INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

文字の大きさ
上 下
68 / 293
第2章 魔界幻想

面影 1

しおりを挟む
 自動ドアの開く音に、IMCに詰めた五人の視線が集まる。
 
「サニ、直人! どうした、遅……」エレベータから出てきたサニと直人に、小言を言いかけた東は、その後ろに藤川の姿を認め、言葉を打ち切る。
 
「ご……ご一緒でしたか、所長」「すまんな、見送りに少々、時間をもらってしまった」
 
「いえ……」
 
「そ~ゆ~ことよ、へヘェ~」サニがイタズラな、上目遣いのニヤケ顔で、東を見上げる。
 
「……」東は左眉をピクつかせると、サニから視線を逸らした。
 
「良かったね。"ちょうどいい"タイミングで、お婆ちゃんが呼んでくれて。"お二人"さん」
 
 冷ややかな言葉の刃が、直人に突き刺さる。
 直人がそちらに視線を向けるも、言葉の主は、振り返りもしない。
 
「よっ!」無言で背を向け続ける、真世の横に立つティムが、彼女に代わって、いつもながらの笑顔を向ける。何も知らない彼は、気楽なものだ。
 
「……」シュンとなって俯く直人の隣で、サニが呆れたような困惑顔を浮かべた。
 
「……ん? 何かあった??」ティムは、直人と真世の間の空気を感じ取ったのか、二人の顔を見比べながら、真世に問いかける。真世は、表情一つ変えない。
 
「あっ、そうだ……ティム!」唐突に、妙に明るい声を張り上げる真世。
 
「前にさ、使わなくなった小さいテーブルあるって言ってたよね。まだある?」
 
「んっ? あ……ああ」「良かったあ。ママの部屋にさ、そういうのがあるといいなって。良かったら、貸してもらえない?」無理やり話題を変える真世を、怪訝そうに見つめるティムに、真世は早口でまくしたてる。
 
「い……いいよ。ってか、やるよ」真世のテンションに気圧されながら、ティムは答えた。
 
「わー助かる! じゃあさ……」
 
「……」ティムと楽しげに、会話を弾ませる真世を、それ以上、見ていられない直人。
 
「あっちゃ~。こりゃ暫く、放っとくっきゃないね」ニヤけ顔で、サニはこの状況を楽しんでいた。
 
「遅くなりました」追いかけるように上ってきたエレベーターから、カミラとアランが入室して来る。
 
「あー! 隊長、副長が揃って遅刻ぅ~⁉︎」自分がお咎めなしとなったのをいい事に、普段からカミラに小言を言われているサニは、鬼の首でも取ったかのように、指をさしながらわめき立てた。
 
「着替えに、下りていただけだ」アランが短く返す。「ダメですよぉ、副長。遅刻は遅刻ぅ……」「いい加減にしろ、サニ。二人は了承済みだ」東は、苛立ちを隠さない厳しい口調で、サニを制する。
 
「で……ですよねぇ~」一同の冷ややかな視線が、サニに注がれる。
 
「……へへ、へへへへ……」乾いた笑いで誤魔化すサニ。ふと隣を見やると、直人も呆れ顔で見つめていた。「エヘヘ」サニは、小さく舌を出し、軽く頭をかいてみせる。
 
「ではいいか? 今回のミッションを説明するぞ」
 
 東の言葉に、一同が、IMC中央の卓状モニターを囲むようにして集まると、東は、モニターを起動させる。サーモグラフィーのように、赤から青で彩られたグラフィックが、モニター一面に広がった。つい先ほど、副所長の片山が、訪ねてきた警察官二人に示したものと、同じものだ。
 
「……何っすか、これ?」先の二人と、同じ反応を示すティム。
 
「最初から、順を追って説明する。まず……皆は、コレは知っているか?」東は言いながら、モニターの中に、ウィンドウをひとつ割り込ませる。
 
「っ‼︎」直人とサニが、揃って目を丸く見開いたのを、ティムは見逃さなかった。ウィンドウの中で、『オモトワ』のサイトトップページが、賑やかな色彩を照らし出していた。
 
