異世界王道BL

西条ネア

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式典

10話 反省と本能

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「で、どうだったんだ。レイの容態は。」
俺はルイズに叱った後、医術師・スメローと治癒師・ローザにレイの容態を聞いていた。
「はい。。。神子様はこのか弱い身体に見合わないくらいの膨大な魔力が体内にうずめいているようです。うまくコントロールができず今回は些細なお祈りだけで膨大な魔力を一気に放出し、それに耐えきれなくなった神子様の身体が強制的にシャットアウトされたようです。」
スメローが答える。

「魔力の暴走による不調だったので神子様がお目覚めになられましたら詳しい状況が分かるのですが。。。それと、神子様の魔力の祈りの源は”幸福の祈り”だそうです。文字通り、あの場にいた全員の幸せをお祈りになられたのでしょう。神子様のこのご様子だともしかしたらもっと広範囲の、、、この世界一体の幸せかもしれません。何せ歴代の神子様のデータがほとんどなく、創造神アヴィ様が”たった一人の庇護を受けた”と称されたことから今まで以上に何か秘めたる力があるのやもしれません。」

「そうか、、、レイはそんな願いを。。」
ローザの報告に俺はさっき殺したあの鼠族の男のことを思いだした。
レイがこんな身になってまで祈ったというのにそのレイの思いを台無しにしたあいつが許せない。
もうすでに殺したというのに、怒りがこみあげてくる。

「この後の宴はどうなさいますか。」
スメローが聞いてくる。
レイのことが心配だが、どうしたものか。
「もしレイの意識が戻って、宴に出席すると言ったらレイの傍に俺と一緒についていてくれ。もしものために。出席したくないというならば別にいいだろう。誰も神子様に抗議する奴はいないはずだ。というか、俺たちが認めない。」

頼めるか、と聞いてくる。

「ええもちろん。ですが神子様のご出席は本当に必要な所のみにしてください。僕たちが推測できないことのほうが多い。もし神子様の身に何かあったら。。。」
そういうとローザはブルッと身を震わせる。

ーーー間違いなくアヴィ様直々に鉄槌が下るだろうな。

「とりあえず、レイの意識が戻ったらまた呼ぶ。それまでレイに負担がかからないような式典になるように侍女たちと一緒に準備をしてくれ。」

「「かしこまりました。」」

二人は軽く一礼して去っていった。




「レイは大丈夫なのか??」
レイの部屋の扉を開けて聞こえてきた聞きなれた声。
そしてもう既に立ち上がってレイの傍に寄り、レイの左手を取って自分の頬にすり寄っている記憶障がい者がいた。

「、、、おい貴様。俺はここで正座で反省してろと言ったはずなんだが。」
自分の足元を指さしてこの馬鹿に言う。

「いや、だって、ねぇ?自分の最高に可愛い嫁が倒れて寝込んでるんだぜ?心配しないほうがおかしいだろ。」
”いや、だって、ねぇ?”じゃねえ!と思いっきりさけんでやりたかったが、後半部分は俺にも思うところはあるから歯向かったことは許してやろう。
だが、勝手に立ち上がったのは許さん、と眼圧だけでルイズを正座させる。
せめてもの情けでレイの傍にしておいてやった。

そういえば、こいつの性格が変わってきたように感じる。
元々、行くぜ!行くぜ!の本能に従順な性格だったがそれにプラスして本能的な愛情の注ぎ方というか、なんというか、、、、レイへの愛という名の執念がすごく顕著に表れている。
俺は長年の付き合いで、あの日も一緒にアヴィ様に選ばれたから特に何も言ってこないがほかの奴らには凄い。
職場でレイに関する話が出てきた場合にはそれを話していた一人ひとりを個人的に呼び出し、何を話していたのか詰め寄っている。
下っ端の騎士には孤高の存在である騎士団団長に仲間と仲良く会話してただけで尋問まがいなことをされるんだからたまったもんじゃない。
ちなみに俺はその現場を部屋の隅でちゃっかり一緒に聞いている。
良からぬことを考えている奴はあぶりださないとな。
そういう奴は目が違うんだ。
こう、何か企んでいるよなっていう、、、気配というか殺気というか。
こういうときにも騎士でよかったと感じる。

