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第4章 燔祭
試練 4
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「IMS救助班よりIMC!森ノ部神社境内にて、要救助者確認!拘束されているが、命に別状なし!だが、既に儀式が進行している模様。これより行動を開始する!『女神』のサポートに期待する」
IMSは、災害救助を想定して、レスキューやブロック圏統合軍出身者から転籍したメンバーらが構成員に何人かいるが、ここに集められた五人はその中でも、格闘技能に長けた者達だ。素人相手の短時間の拠点制圧なら十分であろう。PSI防護服(PSI現象化は大気や水、電磁波を媒介としやすいため、こうした物質を遮断するチタンなどの軽金属や、ケブラーのような新繊維を主素材としており、動きの制約は出るものの"鎧"としての効果も十分期待できた)と、オーラキャンセラー(『ヤマタノオロチ』のPSIパルス遮断の他、強出力で一時的に相手の身体の自由を奪うことも可能)で"武装"したIMSメンバーらと警官四人は、切り込み隊長の如月を先頭に降下のタイミングを待つ。
ヘリは、人が密集する境内への降下ポイントを求めて、上空を旋回している。
中央が空いているが、轟々と燃え盛る『儀式の火』の煙が立ちはだかる。何かに反応しているのか、煙は妨害するかのように黒々とした雲のようになって、ヘリの視界を遮っていた。
「おい、もっと下げろ!」「視界が確保出来なくて!これ以上は!」
旋回した先も、今度は外周の森の方からの煙が昇ってきた。
「森の方も燃えてる!?」「山火事!?とにかく急げ!あの火の周りだと、数分で火の海だ!!レスキューにも通報を!」
幸乃は、ヘリの窓にへばりつき、煙の合間から見え隠れする儀式の場に目を凝らす。
「咲磨!!慎吾さん!!」
貴美子も覗き込むと、咲磨の柱に取り付いて、縄を解こうと懸命になっている慎吾の姿が見えた。
<アマテラス>は、何度も突撃を繰り返してくる赤備えの軍団に翻弄され、足留めを余儀なくされていた。ブラスターの砲火も、彼らの陣容を崩すことができず、彼らの攻撃を許してしまう。類い稀な力場に統率された軍団は、デコイの撹乱も無効だった。
アムネリアの力で、シールド効率が上がっているとはいえ、シールド用のPSI精製水残量は、半分を切る。
「ちくしょう!武田だかなんだか知らんけど、なんでオレ達を襲ってくんだよ!」赤備えらの攻撃を受け流しながら、何とか航路を維持し続けるティムは、声を荒げずにはいられない。
直人の脳裏に、武田信玄と諏訪の繋がりが、ふと呼び起こされる。
「そうか、諏訪大明神……」「なんだ、それ?」怪訝そうにティムは聞き返した。
「諏訪大明神……建御名方ともいわれる諏訪の戦神だよ。戦国武将、武田信玄が信仰していた。おそらく『ヤマタノオロチ』のもう一つの顔なんだ」
直人は、漆黒の闇に映える、赤の一団をじっと見据える。
「そして、あの赤備えは戦国最強と言われた『武田騎馬軍団』……彼らの国を、今も守っているんだ。信仰する『神』の名の下に」直人が妙に詳しい解説を述べる。
「って、オマ……ちょっと嬉しそうじゃね?」「……」
「ティム、センパイ!何おしゃべりしてんの!!右舷、また来るよ!!」サニが苛立ちを報告に乗せた。
「インナーノーツ!何をもたついている!早く振り切って守屋山を目指せ!」東は、焦りを露わに命じる。
「わかっています!ですが!」カミラは歯を食いしばって、モニターの敵軍を睨め付けていた。
武田軍の用兵は見事だった。追い込む部隊、脇から支援する伏兵の軍。そして前面からの騎馬勢主力———武田騎馬軍団は、実在を疑われており、実像としては騎乗するのは戦場への移動くらいであったのではないかと言われている。だが、此処に現れる軍勢は、長い時間の中で、数多の後世の人々によって醸成された、勇壮果敢に軍馬に跨り、戦場を駆け抜ける騎馬武者勢の姿そのものだ。インナースペースの中で、練り上げられたイメージをも、彼らは吸収しているようだ。
