30 / 293
第1章 誘い
サルベージ 4
しおりを挟む
「時空間転移完了!」
「船体各部チェック、サニ、波動収束フィールド展開」「了解!」
時空間転移が明けた<アマテラス>ブリッジ。インナーノーツ各員は手早く決められたプロセスを処理していく。
波動収束フィールドが展開されると、亜夢の心象風景が<アマテラス>ブリッジのモニターに広がる。前回同様、深い海底の様相を見せる。
「凪いだ海ね……静か過ぎる」
カミラは、前回のような、海底火山が荒れ狂う海底を思い返していた。あの狂気の海に比べれば、一見落ち着きを取り戻した、健全な心象風景にも見える。
<アマテラス>は何の抵抗も受ける事なく、目標座標に向かって潜航を続けた。
何もない。静けさと暗闇だけがその世界での存在を許されていた。
「間も無く時空間LV3領域に到達します」
サニの報告に同期してモニターの闇の濃度が徐々に高まっていく。前はこの一帯は、溶岩洞窟のような風景を作り出していたが、それも今は消え果てている。
「サニ、波動収束フィールドに何か反応は?」
「全く……何も反応ありません」
<アマテラス>は座標データのみを頼りにひたすら船を進める他ない。
「もしかしたら、亜夢はもう……」
「いや……まだわからないよ……」
死の世界を前に諦めを口にするティムに直人は思わず反論する。
昨夜の一瞬の邂逅の中で見た、あの小さな炎……亜夢の生命はまだ生きようとしている。直人はそう思わずにいられなかった。
「直人の言うとおり、諦めるのはまだ早い。とにかく、やれる事をやりましょう」
カミラは諦めに傾くクルーらを鼓舞する。
<アマテラス>はさながら深海潜水艇のように、ゆっくりと闇深くへ降りて行く。
「目標座標に到達!」
船内時間で約10分が経過した頃、サニが目的地に到着した事を知らせた。
「停船よ、ティム」「了解!」
カミラの指示に従い、ティムはその場で<アマテラス>を停止させる。
「<アマテラス>よりIMC」
カミラは通信回線を開くとIMCを呼び出す。
「目標座標に到達しました。これより『サラマンダー』のサルベージ作業に移ります。亜夢の生体パルスを送信願います」
「了解した。真世、アイリーン。準備の方は?」通信を受けた東は、担当するオペレーター二人に確認する。
「出来てます!」「こちらもオッケーです」
真世が亜夢の生体データからPSIパルス化したデータをアイリーンが送信コードに変換している。
「よし、コード送信!」
<アマテラス>ブリッジ、アランが監視しているモニターにコードデータが表示されていく。
「来たぞ、ナオ。データをそちらに転送する。波動収束フィールド全域にこのパルスを拡散放射するんだ」「了解!誘導パルス放射機データリンク!」
直人が誘導パルス放射機を起動させると、<アマテラス>下部の突起構造のカバーが一段下方へスライドし、スピーカーのような形状をした18連装のパルス放射部が露わになる。
「誘導パルス、放射開始!」「放射開始!」
カミラの命令を復唱し、直人が誘導パルス放射機のスイッチを入れる。
放射されるPSIパルスは、ビジュアル構成されない為、<アマテラス>ブリッジのモニターに変化はない。
サニの監視する時空同調レーダーにのみ、その反応が現れる。レーダーには<アマテラス>を中心とした同心円状のエネルギー反応が次々と広がっていくのが表示される。
「<アマテラス>誘導パルスの放射を開始しました」IMCの時空間モニターを監視している田中が、その反応を確認し、報告する。
「うまく喰いついてくれれば良いのですが……」
「東くん、キミ釣りは?」
<アマテラス>から送られる映像モニターを硬くなって見つめていた東は、藤川のその返しにいささか困惑する。
「あ、はい……少しは。あまり上手くないですが……」自嘲気味に答える東。
「ふふ、だろうと思った」
二人のやりとりにクスッと笑いをこぼしてしまうアイリーン。
「しょ……所長!」「いや、すまん。私も釣りはやらんので偉そうな事は言えんが……」
「釣り好きのアルが言うには、こちらに「釣るぞ」という気負いがあると釣れないのだとか……」そういうと、藤川は東の背中を軽く叩きながら「まぁまだ時間は十分ある。じっくり待とうじゃないか」となだめるように語りかけた。
「そうですね……」東はミッションチーフの立場として、ミッション対象者とインナーノーツの生命を預かっている。誰よりもその責任感を感じている東は、いつも緊張の塊と化してしまう。そのことをよく理解している藤川の一言で、東の顔は幾分緩んだ。
誘導パルスの放射開始から<アマテラス>船内時間で約20分余りが経過していた。
「サニ、レーダーに反応は?」
「まだ何も……」
さすがにカミラも痺れを切らしてきた。
「ナオ、お前さんの方も?」
直人は、PSI-Linkシステムを通して、誘導パルス放射機からのフィードバックを監視しているが、ティムの問いかけに、直人も首を横に振るしかできない。
吸い込まれそうなモニターに映る闇。直人はその闇の奥を見据えている。
だがそこに浮かぶのは、モニターの表面に反射で映し出される自分の顔だけだ……
……亜夢さん……
「船体各部チェック、サニ、波動収束フィールド展開」「了解!」
時空間転移が明けた<アマテラス>ブリッジ。インナーノーツ各員は手早く決められたプロセスを処理していく。
波動収束フィールドが展開されると、亜夢の心象風景が<アマテラス>ブリッジのモニターに広がる。前回同様、深い海底の様相を見せる。
「凪いだ海ね……静か過ぎる」
カミラは、前回のような、海底火山が荒れ狂う海底を思い返していた。あの狂気の海に比べれば、一見落ち着きを取り戻した、健全な心象風景にも見える。
<アマテラス>は何の抵抗も受ける事なく、目標座標に向かって潜航を続けた。
何もない。静けさと暗闇だけがその世界での存在を許されていた。
「間も無く時空間LV3領域に到達します」
サニの報告に同期してモニターの闇の濃度が徐々に高まっていく。前はこの一帯は、溶岩洞窟のような風景を作り出していたが、それも今は消え果てている。
「サニ、波動収束フィールドに何か反応は?」
「全く……何も反応ありません」
<アマテラス>は座標データのみを頼りにひたすら船を進める他ない。
「もしかしたら、亜夢はもう……」
「いや……まだわからないよ……」
死の世界を前に諦めを口にするティムに直人は思わず反論する。
昨夜の一瞬の邂逅の中で見た、あの小さな炎……亜夢の生命はまだ生きようとしている。直人はそう思わずにいられなかった。
「直人の言うとおり、諦めるのはまだ早い。とにかく、やれる事をやりましょう」
カミラは諦めに傾くクルーらを鼓舞する。
<アマテラス>はさながら深海潜水艇のように、ゆっくりと闇深くへ降りて行く。
「目標座標に到達!」
船内時間で約10分が経過した頃、サニが目的地に到着した事を知らせた。
「停船よ、ティム」「了解!」
カミラの指示に従い、ティムはその場で<アマテラス>を停止させる。
「<アマテラス>よりIMC」
カミラは通信回線を開くとIMCを呼び出す。
「目標座標に到達しました。これより『サラマンダー』のサルベージ作業に移ります。亜夢の生体パルスを送信願います」
「了解した。真世、アイリーン。準備の方は?」通信を受けた東は、担当するオペレーター二人に確認する。
「出来てます!」「こちらもオッケーです」
真世が亜夢の生体データからPSIパルス化したデータをアイリーンが送信コードに変換している。
「よし、コード送信!」
<アマテラス>ブリッジ、アランが監視しているモニターにコードデータが表示されていく。
「来たぞ、ナオ。データをそちらに転送する。波動収束フィールド全域にこのパルスを拡散放射するんだ」「了解!誘導パルス放射機データリンク!」
直人が誘導パルス放射機を起動させると、<アマテラス>下部の突起構造のカバーが一段下方へスライドし、スピーカーのような形状をした18連装のパルス放射部が露わになる。
「誘導パルス、放射開始!」「放射開始!」
カミラの命令を復唱し、直人が誘導パルス放射機のスイッチを入れる。
放射されるPSIパルスは、ビジュアル構成されない為、<アマテラス>ブリッジのモニターに変化はない。
サニの監視する時空同調レーダーにのみ、その反応が現れる。レーダーには<アマテラス>を中心とした同心円状のエネルギー反応が次々と広がっていくのが表示される。
「<アマテラス>誘導パルスの放射を開始しました」IMCの時空間モニターを監視している田中が、その反応を確認し、報告する。
「うまく喰いついてくれれば良いのですが……」
「東くん、キミ釣りは?」
<アマテラス>から送られる映像モニターを硬くなって見つめていた東は、藤川のその返しにいささか困惑する。
「あ、はい……少しは。あまり上手くないですが……」自嘲気味に答える東。
「ふふ、だろうと思った」
二人のやりとりにクスッと笑いをこぼしてしまうアイリーン。
「しょ……所長!」「いや、すまん。私も釣りはやらんので偉そうな事は言えんが……」
「釣り好きのアルが言うには、こちらに「釣るぞ」という気負いがあると釣れないのだとか……」そういうと、藤川は東の背中を軽く叩きながら「まぁまだ時間は十分ある。じっくり待とうじゃないか」となだめるように語りかけた。
「そうですね……」東はミッションチーフの立場として、ミッション対象者とインナーノーツの生命を預かっている。誰よりもその責任感を感じている東は、いつも緊張の塊と化してしまう。そのことをよく理解している藤川の一言で、東の顔は幾分緩んだ。
誘導パルスの放射開始から<アマテラス>船内時間で約20分余りが経過していた。
「サニ、レーダーに反応は?」
「まだ何も……」
さすがにカミラも痺れを切らしてきた。
「ナオ、お前さんの方も?」
直人は、PSI-Linkシステムを通して、誘導パルス放射機からのフィードバックを監視しているが、ティムの問いかけに、直人も首を横に振るしかできない。
吸い込まれそうなモニターに映る闇。直人はその闇の奥を見据えている。
だがそこに浮かぶのは、モニターの表面に反射で映し出される自分の顔だけだ……
……亜夢さん……
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる