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第2章 魔界幻想
想いは永遠に 2
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ガラガラと巨大な音を立てながら、"神殿"の壁面を覆う化粧石は崩れ落ち、中央の円形祭壇を取り囲むように湧き出たマグマは、その崩れ落ちた化粧石を次々と飲み込んでいく。
マグマは時折、炎を舞いあげると、自然の法則に逆らうかのように壁を伝い、"神殿"上方より滔々と注がれる何本もの水柱に次々と喰らいつく。その度に、水柱が作る水鏡に映り込む人影は、水と炎のせめぎ合いの中で、苦悶に身をよじらせていた。
……水泡より生まれし、我が身……
……生まれ出でし時より、泡へと帰す宿命……
『あの声』は、苦悶に打ち震えながらも、一層、明瞭に、直人の脳裏に響いていた。
「……や……やめろ……」
……いや……死ぬのは……いや……
更にもう一つの声が、『あの声』に重なり不協和音を奏でる。
……生きたい……
……定めこそ我が本懐……
異なる二つの意志が、直人の右脳と左脳に居座り、互いに、各々の意志を衝突させていた。
「やめてくれ‼︎」直人は思わず両の手で、頭を抱えると、激しく揺すり始めた。
「ナオ!」驚いたティムが、その行為を止めようと、直人の腕に掴みかかるが、一向に直人の動きは止まらない。
……鎮まれ……我が心に……宿いし、叛逆の炎よ……
"神殿"領域を包み込んで、燃え盛る炎に侵食されていた水柱は、次々と水龍の如く脈動し始め、自らを侵食する炎を飲み込み返す。
……生きたいの……
水龍と炎は、一進一退を繰り広げていたが、水龍に呑み込まれたかに見えた炎は、より巨大な火柱となって、水龍の腹を食い破り、祭壇を覆い隠すように襲いくる。
……我と共に……永遠の眠りへ……
直人の身体の中で、祈りの声が木霊すると、水龍は祭壇を覆う、水の天蓋へと姿を変え、燃え上がった炎の、祭壇への侵入をなんとか食い止めた。
水と炎の攻防は、この心象世界を描く意志とリンクしている<セオリツ>に、ダイレクトにダメージとして蓄積していく。記録の音声が、衝撃音、破裂音を発する度、機能を失っていく船体各部のダメージを、警告アラームと共に淡々と報告している。
<アマテラス>は、船体に再現される<セオリツ>のダメージを、PSIバリアとシールドにより何とか防いでいるが、身動きが取れないままジリジリとシールドの耐久時間を消耗していた。
「うっ! まだ動けないの⁉︎」カミラは、ブリッジに伝わる衝撃で乱れた、ブロンドの前髪を無造作にかき上げながら問う。
「<セオリツ>のダメージで、徐々にリンクは弱まっている……だが、まだ……」アランの言葉を遮るように、波動収束反応を示す警報が鳴り響く。
サニが、レーダーに映るその反応を、即座に報告する。「前方! 波動収束反応! 一点に高熱反応が集中しています!」
インナーノーツの視線が、ブリッジ中央のモニターに集中した。
かろうじて、炎の侵入を食い止めていた水の天蓋の中央で、炎の熱反応が、球状に収束していく。
……貴方と……生きたい……
……貴方と……
『……ゴフッ……なっ……直人‼︎ どこだ、直人ぉ‼︎ ……』
<セオリツ>の、けたたましいアラーム音に混じって、直哉の悲痛な叫びが<アマテラス>のブリッジに伝わる。それに呼応するかのように、"熱球"は、渦を描きながら次第に、何者かの姿を形作っていた。
その姿にインナーノーツの皆が、そして、その映像をモニタリングしているIMCのスタッフ一同は息を呑む。
"熱球"の中央部は、小高く盛り上がって鼻柱を形作り、その下にぽっかりと、小さく穴を穿ち、口を形成した。
……貴方……と……
二つの眼窩が開くと、その中で、小さな焔が渦を巻く。