「長年の人の創り上げた想いか……まさに『戦国最強』……」藤川は、モニターを睨んで呟いた。
手をこまねくIMCにも焦りの色が濃厚になる。境内では、ヘリからの降下を妨害する煙と、信徒らの異様な雰囲気に、IMSから<アマテラス>への支援要請が、何度も打診されて来ていた。
藤川は、モニターに示された諏訪湖余剰次元マップに目をやる。<アマテラス>は、諏訪湖南東域で、守屋山とは逆方向へと流されていた。ふと、その軌跡に沿うように『×』が幾つか並んでいるのが目に付く。
「東くん、これは?」
「次元歪曲による空間圧力の密集している箇所です。諏訪湖のインナースペース領域にはいくつかこのような場所が確認されており、<アマテラス>の航行に支障がないようマップ上にプロットしておきました。ですが、現時間軸では影響ないかと」
藤川は何かに気づいて、目を見開く。
「アイリーン、現象界の諏訪湖のマップを重ねてみてくれ」「了解!」
すぐに<イワクラ>のアイリーンは、インナースペースに対応する現象界の諏訪湖のマップを重ねて表示した。するとそのプロットの痕跡がちょうど諏訪湖湖面の上に幾筋かの軌跡を描いているように重なる。
「所長……これはもしや……」
「うむ、東くん……これは使えるぞ」
<アマテラス>前方から武田の主力部隊と見られる編隊が迫る。後方からも追撃してくる部隊がある。挟撃して一気に勝負をかける気だ。
「コース修正しながら離脱する!ティム!」「了解!」
「待て!進路そのままだ、カミラ!」東の司令に、ティムの右舵を切ろうとした手が止まり、同時にアランのコンソールに時空間パラメーターが転送されてくる。
「説明している暇はない!前方の部隊をギリギリまで引き寄せ、右へ転進!急速離脱と同時にそのコードを起動!やれるか、カミラ?」東は捲し立てた。
「やってみます!ティム、アラン!」「了解!!」
<アマテラス>前方の部隊後方で、蛇頭が巨大な人影を形作る。頰当てで顔は覗けないが、『諏訪法性兜』を纏うその影は、武田信玄の思念が宿っているのであろう。影が軍配を振り降ろすや、正面の主力は、風の如き速く、烈火の塊となって攻めかかってくる。
「前方、PSIクラスター群、距離一二〇〇!!」サニが焦り混じりの声を上げる。
「船速、そのまま!!まだよ!」
直人は、PSI-Linkモジュールに手をかけたまま、万一の事態に備え、アムネリアは、目を閉じ、シールドへの集中を続ける。
「距離七〇〇……五〇〇……三〇〇……」
カミラが睨め付けるモニターの中で、前後の部隊と<アマテラス>が全て、綺麗に一列に並んだ。
「今よ!!面舵六〇!離脱!!コード起動!!」
急速に進路を変える<アマテラス>。それに、見事に追従する後続の部隊、それを前方の部隊は巧みにかわし衝突を避ける。だが、その時、既に彼らの足元には異変が起きていた。
時空間が急速に捻じ曲げられ、何枚もの氷板が聳り立つ。ちょうど彼らが並んだ一直線に空間に亀裂が走り、出現した氷板に弾かれるもの、亀裂に飲み込まれるもの、氷板の間に挟まれる者……たちどころに赤備えらは、総崩れとなり、PSI情報素子へと還元されていく。
「な、なんだぁ??」モニターの光景を眺めながらティムは呆気に取られていた。
「『御神渡り』だよ」
藤川は、想像以上に効果を発揮した『御神渡り』の波動収束に、驚きを禁じえなかった。インナースペースに空間圧力となって蓄積されていた『御神渡り』の情報を、数回分の時間パラメーターを重ね合わせ、波動収束フィールド内に一気に収束させたのであった。
「これが……」東も驚きに、しばし目を奪われる。温暖化で実際に『御神渡り』が発生する機会も僅かである。インナースペース内に再現されたものとはいえ、皆、目の当たりにするのは初めてであった。
「まさに、"御神威"ね……」カミラも目を丸めて呟いていた。
武田軍は総崩れとなり、信玄は、その信心深さから、まるで神の力に畏怖したのか、撤退を始めた。空間に溶け込むように赤備えの群れは、姿を消してゆく。
「よし、カミラ、急げ!」気を取り直した東の声が、再び皆の気を引き締め直す。
障害が消えた<アマテラス>は、守屋山にへばりつく『ヤマタノオロチ』へと舵を切った。
IMSは、災害救助を想定して、レスキューやブロック圏統合軍出身者から転籍したメンバーらが構成員に何人かいるが、ここに集められた五人はその中でも、格闘技能に長けた者達だ。素人相手の短時間の拠点制圧なら十分であろう。PSI防護服(PSI現象化は大気や水、電磁波を媒介としやすいため、こうした物質を遮断するチタンなどの軽金属や、ケブラーのような新繊維を主素材としており、動きの制約は出るものの"鎧"としての効果も十分期待できた)と、オーラキャンセラー(『ヤマタノオロチ』のPSIパルス遮断の他、強出力で一時的に相手の身体の自由を奪うことも可能)で"武装"したIMSメンバーらと警官四人は、切り込み隊長の如月を先頭に降下のタイミングを待つ。
ヘリは、人が密集する境内への降下ポイントを求めて、上空を旋回している。
中央が空いているが、轟々と燃え盛る『儀式の火』の煙が立ちはだかる。何かに反応しているのか、煙は妨害するかのように黒々とした雲のようになって、ヘリの視界を遮っていた。
「おい、もっと下げろ!」「視界が確保出来なくて!これ以上は!」
旋回した先も、今度は外周の森の方からの煙が昇ってきた。
「森の方も燃えてる!?」「山火事!?とにかく急げ!あの火の周りだと、数分で火の海だ!!レスキューにも通報を!」
幸乃は、ヘリの窓にへばりつき、煙の合間から見え隠れする儀式の場に目を凝らす。
「咲磨!!慎吾さん!!」
貴美子も覗き込むと、咲磨の柱に取り付いて、縄を解こうと懸命になっている慎吾の姿が見えた。
<アマテラス>は、何度も突撃を繰り返してくる赤備えの軍団に翻弄され、足留めを余儀なくされていた。ブラスターの砲火も、彼らの陣容を崩すことができず、彼らの攻撃を許してしまう。類い稀な力場に統率された軍団は、デコイの撹乱も無効だった。
アムネリアの力で、シールド効率が上がっているとはいえ、シールド用のPSI精製水残量は、半分を切る。
「ちくしょう!武田だかなんだか知らんけど、なんでオレ達を襲ってくんだよ!」赤備えらの攻撃を受け流しながら、何とか航路を維持し続けるティムは、声を荒げずにはいられない。
直人の脳裏に、武田信玄と諏訪の繋がりが、ふと呼び起こされる。
「そうか、諏訪大明神……」「なんだ、それ?」怪訝そうにティムは聞き返した。
「諏訪大明神……建御名方ともいわれる諏訪の戦神だよ。戦国武将、武田信玄が信仰していた。おそらく『ヤマタノオロチ』のもう一つの顔なんだ」
直人は、漆黒の闇に映える、赤の一団をじっと見据える。
「そして、あの赤備えは戦国最強と言われた『武田騎馬軍団』……彼らの国を、今も守っているんだ。信仰する『神』の名の下に」直人が妙に詳しい解説を述べる。
「って、オマ……ちょっと嬉しそうじゃね?」「……」
「ティム、センパイ!何おしゃべりしてんの!!右舷、また来るよ!!」サニが苛立ちを報告に乗せた。
「インナーノーツ!何をもたついている!早く振り切って守屋山を目指せ!」東は、焦りを露わに命じる。
「わかっています!ですが!」カミラは歯を食いしばって、モニターの敵軍を睨め付けていた。
武田軍の用兵は見事だった。追い込む部隊、脇から支援する伏兵の軍。そして前面からの騎馬勢主力———武田騎馬軍団は、実在を疑われており、実像としては騎乗するのは戦場への移動くらいであったのではないかと言われている。だが、此処に現れる軍勢は、長い時間の中で、数多の後世の人々によって醸成された、勇壮果敢に軍馬に跨り、戦場を駆け抜ける騎馬武者勢の姿そのものだ。インナースペースの中で、練り上げられたイメージをも、彼らは吸収しているようだ。
「長年の人の創り上げた想いか……まさに『戦国最強』……」藤川は、モニターを睨んで呟いた。
手をこまねくIMCにも焦りの色が濃厚になる。境内では、ヘリからの降下を妨害する煙と、信徒らの異様な雰囲気に、IMSから<アマテラス>への支援要請が、何度も打診されて来ていた。
