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地獄編
デウス.エクス.マキナ②
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現在……
「さて…全員揃ったな?」
円卓には以前とは違い、マスクをつけた少年、隻眼の魔族、そして生肖が追加で座っていた。
「状況は?」
「ヴァルダロッツォ地区、ベルヘリット地区、グランヴァニア地区は既に制圧が完了しました。ロザリオ地区ももう時期占領できるでしょう。」
「魔道士の対策は練っただろうね?」
「ええ、勿論です。国公の6割は危険区域周辺に根ざしている。となればそこに巨大な崖を作り、強固な魔力防壁で保護してしまえば良い。飛行魔法を使用しながら防壁の破壊をするなど、シャーロットレベルでないとほぼ不可能。実質的に国公は4割の戦力で戦う事になる。まあその残りも先手を打って破壊したので、実際はもっと少ないですがね。魔族と戦うという警戒心のない連中など取るに足らず、と言うものです。」
「数年単位で地下に仕掛けた爆弾は成功したか。よくやったグレゴリオくん。」
グレゴリオ、と呼ばれた軍服の男は、満足げな表情で頭を下げた。
「警戒すべきはまずドラゴンクロウだが…どうだ?」
「シャーロット.ギルティ.ホワイトの拘束、及びクレア.アインベルツ、ハナオ.フウギシキの殺害。それぞれ完了しました。しかしケイン.クロシキ、レド.ケニーシュタイン。これら2人の行方は不明です。」
燃え盛る事務所の部屋。シャーロットは周囲を見渡す。
「………誰だ?」
黙示不可能な存在に問いかける。
どういう事だ。魔眼でこれを予見出来なかった。
「……!」
彼女は自身の足元を見る。
両足が動かない。固定されている。
氷でもなく、石でもない。全くの別物。
「クソ…!やられた…!相手は想像以上の………!」
言葉を最後まで言うことはなかった。既に彼女の体は、生きた剥製と化していたのだから。
「…完了だにゃ。」
「シュー…」
何処からともなく、フードを被った少女と、白い防護服の男が現れる。
「ほんじゃ後はよろしくにゃー。ミーは持ち場に行くナゴ。」
「……」
男は、黙って頷いた。
そしてクレア、花織の生死を確認したのち、シャーロットを布で包み、持ち上げると、窓から飛び降りた。
車に乗せられたシャーロットは、何処か遠くへ運ばれていく。その姿を見るものは誰1人いなかった。
「…そうか、彼らを逃したか。1番警戒すべきだったのだが…」
「まーこんなんで簡単にやられるようじゃ警戒する意味もあったもんじゃねえよ。……なあ、俺にやらせろよ。」
鎧を纏った男は、挑発するように提案を投げる。
「……反対意見は?」
「やだね。俺もやりてぇ。やはり一方的に勝つんじゃつまらねぇ。ちょっとばっかし味見したいだろ?」
全身に機械を纏った大男は、男の方を睨みながら言い放った。
「へぇ……じゃあよ、俺らが同時に出るってのはどうだ?俺ら2人は丁度待機だろ?」
「……反対意見は?」
手は上がらなかった。
「ふむ、では各自行動開始だ。
志田頼昌、ベン.ビスケットを中心とした部隊は2人はドラゴンクロウの残党の捜索。」
鎧の男、大男はその場から消えた。
「リリッシュ.ロストリキッド、グレゴリオ.バルハランテは伏兵による民間の制圧。」
続けて女医、軍人も姿を消した。
「デニング.ドラリガント、师生肖、オーガスタス.ウッド、エイブラハム.レイガーは、生存が確認されている魔導士の殲滅に向かえ。戦力はそこに割く。…具体的な人数はここに記した、各自確認するように。」
男は事前に渡した資料を、左手で叩いた。
