Heavens Gate

酸性元素

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地獄編

デウス.エクス.マキナ

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「あー…あっつ…」
夏を迎え、事務所内は熱気に包まれていた。
時刻は午後4時。日が沈むのにはまだ少しの時間がある。
「クレア…お前クーラーとか作れよ…」
「めんどくさーい~やらたくなーい…」
「こういう時に役に立てやお前ぇ…!」
ケインは地面を拳で叩いた。
「よし…アイス買ってこいアイス…5人分…1人3本だ…腹を壊そうがどうでも良い…これは死活問題だ…」
かく言うシャーロットは扇風機にしがみ付いている。
「おい、どけ。どきやがれ。そこの風は俺のモンだ!」
「うるせぇ!全部俺んだこの野郎!」
「首振りを体で止めてるからカチカチうるせぇんだよ!」
遂に2人は掴み合いに発展した。
「分かりましたよ行きますよ…先輩着いてきますよね?ね?」
そう言ってレドはケインに尋常ならざる圧をかける。
「………ここよりかはマシか。」
2人は早足に部屋から出て行った。
「よし…」
「男が去った…」
「これでようやく…」
「「「涼める!」」」
3人はそれぞれ服の裾を掴むと、扇風機の風を一心に浴びた。
「あー……もう良い。羞恥心とかどうでも良い。涼しい。」
「侍の礼儀とか知らん。袴暑い。」
「……俺また下着着てねえ。」
シャーロットは足早に着替えると、再び扇風機の位置へと戻った。

「あー……ひでぇな。なんで屋内より屋外のが暑く感じんだよ」
「で、アイス何にします?」
「ああ…もうどうせなら安物はナシだ。くっそでかいチョコバーだ。」
だが、店には何も残っていなかった。
「チィ…発想は同じって訳かあ…!今頃あそこの家もあそこの家もアイスを頬張って涼んでやがるのか…!」
ケインの殺意に満ちた表情に、レドは思わず距離を取った。
「二手に分かれるぞ。何としてでも勝ち取る!」
「ああ…はい。」
レドは金を受け取ると、ケインとは反対方向に歩き始める。

「ねぇ君ぃ。」
後ろから突然、数人の男が彼の肩に腕をかける。
「ちょっと金貸してよお。返すからさあ。」
金髪の男はどうやらリーダーらしい。
「嫌です。…この国の人たちはどんだけアイスに飢えてんですか。」
「あ?!いーから来いよ!」
半ば強引に路地裏に連れて行かれた。
「あのさあ…あんま調子乗ってんなよ?」
レドの額に銃口が向けられた。
「クレアさん…やっぱり良い事とは思えないんですが…」
レドはしぶしぶポケットにある金を掴んだ。

「ねー師匠この服着てくださいよ!」
「殺す気か?!ババアを羞恥心で殺す気なのかお前は!」
アンナとアンはかれこれ1時間追いかけあっている。
「なーんでアタシは付き合わされてんのさ…」
レナはため息をつく。
「チィ…仕方ねぇ!とっておきのやつ取ってきてやるから待ってなあ!」
アンは一時そこから退散した。
「あー…やだやだ…なんでこんな奴弟子に取ったんだか…」
「マジそれなー」
レナは猫撫で声で返す。
「ノリが軽いんだよノリが!」

「ヘルガちゃんを15分ぶりに見れて僕は幸せ者だよホント!」
「あーそうですかそうですか。……仕事してください。」
「はーい。」
ノーマンはヘルガから渡された大量の書類を抱えると、倉庫へと足を運んだ。
「……」
昨夜のブザー音、アレは一体何だったのだろう。不自然なぐらい誰も知らなかった。
果たして……
「おっせえなあゾルダさん…妹へのプレゼント選び手伝えって自分から誘ってきたのに…」
駅前を彷徨きながら、セシルは独り言をぶつぶつと呟く。


