133 / 133
決戦編
さようなら
しおりを挟む
「ふっ!」
「らぁ!」
フラメルとケインは、ひたすらに殴り合いを続ける。
死者の魂を呼び寄せているこの状態では、流石のケインでも魔能力の発動には時間がかかった。そして相手が殴りかかってくる状況。それでは、迂闊に魔力を集中させることも難しかった。
しかし、ケインは不思議に思う。どうして、この男は殴りかかることしかしてこないのだろう、と。それもそのはずだった。この男、フラメルには、戦闘能力の一つも残されていないのだから。人造人間を生み出し続け、天界と魂をリンクさせている。そんな状況で魔力を使おうものなら、即座に体が崩壊する。
「おおおおおお!」
「ああああああ!」
互いの拳が、同時に顔面に叩き込まれる。その時だった。何者かの記憶が、ケインの脳内に流れ込んだのである。
「………!これ、アンタの……」
ケインはフラメルを見る。
「関係なかろう、ケイン.クロシキ。……思えば、君は早くから消しておくべきだった。魔導士として特異な血筋や魂を持っているわけでもない者が、よもやここまで強くなろうとはな。……その点にばかり気を配っていたが故の失態だよ。」
「………それ、本当に思ってんの?」
「……どういうことだ?」
「あんたが本気で俺らを倒そうってんなら、とっくのとうにやられてるってことだよ。」
「今は集中するべきだろう!」
フラメルは、ケインの肝臓に肘を入れる。
「ごぁ……!」
ケインは喘ぎ、大きくよろめいた。再び、彼の脳内に記憶が傾れ込んだ。彼は即座に持ち直し、拳を顔面に叩き込む。
「がはっ!」
フラメルの顔面から血が出る。
「……」
「……」
先ほどより駆け引きはどこにもない、ただ、沈黙ののちに動き出すのみ。
叩き込まれる過程で、互いの記憶は流れあった。
ケインは、フラメルの記憶を見る。
遠い昔、まだ魔法がごく限られた者にしか使えなかった時代、私は生まれた。
改造された子供達。魔能力の解析、魔法神経の増殖、そして天界との接続能力。様々な改造を施された。私もその1人だった。生まれた国のエゴに動かされ、大量殺人と実験の道具として、使い古された。
その挙げ句、仲間もろとも捨てられた。使えなくなったからと、火葬場に放り込まれた。
人間という生き物を、私は恨んだ。恨み続けた。だがその末、悟ってしまったのだ。どう足掻いても人は変わらないと。故に、私はここまで来た。人類を根本から救済するために、ここまで来たのだ。
「アンタ……魔能力がわかるなら、俺の脅威だってわかったんじゃないのか?」
ケインはフラメルに問う。
「君の魔能力は強大すぎた……私の解析能力ですら、君の力の全貌を把握できなかったんだ。」
「………魔族との戦いも、社長の実験も、全て引き起こしたのはアンタなんだよな。なんでだ?アンタが最も恨むべきはそれだったはずだろう?矛盾している。」
「どうせ人類が再構築されるならと……そう思って私は他を疎かにしてしまった。」
「馬鹿か!それじゃあんたの正義なんかどこにも無いじゃないか!人類の救済も何もあったもんじゃない!元凶なら元凶なりに……」
「そうだな、その通りだ。……私の負けだよ、ケイン.クロシキ。」
「………」
球は急速に崩れ始める。
「わかっていたさ……初めから、この計画は破綻していた。
天界を一個人がコントロールしようなどというのが無理な話だった。…君との戦いのダメージで、既に終わっていたんだ。」
「死ぬのか、アンタ。」
「死ぬんじゃない。とっくに死んでいるからな。……さらばだ!ケインよ!君は君なりに世界を救って見せろ!」
「……りょーかい。」
ケインは右手を挙げ、その場を後にする。
「……ああ、どうして1000年以上経って初めて気づいたんだろう。ここにあったじゃないか、答えは。」