小柄な魔族、スーツの男、マスクをつけた少年、スケートボードを背負った少年はその場を後にする。
「さて…アイルアドラ.レグリエッサくん、ジョージ.エイドリアンくんは事前に言った通りの場所に。」
「……御意。」
「直ちに。」
最後の2人となった隻眼の魔族、細身な神父が消えた後、男は立ち上がり、屋上へと上がる。
街は既に一面火の海。
「ふふふふ…ははははははは!見てるかい…マリー…君の望む景色がもう時期完成する!」
火の海すらも揺らぐ程の揺れが起きる。
コンクリートを突き破り、巨大な塔が現れる。
だがその男-
ベクター.ボイルは笑い続けていた。
「はあ…はあ…!待てよ…待てって!」
不良はレドの手を振り払った。
「何ですか…?」
「どこに連れてくんだよ!ただ適当に逃げてるだけじゃねえかよ!」
「規模から見れば、少なくとも現状では彼らが攻撃しているのは首都のみです。ここから離れれば安全です。」
「ど、どうやって…」
「……まあ厳しいかもですね。魔導士が誰1人いない辺り、おそらく首都から出る手段を絶たれてる。」
「そんな…」
「だからって諦める理由にはならない。その場に安住する事を選ぶのはもう沢山なんでね。」
「なんでそこまで……俺はアンタをカツアゲしたんだぞ…」
「………下がって。」
レドは不良をつき飛ばし、同時に自身も後ろに下がった。
その直後、強い衝撃と共に埃が彼らの視界を覆う。
「……?!誰だ?」
「ははははは!見つけたぜぇ?ドラゴンクロウの残党。あーでもハズレの方か。誰だ誰だと聞かれたらって奴だ、名乗ってやるよ。ベン.ビスケット。機械鎧のビスケットだ。聞いた事あんだろ?」
「生憎ロボットコンテストに興味は無いので。」
「そうかよ、俺がロボットならテメェはエテ公だな。」
ビスケットの拳が迫る。
レドは装置を起動した。黒い魔力の鎧が彼を包み込む。
ビスケットの拳は空を切り、代わりにレドの拳が顔面に叩き込まれていた。
「機械の鎧で生きがらない方がいい。こっちは魔能力の鎧なんだから。」
「ははははは!ハズレだと思ったが案外やるじゃねえの!」
ビスケットは高く飛び上がった。高く積み上げられた瓦礫の上を飛び移っていく。
あの巨体で猿のような身のこなし。
とてもじゃないが対応はできない。
ビスケットの拳は、レドの体に叩き込まれた。
骨が折れる音が彼の体に響き渡る。
「っ……!」
だが、この程度の痛みで倒れるほど彼の精神はヤワではない。折れた骨を意にも介さず、彼は即座に立ち上がった。
「さあて…まだ終わらねえよ?」
ビスケットの身体中からアームが生える。無数の回転ノコギリが彼を取り囲んだ。
「ジャッキーーーーンってね。さあて…殴るか斬るかぶっ潰れるか……スクラップ地獄の開幕戦うううううう!」
アームがレドに向かって伸びる。
ビスケットはそれとは別に己の拳を振り上げた。
ノコギリに斬られるか、鉄の拳に押し潰されるか。
無理やり魔装兵器で戦闘能力を伸ばした彼には無謀も甚だしかった。
最早逃げる以外できない。そんなレドを容赦なくビスケットは追う。
「ダメだ…あいつは死ぬ…明らかに力の差がある…」
不良の男は震え上がった。奴が死んだら次は俺なのか。
それと同時に、今更になって生を求めている自分を嫌悪した。
「………!」
突如、レドの逃走は止まる。それはたった1秒にも満たないこうどうだった。
ノコギリの隙間を通り抜け、右足のカウンターを叩き込んだのだ。
一瞬のよろめき。ここしかない。続け様の2発目を構える。急所がガラ空きだ。ここに攻撃すればダメージが通る。
が、時間切れだった。
纏っていた鎧は砕け、レドは床に転がった。