、、、ちょっと待てよ。
この馬鹿がこんなにも変わったということは俺も少なからず変化しているということか?
そういえば最近部下に、「副団長、雰囲気代わりましたね。」と言われる回数が増えた。
ある騎士に理由を聞くと、
「う~ん、、まず表情がよく動くようになりました、本当に表情筋がちょっと動いているだけですけど、前みたいな何考えてるか分からない怖い副団長ではなくなりましたよね。あとは、、、」

「まだあるのか。。」
一向に口を閉じない騎士に驚く。
「んじゃあ、一気にまとめて、”口数が増えた”ですかね!」
その声に、こちらの会話に耳を傾けていたらしい騎士たちが思い思いに頷いたり、相槌を打つ。

「そんなに変わったのか?」
俺自身では実感がないのが怖いところだ。
「ええ、そりゃもう。前まではかかり稽古の時も”背中から学べ”だったのに最近は口でアドバイスをくれるようになりました!」
その声に賛同した騎士が、
「そうそう!俺めっちゃ驚いてこいつに一本取られちゃいましたよ!」
と言いながら近くにいた騎士を指さす。
すると「なんで俺が勝っちゃ悪いんだよ!」と取っ組み合いが始まったのは面白かった。

レイはこんなところにまで影響を与えているのか、とレイの存在の大きさを改めて実感させられた。



「レイは自分のこのか弱い身体に抑えきれないくらいの魔力があるらしい。今回は神子の祈りで魔力を放出するときにコントロールが効かず、一気に大量の魔力が抜けたことで身体に負担がかかって倒れたようだ。」

「っていうことは魔力の欠乏症状か?大丈夫なのか、それ。」
今までおとなしく俺の話を聞いていたルイズが聞いてくる。
依然、レイの方を向いてレイの顔をジ~ッと見ていて、本当に俺の話を聞いているのかと怪しいが、ちゃんと聞いていたらしい。

「ローザによると、過去の神子に関するデータが少なくレイが起きてみないと分からないんだそうだ。そしてレイは創造神アヴィ様の庇護をうけているたった一人の神子だろう?どうしようもないらしい。」

「そうか。。。」

重い空気が漂う。
レイに何があるのかわからないという不安は募っていくばかりだ。

「レイがこの後の宴に出席すると言ったら2人にもレイの傍にいてもらうが、いいな?」
「ああ、こんな状況じゃ何も言えねえしな。。」


「なあセネス。俺、しばらくしたらレイとお前と俺だけの家に住みたいんだ。」
唐突にルイズが言う。
「レイにとって一番安全なのはここだってわかってんだ。でも、一緒に、誰にも邪魔されず過ごしたい。」
俺たち獣人は伴侶に対する執着がすごい。
中でも俺の狼族とルイズの獅子族は異常だ。
普通、互いが獣人なのでそう言った過激な求愛行動や、性行為はある程度耐性が効くがヒト族は違う。
過激な性行為には身体が耐えられないと聞く。
ヒト族が絶滅したのも。

だから細心の注意が必要だ。
俺たち3人だけになったとき、その制御が効くのかどうか。
怪しい点はある。
でも。。。。

「俺もそう思っている。」

気づけば口を開いていた。
レイにはまだ何も聞いてはいないけれど、俺たち三人の生活がどれだけ夢溢れているものか。。。
こうなったら絶対にレイを納得させられるように惚れさせないとな。

「ククッセネス、オスの顔になってんぞ。」

そういった目の前にあるルイズの顔もまたひどく獰猛だった。




ところで、、、

「俺はまだ正座をやめていいと言っていないんだが。」
「キャイン、、、!」

その日、ルイズが部屋から出てきたときには足を踏み出す度に悲鳴を上げていたそうだ。
だが俺は知らん。
悪いのはあいつだ。


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