Heavens Gate

酸性元素

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地獄編

堕天と打開②

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カイムにはアンナ、ジーク、デボラ、ノーマン。
ウヴァルにはメリッサ、アン、ジハイド。
「はははは!」
ウヴァルの魔力が空気を揺らす。魔力が全身を刺激する。
ジハイドでさえも、前に出るのを躊躇った。
アンは矢とメリッサの糸、それぞれが空中で交差する。
ウヴァルは剣を展開し、空中の糸を全て切り裂いた。
しかしそれはあくまでおとり。残った矢は剣の隙間を通り抜け、ウヴァルの体を……
貫かなかった。剣は一瞬にして移動すると、50を超える矢を即座に撃ち落としたのだ。
何と馬鹿げた行為。矢が体に到達するまでの時間は小数点第3位にまで行き届く筈。それを息をするように弾いてみせた。理解が追いつかぬほどの神技だった。
「しゃあああ!」
ジハイドは剣の間を通り抜け、ウヴァルに再び剣を振る。
しかし、振り上げようとした腕は、一つの肉片も残らずバラバラにされていた。
「ありゃ?!何で?」
ジハイドの右手から血煙が上がる。
彼が驚愕するその間に、ウヴァルの剣は彼の体を完全に消し去った。
「ぐおおお……やっべえ…勝てねえわこれ。」
完全に消え去った状態からジハイドは再生させると、頬に垂れる冷や汗を拭った。

ノーマン、デボラ、ジークとカイムは正面から打ち合っていた。
不可視の攻撃、洗練された動き。そして周囲に漂う目玉から発射される光線。それら全てを避けながら。
一撃でも喰らえば即死なのは大前提。そのような攻撃が凄まじい速度と連打で繰り出される。常人ならば精神は持たない。だが………
「ははは!」
「ふははは!」
「あははは!」
3人はとうにその感情は捨てていた。ノーマンでさえ、この状況に高揚していたのだ。
アンナは周囲に浮かぶ瓦礫を飛び移り、目玉を撃ち落としていく。発射される光線を体を捻って回避し、引き金を引く。その繰り返し。
「さあて…やるか。」
無尽蔵に沸く目玉。しかし、完全に打ち落としたその一瞬の隙を狙い、カイムに銃撃を発射する。
流星螺旋輪廻アストロノーツ!」
だが、発射された弾丸は、火花を立てて空中で散った。
「チィ!」
アンナは舌打ちすると、再び目玉の処理へと戻る。
「ぐっ!」
「がっ!」
「クソ!」
3人はカイムに突き放される。

「この程度ですか?もっと見せてください、貴方達の姿を。」
「はっはっは!良いぜ!元気なのは良いことだ!もっとかかってきなさい!」
メリッサは、アンへと視線を移す。
アンはコクリと頷き返すと、再び矢を発射した。

アンナは目玉を撃ち落とす手を止め、カイムにできうる限りの限界まで、銃弾を放つ。
「……?」
悪魔たちは困惑した。何故、殆ど効果が無いのに。
「貴方は先に潰しておいた方が良さそうだ。」
カイムはアンナに魔能力を浴びせる。
アンナは咄嗟に右に避け、右肩の損傷へと被害を抑える。
「…残念だな、本命はアタシじゃねえ。」
ノーマン、ジハイドは右手のひらを開き、砲台を展開すると、それぞれの悪魔の頭に銃口を当てた。
レド.ケニーシュタインの使用する砲台の模造品。恐らく、魔人衝突時に海に発生したものは悪魔だった。
即ちそれを倒せたレドの攻撃は、奴等にも通じる。
だが、発射された砲撃を、2人はあっさりと回避してみせた。発射された砲台は、ボロボロと崩れ去ってしまった。
「…は?」
一同は驚愕した。回避が早いなんてものじゃ無い。
これが、悪魔。
ジークの腹部が削り取られる。
「ぐっ!」
ジハイドの体が剣で地面に固定される。
「クッソ…また動けねえよ…」
『メリッサさん!』
『メリッサ少将!』
『少将!指示を!』
メリッサは沈黙した。これ以外に、どうやって勝てというのだ。
兄様、貴方なら……。

『おい、聞いてくれ。』
突如、アンの無線機に連絡が入る。
「アンドレアさん……?」
間違いない、彼の声だ。
『はあ……悪魔…奴を今…俺は倒した。その方法を教える。』
そんなバカな。この化け物を、たった1人で打倒したというのか。
『そいつの打倒の方法は…内側からの破壊だ。内側から破壊すれば再生が弱まる。そのあとなんとかして固定して一撃で殺せ。……あとは、頼んだぞ。』
ブツリ、と無線機は切れた。
何の意味もないかもしれない。分かったところで死ぬかもしれない。だが、先は見えた。
『ジハイド君…また頼めるかい?』
「おうよ。」
ジハイドは深く屈伸をすると、ウヴァルに向かっていった。

「……」
崩れゆく洞窟の中、腹部を押さえてアンドレアは座っていた。
ああ、何というか。こんな幕引きなんだな。
天井を眺める。こんな状態と反比例して、相変わらず光の乱反射する洞窟は綺麗だった。
昔は貧乏で、金が必要だった。
だから必死で金を稼いだし、盗みもやった。食べ物が欲しかったわけじゃ無い。姉の病気のためだった。
だけど、金をどれだけ手に入れても、いい医者を持っても、その頃には姉は手遅れだった。
「なあ!直してくれよ!アンタ医者だろ?!なあ!……頼むよ。」
どれだけ懇願しようと、それは叶わなかった。結局嘘みたいに姉は死んだ。眠るような死でもなければ、苦しみながらの死でも無い。何となくああ、死ぬんだな。と察することが出来る死だった。
金がどれだけあろうと、叶わないことがあると知った。
だけど金がなければ、何も叶わないことも知った。
だから金を誰よりも欲しがったし、このやり方を恥じることもなかった。

「ああ……空ってこんなに綺麗だったっけ。」
洞窟に開いた穴から見える空を眺める。
輝く星に手を伸ばした。
届くはずがないか。
届くはずなんかない。
「ははは!あったじゃねえか。金で買えないもの。」
笑いながら、アンドレアは岩に沈んでいった。

「………」
クレアはその場に倒れ込んでいた。両足を魔族に食われたのだ。
「さて……私は戻るとしよう。」
ベクターは彼女に背を向け、塔の内部へと戻っていった。
「いや……間に合った。」
しかし、振り絞るような声でクレアは言う。
ベクターは塔の内部にて、人影を見つける。
「よお……来たか。俺も今来たところだぜ。」
シャーロットは息を切らしながらいう。
「ははは!無駄では無かったとでも言いたいのかい?そういう感情こそが無駄なのだよ!」
シャーロットの魔法をベクターは相殺する。
「破壊は無駄だと分かっているだろう?既に必要最低限の魔力は送り出している。」
「だからと言ってテメェを放置するわけにも行かんだろう。
そのままだとどうせレドのとこに行く。だろ?」
「そうか…ならば……死ね!」
ベクターとシャーロットは塔から飛び出す。
互いの魔力は空中で衝突する。周囲の建物が吹き飛ばされていく。
「耐えられるのか?お前に。」
「耐えてみせるさ。」
両者の顔に笑みが浮かぶ。両者の間に快楽も愉悦もそこには無い。それでも口角は釣り上がっていた。
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