「痛ってぇ~…マジ痛ぇわこん畜生。…時間切れって奴か。ちぇー盛り上がった気がしたんだがよお…テレフォンパンチで終わったボクシング観た気分だぜ。」
「……」
レドはそれでも立ち上がった。
「何で…!どう考えても勝てねぇだろ!なんで…!」
「ギャハハハハ!そうでなくっちゃなあ!お前みたいにイカれた奴が俺は大好きだ!」
ノコギリの刃がレドに迫る。
彼が死を覚悟したその瞬間
それらは全て砕け散った。
「お?」
「格闘技がやりたいならルールを守りなよ?明らかに階級違いだ。」
中年の男がそこに立っていた。
「ゾルダ.フランツジェイル…!」
「おおお…おおおおおおお!最強の精霊使い!たまげた!最高だ!昂る!漲る!鳩走るぜええええええ!」
「…ハベトロット。」
無数の糸がビスケットに絡み付いた。
「因みに言っておくけど、精霊だけじゃなくて妖精も使える。…そのまま動かないでくれ。エアリアル、頼むよ?」
『よっしゃ行くぜ相棒!ぶっ飛ばすぜベイベー!』
風を司る精霊、エアリアル。あらゆる場所を飛び回るその能力を利用し、超音速でぶつかる。
「『風乱画竜』」
ビスケットは軽々と吹き飛ばされた。息ができない。全身が痛い。だが、面白い。
「ははははは!盛り上がって参りましたあああああああ!」
全身からキャノン砲を取り出す。
「死ぬなよお?死んじまうなよ精霊使い!」
遠方から砲撃の大群が襲いかかる。
「あー…君、こっち来て。」
瓦礫に身を潜めていた不良は、ゾルダの元へと引き寄せられた。
「離れないでね。」
レーザーがまた鼻の先へと迫った瞬間、ゾラダは精霊を召喚した。
「ベヒモス、頼むよ。」
巨大な像ようなの姿をした精霊が降り立った。
それから生成された盾は、弾幕を次々飲み込んでいく。
「送るところ間違えてるよ?返品だ。」
ベヒモスは飲み込んだレーザーを吐き出し、全てビスケットの元へ返した。
「マジっすか…おいおいおい待て待てタンマ!うおおおお!」
ビスケットはビルから飛び降りる。
彼の頭上をレーザーが通り過ぎていく。
「かーらーのー?3tパーンチ!」
ビスケットはビルの壁を蹴ると、レーザーをかわしながらゾルダと急速に距離を積める。
「3tか…ならこっちは10で手を打とう。フューリー、頼むよ。」
『うひひひひ!やっちまう?やっちまうかい?』
ゾルダの髪は逆立った。狂戦士へと変わり、魔力で限界まで強化したその腕力は、ビスケットの鎧を容易に砕いた。
「イフリート、やれ。」
『了解だゴラァ!』
数1000℃の熱がビスケットの体を削り取った。
全てを蒸発させたその炎は、最早防御など不可能だった。
「あー…クソ…血も出ねえか…。まあでも…楽しかったからどーでも良い…」
その場に倒れ込んだビスケットは、そのまま動くことは無かった。
「さて……君はレドくんだよね?よろしく。そこの彼は?」
「一般人です。保護しようかと思いまして。」
「…………他にも助けられる人が居たはずだよね?その人は?」
「ああ、まあ…しょうがないかなあ、と。彼を守る為には足手纏いですし。」
「………?!」
不良の男は困惑していた。何故、殆ど初対面の俺にここまでするんだ?彼は恐怖を感じざるを得なかった。
「どうして…でしょうね。よくわかりません。」
「そうかい…君、名前は?」
「あ…えっと…サレム.スミスです。」
「サレムくんか…よろしくね。で、今後の方針は?」
「まずは先輩と合流します。先輩が向かったであろう場所には近づいていたのでそう遠くはないかと。」
「なるほど…まあ闇雲に探すより場所が割れてる方が良いからね。……君の場合それ以外の方が大きいんだろうけど。」
「決まりですね。早く向かいましょう。先輩の性格からして、そう遠くには行ってないでしょうし。」
