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4章 美咲
4-1
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ライラが作った美咲への「チャンネル」は数m先も見えないほど薄暗く、人が一人立って歩けるほどの高さだった。アトラクションによくある立体迷路の場合、壁に手をつけながら進めばやがてゴールにつくが、この迷路は進んでも進んでもゴールは見えなかった。しかも、まとわりつく空気はとても重く、これ以上先への侵入を拒んでいた。
何度かの分かれ道をクジにまともに当たったことがない僕の勘に頼りながら進む。すると、暗闇の中からかすかに少女のすすり泣きらしき声が聞こえてくる。
「......だって.....みんな......みんな、私からいなくなるんだもの、タクだって......」
「美咲!?」
泣き声の主が美咲だとわかると、僕はいてもたってもいられず、声の方に走りだしていた。
「美咲! 美咲なのか! 僕だよ! くそっ! 聞こえないか。今行くからな! 」
暗闇の中に僕の声は飲み込まれていくが、暗闇から聞こえる声は確実に大きくなっている。そうだ、美咲に近づいているんだ。そう自分を励ましながら重苦しい空気の中を進む。
「ライラ、聞こえてるか? 結構進んだけどまだか? ライラ、おーーーーい 」
「...... ...... ......」
「やっぱだめか、ちょっと前から静かだと思っていたけど。しかたない、声の聞こえる方にいくだけだ。にしても、どこまで続いているんだ? もういくつ分かれ道があったかも覚えてないよ」
薄暗い中をただ歩き続け、美咲の声は確かに大きくなっているのだけど一向に出口が見えない。だんだん時間の間隔や足の感覚がおかしくなってきた。もしかしたら、僕の体は宙に浮いてて、同じ場所で足踏みしてるだけなんじゃないか? そんな錯覚に陥りなりがらも前に進む。そしてついに声がはっきりしたと思ったら、まばゆい光に包まれ、一面真っ白な空間に出られた。
「や、やった、出られた! 美咲? 美咲いるんだろ? 美咲ぃぃぃ! 」
僕の声は反響することもなく白い空間に吸い込まれていく。体育館ほどの大きさの空間で四方を壁に囲まれているのには気づいたけど、あまりの空間の白さに方向感覚がおかしくなり、しっかりしないと壁に溶け込んでしまいそうだ。白の世界が襲ってくる......雪山で遭難するとこんな感じなのだろうか。
「暗闇の次は白の世界、もう! 勘弁してよ。 美咲? 美咲居るんだろ? 僕だよ、出てきてよ! 」
僕の叫びが聞こえたのか小さな光の塊が現れると、上下左右に動き「こっちだよ」と誘導してくれているかのようだった。僕は光を追いかけるように夢中でじたばた動き回ると、白の世界から脱出することができた。
白の世界を飛び出ると平原が広がっていた。靴を履いていても分かる、草のチクチクと刺す感覚ががここちよい。風も心地よくふき、僕は自然と歩き出した。さっきまで聞こえていた美咲の泣き声が聞こえなくなっていたが、少し離れた巨木の下に美咲が立っているのを見つけ駆け寄った。
「冬弥? どうやってここに? ここは私だけの世界。誰も入れないはず......ねえ? どうして......? 」
さっきまで泣いていたのだろう、泣き腫らした目を軽くこするとすっと立ち上がり、まっすぐに僕を見つめていた。
僕の目の前に美咲がいる。でもいつも元気の塊のような美咲じゃない。顔も声も美咲なのだがまるでマネキンのように生気を感じない。それに普段着ているのを見たことがない自衛隊の迷彩服らしき服装、腰にはナイフを装備。そして、パペット戦でもほとんど使ったことがない拳銃を握っていた。
「美咲、大丈夫か? 心配したんだぞ? 」
美咲は何も答えず、引きこまれそうな黒い瞳で僕をじっと見つめていた。僕は懸命に美咲の肩を揺すってみるが反応はなかった。どうしたらいいのか分からず戸惑っていると、美咲はおもむろに拳銃を僕に向け、迷わず引き金を引いていた。銃弾は僕の頬をかすめただけだったが、恐怖で動けなくなった。
「冬弥、どうしてここにいるの? また、私の邪魔をしにきたの? 」
「美咲、何を言ってるんだよ。僕はただ......」
「ただ、なに? タクもいなくなった。みんな私を一人にする。こんな世界、私、大嫌い。私の嫌いなものなんて全部消えちゃえばいい! そうよ、世界だって消えちゃえばいいのよぉぉぉぉぉ! 」
美咲の周辺からどす黒い風が吹き出し、黒竜となると天を目指し登っていく。晴れ渡っていた空は急速に曇色に変わっていき、草木は枯れ、辺り一面淀んだ空気に覆われていく。
そう、世界が美咲によって壊され始めたのだ。黒竜がその巨体をくねらせるたびに世界が黒く染まっていく。すべてが黒く染められたら世界は終るのだろう。
「美咲、止めるんだ! 」
