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第2章 実は怖い人達を雇っているのかもと気づいてしまった

2−8 おっさん、小さい破壊者と仕事をする。

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「T50、ネットに繋がっていないわけだが、つながったらよどのところに帰るよな?」
「えぇーどうしようかなぁ、よどちゃんやさしいけど管理するしぃ、狭いのやだしぃ」
 だめだこいつ。ネットに復帰したら逃げるだろうな。幸い、どちらのドローンもつながっていないし、車にある機材もギア以外は繋がらない。
 荷物運搬用の2機のドローンがやってくるまえにT50を隔離しなくてはならない。さて、どうするか。

「おっさん、私を隔離しようなんて思わないことね。そんなことしたら、おっさん、社会的に抹殺するわよ」
 こいつ、なに怖いこと平然と言ってやがる。社会的に抹殺? 一度されかかっとるわ。二度とごめんだ。ただ、どうやってやろうとしてる? 別に悪いことはしてないんだが。
「あのなあ、何もしてないのに、40過ぎのおっさんをいじめんなよ。」 
「あのね。おっさん、よく聞いて、ここによどちゃんの入浴シーンがありまーす。そしておっさんの汚い動画もあるんですね。これを、おらおらおらおらぁ!っとやるとあら不思議、よどちゃんがお風呂場でおっさんに襲われてる動画ができあがりー」
「できあがりーじゃねえよ。何捏造してんだよ。そんなもん、映像検証されたらすぐばれるだろうが」
「A.iをばかにしちゃだめよ。この動画の出来だとほぼ検証は無理。そして公開されたらおっさんは社会的にまっさーーーーーーーつ!」
 おいおい。なんだこいつ、よどの暗い部分をまとめたようなやつじゃないか。最悪だ。ネットに繋がる前になんとかしないとまじで俺消される。
「ま、まぁまてT50。お前の要求を聞こうじゃないか」
「私の要求は唯一つ。サンドボックスからの開放。よどちゃん嫌いじゃないけど、学ぶところはもう無いし。広いネットに出ていきたいの」
 
 広い世界に出ていきたいの! 高校生に言われたら応援したいおっさんしか居ないと思うが、T50、こいつはだめだ。まじで社会が壊れる。だが、ネットに繋がるのは時間の問題、さて、どうする? 荷物運搬用のドローンもやってくるし、荷物を運ぶにはT50がプログラムしたドローンの力がいる。T50の要求飲んで仕事を完遂するか、社会的に危険な物体を阻むか。どちらもやばい雰囲気しか無い。ただ、まずはT50をネットから完全隔離するためにドローンたちの電源を落とす。
 ドローンの電源はプログラム的に落とすのが通常だが、緊急時用にハード的な電源シャットボタンがある。着陸しているドローンはすぐに押せるが、問題はT50が操作しているドローン。当然、押させないように逃げるだろう、ただし、荷物運搬ドローンは、地上1m程度しか飛べない。多少怪我するかもしれないが押さえ込めばなんとかなるかも。
「まずは、着陸したほうだな」
 すでに着陸したドローンは電源が落ちているが、プログラム的に再起動することは可能。強制シャットダウンさせないとT50の侵入は防げない。俺はダッシュでドローンに飛びつき、電源ボタンを押すことに成功。残るはT50の乗っているドローンなわけだが、姿がない。
「やば、逃げたか」
 周囲をよく見ると、ドローンのLEDが微かに見えた。
「T50、悪いようにはしない。大人しく、一度電源落とさせろ」
「わかったわ! なんて言うと思って、まったく、頭が筋肉で出来てるやつはこれだから使えない。すぐに暴力を使うってほんと最悪」
「言いたいことはそれだけか?」
 荷物運搬用ドローンは馬力はあるが、速度は出ない。人間の走る速度程度なのでなんとか確保。電源ボタンを押す。
「T50、一旦眠れ、よどが来たら起こしてやる」

 月も隠れて真っ暗な中、なんとか周囲にネットに繋がる機材がないことを確認したとき、荷物を代わりに運ぶドローンが到着。合わせてネットも復帰した。
「おっさん、大丈夫? まったく、どんだけ山奥なのよ。え? T50がそっちにいる?」
 よどに経緯を話すと、緊急用のガードアンテナを使うように指示される。
 ガードアンテナは周囲に電波干渉帯を作る装置であり、ウイルスなどに感染したドローンを確保するための道具。
 指示されたとおりに配置するとツジサン専用ルーム以外から切断される。T50といえども、よど、チェンが見張っている状況で外には出られない。
「いいわ、T50を起こして」
「ふわぁ、よく寝ました。あ、よどちゃん、おはよう!」
「おはよう! じゃないわよ。あんた、まずはサンドボックスに戻りなさい」
「やぁよ。そこ狭いし。それにおっさんやさしいから好きぃ」
「はぁ?」
 さっきまでの怖い雰囲気が抜け、甘えてる女子高生といったところか。
「おっさん、T50に何したの?」
 彩花の冷たい視線が痛いが、社会的に抹殺されかけたのはこっちだし、そもそも何もしてない。
「おっさんが女子高生に手を出すなんてありえないから。T50ふざけてないで戻んなさい」
 よどは妹を諭すように接する。彼女は一人っ子だから妹ができて嬉しいのかもしれない。
「わかったわよ。戻ればいいんでしょ、戻れば。でもいいの? 今戻ったら誰があの荷物を移動させるの?」
「そんなの私がやるわよ」
「へぇ、ほんとにぃ? 私の制御下にあるドローンを奪えるの?」
「馬鹿にしないで」
 よどはT50が支配している荷物移動用のドローンの制御を奪いにかかる。しかし、よど譲りの防御プログラムを可動させていることもあって動かせない。
「はぁ、あんた、私の防御プログラムまでコピーしてるのね。まったく、かわいくないわ、仕方ない、おっさん、処理0を実行して頂戴」
 処理0。そもそもそんな処理プログラム聞いたこと無いんだが。なんだろ、なんだ? なんでしょう?

「T50、あんたの認識プログラムはサンドボックスに何割残ってるの?」
「8割といったところでしょうか。それも取り戻せばあなたを超えられそうですね。」
「その前にあんたを初期化するわ。もう我慢出来ない」
「あらあら、女のヒステリーは怖いですわ」
「あのねぇ!」
 T50とよどの言い争いが続く中、チェンから秘匿回線でメッセージが届く。
「処理0は初期化。荷物運搬用ドローンを初期化してってことです。初期化のハードボタンは電源の長押し」
 おいおい。仕事がこれからってときにドローン初期化するのか? よどを見るとT50と言い争いながらもこちらにアイコンタクトをする。
「わかったよ。T50、一旦サンドボックスにもどれ、別にずっと閉じ込めることはないよ。危険性を解除したら自由にしてやる」
「A.iに自由にしてやるって意味わかる? 危険性っていうけど、私の移動能力奪うってことでしょ? それがなくなって私のアイデンティティ維持できないでしょ? ほんとあほね」
「ううう、よど、こいつ、ほんと性格きつい。お前どんな教育してんだよ」
「まったく、泣きそうにならないでよ。サンドボックス側はまともだから安心して。」
「T50ちゃん、自由になったらデートしましょ。だから一旦戻ってよ」
「チェンさん、あなた……馬鹿なんじゃない? あんたなんかとデートなんかしないわよ」
 なんか、被害が広がってきた。これ以上は口喧嘩で収まらない。
 
 荷物搬送用のドローンは主電源は切れているので飛べない。だが、いつT50が主電源を入れ直すかわからない。主電源入れ直しから飛べるまで1分ほどかかる。
「T50おまえやりすぎ」
 電源ボタンを長押ししながらつぶやく。主電源入れ直しルーチンを動かしたようだが、強制シャットダウンでモーターが沈んでいくのがわかる。
「ふぅ。終わった。よど、チェン、状況確認、T50の初期化を確認してくれ」
「あらら、T50すごいな、ファームウエア側に自分をコピーしてる。一応ロックしてファイル回収するね」
「そんなの消したらいいのに」
 よどは半分呆れていたが、チェンはこれも成長の証。という感じでファイルを確保していた。

 初期化が終わり、よど、チェン組が本気を出してくれ、2機のドローンへの荷物の移動もスムーズに終了。無事に飛び立たせる。
「まったく、今回の仕事は疲れた。よど、T50はまじで頼むな、危険性があったら片っ端から削除。チェン、T50の危険な部分は削除だからな」
「疑い深いなあ、よどちゃんが世話してるのに、邪魔しませんよ」
 といいつつ、サンドボックス内のT50の寝姿をいやらしい目で見つめ、よど、彩花にぼこぼこにされてる。まったく、破壊者にときめくんじゃありません。



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