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剣豪編
無力と孤独
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「こいつはどういうことだよ全く…」
ケインはソファに倒れるように座り込んだ。
「失踪…と取って良いでしょうね。」
レドは俯きながら言う。
「一体どこに?なんの目的で失踪したっていうんだい?」
沈黙が走った。当然である。彼女が旅立つ瞬間など、誰1人として目撃来ていないのだから。
「俺が思うに…」
「玄式花織はウチが預かった。」
「!!」
シャーロットが口を開こうとしたその瞬間、突如窓ぎわから声が発せられた。
「テメェ…!」
ケインは刀を抜こうとする。だが、それをレドは引き止めた。
「なるほど…玄式家の人間…と言ったところでしょうか。」
「正解…っちゃ正解だが、俺は正確にゃあ玄式家の人間じゃない。とりあえずこれ以上は話せない。
お前らが動けば玄式花織の命はない。良いな?」
「……」
ケインは、風に靡く窓のカーテンからチラつく影をじっと見つめた。
「お前…忍者か。」
「ご名答だぜ、黒式ケイン。元分家の男。
…とにかく、これ以上手出しはしないように、な。それ以上関わろうものならウチも容赦はしない。」
そう言うと、窓際の人影はスッと消えていった。
「………」
ケイン達は、暫くその場に立ち尽くしていた。
「おー花織ちゃん!おっきなったなあ!」
着物を着た男は、部屋で1人正座する花織にしゃがみ、話しかける。
「……」
彼女は沈黙を守り続けていた。
「おい、貞能。」
黒髭を生やした男は、貞能という男の肩を掴んだ。
「わかっとります、羽咲さん。ほな、行きましょか。」
貞能は立ち上がると、花織のいた部屋を後にした。
「おい、花織。ここに戻ってきた以上は後戻りはできんぞ。」
羽咲は花織の方を向かず、貞能の背中を眺めながら淡々と言い放つ。
「わかっております、お父様。」
花織はただそれだけ返すと立ち上がり、羽咲の後についていった。
大広間の襖を開けると、そこには数100人を超える彼らの部下が待ち構えていた。
「さて……諸君、良くぞ集まってくれた。」
羽咲は正座すると、一堂に向けて話し始める。
「……」
誰1人として声を発することなく、彼の話に耳を傾けていた。
「我々玄式家はこの10年で衰退した。政界からは追い出され、挙句分家の悪行により規模が半数にまで縮小した。
だが今回、我々はそれを取り戻す。
天叢雲剣を、ここで生成するのだ!」
おおおおお!と周囲から歓声が上がる。
その中で、1人の魔族は沈黙を貫いていた。
「明日、早急に取り掛かる。ドラゴンクロウの警戒は怠たるな。」
「…おい。」
沈黙を貫いていた魔族が口を開いた。
「如何致しましたか?」
羽咲は先ほどと打って変わって遜った口調へと切り替える。
「俺は黒式ケインとは戦えるのか?……でなければ交渉は決裂だぞ?」
「勿論ですとも。黒式ケインとの戦いは貴方に任せます。
宮本武蔵殿。」
「…一つ、良いでしょうか?」
部下の1人が手を挙げる。
「どうした?述べてみよ。」
羽咲はその質問を許可する。
「こい…この方は魔族なのでは?どうして…」
「馬鹿者が!名を聞かなかったのか?かの大剣豪、宮本武蔵だ!」
「し、しかし宮本武蔵が魔族というのはどうにも…剣豪と呼ぶには…」
「貴様…」
羽咲は刀を抜く。
だが、次の瞬間、彼が引き抜いた筈の刀の刀身が、全て跡形もなく切り落とされた。まるで一瞬のうちに風化してしまったかのように。
「……!」
羽咲の額から汗が垂れる。これを喰らっていたら、どうなっていたと言うのだ。
「…よい、鎮まれ。不要な争いは好まん。」
武蔵の言葉に気押され、羽咲はゆっくり座り直した。
「では…屋敷の外の護衛にはハンゾウ部隊についてもらう。ハンゾウ、頼むぞ。」
「御意。」
ハンゾウと呼ばれた巨漢の男は、表情を一才変えることなく答える。
「そして護衛は、白金と玄式の計300名の護衛をつかせる。
貞能、指揮はそちらに任せた。」
「あいあい、了解しやした。」
気軽な態度で貞能は返した。
「それでは、明日まで英気を養うように。」
「はっ!」
一同は大広間を後にする。
「では花織様、こちらへ。」
忍者は花織を立ち上がらせ、地下室へと案内した。
「明日までここで待機していてください。では。」
指示通り、花織は牢屋の中へと入る。
忍者はそう言い残すと消えていった。
「花織ちゃあん、会いたかったでえ。」
牢屋の中で壁を見つめていた花織の元に、貞能が現れる。
「……何か。」
「そない緊張せんでもええやーん!元許嫁やろ、俺ら。」
「はあ…」
「んで……向こうでの暮らし…どないやったん?」
「………」
「ええやんええやん少しくらい!俺って口硬いんやんか、一瞬でええから!
……答える気ぃないんか。つくづく釣れない女やの。ええわ、取り敢えずは。俺のこと、嫌いか?」
「……正直、好きではありません。」
「しょーじきやなあほんま!そう言うとこ好きやでぇ、花織ちゃん。でもな、俺のものにならん女に価値なんて無いねん。」
貞能はそう言い残すと、花織の前から姿を消した。
「…………」
花織はギリ、と唇を噛んだ。
誰か、私を助けて欲しい。そう微かに願う気はあった。
だが、その感情は一瞬にして自己嫌悪にかき消された。
ケインはソファに倒れるように座り込んだ。
「失踪…と取って良いでしょうね。」
レドは俯きながら言う。
「一体どこに?なんの目的で失踪したっていうんだい?」
沈黙が走った。当然である。彼女が旅立つ瞬間など、誰1人として目撃来ていないのだから。
「俺が思うに…」
「玄式花織はウチが預かった。」
「!!」
シャーロットが口を開こうとしたその瞬間、突如窓ぎわから声が発せられた。
「テメェ…!」
ケインは刀を抜こうとする。だが、それをレドは引き止めた。
「なるほど…玄式家の人間…と言ったところでしょうか。」
「正解…っちゃ正解だが、俺は正確にゃあ玄式家の人間じゃない。とりあえずこれ以上は話せない。
お前らが動けば玄式花織の命はない。良いな?」
「……」
ケインは、風に靡く窓のカーテンからチラつく影をじっと見つめた。
「お前…忍者か。」
「ご名答だぜ、黒式ケイン。元分家の男。
…とにかく、これ以上手出しはしないように、な。それ以上関わろうものならウチも容赦はしない。」
そう言うと、窓際の人影はスッと消えていった。
「………」
ケイン達は、暫くその場に立ち尽くしていた。
「おー花織ちゃん!おっきなったなあ!」
着物を着た男は、部屋で1人正座する花織にしゃがみ、話しかける。
「……」
彼女は沈黙を守り続けていた。
「おい、貞能。」
黒髭を生やした男は、貞能という男の肩を掴んだ。
「わかっとります、羽咲さん。ほな、行きましょか。」
貞能は立ち上がると、花織のいた部屋を後にした。
「おい、花織。ここに戻ってきた以上は後戻りはできんぞ。」
羽咲は花織の方を向かず、貞能の背中を眺めながら淡々と言い放つ。
「わかっております、お父様。」
花織はただそれだけ返すと立ち上がり、羽咲の後についていった。
大広間の襖を開けると、そこには数100人を超える彼らの部下が待ち構えていた。
「さて……諸君、良くぞ集まってくれた。」
羽咲は正座すると、一堂に向けて話し始める。
「……」
誰1人として声を発することなく、彼の話に耳を傾けていた。
「我々玄式家はこの10年で衰退した。政界からは追い出され、挙句分家の悪行により規模が半数にまで縮小した。
だが今回、我々はそれを取り戻す。
天叢雲剣を、ここで生成するのだ!」
おおおおお!と周囲から歓声が上がる。
その中で、1人の魔族は沈黙を貫いていた。
「明日、早急に取り掛かる。ドラゴンクロウの警戒は怠たるな。」
「…おい。」
沈黙を貫いていた魔族が口を開いた。
「如何致しましたか?」
羽咲は先ほどと打って変わって遜った口調へと切り替える。
「俺は黒式ケインとは戦えるのか?……でなければ交渉は決裂だぞ?」
「勿論ですとも。黒式ケインとの戦いは貴方に任せます。
宮本武蔵殿。」
「…一つ、良いでしょうか?」
部下の1人が手を挙げる。
「どうした?述べてみよ。」
羽咲はその質問を許可する。
「こい…この方は魔族なのでは?どうして…」
「馬鹿者が!名を聞かなかったのか?かの大剣豪、宮本武蔵だ!」
「し、しかし宮本武蔵が魔族というのはどうにも…剣豪と呼ぶには…」
「貴様…」
羽咲は刀を抜く。
だが、次の瞬間、彼が引き抜いた筈の刀の刀身が、全て跡形もなく切り落とされた。まるで一瞬のうちに風化してしまったかのように。
「……!」
羽咲の額から汗が垂れる。これを喰らっていたら、どうなっていたと言うのだ。
「…よい、鎮まれ。不要な争いは好まん。」
武蔵の言葉に気押され、羽咲はゆっくり座り直した。
「では…屋敷の外の護衛にはハンゾウ部隊についてもらう。ハンゾウ、頼むぞ。」
「御意。」
ハンゾウと呼ばれた巨漢の男は、表情を一才変えることなく答える。
「そして護衛は、白金と玄式の計300名の護衛をつかせる。
貞能、指揮はそちらに任せた。」
「あいあい、了解しやした。」
気軽な態度で貞能は返した。
「それでは、明日まで英気を養うように。」
「はっ!」
一同は大広間を後にする。
「では花織様、こちらへ。」
忍者は花織を立ち上がらせ、地下室へと案内した。
「明日までここで待機していてください。では。」
指示通り、花織は牢屋の中へと入る。
忍者はそう言い残すと消えていった。
「花織ちゃあん、会いたかったでえ。」
牢屋の中で壁を見つめていた花織の元に、貞能が現れる。
「……何か。」
「そない緊張せんでもええやーん!元許嫁やろ、俺ら。」
「はあ…」
「んで……向こうでの暮らし…どないやったん?」
「………」
「ええやんええやん少しくらい!俺って口硬いんやんか、一瞬でええから!
……答える気ぃないんか。つくづく釣れない女やの。ええわ、取り敢えずは。俺のこと、嫌いか?」
「……正直、好きではありません。」
「しょーじきやなあほんま!そう言うとこ好きやでぇ、花織ちゃん。でもな、俺のものにならん女に価値なんて無いねん。」
貞能はそう言い残すと、花織の前から姿を消した。
「…………」
花織はギリ、と唇を噛んだ。
誰か、私を助けて欲しい。そう微かに願う気はあった。
だが、その感情は一瞬にして自己嫌悪にかき消された。
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