Heavens Gate

酸性元素

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決戦編

さようなら

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「ふっ!」
「らぁ!」
フラメルとケインは、ひたすらに殴り合いを続ける。
死者の魂を呼び寄せているこの状態では、流石のケインでも魔能力の発動には時間がかかった。そして相手が殴りかかってくる状況。それでは、迂闊に魔力を集中させることも難しかった。
しかし、ケインは不思議に思う。どうして、この男は殴りかかることしかしてこないのだろう、と。それもそのはずだった。この男、フラメルには、戦闘能力の一つも残されていないのだから。人造人間を生み出し続け、天界と魂をリンクさせている。そんな状況で魔力を使おうものなら、即座に体が崩壊する。
「おおおおおお!」
「ああああああ!」
互いの拳が、同時に顔面に叩き込まれる。その時だった。何者かの記憶が、ケインの脳内に流れ込んだのである。
「………!これ、アンタの……」
ケインはフラメルを見る。
「関係なかろう、ケイン.クロシキ。……思えば、君は早くから消しておくべきだった。魔導士として特異な血筋や魂を持っているわけでもない者が、よもやここまで強くなろうとはな。……その点にばかり気を配っていたが故の失態だよ。」
「………それ、本当に思ってんの?」
「……どういうことだ?」
「あんたが本気で俺らを倒そうってんなら、とっくのとうにやられてるってことだよ。」
「今は集中するべきだろう!」
フラメルは、ケインの肝臓に肘を入れる。
「ごぁ……!」
ケインは喘ぎ、大きくよろめいた。再び、彼の脳内に記憶が傾れ込んだ。彼は即座に持ち直し、拳を顔面に叩き込む。
「がはっ!」
フラメルの顔面から血が出る。
「……」
「……」
先ほどより駆け引きはどこにもない、ただ、沈黙ののちに動き出すのみ。

叩き込まれる過程で、互いの記憶は流れあった。
ケインは、フラメルの記憶を見る。

遠い昔、まだ魔法がごく限られた者にしか使えなかった時代、私は生まれた。
改造された子供達。魔能力の解析、魔法神経の増殖、そして天界との接続能力。様々な改造を施された。私もその1人だった。生まれた国のエゴに動かされ、大量殺人と実験の道具として、使い古された。
その挙げ句、仲間もろとも捨てられた。使えなくなったからと、火葬場に放り込まれた。
人間という生き物を、私は恨んだ。恨み続けた。だがその末、悟ってしまったのだ。どう足掻いても人は変わらないと。故に、私はここまで来た。人類を根本から救済するために、ここまで来たのだ。
「アンタ……魔能力がわかるなら、俺の脅威だってわかったんじゃないのか?」
ケインはフラメルに問う。
「君の魔能力は強大すぎた……私の解析能力ですら、君の力の全貌を把握できなかったんだ。」
「………魔族との戦いも、社長の実験も、全て引き起こしたのはアンタなんだよな。なんでだ?アンタが最も恨むべきはそれだったはずだろう?矛盾している。」
「どうせ人類が再構築されるならと……そう思って私は他を疎かにしてしまった。」
「馬鹿か!それじゃあんたの正義なんかどこにも無いじゃないか!人類の救済も何もあったもんじゃない!元凶なら元凶なりに……」
「そうだな、その通りだ。……私の負けだよ、ケイン.クロシキ。」
「………」

球は急速に崩れ始める。
「わかっていたさ……初めから、この計画は破綻していた。
天界を一個人がコントロールしようなどというのが無理な話だった。…君との戦いのダメージで、既に終わっていたんだ。」
「死ぬのか、アンタ。」
「死ぬんじゃない。とっくに死んでいるからな。……さらばだ!ケインよ!君は君なりに世界を救って見せろ!」
「……りょーかい。」
ケインは右手を挙げ、その場を後にする。
「……ああ、どうして1000年以上経って初めて気づいたんだろう。ここにあったじゃないか、答えは。」
フラメルは、崩れ去る瓦礫の中に埋もれていった。