レド達は、ケインの元へと向かった。
「さて…全員揃ったな?」
円卓には以前とは違い、マスクをつけた少年、隻眼の魔族、そして生肖が追加で座っていた。
「状況は?」
「ヴァルダロッツォ地区、ベルヘリット地区、グランヴァニア地区は既に制圧が完了しました。ロザリオ地区ももう時期占領できるでしょう。」
「魔道士の対策は練っただろうね?」
「ええ、勿論です。国公の6割は危険区域周辺に根ざしている。となればそこに巨大な崖を作り、強固な魔力防壁で保護してしまえば良い。飛行魔法を使用しながら防壁の破壊をするなど、シャーロットレベルでないとほぼ不可能。実質的に国公は4割の戦力で戦う事になる。まあその残りも先手を打って破壊したので、実際はもっと少ないですがね。魔族と戦うという警戒心のない連中など取るに足らず、と言うものです。」
「数年単位で地下に仕掛けた爆弾は成功したか。よくやったグレゴリオくん。」
グレゴリオ、と呼ばれた軍服の男は、満足げな表情で頭を下げた。
「警戒すべきはまずドラゴンクロウだが…どうだ?」
「シャーロット.ギルティ.ホワイトの拘束、及びクレア.アインベルツ、ハナオ.フウギシキの殺害。それぞれ完了しました。しかしケイン.クロシキ、レド.ケニーシュタイン。これら2人の行方は不明です。」
燃え盛る事務所の部屋。シャーロットは周囲を見渡す。
「………誰だ?」
黙示不可能な存在に問いかける。
どういう事だ。魔眼でこれを予見出来なかった。
「……!」
彼女は自身の足元を見る。
両足が動かない。固定されている。
氷でもなく、石でもない。全くの別物。
「クソ…!やられた…!相手は想像以上の………!」
言葉を最後まで言うことはなかった。既に彼女の体は、生きた剥製と化していたのだから。
「…完了だにゃ。」
「シュー…」
何処からともなく、フードを被った少女と、白い防護服の男が現れる。
「ほんじゃ後はよろしくにゃー。ミーは持ち場に行くナゴ。」
「……」
男は、黙って頷いた。
そしてクレア、花織の生死を確認したのち、シャーロットを布で包み、持ち上げると、窓から飛び降りた。
車に乗せられたシャーロットは、何処か遠くへ運ばれていく。その姿を見るものは誰1人いなかった。
「…そうか、彼らを逃したか。1番警戒すべきだったのだが…」
「まーこんなんで簡単にやられるようじゃ警戒する意味もあったもんじゃねえよ。……なあ、俺にやらせろよ。」
鎧を纏った男は、挑発するように提案を投げる。
「……反対意見は?」
「やだね。俺もやりてぇ。やはり一方的に勝つんじゃつまらねぇ。ちょっとばっかし味見したいだろ?」
全身に機械を纏った大男は、男の方を睨みながら言い放った。
「へぇ……じゃあよ、俺らが同時に出るってのはどうだ?俺ら2人は丁度待機だろ?」
「……反対意見は?」
手は上がらなかった。
「ふむ、では各自行動開始だ。
志田頼昌、ベン.ビスケットを中心とした部隊は2人はドラゴンクロウの残党の捜索。」
鎧の男、大男はその場から消えた。
「リリッシュ.ロストリキッド、グレゴリオ.バルハランテは伏兵による民間の制圧。」
続けて女医、軍人も姿を消した。
「デニング.ドラリガント、师生肖、オーガスタス.ウッド、エイブラハム.レイガーは、生存が確認されている魔導士の殲滅に向かえ。戦力はそこに割く。…具体的な人数はここに記した、各自確認するように。」
男は事前に渡した資料を、左手で叩いた。
小柄な魔族、スーツの男、マスクをつけた少年、スケートボードを背負った少年はその場を後にする。
「さて…アイルアドラ.レグリエッサくん、ジョージ.エイドリアンくんは事前に言った通りの場所に。」
