INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

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第1章 誘い

魂たちの二重奏 6 ー第1章 完ー

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「副長! シールド展開用のPSI 精製水は⁉︎」「残量は二〇パーセント……だがシールド展開しても、この時空間変動には……」
 
「それだけあれば! 船首装備へ、機関に蓄積している余剰エネルギーをバイパス! 『二人』のPSIパルス情報を水に転写して、あそこに撃ち込む!」
 
「二人?」直人の表現に、違和感を感じたティムが、横から疑問を投げる。
 
「……"もう一人"の亜夢だよ……『セルフ』を受け入れようとしている……」
 
 直人の視線を追うティム。ブリッジ後方の三人も、合わせるように視線をその先に向けた。ブリッジ中央のホログラムの光球が、色を変えながら混ざり合おうとしている様相で、一同は納得する。
 
「『二人』をあそこに送り届ける!」
 
「……よし。やってみるか!」アランは幾分思考を巡らせると、さっそく準備に取り掛かる。
 
「待って、アラン、ナオ⁉︎」それでこの窮地を脱することができるのか……下手をすれば、この不安定な時空間変動の中で、エネルギーを著しく消費する事で、<アマテラス>をインナースペースの藻屑にしかねない……カミラは、戸惑いをみせる。
 
「カミ……」「お願いです!」カミラを説得しようと、口を開きかけたアランを制して、直人が声を張る。アランは静かに微笑むと、直人に発言を譲った。
 
「やらせてください!」
 
「ナオ……」決然と意思を示す直人に、インナーノーツ一同は圧倒される。
 
「……今回は貴方に負けっぱなしね、ナオ」
 
 カミラは、顔を少し俯けて呟く。
 
「どの道、それしか手がなさそうね……」
 
 カミラも覚悟を決め、顔を上げ直人を見据えた。
 
「決めて頂戴よ、ナオ!」「はい!」
 
「ナオ! 船首装備管制を、PSIブラスター照準システムからのコントロールに切り替えた。いつでも撃てるぞ!」
 
「ありがとう! 副長!」直人は再びPSI-Linkシステムモジュールに手をかざすと、意識をシステムに集中させていく。正面モニターに、照準が表示される。
 
「この一射に賭ける! 各自、最善を尽くせ!」カミラは声を張って檄を飛ばす。
 
「了解!」一同の声が重なる。誰の目にも、躊躇の色はない。
 
「サニ! 可能な限りターゲット座標を絞り込んで! ティム! 全スタビライザー、及びスラスター全開! 船首を目標へ連動!」
 
 ティムとサニは連携して、変動する時空間乱流の中、ターゲットの捕捉に全力を挙げる。
 
 かの与一の如く、波間に揺れ動く扇に、狙いを定めるようなもの……ターゲティングは困難を極める。
 
「急げ! この時空間変動の中ではあと五分が活動限界だ!」
 
 アランは、エネルギーバイパスの切り替えと、時空間変動の影響監視を同時に処理している。
 
「やってみせますって!」ティムは、スラスタ制御を半舷に絞り、その勢いで船体をドリフトさせると、船は弧を描くように半回転する。
 
 その勢いを打ち消すように、逆サイドの量子スタビライザーを空間に突き立てる。その反動は、物理量としてブリッジに衝撃となって返ってくる。右舷後方のスタビライザーが、その次元間圧に耐えかね圧壊する。
 
「ターゲット! 有効範囲内‼︎」衝撃に振り落とされまいと、レーダー盤にしがみ付きながら、サニは反応を報告する。その直後、直人の変性意識とPSI-Link接続した照準が、正面モニター内で赤く点滅し、ターゲットを感知したことを告げる。
 
「ナオ‼︎」僅かな照準ロックオンのタイミングを逃さないカミラ。
 
「発射ぁ!」直人は、カミラの発令に反応して、トリガーを引く。
 
 二機の機関に各々蓄えられた余剰エネルギー、すなわち亜夢とアムネリアの「二つの魂」が船首に蓄えられたPSI 精製水を核にして注連縄のように絡み合い、船首射出口より放たれる。
 
