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剣豪編
語り場②
しおりを挟む「………!これは…」
武蔵の視界には、宇宙が広がっていた。
「『物干し竿』を使って魔力を乗算させて、その場にマルチバースを展開した。安心しな、酸素はある。じゃなきゃ俺も死ぬからな。」
「お前は…一体どこまで…!」
ゴクリと武蔵は唾を飲みこんだ。
一体、どこまで強くなると言うのだ。
そして、攻撃は開始された。
ケインは無数の隕石を落下させ、武蔵は刀を一斉に解き放つ。両者の攻撃はぶつかり合い、巨大な爆発が巻き起こった。
ケインは巨大なブラックホールを次々と生成し、武蔵の刀を吸収した。そして、刀の供給が切れたその瞬間を見計らい、ケインは刀を勢いよく振り下ろした。星10個分の質量が入り混じった一撃。受け止める事は、即ち死を意味する。
だが、武蔵はその常識を超えた。その一撃を、武蔵は受け止めたのだ。
「何?!」
彼の両手には、刀が握られていた。
「無刀流と二刀流の合わせ技…!」
武蔵の一撃は、ケインの半身を両断した。
「おおおおお!」
体の再生を捨て、攻撃にのみ集中させた一撃。
周囲の星から魔力と質量を集めた、宇宙そのものを集約させた斬撃。
武蔵は刀を一点に集中させる。
天文学的数字にまで到達した数の刀が集約した、星を破壊しうる程の一撃。
両者の刃はぶつかり合った。
宇宙空間の時空が歪み、凄まじい衝撃波が2人を突き放した。
「はあ…はあ…!」
「ふぅ…ふぅ…!」
2人は息を荒げながら睨み合う。戦いが終わりに近づいてきている事を2人は悟りつつあった。しかし、落単の光は何処にもない。
「行くぞ、黒式。」
「ああ…」
両者は魔力を開放させた。
武蔵の魔殲とケインの魔殲。両者の魔力は宇宙を震わせる。
「これがお前の本気か。」
「いや…まだだ。」
「何?」
武蔵は眉を挟ませた。
宇宙空間が歪んでいく。空間はケインへと集約し、彼に灯っていた魔力が胸部に移動する。髪が白く逆立ち、全身は黒く染まる。
「魔殲使用後に俺が動けたのも、どれほど怪我を負ってもたちなおせたのも、特異点による宇宙空間そのものを体に宿していたからだ。そこから生じる無限の魔力が俺を微力ながら支援していた。だったら、発生させた宇宙空間を俺の内部に押し留めれば、実質的に無限の魔力が使用できるって事だ。」
「ははは…!本当にお前は面白いな!」
武蔵は刀を構え、魔力を解放する。
「…行くぜ?」
ケインは宇宙空間を新たに展開すると、『物干し竿』に魔力を込める。
数秒の睨み合い。その後、一撃は振り下ろされた。
武蔵の魔殲は『全戦全勝』。相手に隙を強制的に作り出し、それに自動的に刀を振り下ろす能力。ケインが振り下ろした刀の間に開いた隙間。そこ向けて、刀を振り上げる。
ケインの魔殲は『並行世界』。数多の並行世界の可能性を取り出し、自身の世界に介入させる。並行世界から取り出した自身の一撃の可能性を、同時に叩き込んだ。
次に瞬きすれば、決着がつく。全てが終わる。
並行世界の生み出した無数の斬撃と、一撃に賭けた一閃。
立場は先ほどと真逆である。だが、だからこそ、両者は通じ合っていた。そして、だからこそ、勝負は初めから決定していた。
ケインは持っていた刀を上に放り投げ、武蔵の刀の下に潜り込んだ。自身に纏っていた宇宙を解き放ち、既に展開されていた宇宙と重ね合わせる。
するとどうなるのか。宇宙が崩壊するその一瞬の間、並行世界のケインが2体同時に顕現する。
武蔵が能力の対象としていたケインは、並行世界の彼。振り上げた時点でもう手遅れだった。彼の斬撃の真下に潜り込んだケインは、再び宇宙空間を展開.吸収し、下から上へと刀を振り上げた。