「……御意。」
「直ちに。」
最後の2人となった隻眼の魔族、細身な神父が消えた後、男は立ち上がり、屋上へと上がる。
街は既に一面火の海。
「ふふふふ…ははははははは!見てるかい…マリー…君の望む景色がもう時期完成する!」
火の海すらも揺らぐ程の揺れが起きる。
コンクリートを突き破り、巨大な塔が現れる。
だがその男-
ベクター.ボイルは笑い続けていた。
「はあ…はあ…!待てよ…待てって!」
不良はレドの手を振り払った。
「何ですか…?」
「どこに連れてくんだよ!ただ適当に逃げてるだけじゃねえかよ!」
「規模から見れば、少なくとも現状では彼らが攻撃しているのは首都のみです。ここから離れれば安全です。」
「ど、どうやって…」
「……まあ厳しいかもですね。魔導士が誰1人いない辺り、おそらく首都から出る手段を絶たれてる。」
「そんな…」
「だからって諦める理由にはならない。その場に安住する事を選ぶのはもう沢山なんでね。」
「なんでそこまで……俺はアンタをカツアゲしたんだぞ…」
「………下がって。」
レドは不良をつき飛ばし、同時に自身も後ろに下がった。
その直後、強い衝撃と共に埃が彼らの視界を覆う。
「……?!誰だ?」
「ははははは!見つけたぜぇ?ドラゴンクロウの残党。あーでもハズレの方か。誰だ誰だと聞かれたらって奴だ、名乗ってやるよ。ベン.ビスケット。機械鎧のビスケットだ。聞いた事あんだろ?」
「生憎ロボットコンテストに興味は無いので。」
「そうかよ、俺がロボットならテメェはエテ公だな。」
ビスケットの拳が迫る。
レドは装置を起動した。黒い魔力の鎧が彼を包み込む。
ビスケットの拳は空を切り、代わりにレドの拳が顔面に叩き込まれていた。
「機械の鎧で生きがらない方がいい。こっちは魔能力の鎧なんだから。」
「ははははは!ハズレだと思ったが案外やるじゃねえの!」
ビスケットは高く飛び上がった。高く積み上げられた瓦礫の上を飛び移っていく。
あの巨体で猿のような身のこなし。
とてもじゃないが対応はできない。
ビスケットの拳は、レドの体に叩き込まれた。
骨が折れる音が彼の体に響き渡る。
「っ……!」
だが、この程度の痛みで倒れるほど彼の精神はヤワではない。折れた骨を意にも介さず、彼は即座に立ち上がった。
「さあて…まだ終わらねえよ?」
ビスケットの身体中からアームが生える。無数の回転ノコギリが彼を取り囲んだ。
「ジャッキーーーーンってね。さあて…殴るか斬るかぶっ潰れるか……スクラップ地獄の開幕戦うううううう!」
アームがレドに向かって伸びる。
ビスケットはそれとは別に己の拳を振り上げた。
ノコギリに斬られるか、鉄の拳に押し潰されるか。
無理やり魔装兵器で戦闘能力を伸ばした彼には無謀も甚だしかった。
最早逃げる以外できない。そんなレドを容赦なくビスケットは追う。
「ダメだ…あいつは死ぬ…明らかに力の差がある…」
不良の男は震え上がった。奴が死んだら次は俺なのか。
それと同時に、今更になって生を求めている自分を嫌悪した。
「………!」
突如、レドの逃走は止まる。それはたった1秒にも満たないこうどうだった。
ノコギリの隙間を通り抜け、右足のカウンターを叩き込んだのだ。
一瞬のよろめき。ここしかない。続け様の2発目を構える。急所がガラ空きだ。ここに攻撃すればダメージが通る。
が、時間切れだった。
纏っていた鎧は砕け、レドは床に転がった。
「痛ってぇ~…マジ痛ぇわこん畜生。…時間切れって奴か。ちぇー盛り上がった気がしたんだがよお…テレフォンパンチで終わったボクシング観た気分だぜ。」
「……」
レドはそれでも立ち上がった。