ケインは、一人一人と会話する。
「僕は……どうすればよかったんですか?」
龍はケインに問う。
「……アンタはアンタなりの答えを見つけた。ただそれだけさ。約束するよ、アンタみたいなのが生きられる世界を作ると。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「おーい龍くん、遅れるよー?」
サリサの声が、どこからか聞こえる。
「あ、もう行かなきゃ。約束してるんだ。」
龍はその場から消えて行った。

「…なるほどな。それがお前の答えだったか。」
屋敷の畳の上で、頼昌はあぐらをかきながらケインに言う。
「ああ、まあな。俺は最高のクソ野郎で良いんだって、どっかの誰かさんが気づかせてくれたんだ。」
「誰がどっかの誰かさんだ。」
どこからか現れた武蔵が、2人の間に座り込んだ。
「ったく……お前もかっこよく死ねよ、ケイン。」
そう言うと、頼昌は消える。
「黒式よ……またあの世で、な。」
「そん時にゃとっくにお前は転生済みだろうよ。だからまあ……生まれ変わったら、でな。」
「相変わらずだな、お前も。」
武蔵は苦笑し、消えて行った。

「師匠、私……強くなれますかね?」
「ばーか、とっくにアタシより上だよ、お前は。」
「本気で言ってる……と思わせてもらいますよ。」
アンとアンナは拳を合わせた。

「ゾルダさん、俺やってけますかね?」
「君ならやれるよ、セシル。これから歩む物語は、君だけのものだ。君の描く話を、僕に見せてくれ。」
「ええ、せいぜいやりますよ!」
セシルとゾルダはハイタッチした。

「…アンタに伝えられなかった事は色々あるよ。」
「ああ。」
ノーマンとケビン、デボラは背中を合わせて会話する。
「だけどこれだけは言わせてくれ。」
「「ありがとう、父さん。」」
「……」
ノーマンが振り返った頃には、ケビンの姿はもうなかった。だが、彼は不思議と満ち足りていた。

「……んで、僕らを散々こき使った恨み、どうすんのさ?」
ヴァルヴァローニは、ドレイクを睨みつける。
「うっ……それは……」
「ほら、手だして。」
彼は、ドレイクに右手を差し出す。
「握手だよ握手!ほら!」
半ば強引に、ヴァルヴァローニはドレイクと手を繋ぎ、上下に振った。
「それじゃ、またな、クロロ。」
「おう、あばよ。」
クロロは涙を流さなかった。泣くばかりが人生ではない事を、彼は知っているから。
「で、兄貴。まあ色々あるけど、さ。大変だったな。」
クロロは、グウェルガンドを抱きしめた。
「うん……うん……」
彼もまた、目一杯に抱き返す。
彼が消えるまで、それはしばらく続いた。

「良いのかい?誰とも話さなくて。」
メルディベールはアダムに問う。
「へっ……7話す相手なんざいねえよ。それに……十分貰った。」
「私もだ。」
互いに面識しかなかった者たちは、笑いながら消えた。

「メリッサ、話すことは色々あるが……まあ、後でゆっくりな。」
「ああ、兄様。」
兄妹は、屋敷の中で、ゆっくりと談笑している。
それは、いつまでも、いつまでも続いた。

「アンちゃん……貴方にとって、私はなんだった?」
「友達。それにだったじゃない。今も。」
アンはリリッシュに手を差し出す。
「うん、ありがとう。」
彼女は笑顔でそれを受け入れた。

