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第2章 魔界幻想
面影 3
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「第三PSI バリアへの転移座標パラメータ、セット確認! 転移完了まで、あと二〇カウント」
アランは粛々と時空間転移シーケンスの進捗を報告する。モニターに映し出される海底の映像が歪曲を始める。
「転送明けまであと一〇!」
「九……八……」
小刻みな振動を繰り返す、緊張に包まれた<アマテラス>ブリッジには、アランのカウントを告げる声のみが、響く。
青空、雨雲、太陽、星空、道路、列車……
『オモトワ』に組み込まれた様々なグラフィックパターンと、プログラムコードが入り乱れ、モニターに反応している。
直人は、小さな胸騒ぎを覚えていた。
「三……二……一! ……明けるぞ!」
反応していたグラフィックパターンは消失し、モニターは、暗色のモヤを映し出すのみ。
「現座標確認、各部点検急げ」
カミラの指示に従って、各部の点検報告が挙がる。
「現座標、指定座標との相対誤差0.4%……空間探知結果、危険領域なし。波動収束フィールドを展開します!」
サニの操作で、波動収束フィールドが展開されると、四方が闇に包まれた細長い空間が、モニターに拡がった。
ボンヤリと灯る、オレンジががった灯りが、彼らを導くように闇の奥へと続いている。モニターの至るところは、暗転していたり、モヤがかったようになっており、ビジュアル構成は安定していない。サニは、何度か波動収束フィールドのチューニングを試みるが、一向に改善する兆しはないようだ。
「波動収束フィールド収束率、四十二パーセント! ……これが限界です」
「データ化されている、ダミーアバターの無意識領域だ……リアルな精神活動と、同等とはいかないのだろう」アランは、空間解析の結果から、この状況を解釈する。
「いいわ、このまま進む」カミラは、リスクをとって決断を下す。波動収束フィールドの不安定領域は、<アマテラス>と時空間同調を確立できない、障害領域でもある。さしずめ、暗礁の広がる海域を、航行するようなものである。
「ティム、IMCからのマッピングデータとリンクして、光点観測領域へ進路をとる」
「りょーかい。IMC!」
IMC 内に、ティムからの通信音声が響く。
「視界が悪い。目標座標域への航路管制を頼む」「領域した。ナビゲートする」
IMC管制オペレーターの田中は、ティムとやりとりをしながら、コースプランをいくつか提示する。ティムは、サニと連携して、それらのコース案から、波動収束フィールド内の観測結果を考慮に入れて、コース選択、修正を加えながら船を進め始めた。
IMC にも、<アマテラス>の波動収束フィールド内に、かろうじて構成された心象映像が送られてくる。
「……やはり……この場所か……」「うむ……」東の呟きに、藤川は、杖に置いた左手を、硬く握り締めていた。
「……脈拍、血流値、上昇しています」真世の監視するモニターに、変化が現れ始めていた。
「危険な状況か?」「い……いえ、正常範囲内です。で……でも……」モニターからは、それ以上の事は読み取れない。東の問いに、真世はそれ以上、答えられなかった。「わかった。そのまま、監視を続けてくれ」「はい」
「焦り……か」藤川の発した言葉に、東は小さく頷く。
「左舷前方、……その先、座標2-0-1-0一帯に暗礁!」「おーもかーじ! 微速前進〇コンマ四!」
暗闇に包まれた、その通路状の空間。暗礁領域を回避しつつ、船は進む。
……探している……何を? ……
モニターの先に広がる闇を、見つめ続けていた直人には、なぜか、空間の中にざわめく感覚が、そのように感じられた。
「……で、隊長」舵を巧みに操りながら、ティムが声をあげた。
「このダミーアバター、一体、何なんすか? 俺らには、詳しい説明無しでしたが……隊長は何か聞いてるんじゃ?」
カミラはハッとなって、アランの方へ視線を送る。アランもカミラの方を振り返りながら、無言で視線を返してきた。
カミラは、静かに口を開いた。
「……昨日からの調査で、『オモトワ』が、二十年前の、世界震災の被災記憶を持つ利用者に対して、利用中に、何らかの干渉をしている事がわかったそうよ。そこで、被災記憶のあるPSIシンドローム患者の、治療過程でIN-PSIDが得た心理情報を集め、合成して、このダミーアバターとしたらしいわ」
「へぇ~。合成……ねぇ……」どこか取ってつけたような説明だと、ティムが思った、その時。
重く響く警告音が、ブリッジを包み込むと同時に、<アマテラス>は激しい震動に包まれた。
「空間震動⁉︎」アランは、即座に解析にかかる。
「波動収束フィールドに感! 収束、安定を維持できません!」サニが、声を張り上げる。
「ティム! 下手に動くと危険だわ! ひとまず停船よ!」「了解! 停船します! ……量子アンカー投下!」
<アマテラス>の二枚の前翼付け根部から、二条の螺旋状の光線が伸び、<アマテラス>の船体をその場に引き留める。空間震動はさらに勢いを増していた。
「第三PSI バリアに次元干渉⁉︎まずい、このままでは、跳ばされるぞ!」解析パネルを睨みながら、アランが声を荒げた。カミラは黙したまま、正面のパネルに投影される、揺れ動くオレンジの光を睨む。状況がわからない以上、無闇に次の指示は出せない……
「どうした⁉︎」<アマテラス>船内に響く音色と、同じアラームが鳴り響くIMC で、表情を強張らせた東が、確認を求める。
「バ……バイタル変動は、特に変化ありません!」真世は上擦った声で、空かさず返答する。