次第に少女のようでもあり、少年のようでもある人相がハッキリと見えてくる。
「まさか!」その人相が誰を表すのか、はっきりと認識した藤川が、声を上げる。
インナーノーツと、IMCのスタッフ達にも、次第にその顔の主がわかり始めていた。
『……直人⁉︎ ……直人なのか⁉︎ ……』
二十年前の幼い直人の顔が、熱球の中央に浮かび上がっていた。直哉の呼び掛けに、その"熱球"は、形作られた両目をゆっくりと開いてゆく。
"熱球"は、更に燃え上がり、幼き日の直人の全身を形作っていく。それに伴い、再びあの"貯水区画"の風景が浮かび上がってくる。
"熱球"が姿を変えた直人は、静かに佇み、こちらを見上げていた。
崩壊の進む神殿の壁面は、その中に折り重なるように溶け込み、二つの風景がホログラムのように重なり合って、<アマテラス>のモニター一面に広がる。
……嗚呼……どうして……
「……君を……失った世界など……」
脈動が、直人の身体の内を駆け巡る。自分の意志なのか、何者かの想いなのか、口をついて言葉が溢れ出す。それに連動するように、幼い直人の像が、こちらにゆっくりと手を差し伸べてきた。
……いけない……
……生きたい……
「……そんな願いも……願っては……いけないと……」
……我は、貴方の為に……
「……俺は……君と……」
……貴方と……
「……ァ……ム……ネィ……リァ……」
……‼︎ ……
頭の中で、何かが音もなく弾け飛び、直人は両の目を見開いた。
その瞬間、幼い直人の像は、兜割が如く、真っ二つに斬り裂かれていく。否、斬り裂かれているのは、この心象世界そのものだ。
その切断エネルギーは、やがて空間全域へと波及し、幼い直人を中心に、巨大な衝撃と共にJPSIO貯水区画の床一面に亀裂を走らせ、PSI精製水の貯水タンクを次々と破壊していく。
「時空間震動の共振増幅⁉︎ 計測限界オーバーフロー!」
上下に掻き回される<アマテラス>のブリッジの中で、インナーノーツらは、各々の自席にしがみつき、衝撃に耐えていた。
直人は頭上から全身にかけて、内側から引き裂かれる痛みに、両腕で自身の身体を抱え、自席にうずくまる。
「センパイ!」「ナオ!」苦しみ悶える直人を目にしながらも、インナーノーツの仲間達は、ブリッジの衝撃に耐える他ない。
「アラン! シールド最大‼︎ 使い切っても構わない! とにかく凌いで!」
<アマテラス>の船体表面が、一層の煌めきを放ち、<アマテラス>の船体を繭のように包み込む。空間構成要素全てを巻き込む震動を、<アマテラス>のシールドが緩衝材となって受け止めダメージを軽減しているが、衝撃はなおもブリッジまで浸透する。
モニターに広がる心象世界は、亀裂の拡大と共に、貯水区画建屋の外へと突き抜ける。
空間衝撃波となって現象化したエネルギーは、この地域に横たわる断層群を刺激、フォッサマグナを形成する構造線へと伝播していく。
JPSIOの建屋が、周縁の施設群が、人々の往き交う街が、家族の集まる昼食時の家々が崩れ落ち、更に断層を伝って山々へと分入り、各地で地崩れ、河川の氾濫を引き起こす。
突然の災害に、なす術もない犠牲者達の断末魔が、彼方此方で不協和音を奏で、心象世界は阿鼻叫喚に包まれた。
『……ぅぐっ……ぅ……ま……まさか……直……人……お前が、あの……地震の震源に? ……ぅわあぁぁぁ‼︎』
衝撃に翻弄される<セオリツ>から流れ込む、直哉の驚愕に打ち震えたその一言が、インナーノーツと彼らを見守る、全スタッフの時を止めた。
「風間……くん……」呆然とモニターを見つめる真世の口から不意に言葉が漏れる。その声に、その場に居合わせたスタッフらも、真世自身も気付くことはなかった。ただ一人、真世に取り憑いた白拍子だけが、彼女の心の中で薄っすらと笑みを浮かべる。