フラメルは、崩れ去る瓦礫の中に埋もれていった。
ケインは、一人一人と会話する。
「僕は……どうすればよかったんですか?」
龍はケインに問う。
「……アンタはアンタなりの答えを見つけた。ただそれだけさ。約束するよ、アンタみたいなのが生きられる世界を作ると。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「おーい龍くん、遅れるよー?」
サリサの声が、どこからか聞こえる。
「あ、もう行かなきゃ。約束してるんだ。」
龍はその場から消えて行った。
「…なるほどな。それがお前の答えだったか。」
屋敷の畳の上で、頼昌はあぐらをかきながらケインに言う。
「ああ、まあな。俺は最高のクソ野郎で良いんだって、どっかの誰かさんが気づかせてくれたんだ。」
「誰がどっかの誰かさんだ。」
どこからか現れた武蔵が、2人の間に座り込んだ。
「ったく……お前もかっこよく死ねよ、ケイン。」
そう言うと、頼昌は消える。
「黒式よ……またあの世で、な。」
「そん時にゃとっくにお前は転生済みだろうよ。だからまあ……生まれ変わったら、でな。」
「相変わらずだな、お前も。」
武蔵は苦笑し、消えて行った。
「師匠、私……強くなれますかね?」
「ばーか、とっくにアタシより上だよ、お前は。」
「本気で言ってる……と思わせてもらいますよ。」
アンとアンナは拳を合わせた。
「ゾルダさん、俺やってけますかね?」
「君ならやれるよ、セシル。これから歩む物語は、君だけのものだ。君の描く話を、僕に見せてくれ。」
「ええ、せいぜいやりますよ!」
セシルとゾルダはハイタッチした。
「…アンタに伝えられなかった事は色々あるよ。」
「ああ。」
ノーマンとケビン、デボラは背中を合わせて会話する。
「だけどこれだけは言わせてくれ。」
「「ありがとう、父さん。」」
「……」
ノーマンが振り返った頃には、ケビンの姿はもうなかった。だが、彼は不思議と満ち足りていた。
「……んで、僕らを散々こき使った恨み、どうすんのさ?」
ヴァルヴァローニは、ドレイクを睨みつける。
「うっ……それは……」
「ほら、手だして。」
彼は、ドレイクに右手を差し出す。
「握手だよ握手!ほら!」
半ば強引に、ヴァルヴァローニはドレイクと手を繋ぎ、上下に振った。
「それじゃ、またな、クロロ。」
「おう、あばよ。」
クロロは涙を流さなかった。泣くばかりが人生ではない事を、彼は知っているから。
「で、兄貴。まあ色々あるけど、さ。大変だったな。」
クロロは、グウェルガンドを抱きしめた。
「うん……うん……」
彼もまた、目一杯に抱き返す。
彼が消えるまで、それはしばらく続いた。
「良いのかい?誰とも話さなくて。」
メルディベールはアダムに問う。
「へっ……7話す相手なんざいねえよ。それに……十分貰った。」
「私もだ。」
互いに面識しかなかった者たちは、笑いながら消えた。
「メリッサ、話すことは色々あるが……まあ、後でゆっくりな。」
「ああ、兄様。」
兄妹は、屋敷の中で、ゆっくりと談笑している。
それは、いつまでも、いつまでも続いた。
「アンちゃん……貴方にとって、私はなんだった?」
「友達。それにだったじゃない。今も。」
アンはリリッシュに手を差し出す。
「うん、ありがとう。」
彼女は笑顔でそれを受け入れた。
「んで、だ。お前らなんでそんな嬉しそうなんだよ。別れの挨拶だぞ?」
ケインはため息をつく。
「まあ、しんみりしててもなーって。」
シャーロットは後頭部を掻きむしる。
「いつか来るとはわかってましたし。」
レドは淡々と返す。
「一回裏切った身だしねえ。」
皮肉めいた口調で言う。
「……別れはきっと、寂しいだけじゃないですよ。」
「おお!お前だけまともな事を!」