「んっ、どうかしたか?」東の声で、目を丸くしたまま、直人とサニは、お互いの視線を交えていた事に気付く。
 
「まさか、貴方達……」カミラが、目を細めて窺い見てくる。
 
「さっ……さっき来る途中で、広告看板見て~、何かな? ってセンパイと話ししてたから! 奇遇だなって!」
 
 カミラの表情は、全く変わらない。だが、この場で追及する事でも無いと判断したのか、無言のまま、ジッとサニを見つめる。一方で直人は、顔をモニターに俯けたまま、もう一つの冷ややかな視線を感じていた。
 
「……で、で、コレがどうしたんですかぁ?」サニは、カミラの視線から逃げるようにして、東に説明を促した。東も怪訝そうに二人を一瞥すると、説明に戻る。
 
「『想いは永遠に』、通称『オモトワ』という、最近、人気のヴァーチャルネットサービスだ」
 
 東は、ここ二週間程の間で、奇妙な失踪事件が相次ぎ、それにこの『オモトワ』が関連している可能性がある事、そして、その関連性を明らかにしてほしいとの、警察から要請を受けての今回のミッションである事を、淡々と説明していく。
 
「なんとか『オモトワ』の動作環境を、我々の実験サーバーに構築し、ダミーアバターによるアクセス検証から、利用者に、サイト側から何らかのアクションがある事までは突き止めている」
 
 東は言葉を区切り、説明に展開したいくつかのウィンドウを後退させ、もう一度、最初に見せた画面に戻す。
 
「それがコレだ。……見てくれ」東は、その中に浮かんでは消える、小さな光点を指し示しながら、そのスナップショットを拡大してみせる。
 
「解析によると、無意識層に浸透するタイプの、一種のPSIパルス信号らしい。我々は、何らかのサブリミナル効果をもたらすものと、見当をつけている」
 
 直人は、魅入られたように、その光点の明滅を見つめている。
 
「この光点の正体を明らかにできれば、『オモトワ』と事件の関連性を、明らかにできる可能性があるのだが……残念ながら、この信号の現象界への復元は、不可能という結論に達した」
 
「なーるほど、そこでオレらの出番、って訳ね」要点を得るのに長けたティムには、話の筋が見えたようだ。
 
「そうだ。君達にはダミーアバターの無意識層に潜航し、この信号の正体を探ってきてもらいたい」藤川が、ミッション説明を引き継ぐ。
 
「すでに、ダミーアバター無意識層への、アクセス準備は出来ている。対人ミッションと、ほぼ同等の活動が出来るよう調整済みだ。真世!」「は、はい!」東の唐突な振りに、真世の身体に緊張が走る。
 
「アバターの精神反応信号を、擬似的にバイタル値変換して、モニタリングを出来るようにした。アバターに異常があればすぐにわかる。君は、異常を見つけたら、すぐに知らせてくれ」「はい」
 
「特に、今回は、アバターという特殊な環境だ。仮に、アバターの心象世界が消滅した場合、肉体が無い分、最悪、<アマテラス>の帰還が即不能になる可能性がある。真世、しっかりモニターを監視し、些細なことでも逐一報告するように」藤川は、真世の今回の役割の重要性を強調する。
 
「頼むわよ、真世」カミラも、言葉を重ねる。思わぬ重責が、肩にのしかかる真世。対人ミッションであれば、貴美子のサポートも期待されたが、今回は調査ミッションのため、サポートの予定は無い。
 
「わ……わかりました」震える声で、返事を返す。「そう心配するな」藤川は少々、プレッシャーをかけ過ぎた事に気付き、付け加えた。
 
「私たちもフォローするよ。大丈夫!」アイリーンと田中が、優しい笑みを真世に投げかける。「アイリーン、ありがとう」
 
「よろしくお願いします」その場の皆に一礼して仕事を引き受ける真世に、一同の暖かい眼差しが集まる。
 
 卓状モニターに、通信ウィンドウが立ち上がる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...