「んで、だ。お前らなんでそんな嬉しそうなんだよ。別れの挨拶だぞ?」
ケインはため息をつく。
「まあ、しんみりしててもなーって。」
シャーロットは後頭部を掻きむしる。
「いつか来るとはわかってましたし。」
レドは淡々と返す。
「一回裏切った身だしねえ。」
皮肉めいた口調で言う。
「……別れはきっと、寂しいだけじゃないですよ。」
「おお!お前だけまともな事を!」
ケインは観劇きた様子で花織を指さす。
「んで、別れの挨拶どうするよ?」
シャーロットの言葉に、一同は黙りこくった。
「よし、じゃああれだ、めんどくさいのはナシにして……一言で済まそうぜ。」
パン、と手を叩き、ケインは言う。
「……そうだな。」
「そうですね。」
「それもそうだね。」
「それが妥当か。」
一同は賛成した。
「んじゃ……あばよ。」
ケインはスッと手を挙げる。
それぞれは、順番に手を挙げていく。
そして、皆笑顔でハイタッチし、消えて行った。

「…………あーあ、終わっちまったなあ。」
現実世界に戻ったケインはそらをながめる。その空は、清々しいほどの晴れだった。

あれから、数ヶ月経った。
相変わらず人間に反発する魔族も多い。だけど、着々と平和に近づいている気がする。シーラの活動は、多くの魔族の共感を得ているらしいし、実際、人と魔族が歩む方向へと社会は傾いている。
社会は残酷で、難しい。だから、誰かが導かなければならないと、日々実感しつつある。
魔法省も何もなくなった結果、魔導機関は再建し、魔族と人との新たな機関が誕生した。
……それと聞くに、ノーマンとヘルガは同棲を始めたらしい。前からくっついていそうな範囲はあったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。
「あ、どうも。」
俺は夫婦に挨拶する。人と魔族の夫婦だった。
俺には、やりたいことがある。その為に今日、出発をしようと思う。
ドラゴンクロウのロゴが描かれた車。そのキーを回し、エンジンをかけて……
「よう。」
「うおおおおお?!」
突然後ろから話しかけられ、俺は咄嗟にそいつに飛び膝蹴りを喰らわせた。
「痛えええええ……」
そこに蹲っていたのは、ジハイドだった。
「何してんだ?」
「なにって…お前について行こうと…」
「へ?」
俺が首を傾げた瞬間、次々と車に人が乗り込んできた。いや、人だけではない。魔族も。
「失礼する。」
ドレイクは、天井に頭をぶつけながら言う。
「おいおいせめーなー!」
クロロは、何やら文句を言っていた。
「助手席は私だからな。」
やや強引に、助手席にギルゼウスが乗り込む。
「ったくもー男って馬鹿ばっか。」
悪態をつきつつ、シルビアは足を広げて椅子に座る。
「ちょっと!場所取りすぎ!」
「うー!」
アンは、オーガスタスと共に何やら文句を言っている。
「はー…なんで乗っちゃったんだろう。」
レナは後悔を口にしていた。
「以上が、新生ドラゴンクロウだ!」
ジハイドは、自信満々に言い放つ。
「おい勝手に決めんなし!」
俺はぶつくさと文句を垂れる。
「だってアタシたち魔導期間辞めちゃったしー。」
アンはブスッと窓を眺めている。
「俺たちゃ暇人だぜ?ボランティアだけってのも性に合わねえし……」
クロロもまた、腕を組んで天井を眺めている。
「……部屋を広くしよう。」
ドレイクは魔法を展開し、車の内部を拡張した。
すると、先ほどの数倍以上の空間が作り出される。
「………畜生勝手にしろ!」
ここまでされてしまえば、最早文句は言えない。俺は渋々承諾した。
「おっじゃあ行こうぜ!……ってどこに?」
ジハイドは俺に耳打ちする。
「知らなかったのかよ……まあ、色んなとこに、だ。現状、政府もあんまり機能してない。だから、俺たちで手の及ばないとこに行くんだよ。……俺にしかできないことをやるんだ。」
「俺たち、でしょ?」
アンは、俺の言葉を訂正する。
「そうっすね。俺たち。」
俺は笑いながらいう。
車は勢いよく発進した。
荒野を、砂漠を、ありとあらゆるところを駆ける車。
それはどこまでも、走って行った。
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