取り出した
お爺さんはずっと写真を見ている

誰が写っているんだろう…

するとお爺さんの目から涙が溢れていた
「あぁ、結婚するのか…私から離れていくのか…」
お爺さんは大きな溜息を吐き嘆きの言葉を発している
どうやら、小さな頃から可愛がっている孫が結婚するようだ
可愛がっていた孫が家を出て自分から旅立つのが寂しくて堪らないのか…
お爺さんは俯き凄く落ち込んでいる様子だ

コンコン

ドアノックの音がした

ガチャ
誰かが入ってきた
「お爺様」
若い女性だ
女性は泣いてるお爺さんに駆け寄り、お爺さんの手を取り起立させた
「お爺様、何故泣いてるの?…」
お爺さんは涙を拭き
「幸せになるんだぞ!でも、もし辛いことが起き耐えれなくなったら帰ってきなさい。いいね…」
女性はお爺さんを見つめながら涙を浮かべ静かに頷いた
お爺さんのお孫さんなんだろうな

「お爺様…今までありがとう」
「絶対に幸せになるんだぞ」
2人はギュッと抱きしめ合うと、ゆっくりと部屋から退出していった

お爺さんはお孫さんを相当溺愛しているんだろうな

そしてまた静かな部屋の真ん中にポツンと私はいる
今度は誰が私に座るんだろうか…

時は流れ20年ほど月日が経った気がする
その20年の間、私は人が賑わうパーティに運ばれたり会議に置かれたりし、高貴な人から庶民の人、動物等から座られた
時には優しく扱われたり荒く扱われたり世の中には色々な人々がいるものだと参考になった。
動物は好き、暖かくて優しくて無垢で、ずっと私に座ってて欲しかったな…

そして私は屋敷の建て替えの為に捨てられ巡り巡って小さな一軒家の二階にある薄暗い部屋の片隅に置かれた



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