が、彼の視界に突然、とあるものが映った。
幾千万と見たその物体。
殺傷の為にあるその物体。
駅前の広間に向けて複数人の男が、それを取り出したのだ。




次の瞬間、辺りに銃声が響き渡った。
この不良の男の握るものではない、別のもの。
悲鳴が上がる。
続け様に、ビルの爆発。それもひとつではない。2、3、4………次々爆発が起きていく。
そしてそれは程なくして、あたり一面を炎に変えた。
「は…?!ちょっ…え?!なんだよコレ!」
男達は困惑していた。
「伏せて!」
レドは金髪の男の頭を掴み、地面に擦り付けた。
その直後、取り巻き3人の体が、風船のように破裂し、一面に血液が飛び散った。
「………なんだこれは。一体何が……!」
目の前に立っていたのは、マスクを被った数人の男。
テロか。それもかなりの規模の。
レドは地面に転がる銃を掴む。
テロリスト達はそれに反応し、銃の引き金を引いた。
レドはその場に転がる遺体で銃弾を弾き、即座にテロリストの1人の頭を撃ち抜く。
「な…?!なんだこいつ…上手い…!」
たじろいだもう1人の体に、間髪入れずに弾を打ち込む。
隙を与えては行けない。
そのまま残りの1人に突進する。
弾は彼の背中の僅か数センチ上を通り抜ける。
レドに押し倒された男は抵抗の間もなく、腰についていたナイフをレドに奪われると、首をあっさり切り裂かれた。
血液がレドの顔面にかかる。
「ふぅ……」
レドは後ろを振り返った。
金髪の男は、怯えた表情でレドを見ている。
「な…な…なんだよ…なんなんだよ‥アンタ…」
「…!こっちに来て。とにかく安全な場所に避難する。」
レドは男の手を引くと、路地裏の出口から、ドラゴンクロウの事務所を恐る恐る確認した。
予想通りだった。それも最悪の。
事務所からは、黒い煙が上がっていた。
「ふぅ………どうしたものか。」
流石にレドも考え込んでしまった。
今どうなっているんだ。何が起きているんだ。
果たして敵は何者だ?
何もかもが不明瞭。
この状況を打開する策を必死で練っていた。

数日前………

「さて…諸君。我々はもうじき戦力が十分に整う。」
円卓の中央、1人の男が話し始めた。
「いやー…そろそろっすか…。あー…いーねぇ。こう言うの。」
スケートボードを背負った少年が、机に足をかけながら体を横に揺らす。
「所でここで1番強いのって誰?まあ別に煽るつもりは無いけどさあ…やっぱ他の奴って正直…」
「あ"?!殺すぞクソ爬虫類が。」
若干小柄な魔族と、機械を全身に纏った大男の間に緊張が走る。
「なんだよメカゴリラ。怪獣映画はよそで撮れよ?」
「OK、殺す。」
大男の拳は、魔力防壁によって塞がれた。
「……ここが規律ある議会であることを忘れたか野蛮人どもが!」
軍服を身に包んだ白髪の男は、2人を強く睨んだ。
「はあ…冷めた。」
ドスン、と音を立てて大男は座り直す。
「あ…やべ。遅れちゃった。」
遅れて駆けつけた金髪の女医が、気まずそうに椅子に座る。
「……」
直後、5人の軍人が彼女を襲った。
改造リメイク。」
女医が2本の指を上に上げた瞬間、5人の体はバラバラになり、その直後、悍ましい1体の怪物に組み替えられた。
「なーにもう。そんな怒んないでよー。」
「貴様は会議を遅らせた。それは一種の罰だ。」
「まー良いけどね。……破壊デリート。」
女医は聞いたことの無い言葉を発する怪物に触れると、ドロドロに液状化させた。
「でよー大将。いつ斬らせてくれんのよ?」
鎧を観に纏った男が、頬杖をつき、貧乏ゆすりをしながら聞く。
「ああ……もう少し待つと良い。1週間の辛抱だ。」
「神よ…ああ神よ…我が祈りを聞き届けた前…悪なるものに裁きを…」
神父はこれまでの流れなど耳に入れず、ひたすらに祈り続けていた。
「シュコー……」
白い防護服を纏った男は、沈黙を貫いている。
「さて…例のマフィア組織を取り込みに彼が向かっている。彼らの戦力は必要だ。……何より政府と繋がりがある。時期に彼らのその繋がりはバレる。そう言う勢力が働いているからね。……バレる前にこちらが乗っ取ってしまおう。……隠滅はできるね?」
「任せるにゃ。」
男の背後から、猫耳のフードを被った少女が答える。
「さて…そろそろ連絡が来るだろう。」