ケインは観劇きた様子で花織を指さす。
「んで、別れの挨拶どうするよ?」
シャーロットの言葉に、一同は黙りこくった。
「よし、じゃああれだ、めんどくさいのはナシにして……一言で済まそうぜ。」
パン、と手を叩き、ケインは言う。
「……そうだな。」
「そうですね。」
「それもそうだね。」
「それが妥当か。」
一同は賛成した。
「んじゃ……あばよ。」
ケインはスッと手を挙げる。
それぞれは、順番に手を挙げていく。
そして、皆笑顔でハイタッチし、消えて行った。
「…………あーあ、終わっちまったなあ。」
現実世界に戻ったケインはそらをながめる。その空は、清々しいほどの晴れだった。
あれから、数ヶ月経った。
相変わらず人間に反発する魔族も多い。だけど、着々と平和に近づいている気がする。シーラの活動は、多くの魔族の共感を得ているらしいし、実際、人と魔族が歩む方向へと社会は傾いている。
社会は残酷で、難しい。だから、誰かが導かなければならないと、日々実感しつつある。
魔法省も何もなくなった結果、魔導機関は再建し、魔族と人との新たな機関が誕生した。
……それと聞くに、ノーマンとヘルガは同棲を始めたらしい。前からくっついていそうな範囲はあったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。
「あ、どうも。」
俺は夫婦に挨拶する。人と魔族の夫婦だった。
俺には、やりたいことがある。その為に今日、出発をしようと思う。
ドラゴンクロウのロゴが描かれた車。そのキーを回し、エンジンをかけて……
「よう。」
「うおおおおお?!」
突然後ろから話しかけられ、俺は咄嗟にそいつに飛び膝蹴りを喰らわせた。
「痛えええええ……」
そこに蹲っていたのは、ジハイドだった。
「何してんだ?」
「なにって…お前について行こうと…」
「へ?」
俺が首を傾げた瞬間、次々と車に人が乗り込んできた。いや、人だけではない。魔族も。
「失礼する。」
ドレイクは、天井に頭をぶつけながら言う。
「おいおいせめーなー!」
クロロは、何やら文句を言っていた。
「助手席は私だからな。」
やや強引に、助手席にギルゼウスが乗り込む。
「ったくもー男って馬鹿ばっか。」
悪態をつきつつ、シルビアは足を広げて椅子に座る。
「ちょっと!場所取りすぎ!」
「うー!」
アンは、オーガスタスと共に何やら文句を言っている。
「はー…なんで乗っちゃったんだろう。」
レナは後悔を口にしていた。
「以上が、新生ドラゴンクロウだ!」
ジハイドは、自信満々に言い放つ。
「おい勝手に決めんなし!」
俺はぶつくさと文句を垂れる。
「だってアタシたち魔導期間辞めちゃったしー。」
アンはブスッと窓を眺めている。
「俺たちゃ暇人だぜ?ボランティアだけってのも性に合わねえし……」
クロロもまた、腕を組んで天井を眺めている。
「……部屋を広くしよう。」
ドレイクは魔法を展開し、車の内部を拡張した。
すると、先ほどの数倍以上の空間が作り出される。
「………畜生勝手にしろ!」
ここまでされてしまえば、最早文句は言えない。俺は渋々承諾した。
「おっじゃあ行こうぜ!……ってどこに?」
ジハイドは俺に耳打ちする。
「知らなかったのかよ……まあ、色んなとこに、だ。現状、政府もあんまり機能してない。だから、俺たちで手の及ばないとこに行くんだよ。……俺にしかできないことをやるんだ。」
「俺たち、でしょ?」
アンは、俺の言葉を訂正する。
「そうっすね。俺たち。」
俺は笑いながらいう。
車は勢いよく発進した。
荒野を、砂漠を、ありとあらゆるところを駆ける車。
それはどこまでも、走って行った。
「らぁ!」
フラメルとケインは、ひたすらに殴り合いを続ける。
