勇者の不可分

たりきん

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鬼彰 勁亮10話 過去が刻む未来の兆し

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「に、20年前!?」「20年前!?」

勁亮と莉愛は、驚きのあまり同時に叫び声をあげた。その声は、アティードの言葉に対する信じがたい衝撃を物語っていた。

「……いや、でも、辻褄は……合うの、か? いやいや……流石に……」

勁亮は混乱しながらも、頭の中で状況を整理しようとする。しかし、その情報量の多さに思考が追いつかず、言葉が途切れた。

一方で、ゲームや漫画が好きな莉愛は、そういった異常事態にもある程度の耐性があるようで、比較的冷静に反応していた。

「うーん、ちょっといろいろ情報多すぎてパンクしそう……とりあえずアティードはそれでイケおじになったのね」

彼女の軽妙なコメントに、勁亮は一瞬面食らったが、それでも状況が状況だけにツッコミを入れる余裕がなかった。

「はっはっはっ、莉愛は受け入れるのが早いな!」

アティードは重い空気を和ませようとする莉愛の冗談に乗り、力強く笑った。その笑い声は、緊張感が張り詰めた状況に、少しだけ温かさを取り戻したようだった。

「お前すごいな」

勁亮は、驚きながらも莉愛の落ち着きを称賛した。彼自身、あまりの展開に頭が追いつかない状況で、莉愛の対応力には感心するしかなかった。

「だってー、目の前にイケおじアティードがいるのは事実だし、そんな嘘つかないでしょ?」

莉愛はさらりと言ってのけた。その無邪気な発言にアティードも思わず笑みを浮かべた。彼女の天真爛漫さは、かつて戦場で彼らを何度も救ったことを思い出させた。

「はっはっはっ、そんなにすぐ信用してくれるなんて嬉しいね!」

アティードの顔には、莉愛の変わらない明るさに対する感謝と喜びが滲んでいた。

「勁亮ひどーい、あんなに苦楽を共にした仲間を信用してなかったのー?」

莉愛は茶化すように勁亮を責め立てた。その明るい調子が、重い話の連続だった状況を一瞬でも和らげてくれた。

「な、は!? 信用してるっつーの! ただいろいろ聞きすぎて処理できなかっただけだ!」

勁亮は顔を赤くしながらも、必死に反論する。彼にとって、この急展開は受け入れるにはあまりに複雑すぎたのだ。

「ふーん、あ、そう」

莉愛はあっさりと納得したように見せながら、また軽く笑った。

「てか、また謎というか疑問が生まれたろ!」

勁亮は話を本題に戻そうとし、急に真剣な顔つきになった。先ほどの会話を思い出しながら、重要な点に気づいたのだ。

「アティードがその黒い穴? ブラックホールみたいなもんか? それに飲み込まれてここに来たんたなら、光輝だって来てるかもしれないだろ」

その言葉に、莉愛も同調するように頷いた。

「うん、そうだね、もしかしたらイケおじ光輝になってるかも」

彼女の軽口が続くが、勁亮もアティードも「イケおじ」という言葉に一瞬戸惑いながらも、あえてそれに反応せずに話を進めることにした。

「あぁ、実は俺もコチラに来た時、その可能性は考えた。だが……恐らくそれは無い」

アティードの言葉に、勁亮は首を傾げた。

「無い? なんでそう言い切れるんだ?」

勁亮の問いに、アティードは一瞬考える素振りを見せ、少し真剣な表情になった。

「ちょっと長々と話しすぎたな、実はその辺も含めてお前らに紹介したい人達がいるんだ」

「人達? たくさんいるのか?」

勁亮はますます疑問が深まる。なぜ今、アティードがその「人達」についてぼかして話しているのか。

「ああ、俺がこっちに来た時、右も左も分からない状態で手助けしてくれた連中だ」

アティードは当時の状況を思い出し、少し疲れたように肩をすくめた。

「いやー、大変だったぞ。言葉は分からんし、目に映る景色はムアルヘオラを遥かに超えてた。車、電車、飛行機……まるで神様の世界に来た気分だった」

アティードはその日々を思い出し、苦笑しながら続けた。

「そっか、あの翻訳機の魔道具が無くて言葉が通じなかったんだね……よく生き延びられたね」

ムアルヘオラでは、様々な種族とコミュニケーションを取るために魔道具による翻訳が必須だった。それが無ければ、異なる言語を話す多種族と意思疎通するのはほぼ不可能だったのだ。

「アティード、ここで生活するためには戸籍とかも必要だろ? そんな簡単にどうにかなるもんか?」

勁亮の素朴な疑問に、アティードは少しうなずきながら答えた。

「ああ、その辺もさっき言った“人達”のおかげさ」

勁亮はアティードが「人達」とぼかして言うことに、どうしても引っかかるものを感じ、思い切って聞いてみた。

「なぁ、なんでさっきからソイツらのことをはっきり言わないんだ?」

莉愛は勁亮の質問にすかさず反応し、茶化すように声をかけた。

「まぁーた疑ってるぅぅ」

「な!違ぇよ!ただ、不思議だろ。そんな謎だらけの状況で、もうちょっと詳しく話してくれてもいいだろ」

「いや、言えないわけじゃないんだけどな……多分それ言ったら、お前たち、本当に頭がパンクするぞ」

アティードは微笑みながらも、真剣な眼差しで勁亮を見据えた。その視線には、何か大きな真実を伝えようとする決意が感じられた。

「安心しろ。近いうちにちゃんと紹介する。というか、今後お前たちが戦うためにも必要なことなんだ」

勁亮は、その決意のこもった眼差しを見て、ようやく納得したように小さく頷いた。そして、微笑みながら言葉を返した。

「はぁ、分かったよ……必ずだぞ」

そのやり取りを見ていた莉愛は、嬉しそうに笑みを浮かべた。勁亮とアティード、二人の信頼が再び強固なものになった瞬間を感じ取ったのだ。
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