勇者の不可分

たりきん

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夏目 晴斗6話その2 面接 - 俺ってすごいんじゃん?

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晴斗が部屋に入ると、そこには6畳ほどの空間が広がっていた。先ほどの部屋と同様に、整理整頓が十分ではない様子で、書類や機材が無造作に置かれている。デスクは晴斗に向かって配置され、その後ろにはFSSの代表と思われる人物が座っていた。

「おっ、来たな!君が夏目晴斗君か!」

その声は、明るくも力強い響きがあり、晴斗を迎える雰囲気には温かさが感じられた。

「姫凪乃から話は聞いているよ!」

と付け加えたその言葉には、少しの親しみと信頼感がにじみ出ている。

晴斗が向かい合ったのは、黒髪を短く刈り上げ、口元には薄く髭を蓄えた男だった。粗野な印象を与えつつも、その目には落ち着いた知性が感じられ、恐らく40代半ばであろうと晴斗は推測した。

しかし、その男は広い肩幅と厚い胸板を持ち、年齢を感じさせない体躯からは、今なお現役であることを示していた。彼の身体は、長年の過酷な環境で鍛え抜かれてきたに違いなく、軍用ベストを身にまとったその姿は、頼れるリーダーの風格を漂わせていた。

「どうも、よろしくお願いします」

晴斗は軽く頭を下げて挨拶をしたが、緊張しているのは隠し切れなかったようだ。

「はは、そんなに緊張しないでいいよ!」

晴斗の緊張をほぐすためか、男は笑いながら言った。

「いやー、ごめんね、汚いところで驚いたかな?ささ、座って座って」

と彼は晴斗を椅子に促し、その言葉に自虐を交えた笑顔を見せた。

晴斗は指示された椅子に腰を下ろし、改めてこの場の重要性を感じながら深呼吸した。

「じゃあ、早速いろいろ話を進めようか」

男は本題に入る前に自らを紹介する。

「俺は真取 快和(まとり かいと)、このFSSの代表取締役をやっている。もっとも、ここでふんぞり返っているだけじゃなく、必要に応じて現場にも出ることがあるんだ」

「姫凪乃から聞いてるかもしれないが、もともとはSAUに所属していて、まあ……いろいろあって今はFSSを立ち上げてここまで来たんだ」

晴斗は頷きながら話を聞いていたが、今のところ姫凪乃から聞いていた情報と一致しており、新しい情報は特にないように思えた。

「晴斗君は警備員をやっているそうだな?」

「え?ええ、そうです……」

「姫凪乃から、君はお金に惹かれたって聞いたんだが……?」

晴斗は、真取の言葉に一瞬焦りを感じた。確かに金銭的な動機が大きいのは事実だが、こういった場でそれを強調するのは不利かもしれないと感じ、何か別の理由を探そうとしたが、すぐには浮かばなかった。

「あ、いや、えっと……」

「いいのいいの、むしろ分かりやすい。そんな動機で頑張ってくれるなら、こちらとしてもありがたいからね!」

真取はにこやかに笑いながら言った。

「あぁ、はい、すみません……」

晴斗の気持ちを察したのか、真取はすぐに話題を切り替えた。その表情が徐々に真剣さを帯び、本題に入る準備が整ったことを示していた。

「それで……君の目覚めた力、アビリティについて詳しく聞かせてもらえないか?」

「えっと……まだ自分でも詳しくは分かっていないんですが、自分が知っている場所でその場所を細かくイメージできると、そこに時空の穴、トンネルのような出入口を作って直接移動できるんです」

真取はその説明を聞きながら、静かに頷いていた。

「ふむ、他に分かっている発動条件は?」

「場所が細かくイメージできなくても、写真を見れば行けました。ただ、これは職場内でやっただけなので、実際に全く行ったことのない場所で通じるかは分かりません。あと、距離に関しては、自宅と職場間で約10kmは移動できましたが、それ以上、例えば海外などの長距離移動が可能かどうかは分かりません」

真取の顔には次第に興味と興奮の色が浮かび、彼の目が輝き始めた。明らかにこのアビリティの可能性に心を躍らせているのが伝わってきた。

「おぉ!そのアビリティ、素晴らしいじゃないか!」

「そ、そうなんですか?」

「俺が知っている限り、移動に使えるアビリティはいくつかあるが、例えば足を強化して高速移動するとか、手を伸ばして移動するとか、風を操って空を飛ぶとかね。でも、君ほど応用が利いて、使い勝手の良い移動タイプのアビリティはなかなか見かけないよ!」

その言葉に、晴斗はどう返していいか分からず、ただ照れ笑いを浮かべるしかなかった。これまであまり褒められることに慣れていない彼にとって、真取の熱意は少しばかり圧倒的であり、同時に自分が持つ力の可能性を再認識させる瞬間でもあった。
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