藤川は、モニターに示された諏訪湖余剰次元マップに目をやる。<アマテラス>は、諏訪湖南東域で、守屋山とは逆方向へと流されていた。ふと、その軌跡に沿うように『×』が幾つか並んでいるのが目に付く。
「東くん、これは?」
「次元歪曲による空間圧力の密集している箇所です。諏訪湖のインナースペース領域にはいくつかこのような場所が確認されており、<アマテラス>の航行に支障がないようマップ上にプロットしておきました。ですが、現時間軸では影響ないかと」
藤川は何かに気づいて、目を見開く。
「アイリーン、現象界の諏訪湖のマップを重ねてみてくれ」「了解!」
すぐに<イワクラ>のアイリーンは、インナースペースに対応する現象界の諏訪湖のマップを重ねて表示した。するとそのプロットの痕跡がちょうど諏訪湖湖面の上に幾筋かの軌跡を描いているように重なる。
「所長……これはもしや……」
「うむ、東くん……これは使えるぞ」
<アマテラス>前方から武田の主力部隊と見られる編隊が迫る。後方からも追撃してくる部隊がある。挟撃して一気に勝負をかける気だ。
「コース修正しながら離脱する!ティム!」「了解!」
「待て!進路そのままだ、カミラ!」東の司令に、ティムの右舵を切ろうとした手が止まり、同時にアランのコンソールに時空間パラメーターが転送されてくる。
「説明している暇はない!前方の部隊をギリギリまで引き寄せ、右へ転進!急速離脱と同時にそのコードを起動!やれるか、カミラ?」東は捲し立てた。
「やってみます!ティム、アラン!」「了解!!」
<アマテラス>前方の部隊後方で、蛇頭が巨大な人影を形作る。頰当てで顔は覗けないが、『諏訪法性兜』を纏うその影は、武田信玄の思念が宿っているのであろう。影が軍配を振り降ろすや、正面の主力は、風の如き速く、烈火の塊となって攻めかかってくる。
「前方、PSIクラスター群、距離一二〇〇!!」サニが焦り混じりの声を上げる。
「船速、そのまま!!まだよ!」
直人は、PSI-Linkモジュールに手をかけたまま、万一の事態に備え、アムネリアは、目を閉じ、シールドへの集中を続ける。
「距離七〇〇……五〇〇……三〇〇……」
カミラが睨め付けるモニターの中で、前後の部隊と<アマテラス>が全て、綺麗に一列に並んだ。
「今よ!!面舵六〇!離脱!!コード起動!!」
急速に進路を変える<アマテラス>。それに、見事に追従する後続の部隊、それを前方の部隊は巧みにかわし衝突を避ける。だが、その時、既に彼らの足元には異変が起きていた。
時空間が急速に捻じ曲げられ、何枚もの氷板が聳り立つ。ちょうど彼らが並んだ一直線に空間に亀裂が走り、出現した氷板に弾かれるもの、亀裂に飲み込まれるもの、氷板の間に挟まれる者……たちどころに赤備えらは、総崩れとなり、PSI情報素子へと還元されていく。
「な、なんだぁ??」モニターの光景を眺めながらティムは呆気に取られていた。
「『御神渡り』だよ」
藤川は、想像以上に効果を発揮した『御神渡り』の波動収束に、驚きを禁じえなかった。インナースペースに空間圧力となって蓄積されていた『御神渡り』の情報を、数回分の時間パラメーターを重ね合わせ、波動収束フィールド内に一気に収束させたのであった。
「これが……」東も驚きに、しばし目を奪われる。温暖化で実際に『御神渡り』が発生する機会も僅かである。インナースペース内に再現されたものとはいえ、皆、目の当たりにするのは初めてであった。
「まさに、"御神威"ね……」カミラも目を丸めて呟いていた。
武田軍は総崩れとなり、信玄は、その信心深さから、まるで神の力に畏怖したのか、撤退を始めた。空間に溶け込むように赤備えの群れは、姿を消してゆく。
「よし、カミラ、急げ!」気を取り直した東の声が、再び皆の気を引き締め直す。
障害が消えた<アマテラス>は、守屋山にへばりつく『ヤマタノオロチ』へと舵を切った。
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