死者の魂を呼び寄せているこの状態では、流石のケインでも魔能力の発動には時間がかかった。そして相手が殴りかかってくる状況。それでは、迂闊に魔力を集中させることも難しかった。
しかし、ケインは不思議に思う。どうして、この男は殴りかかることしかしてこないのだろう、と。それもそのはずだった。この男、フラメルには、戦闘能力の一つも残されていないのだから。人造人間を生み出し続け、天界と魂をリンクさせている。そんな状況で魔力を使おうものなら、即座に体が崩壊する。
「おおおおおお!」
「ああああああ!」
互いの拳が、同時に顔面に叩き込まれる。その時だった。何者かの記憶が、ケインの脳内に流れ込んだのである。
「………!これ、アンタの……」
ケインはフラメルを見る。
「関係なかろう、ケイン.クロシキ。……思えば、君は早くから消しておくべきだった。魔導士として特異な血筋や魂を持っているわけでもない者が、よもやここまで強くなろうとはな。……その点にばかり気を配っていたが故の失態だよ。」
「………それ、本当に思ってんの?」
「……どういうことだ?」
「あんたが本気で俺らを倒そうってんなら、とっくのとうにやられてるってことだよ。」
「今は集中するべきだろう!」
フラメルは、ケインの肝臓に肘を入れる。
「ごぁ……!」
ケインは喘ぎ、大きくよろめいた。再び、彼の脳内に記憶が傾れ込んだ。彼は即座に持ち直し、拳を顔面に叩き込む。
「がはっ!」
フラメルの顔面から血が出る。
「……」
「……」
先ほどより駆け引きはどこにもない、ただ、沈黙ののちに動き出すのみ。
叩き込まれる過程で、互いの記憶は流れあった。
ケインは、フラメルの記憶を見る。
遠い昔、まだ魔法がごく限られた者にしか使えなかった時代、私は生まれた。
改造された子供達。魔能力の解析、魔法神経の増殖、そして天界との接続能力。様々な改造を施された。私もその1人だった。生まれた国のエゴに動かされ、大量殺人と実験の道具として、使い古された。
その挙げ句、仲間もろとも捨てられた。使えなくなったからと、火葬場に放り込まれた。
人間という生き物を、私は恨んだ。恨み続けた。だがその末、悟ってしまったのだ。どう足掻いても人は変わらないと。故に、私はここまで来た。人類を根本から救済するために、ここまで来たのだ。
「アンタ……魔能力がわかるなら、俺の脅威だってわかったんじゃないのか?」
ケインはフラメルに問う。
「君の魔能力は強大すぎた……私の解析能力ですら、君の力の全貌を把握できなかったんだ。」
「………魔族との戦いも、社長の実験も、全て引き起こしたのはアンタなんだよな。なんでだ?アンタが最も恨むべきはそれだったはずだろう?矛盾している。」
「どうせ人類が再構築されるならと……そう思って私は他を疎かにしてしまった。」
「馬鹿か!それじゃあんたの正義なんかどこにも無いじゃないか!人類の救済も何もあったもんじゃない!元凶なら元凶なりに……」
「そうだな、その通りだ。……私の負けだよ、ケイン.クロシキ。」
「………」
球は急速に崩れ始める。
「わかっていたさ……初めから、この計画は破綻していた。
天界を一個人がコントロールしようなどというのが無理な話だった。…君との戦いのダメージで、既に終わっていたんだ。」
「死ぬのか、アンタ。」
「死ぬんじゃない。とっくに死んでいるからな。……さらばだ!ケインよ!君は君なりに世界を救って見せろ!」
「……りょーかい。」
ケインは右手を挙げ、その場を後にする。
「……ああ、どうして1000年以上経って初めて気づいたんだろう。ここにあったじゃないか、答えは。」
フラメルは、崩れ去る瓦礫の中に埋もれていった。
ケインは、一人一人と会話する。
「僕は……どうすればよかったんですか?」
龍はケインに問う。
