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第3章 T50という小悪魔

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 フィーとの通信はキャリア回線を利用しているわけだが、強烈なジャミングで切れてしまったようだ。
「やばいな、どうする? フィーは緊急回避モードがあるんだろ? 戻れるか?」
 ドローンを自動運転させる際に機体の故障などで飛行ができなくなったときには近くに緊急着陸するのだが、ガレージに戻すモードも用意されている。フィーは追跡が任務だったわけで、今回はガレージに戻ってきてもらえればいい。
「たぶんね、でも、あの子のことだから。もしかしたら......」
「なんだよ、まさか、さらに証拠を集めようとするのか?」
「ありえるわ、もちろん、最優先はガレージへの帰還だけど、こちらからの通信ができない状況だと勝手にやるかも」

 A.iがドローンに載せられてかなり年数が経つわけだが、自律モードは実は違う。多くは飛行だけに制限されていて、フィーのように自由な動きをするA.iはほぼない。法律で制限されているわけだし、許されているのは消防、軍事くらいなものだ。例外として研究もあるけど。フィーは研究目的として登録されているからA.iは比較的自由にできる。

「うーん、嫌な予感しかしない。おっさん、衛星使ってくれる? もちろん、おっさんの現地突入もだけど」
「よど、気軽に言ってくれるなよ、衛星なんてうちの会社レベルで使えないぞ、俺の月給どんだけ飛ぶと思って......」
「わかってるわよ。でも、フィーがやばい、うーん、衛星回線どっかにおちてない?」

 よどの気持ちはわかるが、衛星回線は一般の回線数十倍する。いや、定期に使う企業はかなり安くなるとは聞いているがそれでもうちみたいな零細が使える額じゃない。
 ここで悩んでいてもしかたない、自分はフィーの回収に車を出す。

 フィーが発見した別荘までは手動運転なら10分程度の距離、だったのだが、不思議と道路が混んでいる。自動運転が多い状況で混雑はありえなくなったのだが、目の前には先が見えないほどの渋滞。

「よど、モニターしてるか? なんだこの渋滞」
「わかってる。えっ、そんなわけない」
「なにがあった?」

 自動運転はほぼ事故が起きない。悪意ある例外を除いて。
 
 フィーを探しに行きたい自分の前でおこった渋滞の原因はドローンの墜落だった。
 多数のドローンが道路を塞ぐように墜落、部品があちこちにちらばり、パンクの恐れがあったために自動運転車が進めないのだ。

「富豪ってすごいよね、ほんと、やってくれるわ、ドローンをなんだと思ってんのよ!」

 ドローンに愛着があるよどからすれば人間の都合で勝手に墜落させられることに耐えられないだろう。ドローンの多くは最大速度で上空から突撃していた。中にはA.iが墜落を避けようとした形跡がある機体もあったが。

「ねえ、おっさん、まじで衛星回線使えないかな。もう......我慢できない」

 よどがここまで切れたのは一度だけみたことがある。今回と同じように金持ちが不正改造ドローンで隊列を作って飛ばしていた。しかも、一般車両が走る道路付近で飛ばし、不注意で付近を走っていた自動車に落下。
 自動車は複数のドローンがあたった衝撃で大破していた。その時乗っていたのがよどの母親であり、大怪我をおっている。
 その時よどはうちのアルバイト中だった。知らせを聞いたよどは金持ちがもつ口座、各種情報をすべてあさると一斉に公開を始めた。口座については各種慈善団体に寄付するなど社会的に抹殺し始めた。

 やばいことをしていることに気づいたのはあらかた終わったところでだった。
「やめろ、よど、誰もそんなことを望んでやしない」
「わかってるわよ! でも、こんなことってない、あいつらが飛ばしたドローンでお母さんが......」

 よどの母親は大怪我を追ったものの一命はとりとめ、今は普通に暮らしているそうだ。だが、あれ以来、不正ドローンで起こる事故、金持ちには強烈な嫌悪感を持つようになった。
 今回、フィーが捕獲されてしまった可能性が高いこともよどの怒りを増幅させていた。
「だがな、衛星回線は無理だって、うちの会社だと数分も使えない、ごめんな」
 何もできない自分は車を運転させながらない頭をしぼっていた。

「いいわよ、貸してあげる」
 フィーの緊急事態に彩花が助け舟を出してくれた。工房が持つ衛星回線を一部貸してくれる。いやいや、彩花の一存で貸せるのか?
「お父さんの許可はもらってるわよ。「後で体で払え」だって。おっさん」
 いやいや、高すぎるって、体がいくつあっても足りん。
「彩花さんありがとう、大丈夫よおっさん、数分で蹴りがつくから、フィーを捕獲なんてさせない!」
「わかった、わかったよ。彩花助かった。よど、いいか、できる限り、可能な限り、数分ですませろよ。俺のためにも」

「へへへ、大丈夫よ。よど様にまかせなさい!」

 さっきまで泣きそうだったよどの顔が一気に明るくなったかと思えば、衛星回線の接続カウントダウンをみながら小悪魔的な微笑みを浮かべていた。

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