「~♪」
スーツを纏った黒髪の男が、マフィアのアジトに足を運んだ。
「待て。なんだ貴様は?」
「あーはいはい。私はこういうもので……」
男は監視達に名刺を渡す。
「デウス.エクス.マキナ幹部…なんて読むんだ…?」
师生肖シー.シンシャオ。」
「シー……どっかで聞いた気が…」
「貴方がたのボスに話がありまして…」
「待て。素性の知れ無いものを連れ込むわけに…」
2人の監視は、言葉を言い切る前にバラバラに切り裂かれた。
「はいはいうるせぇな。…ちゃっちゃと通せやクソ無能が。」
生肖はアジトのシャッターを蹴破ると、周囲を確認した。
「ふむ…なるほどね。」
生肖は右手からバズーカ砲を取り出すと、地面に向ける。
「よいしょっ!」
強烈な爆撃が地面を破壊した。
「やっぱりな。」
地下へと通ずる穴がそこには広がっていた。
生肖はゴーグルを装着すると、躊躇う事なく飛び降りる。
体を捻りながら、赤外線をかわしていく。
「…と来ればあるよなあ。」
無数のレーザー砲が彼を囲み込んだ。
六十羅針獣器ろくじゅうらしんじゅうき.起動きどう丙子へいし!」
生肖の両手に二丁の拳銃が生成される。生肖は回転しながら、周囲のレーザー砲をそれぞれ確実に破壊していく。
「よっ…と。」
物音ひとつ立たずに生肖は着地する。
「ゲッ…!やっべ!」
偶然にも、見回りしていた監視と鉢合わせしてしまった。
「貴様…!」
己酉きゆう
長剣は監視の首を切り裂いた。
「ゾロゾロ集まって来ちまったなあ…」
生肖は地面を蹴る。監視達の体を長剣で次々と斬っていく。
「な、なんだこいつ…ぐあああ!」
警報のブザーが鳴り響く。
「あーあ…政府から支援受けてるだけあって充実してんなあ。」
廊下に出た生肖を、銃撃の雨が迎え打った。
甲辰こうしん
巨大な盾が銃撃を弾いていく。それどころか、弾かれた銃撃は逆に撃った側へと跳ね返り、一瞬のうちに全滅させてしまった。
「さあて…ここか。社会人としてのルール…入る時はノック!」
生肖はドアを拳で破壊した。
「ありゃま。こいつは手厚い歓迎だ。」
無数の銃口が彼を囲い込んだ。それも360度、隙間なく。
「正面から向かうというのが無謀だったな。こうなるのは必然だ。………お前、生肖だな?70年代から80年代中盤まで、天仙でマフィアの頂点に立ちつづけた『九龍クーロン」の全盛を築き上げた、その幹部の1人。戦闘能力はその中でも随一。失踪したと聞いていたが、そんな奴が今更出て来るとはな。だが私はここで貴様を撃てる。天仙の全盛に勝利したのだ。」
「…アンタもダテにマフィアのボスじゃねえって訳か。…だが残念だったな。時間があったのはお前だけじゃねえ。」
「何…?!」
丙子へいし。」
部屋の外から銃撃の嵐が部屋を襲った。最早防ぎようがない。銃撃は、ボスの命を確実に狙う。
だが、部下を狙う銃撃は、全て救助を避けていた。
「さあてさてさて…お前らのボスは死んだ。」
ソファに生肖は座り込む。
「お前らの選択肢は2つある。俺達についてくるか、ここで死ぬかだ。」

「…あ、ボス?ざっと500名、取り込めましたよ。」
『了解。』
「よし、行こうぜ!」
生肖は車の助手席に乗り込み、部下たちの方を振り向いた。
「ど、何処に行けば良いのでしょうか…」
「何処かって?あの世行きだよ、少年バンビーノ。」
運転手の頭を生肖は撃ち抜いた。
「知ってんだぞ?お前ら政府に助け求めようとしてたな?あんまり舐めた真似するとこうなるぞ?」
生肖は運転手を外に放り投げると、変わりにハンドルを握った。
「つーかそもそもお前らは政府に消される予定だったんだよ。お前らとの繋がりの証拠を掴もうとする輩が数多く現れたんでな、もう手遅れって奴さ。…だが安心しろ、俺はお前らを見捨てない。裏切らない限りファミリーさ。」
生肖はエンジンを噴かし、車を発進させた。
ラジオのスイッチを押し、音楽を流す。
車内で歌っていたのは、最初から最後まで彼だけだった。
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