 そのエネルギー流は、時空間乱流を巻き込みながら、一直線に目標座標へと突き進む。
 
 ……もう一度……もう一度、生まれてくるんだ! ……亜夢‼︎ ……
 
「行けぇぇぇ‼︎」
 
 放たれたエネルギーの奔流が、微かに光る時空変異場へと吸い込まれていく……
 
 固唾を呑んでモニターを見守るインナーノーツ。
 
 その変異場中心から、眩い光が漏れはじめたかと思うと、<アマテラス>周辺に広がる空間いっぱいに、一斉に光が広がり、<アマテラス>もその中へと包まれていった。
 
 
 唐突に目を見開く亜夢。
 
 それと共に、バイタルの各波形が、飛び跳ねるように脈打ち出す。
 
「お……おじいちゃん! バイタル値上昇! これって⁉︎」「何⁉︎」
 
 真世は動揺したまま、眼下の亜夢を見つめる。
 IMCの一同も自席を立ち、コントロールブースから、一段下に位置する亜夢の収容カプセルを覗き込んだ。
 
 カプセルの中で、亜夢は、何かを求めるようにゆっくりと手を持ち上げ、その手を自分の身体に重ねる。そのまま亜夢は、確かめるように、自分の身体を抱きしめた。
 
「う……うぅ……う……うわぁ……ぁあ……」
 
「泣いてる……の?」真世は、カプセル内の音声に、亜夢が咽び泣いていることに気づく。
 
「あああ……わあぁぁぁ!」
 
 それはやがて、慟哭となってIMCの室内に響き渡った。
 
「真世! どうしたの⁉︎ ミッションは……インナーノーツは?」
 
「おばあちゃん……わからない……でも……」
 
 モニター越しに、状況確認を求める貴美子に、真世も明快な回答を示すことはできない。IMCの一同も、それは同じであった。
 
 IMC大型モニターには、先程まで映し出されていた、嵐に見舞われた心象風景は消え、青と赤の二つの巴が混じり合ったような色の、雲のようなモヤを写すのみであった……
 
 
 ……ザザァァ……
 
 ……ザザァァァ……ザァァァ……
 
 静まり返った<アマテラス>のブリッジ。何処からともなく、波の囁きが聞こえてくる。
 
 激しい閃光に包まれ、ホワイトアウトしていたモニターが回復してくると、晴れ渡った空の下、頭上天高くから降り注ぐ太陽の光に、白く照り返る砂浜が、モニターいっぱいに広がり始める。
 
 砂浜には、大小の建造物の瓦礫のようなものが散乱している。波に打ち上げられたもののようだ。
 
 インナーノーツ一同は、その光景にしばし目を奪われていた。
 
 モニターにいくつかの影が立つ。人影のようだが判然としない。
 
『……っかり……しっかりしろ! ……』
 
『…………』
 
『……あっちはダメだ……この人は……』
 
『……いや……もう息は……』
 
『妊婦さんか……お気の毒に……』
 
「何……これ……」サニが、聞こえてくる声を気味悪がる。
 
「亜夢の……記憶……?」直人は、直感的にそう感じた。
 
『……おい、待て! ……今、何か動いたぞ』
 
『まさか!』
 
 その声に呼応するかの様に、<アマテラス>に小さな、しかし、力強い振動が伝わる。
 
 また一つ……また一つ……確かな鼓動が、確かに脈打っている。
 
『……間違いない! まだ生きてる! 子供はまだ生きてるぞ!』
 
『何! ……ホントだ……』
 
『まだ助かるかもしれん! 急げ……』
 
『お、……おう! ……』
 
 心象風景がまどろみ始め、さざめく波の音が次第に遠ざかる。
 
「……亜夢……」
 
 直人は、胸に刻み込む様にその名を呟く。
 
 瞳の奥から、込み上げる熱。
 
 ……生きる……生きられる! ……
 
 亜夢の生への強い意志と、喜びが止めどなく伝わってくる。
 
 右の肩に、誰かの手が触れた。
 
 ティムだ。直人は、瞳から溢れ出そうになるものを見られまいと、彼と反対の方向に顔を伏せる。ティムは、前を向いたまま、直人を労う、穏やかな口調で語りかけた。
 
「これから始まるんだな……この子の……亜夢の本当の人生が」
 
「……ああ」直人は目頭を拭うと、静かに顔を上げた。<アマテラス>のブリッジを安らかな空気が包み込む。
 
「……ナーノーツ! ……インナーノーツ! 応答せよ! インナーノーツ!」
 
 開かれたままの通信回線に、聞き慣れた声が飛び込んで来る。迷子の我が子を、必死になって探し回っているかの様な、緊迫した声だ。
 
「あーっもぅ! チーフ! せっかくの雰囲気ぶち壊し~」サニがうんざり気味にボヤくが、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。
 
 サニのその声に、インナーノーツ一同にも笑顔が戻る。
 
「ふふっ。ずいぶん心配かけてしまったわね……」
 
 カミラは、顔を上げてインナーノーツ全員の顔を見渡す。皆の表情は晴れやかだ。
 
「さあ……帰りましょう!」
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