直人の深層心理深くに横たわる堰が、その瞬間、音もなく決壊し、心の底に封じ込めていた、この瞬間の、記憶の濁流が解放されてゆく。
直人は目を見開き、頭を抱えたまま悶える。
「……俺が……俺が……あの地震の……そんな……」
マグマは時折、炎を舞いあげると、自然の法則に逆らうかのように壁を伝い、"神殿"上方より滔々と注がれる何本もの水柱に次々と喰らいつく。その度に、水柱が作る水鏡に映り込む人影は、水と炎のせめぎ合いの中で、苦悶に身をよじらせていた。
……水泡より生まれし、我が身……
……生まれ出でし時より、泡へと帰す宿命……
『あの声』は、苦悶に打ち震えながらも、一層、明瞭に、直人の脳裏に響いていた。
「……や……やめろ……」
……いや……死ぬのは……いや……
更にもう一つの声が、『あの声』に重なり不協和音を奏でる。
……生きたい……
……定めこそ我が本懐……
異なる二つの意志が、直人の右脳と左脳に居座り、互いに、各々の意志を衝突させていた。
「やめてくれ‼︎」直人は思わず両の手で、頭を抱えると、激しく揺すり始めた。
「ナオ!」驚いたティムが、その行為を止めようと、直人の腕に掴みかかるが、一向に直人の動きは止まらない。
……鎮まれ……我が心に……宿いし、叛逆の炎よ……
"神殿"領域を包み込んで、燃え盛る炎に侵食されていた水柱は、次々と水龍の如く脈動し始め、自らを侵食する炎を飲み込み返す。
……生きたいの……
水龍と炎は、一進一退を繰り広げていたが、水龍に呑み込まれたかに見えた炎は、より巨大な火柱となって、水龍の腹を食い破り、祭壇を覆い隠すように襲いくる。
……我と共に……永遠の眠りへ……
直人の身体の中で、祈りの声が木霊すると、水龍は祭壇を覆う、水の天蓋へと姿を変え、燃え上がった炎の、祭壇への侵入をなんとか食い止めた。
水と炎の攻防は、この心象世界を描く意志とリンクしている<セオリツ>に、ダイレクトにダメージとして蓄積していく。記録の音声が、衝撃音、破裂音を発する度、機能を失っていく船体各部のダメージを、警告アラームと共に淡々と報告している。
<アマテラス>は、船体に再現される<セオリツ>のダメージを、PSIバリアとシールドにより何とか防いでいるが、身動きが取れないままジリジリとシールドの耐久時間を消耗していた。
「うっ! まだ動けないの⁉︎」カミラは、ブリッジに伝わる衝撃で乱れた、ブロンドの前髪を無造作にかき上げながら問う。
「<セオリツ>のダメージで、徐々にリンクは弱まっている……だが、まだ……」アランの言葉を遮るように、波動収束反応を示す警報が鳴り響く。
サニが、レーダーに映るその反応を、即座に報告する。「前方! 波動収束反応! 一点に高熱反応が集中しています!」
インナーノーツの視線が、ブリッジ中央のモニターに集中した。
かろうじて、炎の侵入を食い止めていた水の天蓋の中央で、炎の熱反応が、球状に収束していく。
……貴方と……生きたい……
……貴方と……
『……ゴフッ……なっ……直人‼︎ どこだ、直人ぉ‼︎ ……』
<セオリツ>の、けたたましいアラーム音に混じって、直哉の悲痛な叫びが<アマテラス>のブリッジに伝わる。それに呼応するかのように、"熱球"は、渦を描きながら次第に、何者かの姿を形作っていた。
その姿にインナーノーツの皆が、そして、その映像をモニタリングしているIMCのスタッフ一同は息を呑む。
"熱球"の中央部は、小高く盛り上がって鼻柱を形作り、その下にぽっかりと、小さく穴を穿ち、口を形成した。
……貴方……と……
二つの眼窩が開くと、その中で、小さな焔が渦を巻く。
次第に少女のようでもあり、少年のようでもある人相がハッキリと見えてくる。
「まさか!」その人相が誰を表すのか、はっきりと認識した藤川が、声を上げる。
インナーノーツと、IMCのスタッフ達にも、次第にその顔の主がわかり始めていた。