その一撃により、宇宙は終焉を迎える。空間がひび割れ、2人は海岸へと放り出された。
『ああ…そうか…今、わかった。』
武蔵は空を見ながら、ポツリとこぼすように思う。
誰よりも強かった。勝ち続け、斬り続けた。
勝負を挑む者、そして畏怖するもの、嗤うもの。会ってきたものは様々だった。刀と生き、人と生きた人生は楽しかった。
魔族であっても、人は強ければ認めてくれる。都合のいいものだと魔族は笑ったが、自分は好きだった。そうやって時代に合わせて生きていく人間に、なってみたいと思うようになっていた。
だが叶わないと知っていた。だからこそ、自分を打ち倒すのは人間であってほしいと思うようになった。
とある男が、私に挑んだ最後の人間だった。既に天下無双と呼ばれ始めた自分は、誰からも戦いを求められなかった。だから嬉しかった。人と再び戦えるのが。
だが、わかっていた。人が勝てる筈がない、と。その男は、自分の前に敗れた。
「武蔵よ…楽しかったか?」
男は問う。
「ああ…とても…」
「嘘をつけ、どう考えてもお前の圧勝だろうに。刀すら…使ってくれなかったな。」
「………なあ、お前はどうして私に立ち向かった?」
逆に私は男に問う。
恐らく、怖かったのだ。
勝って、勝って、勝ち続けて…ならば、その先はどうなる?
私はどこに向かえばいい?
「剣を…愛しているからさ。」
その回答に、私は何も答えられなかった。久しく感じていなかった信念。それをその男は口にしたのだ。
「お前も剣を愛しているなら…生き続けろ。いつかお前を殺せる相手が見つかる。その時まで…刀を振え。」
その男はそう言うと、男は刀を私に手渡し、息を引き取った。
「お前は……どうして。」
『物干し竿』と言う名前のそれを、私は長年持ち続けた。
100年経ち、200年経ち、そして刀を握らなくなり、物干し竿を海に流した。
誰かがあれを拾うだろうか。それは私の敵となるだろうか。
思いを巡らせながら、瞳を閉じた。あと100年、200年。あの刀を持ったものが私の宿敵となる。そう信じて。
「よお、元気か?」
ケインはその場に倒れる武蔵を見下ろす。その場には、波のさざめきのみが聞こえている。
「なあ…どうだった?俺は。」
ケインは問う。
「最高だ。……お前は私の宿敵に何よりも相応しかった。」
「そうかよ…アンタのお陰で俺は変われた。俺のために誰かを信じる勇気が知れた。ありがとな。」
「そうか……私はここで死ぬ。あれは…お前に渡そう。」
武蔵は自身の刀を指差した。
「あれは…」
「私の刀だ。私の刀とお前の刀、同化できるはずだ。」
ケインは刀を拾う。すると、彼の持っていた刀がそれを吸収し、刀は赤紫色に変色した。
「さあ、行くといい。死ぬのは1人が良いからな。」
武蔵は先ほどとは打って変わって、ケインを突き放すような態度に変わる。
「なんじゃそりゃ…いきなり冷たくなりおって……じゃあな。武蔵。お前の生き様…忘れないぜ。」
ケインはそう言うと、その場を立ち去った。
「なあ……お前。いや、佐々木と言う名が今のお前にはあるか。お前の見てきたものは…こんなにも綺麗だったんだな。」
『負けた時に見える景色…お前も知れると良いな。』
佐々木の言葉を思い出す。
『そうか…さらばだ。』
かつて自分もそう言って冷徹に切り伏せた。
そうだ、あの男も、黒式も、さっさと自分同様に、私の前から去るべきなのだ。
刀は出会いと別れの象徴。であればそれが正しい。
「しかし…なんだ。中々どうして…清々しいのだな。」
武蔵は1人そう呟くと、消えていった。
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