「何で…!どう考えても勝てねぇだろ!なんで…!」
「ギャハハハハ!そうでなくっちゃなあ!お前みたいにイカれた奴が俺は大好きだ!」
ノコギリの刃がレドに迫る。
彼が死を覚悟したその瞬間
それらは全て砕け散った。
「お?」
「格闘技がやりたいならルールを守りなよ?明らかに階級違いだ。」
中年の男がそこに立っていた。
「ゾルダ.フランツジェイル…!」
「おおお…おおおおおおお!最強の精霊使い!たまげた!最高だ!昂る!漲る!鳩走るぜええええええ!」
「…ハベトロット。」
無数の糸がビスケットに絡み付いた。
「因みに言っておくけど、精霊だけじゃなくて妖精も使える。…そのまま動かないでくれ。エアリアル、頼むよ?」
『よっしゃ行くぜ相棒!ぶっ飛ばすぜベイベー!』
風を司る精霊、エアリアル。あらゆる場所を飛び回るその能力を利用し、超音速でぶつかる。
「『風乱画竜』」
ビスケットは軽々と吹き飛ばされた。息ができない。全身が痛い。だが、面白い。
「ははははは!盛り上がって参りましたあああああああ!」
全身からキャノン砲を取り出す。
「死ぬなよお?死んじまうなよ精霊使い!」
遠方から砲撃の大群が襲いかかる。
「あー…君、こっち来て。」
瓦礫に身を潜めていた不良は、ゾルダの元へと引き寄せられた。
「離れないでね。」
レーザーがまた鼻の先へと迫った瞬間、ゾラダは精霊を召喚した。
「ベヒモス、頼むよ。」
巨大な像ようなの姿をした精霊が降り立った。
それから生成された盾は、弾幕を次々飲み込んでいく。
「送るところ間違えてるよ?返品だ。」
ベヒモスは飲み込んだレーザーを吐き出し、全てビスケットの元へ返した。
「マジっすか…おいおいおい待て待てタンマ!うおおおお!」
ビスケットはビルから飛び降りる。
彼の頭上をレーザーが通り過ぎていく。
「かーらーのー?3tパーンチ!」
ビスケットはビルの壁を蹴ると、レーザーをかわしながらゾルダと急速に距離を積める。
「3tか…ならこっちは10で手を打とう。フューリー、頼むよ。」
『うひひひひ!やっちまう?やっちまうかい?』
ゾルダの髪は逆立った。狂戦士へと変わり、魔力で限界まで強化したその腕力は、ビスケットの鎧を容易に砕いた。
「イフリート、やれ。」
『了解だゴラァ!』
数1000℃の熱がビスケットの体を削り取った。
全てを蒸発させたその炎は、最早防御など不可能だった。
「あー…クソ…血も出ねえか…。まあでも…楽しかったからどーでも良い…」
その場に倒れ込んだビスケットは、そのまま動くことは無かった。
「さて……君はレドくんだよね?よろしく。そこの彼は?」
「一般人です。保護しようかと思いまして。」
「…………他にも助けられる人が居たはずだよね?その人は?」
「ああ、まあ…しょうがないかなあ、と。彼を守る為には足手纏いですし。」
「………?!」
不良の男は困惑していた。何故、殆ど初対面の俺にここまでするんだ?彼は恐怖を感じざるを得なかった。
「どうして…でしょうね。よくわかりません。」
「そうかい…君、名前は?」
「あ…えっと…サレム.スミスです。」
「サレムくんか…よろしくね。で、今後の方針は?」
「まずは先輩と合流します。先輩が向かったであろう場所には近づいていたのでそう遠くはないかと。」
「なるほど…まあ闇雲に探すより場所が割れてる方が良いからね。……君の場合それ以外の方が大きいんだろうけど。」
「決まりですね。早く向かいましょう。先輩の性格からして、そう遠くには行ってないでしょうし。」
レド達は、ケインの元へと向かった。
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