「<アマテラス>PSIバリアに偏向反応!」
機体管制担当のアイリーンが緊迫に声を震わせた。
アランは粛々と時空間転移シーケンスの進捗を報告する。モニターに映し出される海底の映像が歪曲を始める。
「転送明けまであと一〇!」
「九……八……」
小刻みな振動を繰り返す、緊張に包まれた<アマテラス>ブリッジには、アランのカウントを告げる声のみが、響く。
青空、雨雲、太陽、星空、道路、列車……
『オモトワ』に組み込まれた様々なグラフィックパターンと、プログラムコードが入り乱れ、モニターに反応している。
直人は、小さな胸騒ぎを覚えていた。
「三……二……一! ……明けるぞ!」
反応していたグラフィックパターンは消失し、モニターは、暗色のモヤを映し出すのみ。
「現座標確認、各部点検急げ」
カミラの指示に従って、各部の点検報告が挙がる。
「現座標、指定座標との相対誤差0.4%……空間探知結果、危険領域なし。波動収束フィールドを展開します!」
サニの操作で、波動収束フィールドが展開されると、四方が闇に包まれた細長い空間が、モニターに拡がった。
ボンヤリと灯る、オレンジががった灯りが、彼らを導くように闇の奥へと続いている。モニターの至るところは、暗転していたり、モヤがかったようになっており、ビジュアル構成は安定していない。サニは、何度か波動収束フィールドのチューニングを試みるが、一向に改善する兆しはないようだ。
「波動収束フィールド収束率、四十二パーセント! ……これが限界です」
「データ化されている、ダミーアバターの無意識領域だ……リアルな精神活動と、同等とはいかないのだろう」アランは、空間解析の結果から、この状況を解釈する。
「いいわ、このまま進む」カミラは、リスクをとって決断を下す。波動収束フィールドの不安定領域は、<アマテラス>と時空間同調を確立できない、障害領域でもある。さしずめ、暗礁の広がる海域を、航行するようなものである。
「ティム、IMCからのマッピングデータとリンクして、光点観測領域へ進路をとる」
「りょーかい。IMC!」
IMC 内に、ティムからの通信音声が響く。
「視界が悪い。目標座標域への航路管制を頼む」「領域した。ナビゲートする」
IMC管制オペレーターの田中は、ティムとやりとりをしながら、コースプランをいくつか提示する。ティムは、サニと連携して、それらのコース案から、波動収束フィールド内の観測結果を考慮に入れて、コース選択、修正を加えながら船を進め始めた。
IMC にも、<アマテラス>の波動収束フィールド内に、かろうじて構成された心象映像が送られてくる。
「……やはり……この場所か……」「うむ……」東の呟きに、藤川は、杖に置いた左手を、硬く握り締めていた。
「……脈拍、血流値、上昇しています」真世の監視するモニターに、変化が現れ始めていた。
「危険な状況か?」「い……いえ、正常範囲内です。で……でも……」モニターからは、それ以上の事は読み取れない。東の問いに、真世はそれ以上、答えられなかった。「わかった。そのまま、監視を続けてくれ」「はい」
「焦り……か」藤川の発した言葉に、東は小さく頷く。
「左舷前方、……その先、座標2-0-1-0一帯に暗礁!」「おーもかーじ! 微速前進〇コンマ四!」
暗闇に包まれた、その通路状の空間。暗礁領域を回避しつつ、船は進む。
……探している……何を? ……
モニターの先に広がる闇を、見つめ続けていた直人には、なぜか、空間の中にざわめく感覚が、そのように感じられた。
「……で、隊長」舵を巧みに操りながら、ティムが声をあげた。
「このダミーアバター、一体、何なんすか? 俺らには、詳しい説明無しでしたが……隊長は何か聞いてるんじゃ?」
カミラはハッとなって、アランの方へ視線を送る。アランもカミラの方を振り返りながら、無言で視線を返してきた。
カミラは、静かに口を開いた。
「……昨日からの調査で、『オモトワ』が、二十年前の、世界震災の被災記憶を持つ利用者に対して、利用中に、何らかの干渉をしている事がわかったそうよ。そこで、被災記憶のあるPSIシンドローム患者の、治療過程でIN-PSIDが得た心理情報を集め、合成して、このダミーアバターとしたらしいわ」
「へぇ~。合成……ねぇ……」どこか取ってつけたような説明だと、ティムが思った、その時。
重く響く警告音が、ブリッジを包み込むと同時に、<アマテラス>は激しい震動に包まれた。
「空間震動⁉︎」アランは、即座に解析にかかる。
「波動収束フィールドに感! 収束、安定を維持できません!」サニが、声を張り上げる。
「ティム! 下手に動くと危険だわ! ひとまず停船よ!」「了解! 停船します! ……量子アンカー投下!」
<アマテラス>の二枚の前翼付け根部から、二条の螺旋状の光線が伸び、<アマテラス>の船体をその場に引き留める。空間震動はさらに勢いを増していた。
「第三PSI バリアに次元干渉⁉︎まずい、このままでは、跳ばされるぞ!」解析パネルを睨みながら、アランが声を荒げた。カミラは黙したまま、正面のパネルに投影される、揺れ動くオレンジの光を睨む。状況がわからない以上、無闇に次の指示は出せない……
「どうした⁉︎」<アマテラス>船内に響く音色と、同じアラームが鳴り響くIMC で、表情を強張らせた東が、確認を求める。
「バ……バイタル変動は、特に変化ありません!」真世は上擦った声で、空かさず返答する。
「<アマテラス>PSIバリアに偏向反応!」
機体管制担当のアイリーンが緊迫に声を震わせた。
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