「……アンタはアンタなりの答えを見つけた。ただそれだけさ。約束するよ、アンタみたいなのが生きられる世界を作ると。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「おーい龍くん、遅れるよー?」
サリサの声が、どこからか聞こえる。
「あ、もう行かなきゃ。約束してるんだ。」
龍はその場から消えて行った。
「…なるほどな。それがお前の答えだったか。」
屋敷の畳の上で、頼昌はあぐらをかきながらケインに言う。
「ああ、まあな。俺は最高のクソ野郎で良いんだって、どっかの誰かさんが気づかせてくれたんだ。」
「誰がどっかの誰かさんだ。」
どこからか現れた武蔵が、2人の間に座り込んだ。
「ったく……お前もかっこよく死ねよ、ケイン。」
そう言うと、頼昌は消える。
「黒式よ……またあの世で、な。」
「そん時にゃとっくにお前は転生済みだろうよ。だからまあ……生まれ変わったら、でな。」
「相変わらずだな、お前も。」
武蔵は苦笑し、消えて行った。
「師匠、私……強くなれますかね?」
「ばーか、とっくにアタシより上だよ、お前は。」
「本気で言ってる……と思わせてもらいますよ。」
アンとアンナは拳を合わせた。
「ゾルダさん、俺やってけますかね?」
「君ならやれるよ、セシル。これから歩む物語は、君だけのものだ。君の描く話を、僕に見せてくれ。」
「ええ、せいぜいやりますよ!」
セシルとゾルダはハイタッチした。
「…アンタに伝えられなかった事は色々あるよ。」
「ああ。」
ノーマンとケビン、デボラは背中を合わせて会話する。
「だけどこれだけは言わせてくれ。」
「「ありがとう、父さん。」」
「……」
ノーマンが振り返った頃には、ケビンの姿はもうなかった。だが、彼は不思議と満ち足りていた。
「……んで、僕らを散々こき使った恨み、どうすんのさ?」
ヴァルヴァローニは、ドレイクを睨みつける。
「うっ……それは……」
「ほら、手だして。」
彼は、ドレイクに右手を差し出す。
「握手だよ握手!ほら!」
半ば強引に、ヴァルヴァローニはドレイクと手を繋ぎ、上下に振った。
「それじゃ、またな、クロロ。」
「おう、あばよ。」
クロロは涙を流さなかった。泣くばかりが人生ではない事を、彼は知っているから。
「で、兄貴。まあ色々あるけど、さ。大変だったな。」
クロロは、グウェルガンドを抱きしめた。
「うん……うん……」
彼もまた、目一杯に抱き返す。
彼が消えるまで、それはしばらく続いた。
「良いのかい?誰とも話さなくて。」
メルディベールはアダムに問う。
「へっ……7話す相手なんざいねえよ。それに……十分貰った。」
「私もだ。」
互いに面識しかなかった者たちは、笑いながら消えた。
「メリッサ、話すことは色々あるが……まあ、後でゆっくりな。」
「ああ、兄様。」
兄妹は、屋敷の中で、ゆっくりと談笑している。
それは、いつまでも、いつまでも続いた。
「アンちゃん……貴方にとって、私はなんだった?」
「友達。それにだったじゃない。今も。」
アンはリリッシュに手を差し出す。
「うん、ありがとう。」
彼女は笑顔でそれを受け入れた。
「んで、だ。お前らなんでそんな嬉しそうなんだよ。別れの挨拶だぞ?」
ケインはため息をつく。
「まあ、しんみりしててもなーって。」
シャーロットは後頭部を掻きむしる。
「いつか来るとはわかってましたし。」
レドは淡々と返す。
「一回裏切った身だしねえ。」
皮肉めいた口調で言う。
「……別れはきっと、寂しいだけじゃないですよ。」
「おお!お前だけまともな事を!」
ケインは観劇きた様子で花織を指さす。
「んで、別れの挨拶どうするよ?」
シャーロットの言葉に、一同は黙りこくった。
「よし、じゃああれだ、めんどくさいのはナシにして……一言で済まそうぜ。」