僕の声は美咲に届かず、淀んだ空気に呼吸が苦しく、その場に倒れこんでしまった。
ライラが作った美咲への「チャンネル」は数m先も見えないほど薄暗く、人が一人立って歩けるほどの高さだった。アトラクションによくある立体迷路の場合、壁に手をつけながら進めばやがてゴールにつくが、この迷路は進んでも進んでもゴールは見えなかった。しかも、まとわりつく空気はとても重く、これ以上先への侵入を拒んでいた。
何度かの分かれ道をクジにまともに当たったことがない僕の勘に頼りながら進む。すると、暗闇の中からかすかに少女のすすり泣きらしき声が聞こえてくる。
「......だって.....みんな......みんな、私からいなくなるんだもの、タクだって......」
「美咲!?」
泣き声の主が美咲だとわかると、僕はいてもたってもいられず、声の方に走りだしていた。
「美咲! 美咲なのか! 僕だよ! くそっ! 聞こえないか。今行くからな! 」
暗闇の中に僕の声は飲み込まれていくが、暗闇から聞こえる声は確実に大きくなっている。そうだ、美咲に近づいているんだ。そう自分を励ましながら重苦しい空気の中を進む。
「ライラ、聞こえてるか? 結構進んだけどまだか? ライラ、おーーーーい 」
「...... ...... ......」
「やっぱだめか、ちょっと前から静かだと思っていたけど。しかたない、声の聞こえる方にいくだけだ。にしても、どこまで続いているんだ? もういくつ分かれ道があったかも覚えてないよ」
薄暗い中をただ歩き続け、美咲の声は確かに大きくなっているのだけど一向に出口が見えない。だんだん時間の間隔や足の感覚がおかしくなってきた。もしかしたら、僕の体は宙に浮いてて、同じ場所で足踏みしてるだけなんじゃないか? そんな錯覚に陥りなりがらも前に進む。そしてついに声がはっきりしたと思ったら、まばゆい光に包まれ、一面真っ白な空間に出られた。
「や、やった、出られた! 美咲? 美咲いるんだろ? 美咲ぃぃぃ! 」
僕の声は反響することもなく白い空間に吸い込まれていく。体育館ほどの大きさの空間で四方を壁に囲まれているのには気づいたけど、あまりの空間の白さに方向感覚がおかしくなり、しっかりしないと壁に溶け込んでしまいそうだ。白の世界が襲ってくる......雪山で遭難するとこんな感じなのだろうか。
「暗闇の次は白の世界、もう! 勘弁してよ。 美咲? 美咲居るんだろ? 僕だよ、出てきてよ! 」
僕の叫びが聞こえたのか小さな光の塊が現れると、上下左右に動き「こっちだよ」と誘導してくれているかのようだった。僕は光を追いかけるように夢中でじたばた動き回ると、白の世界から脱出することができた。
白の世界を飛び出ると平原が広がっていた。靴を履いていても分かる、草のチクチクと刺す感覚ががここちよい。風も心地よくふき、僕は自然と歩き出した。さっきまで聞こえていた美咲の泣き声が聞こえなくなっていたが、少し離れた巨木の下に美咲が立っているのを見つけ駆け寄った。
「冬弥? どうやってここに? ここは私だけの世界。誰も入れないはず......ねえ? どうして......? 」
さっきまで泣いていたのだろう、泣き腫らした目を軽くこするとすっと立ち上がり、まっすぐに僕を見つめていた。
僕の目の前に美咲がいる。でもいつも元気の塊のような美咲じゃない。顔も声も美咲なのだがまるでマネキンのように生気を感じない。それに普段着ているのを見たことがない自衛隊の迷彩服らしき服装、腰にはナイフを装備。そして、パペット戦でもほとんど使ったことがない拳銃を握っていた。
「美咲、大丈夫か? 心配したんだぞ? 」
美咲は何も答えず、引きこまれそうな黒い瞳で僕をじっと見つめていた。僕は懸命に美咲の肩を揺すってみるが反応はなかった。どうしたらいいのか分からず戸惑っていると、美咲はおもむろに拳銃を僕に向け、迷わず引き金を引いていた。銃弾は僕の頬をかすめただけだったが、恐怖で動けなくなった。
「冬弥、どうしてここにいるの? また、私の邪魔をしにきたの? 」
「美咲、何を言ってるんだよ。僕はただ......」
「ただ、なに? タクもいなくなった。みんな私を一人にする。こんな世界、私、大嫌い。私の嫌いなものなんて全部消えちゃえばいい! そうよ、世界だって消えちゃえばいいのよぉぉぉぉぉ! 」
美咲の周辺からどす黒い風が吹き出し、黒竜となると天を目指し登っていく。晴れ渡っていた空は急速に曇色に変わっていき、草木は枯れ、辺り一面淀んだ空気に覆われていく。
そう、世界が美咲によって壊され始めたのだ。黒竜がその巨体をくねらせるたびに世界が黒く染まっていく。すべてが黒く染められたら世界は終るのだろう。
「美咲、止めるんだ! 」
僕の声は美咲に届かず、淀んだ空気に呼吸が苦しく、その場に倒れこんでしまった。
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