『……直人⁉︎ ……直人なのか⁉︎ ……』
二十年前の幼い直人の顔が、熱球の中央に浮かび上がっていた。直哉の呼び掛けに、その"熱球"は、形作られた両目をゆっくりと開いてゆく。
"熱球"は、更に燃え上がり、幼き日の直人の全身を形作っていく。それに伴い、再びあの"貯水区画"の風景が浮かび上がってくる。
"熱球"が姿を変えた直人は、静かに佇み、こちらを見上げていた。
崩壊の進む神殿の壁面は、その中に折り重なるように溶け込み、二つの風景がホログラムのように重なり合って、<アマテラス>のモニター一面に広がる。
……嗚呼……どうして……
「……君を……失った世界など……」
脈動が、直人の身体の内を駆け巡る。自分の意志なのか、何者かの想いなのか、口をついて言葉が溢れ出す。それに連動するように、幼い直人の像が、こちらにゆっくりと手を差し伸べてきた。
……いけない……
……生きたい……
「……そんな願いも……願っては……いけないと……」
……我は、貴方の為に……
「……俺は……君と……」
……貴方と……
「……ァ……ム……ネィ……リァ……」
……‼︎ ……
頭の中で、何かが音もなく弾け飛び、直人は両の目を見開いた。
その瞬間、幼い直人の像は、兜割が如く、真っ二つに斬り裂かれていく。否、斬り裂かれているのは、この心象世界そのものだ。
その切断エネルギーは、やがて空間全域へと波及し、幼い直人を中心に、巨大な衝撃と共にJPSIO貯水区画の床一面に亀裂を走らせ、PSI精製水の貯水タンクを次々と破壊していく。
「時空間震動の共振増幅⁉︎ 計測限界オーバーフロー!」
上下に掻き回される<アマテラス>のブリッジの中で、インナーノーツらは、各々の自席にしがみつき、衝撃に耐えていた。
直人は頭上から全身にかけて、内側から引き裂かれる痛みに、両腕で自身の身体を抱え、自席にうずくまる。
「センパイ!」「ナオ!」苦しみ悶える直人を目にしながらも、インナーノーツの仲間達は、ブリッジの衝撃に耐える他ない。
「アラン! シールド最大‼︎ 使い切っても構わない! とにかく凌いで!」
<アマテラス>の船体表面が、一層の煌めきを放ち、<アマテラス>の船体を繭のように包み込む。空間構成要素全てを巻き込む震動を、<アマテラス>のシールドが緩衝材となって受け止めダメージを軽減しているが、衝撃はなおもブリッジまで浸透する。
モニターに広がる心象世界は、亀裂の拡大と共に、貯水区画建屋の外へと突き抜ける。
空間衝撃波となって現象化したエネルギーは、この地域に横たわる断層群を刺激、フォッサマグナを形成する構造線へと伝播していく。
JPSIOの建屋が、周縁の施設群が、人々の往き交う街が、家族の集まる昼食時の家々が崩れ落ち、更に断層を伝って山々へと分入り、各地で地崩れ、河川の氾濫を引き起こす。
突然の災害に、なす術もない犠牲者達の断末魔が、彼方此方で不協和音を奏で、心象世界は阿鼻叫喚に包まれた。
『……ぅぐっ……ぅ……ま……まさか……直……人……お前が、あの……地震の震源に? ……ぅわあぁぁぁ‼︎』
衝撃に翻弄される<セオリツ>から流れ込む、直哉の驚愕に打ち震えたその一言が、インナーノーツと彼らを見守る、全スタッフの時を止めた。
「風間……くん……」呆然とモニターを見つめる真世の口から不意に言葉が漏れる。その声に、その場に居合わせたスタッフらも、真世自身も気付くことはなかった。ただ一人、真世に取り憑いた白拍子だけが、彼女の心の中で薄っすらと笑みを浮かべる。
直人の深層心理深くに横たわる堰が、その瞬間、音もなく決壊し、心の底に封じ込めていた、この瞬間の、記憶の濁流が解放されてゆく。
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