パン、と手を叩き、ケインは言う。
「……そうだな。」
「そうですね。」
「それもそうだね。」
「それが妥当か。」
一同は賛成した。
「んじゃ……あばよ。」
ケインはスッと手を挙げる。
それぞれは、順番に手を挙げていく。
そして、皆笑顔でハイタッチし、消えて行った。
「…………あーあ、終わっちまったなあ。」
現実世界に戻ったケインはそらをながめる。その空は、清々しいほどの晴れだった。
あれから、数ヶ月経った。
相変わらず人間に反発する魔族も多い。だけど、着々と平和に近づいている気がする。シーラの活動は、多くの魔族の共感を得ているらしいし、実際、人と魔族が歩む方向へと社会は傾いている。
社会は残酷で、難しい。だから、誰かが導かなければならないと、日々実感しつつある。
魔法省も何もなくなった結果、魔導機関は再建し、魔族と人との新たな機関が誕生した。
……それと聞くに、ノーマンとヘルガは同棲を始めたらしい。前からくっついていそうな範囲はあったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。
「あ、どうも。」
俺は夫婦に挨拶する。人と魔族の夫婦だった。
俺には、やりたいことがある。その為に今日、出発をしようと思う。
ドラゴンクロウのロゴが描かれた車。そのキーを回し、エンジンをかけて……
「よう。」
「うおおおおお?!」
突然後ろから話しかけられ、俺は咄嗟にそいつに飛び膝蹴りを喰らわせた。
「痛えええええ……」
そこに蹲っていたのは、ジハイドだった。
「何してんだ?」
「なにって…お前について行こうと…」
「へ?」
俺が首を傾げた瞬間、次々と車に人が乗り込んできた。いや、人だけではない。魔族も。
「失礼する。」
ドレイクは、天井に頭をぶつけながら言う。
「おいおいせめーなー!」
クロロは、何やら文句を言っていた。
「助手席は私だからな。」
やや強引に、助手席にギルゼウスが乗り込む。
「ったくもー男って馬鹿ばっか。」
悪態をつきつつ、シルビアは足を広げて椅子に座る。
「ちょっと!場所取りすぎ!」
「うー!」
アンは、オーガスタスと共に何やら文句を言っている。
「はー…なんで乗っちゃったんだろう。」
レナは後悔を口にしていた。
「以上が、新生ドラゴンクロウだ!」
ジハイドは、自信満々に言い放つ。
「おい勝手に決めんなし!」
俺はぶつくさと文句を垂れる。
「だってアタシたち魔導期間辞めちゃったしー。」
アンはブスッと窓を眺めている。
「俺たちゃ暇人だぜ?ボランティアだけってのも性に合わねえし……」
クロロもまた、腕を組んで天井を眺めている。
「……部屋を広くしよう。」
ドレイクは魔法を展開し、車の内部を拡張した。
すると、先ほどの数倍以上の空間が作り出される。
「………畜生勝手にしろ!」
ここまでされてしまえば、最早文句は言えない。俺は渋々承諾した。
「おっじゃあ行こうぜ!……ってどこに?」
ジハイドは俺に耳打ちする。
「知らなかったのかよ……まあ、色んなとこに、だ。現状、政府もあんまり機能してない。だから、俺たちで手の及ばないとこに行くんだよ。……俺にしかできないことをやるんだ。」
「俺たち、でしょ?」
アンは、俺の言葉を訂正する。
「そうっすね。俺たち。」
俺は笑いながらいう。
車は勢いよく発進した。
荒野を、砂漠を、ありとあらゆるところを駆ける車。
それはどこまでも、走って行った。
0
なろう版https://ncode.syosetu.com/n0704io/?p=2カクヨム版https://kakuyomu.jp/works/16817330669013450484
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる