INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

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第4章 燔祭

蘇る神 3

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「次元深度、乱れています!!LV2.7!」

「アラン、PSIバリア、深度パラメーター黒二◯!LV3無意識表層域を維持!あとどのくらい!?」

咲磨へと続く『ヤマタノオロチ』の畝る蛇体の流れに揉まれながら<アマテラス>は突き進む。

「現象界領域に、森ノ部郷座標確認!あと一分!」緊迫したサニの声に、インナーノーツは、気を引き締め直す。

「アラン、対象者PSIパルス特定は?」

「まだ掴めない!『ヤマタノオロチ』のPSIパルスに埋もれてしまっているのか……いや……これは」解析しながらアランは、そのパターンに違和感を感じていた。

「『ヤマタノオロチ』には、求心部らしきものはなかった……あったのは、『PSIボルテックス』……エネルギーの坩堝……言ってみれば集合無意識そのものの……」

『……この流れは想念の影……意志は既にあった……生ある者として……』アムネリアの一言に、直人はハッとなる。

「まさか……『ヤマタノオロチ』の求心部は、咲磨くんだと言うの!?」カミラもアムネリアの言葉の意味を掴み取る。

『影は光ある世界で結実する……咲磨は……この影を照らすために……』

「そんな!」カミラは愕然となる。『ヤマタノオロチ』を制するはずの求心部、それは咲磨の魂であるということだ。咲磨の魂を撃つわけにはいかない。

「もしそうなら、一体、どうすれば……」カミラは頭を抱えた。

「森ノ部教団一ノ宮を捉えました!隊長!」サニは振り向いて声を張る。

「……咲磨くんの魂の中に、きっと答えがあるはず」

直人は、渦を巻く流れの中に、まだ輝きを失っていない咲磨の魂を感じ取ったような気がしていた。

「直人の言うとおりだ。進もう、カミラ!どのみち引き返すこともできない」

カミラは、アランの言葉に頷いて答えた。

「行き着くところまで、行くしかないか」覚悟を決めて、カミラは渦の先を睨む。

「総員、第一種警戒体制!最大船速で流れを乗り切る!進路そのまま!」

<アマテラス>の後部ノズルが、力強く青白い閃光を放つ。


「けっけっけ……来たぜ、来たぜぇ~~」護摩の炎を凝視する飛煽の瞳が、朱に染まり煌めいている。

「まさに、飛んで火に入る夏の虫……」焔凱は、印を組んだまま、口角を釣り上げる。

「いちいちうっせえんだよ、語録ジジィ」熾恩は、口元をニヤつかせ、突っ込みを入れながら、結界への念に集中する。

「どのみち異界船は、神子の魂と相交ることとなる……夢見共の読みどおりとは恐れ入る。我らが呼び寄せるまでもなかったな」煌玲は、冷静に状況を捉えながら、中空に漂う咲磨を見上げた。

「結界に集中せよ!異界船が辿り着くまで、童の神子をここで抑える!気を荒げるな、異界船に勘づかれるぞ」

火雀衆は、再び皆瞑目し、結界に力を注ぎ込む。中空の咲磨は、周りの状況が何も見えていないのか、身動きひとつない。その身を支える蛇体もゆっくりと畝るばかりだった。


アランのモニターに、微弱なPSIパルスが検出されていた。

「見つけた!対象者の身体PSIパルスだ!これを頼りに突入できる!」

咲磨の魂のPSIパルスは、『ヤマタノオロチ』とほぼ一体化し、<アマテラス>の進むべき目標座標の特定ができずにいたが、藤川の機転で身体PSIパルスパターンを検出アルゴリズムに流し込んだところ、一致が見られた。咲磨の肉体もまだ無事な証拠だ。この座標を辿っていけば、咲磨の魂へもアクセスできるはず。

「よし!突入ポイントは対象者の肉体と魂の次元接点領域!航路座標セット!」

「特定した!航路座標セット!いいぞ、ティム!」「ヨーソロー!」

護摩の火が燃え上がり、その煙が咲磨を包み込む。咲磨は、その熱に炙られながらも、身じろぎ一つない。

「来る!来る!来る!!」飛煽の瞳は、炎の中の別次元に、はっきりと<アマテラス>の姿を捉えていた。

『気をつけて……何かが……我らを見つめている……』

アムネリアは、自身へと指向する奇怪な違和感に気づいていた。

「構わない!このまま飛び込む!」

<アマテラス>は揺らめく焔をゲートにして、一直線にその先の微かな光へと突き進む。

護摩の炎が吹き上がる。

「おお!」「入りやがったか!?」

「ケッケッケッケ……」

<アマテラス>の侵入に、咲磨の身体が仰け反り、それに反応して蛇体が再び蠢き出す。

「よし!これで準備は整った!出るぞ!」「おっしゃあ!」煌玲の号令に、火雀衆は素早く立ち上がると、潜入服の特殊PSIフィールドを展開し始めた。

祈祷場の狭い坑道状の横穴を埋め尽くす、蛇体の脇をすり抜け、時折、PSIフィールドで押し除けながら、祈祷場の外へと向かう。


「目標座標到達!直ちに、心象空間情報とリンク。波動収束フィールド展開急げ!」

グレイアウトしたモニターは、所々、波打っており、何かの反応は感じられる。

「『ヤマタノオロチ』と一体になっているとはいえ、何処かに咲磨くんの『セルフ』がまだいるはずだ!まずは、『セルフ』を探し出し、同調を確立せよ!」インナーノーツは、藤川の指示を了解すると早速、探索を開始する。

波動収束フィールドは、咲磨の心象風景なのか、それとも『ヤマタノオロチ』に集った想念の残滓か、判別がつかないが、次第に何らかの像を描き始めている。

どこまでも、霞の中にあるような灰色の世界が広がっている。アムネリアの認識能力を加味しても、世界は混沌の中だった。


「……さくま……さくま……いっちゃ……だめ……」

「亜夢ちゃん!?」

IMCでは、亜夢の収容されたミッションカプセルの内部マイクが、瞑想状態にある亜夢の肉声を拾っている事に真世は気づく。ボリュームを上げ、その音声データを<アマテラス>とも共有する。

「亜夢の意識が……目覚めかけているのか?」東は、映し出された亜夢の映像を注視する。うなされているように、身体を捩らせ咲磨の名を何度も口にしている。

『亜夢……だめ……来ては……』

「アムネリア!?」カミラは、目の前のホログラムの像が、乱れ始めているのに気付いて、声を上げた。直人は、思わず振り向く。

「……これは……『サラマンダー』……いや、微弱だが、亜夢のPSIパルスパターンが混入し始めた!IMC!?」PSI-Link同調解析を行いながら、アランはモニターの向こうの東に問いかける。

「ああ、今、こちらも確認している。そちらは、とにかく咲磨の…………」

再び通信が激しく乱れ、次に衝撃がブリッジを襲う。

「何!?」「時空間震動確認!現象界です!」サニは声を張り上げて報告する。


祈祷場を揺るがす破裂音が鳴り響き、横穴を支える坑内支保が、次々と砕かれていく。支えを失い、さらに天井にも仕掛けられたプラスチック爆薬が炸裂すると、次々と通路の天井が崩れ落ちる。

「おうおう、こりゃまた派手だねぇ」

熾恩は、映画のワンシーンでも観ているかのように、楽し気な表情を浮かべたまま目を見張る。落盤で、横穴はほぼ完全に塞がれた。

横穴を塞いだのは、祈祷場の外へと退避を終えた火雀衆だ。『神子』らを封じる結界の一部とするつもりである。

岩石、特に巨石は古来から結界として用いられてきた。その質量が作り出す重力場(力場)が、インナースペースとも作用し合うためである。質量がそれ程でもなければ、次元の異なる<アマテラス>や、霊的な存在は、影響を受ける事はほぼ無い。従って、『霊魂』はものをすり抜ける、などとよく言われている。だが、ある程度、重力場を形成するほどの質量となれば、その空間はインナースペースにおいても力場を作り、障壁として作用するのである。

一方、境内の方から咲磨に引かれて伸び、横穴に侵入していた実体化した蛇体雲は、この落盤で押し潰さていた。埋まった横穴から外側に取り残されていた部位は、形を保てず、どろどろと溶け始める。それで全てが消え失せるわけではないが、雲や澱んだ水となって残り、所々で中途半端に実体化しては、蛇のような頭を擡げる。

「増幅器を」「うむ」煌玲が指示すると、焔凱は崩れた岩肌に最後に残ったPSI感応増幅器を設置した。

「あとは、この送信器から法力を送り込めば、完成か」「風辰のじっちゃん、いつの間にこんなん開発してんだよなぁ」

風辰翁は、御所には馴染みの薄い、最新テクノロジーの導入にも力を入れている。伝統的な術以上に、機械を信頼しているきらいもある。

火雀衆は、風辰翁にとって打って付けのテスターでもあった。四人は苦笑を浮かべてその事をお互い確認し合う。

仕事は上々。煌玲は、満足気な笑みを湛え、塞いだ祈祷場の上、過去の地震でできた、切り立った崖の頂を見上げる。昨夜、彼らが降下した場所だ。

「やはり……あの上が良かろう」祈祷場と境内を見渡せるそこを仕上げの場と定めた。

祈祷場へ至る階段通路にも、囲い込むように電磁結界が張り巡らされているため、境内を迂回していくしかない。

「蛇体も弱っている。今のうちに境内を抜けるぞ」

火雀衆は、すぐに移動を開始した。潜入服のPSIフィールドによる空間制御によって、火雀衆らは、まだ蠢きを見せる蛇体雲を容赦なく踏み潰しながら、本殿から下る、不揃いな階段を、弾む鞠のようになって登っていった。
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