殺意増幅障害という新たな障害が当たり前になってしまった俺たちの"普通の日常"の話

暗黒神ゼブラ

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第一章

気づき

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 嫌な予感というものは、往々にして的中してしまうものである。
 みどりの話を聞いた瞳は、ため息こそ堪えたものの、その表情は引きつっていたに違いない。


「えーと、つまり。一条さやか嬢の様子がおかしいから視てほしいと取り持つように一条の術者がみどりさんに頼んできた、で合ってます?」
「……はぁ」


 内容を要約して確認をすれば、みどりはなんとも曖昧な返事をする。
 その隣では田中が憤りを隠せずにいた。


「頼むなんてものではありませんでした。あれは脅迫のようなものです。さやかお嬢様の友達ならできるはずだと、高圧的な態度でお嬢様を威圧するばかりでした!」


 一条の術者は、どうやら瞳に言われたことが何一つ理解できていないようだ。


「……みどりさん」
「はい」
「今回の件、オレが行ってもどうにもならないんです」
「……はい?」


 結論だけを伝えても、みどりだって分かるはずがない。瞳は、みどりに説明を始める。
 まず一ヶ月前の件にさやかの思い込みから端を発し、いろいろ拗れて現在に至る点まで。
 霊障とは縁のなかったであろうみどりや田中の為に、言葉の説明も加えた。
 怨霊と怨念は違うこと。今回はさやか自身の怨念が溜まっていること。さやか自身が気付かなければ同じことの繰り返しであること。
 なにより、今回は怨念を無理矢理に祓えば、さやかの心の一部が欠落するかもしれないこと。
 そして、みどりがここに来ていることを勘違いしたさやかに嫉妬されていること。


「みどりさん、水晶はどうなりましたか?」
「あ、はい。それが……大切にしているのにヒビが入ってしまって……」
「そうですか……」


 みどりは御守り袋から水晶を取り出して見せてくれるが、たしかに大きくはないけれど亀裂が入っていた。


「これが、さやかさんの嫉妬を買ってしまった結果です。……ただの逆恨みとも言いますけれど」
「そんな……」
「みどりさんは一切責任を感じる必要はないです。今回は完全にさやかさんの一人相撲だ。……例の『祓い屋』も、うんざりしているようです」
「まあ……!」


 瞳は手を顎に当てて少し考える仕草をする。
 それから、何かを考えついたように立ち上がった。


「すみません、ちょっと席を外します。すぐ戻りますので、律さん、お願いします」
「わかったわ」


 すぐに頷いてくれる律に、微笑みを返す。
 円と美作にも待機するように言って、瞳は一旦玄関ドアから外に出る。


「玄武、そのままで聞け」
『はい』
「お前、一条の屋敷に行って術者に喝入れられるか?」
『……あまりにも頭が弱い人物とお見受けしましたので、自信はありません』
「青龍はどうだ?」
『……玄武に同じく、ですね』


 二人ともがこれ程までに言うレベルの術者が、よく式神と契約できたものだと、ある意味で感心する。


「…………一条さやかのオレに対する執着を、一条の術者にすり替えられるか?」
『……少々お待ち下さい』


 この場合の『待て』は、試してみるので待て、の意味であると認識して、瞳はそのまま待った。やると言ったらウチの式神はやる。腕組みをして、目を閉じているので、傍目には考え事でもしているかのように見えるだろう。
 しばらくして、玄武の声が返ってきた。


『記憶改竄かいざんのようで心苦しくはありますが、おそらく成功したかと』
「そうか、すまない。オレも心苦しくはあるんだが、術者の方はどんな様子だ?」
『悪霊が消えたようだと、喜んでいるようです』
「おめでたいな……。術者の式神はなぜヤツについている。何かしがらみがあるのか?」
『先代の式神だったようです』
「そうか。……たぶん、実力が釣り合っていないだろう。契約を切りたければ切っていいと伝えておけ」
『かしこまりました』


 玄武の声を聞き、ふ、と目を開けると瞳は再びドアを開けて中へと入っていった。
 リビングに行けば、律とみどりが楽しそうに会話をしていて、田中も嬉しそうだ。


「すみません、お待たせしました」


 そう言って座るタイミングで、瞳は再び水晶を作り出していた。


「田中さん、一条の術者と連絡は取れますか?」
「……はい、それは可能ですが」
「嫌だと思いますが、連絡をお願いします。おそらく、今回は違う意味で嫌な思いをされると思いますが……」
「……?」
「霊障専門の探偵事務所に来ていることを伝えるだけでいいです。お願いします」
「かしこまりました」


 重ねて頼めば、田中は折れてくれた。早速連絡を取ってくれる。
 楽しげに話していた女子二人も、自然と口をつぐんでいた。
 全員に見守られる中、通話が繋がり、田中が瞳に言われた通りの言葉を告げると、相手はなにやら高科邸を訪れた時とは様子が違うようだ。田中の戸惑うような反応。何事かを言われて一方的に通話を切られた様子に、瞳は心の中で舌打ちした。どこまでも低レベルな男である。


「もう必要ない、と。そのようなことを言われませんでしたか?」
「あ、はい。その通りです。……いったい何が……?」
「先ほど少し裏工作をしました」


 瞳は、悪びれる様子もなく淡々と答えた。
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