63 / 133
シャーロット編
We
しおりを挟む
ランスロットの剣戟は弾かれた。
「…!」
この男は何者だ。今まで誰にも押し負けた事などない私の剣を弾くものが、この時代にいたと言うのか。
「ふっ…!」
ノーマンは剣を振る。ランスロットの腕が飛んだ。
「む……」
空中で腕は繋ぎ直される。
すかさず繰り出された反撃を、ノーマンはあっさりとかわした。
「なるほど…ならば手加減は無しだ。」
アロンダイトの魔力が放出される。
「…ケインくん。」
魔力を貯めた一瞬の隙
ケインが懐に潜り込んだ。
ランスロットの肋骨が半壊する。
「ふー…あぶねー。」
ランスロットは未だ倒れる気配がない。
「何度も言うけど、僕は一度読み取った魔道具しか再現できない。…死霊に有効な魔道具とか今の時代ないからね。だから有効打はあくまで君だ、良いね?」
ケインは何も言わず、ただ一度頷いただけだった。
「流石にプレッシャーがデカいね。…行こう。」
二人はそれぞれ左右に分かれ、ランスロットを挟み込んだ。
「………」
物言わぬランスロットの脳裏には、身に覚えのない記憶が巡っていた。
あのエルフの女、何処かで…いや、どうでも良いだろう、そんな事は。今はただ戦うのみ。
「さあて…3体のドラゴン狩りか…しんどいね。」
クレアはため息をつく。
「良いですよ、僕もあれから色々改良したんだ。アレが通じればいけますよ。」
レドは銃をしまうと、腰についた装置を握りしめる。
「はあ…はあ…私は1人で倒す前提か?まあ良いだろう、やってやろうじゃないか。」
花織は刀を強く握る。
「2度と人など信じはせぬ。2度と誰とも分かりあわぬ。滅びろ、人間ども!!」
ドラゴンはそれぞれ攻撃を開始する。花織の剣戟をあっさりとかわすと、あらゆる鉱石を上回る強度の鱗を飛ばす。
速度は音速を超え、数は50以上。とても弾けるものではない。
花織の剣は砕け散った。
ヘルガの身体中から血が流れ出る。
クレアの防御壁はもはや意味をなさない。
「あの大言壮語は何処へ行った?人間よ。」
「………」
ヘルガは沈黙を貫く。
「運が悪かったな。我が名はテュポン。最強と言われた竜だ。あの頃よりは弱いがな。……貴様はその程度で勝てるとでも思ったのか?どこまで人間は我々を侮辱する!」
かつてわかり合った唯一の人間、ドラゴンクロウ。しかし最後には、奴らは私を裏切った。
「同胞を殺される痛みがわかるか?信じたものに裏切られる痛みがわかるか?のうのうと生きてきた貴様らにわかるものか!!!!」
テュポンの魔力が周囲を破壊していく。
「これは…先月のStage6.メルディベールのアレに匹敵する…!まずいよヘルガ氏……!君じゃどう考えても…」
「……」
それでも彼女は歩みを止めない。
血を流し、平衡感覚などとうに失っている。
「……だからなんだ、と言う話です。私は間違っていることは間違っているとしか基本的に考えられないんですよ。幾らテロリストに情を誘うような報道がされても、全くもってそれが理解できなかった。客観性というかなんと言うか、そう言うところが欠けてるんだと思います。
だからせめて私は、勧善懲悪に徹しようと思った訳です。理不尽な暴力には正義の建前を持って接するし、多分死刑囚の死刑執行のボタンは躊躇いなく押します。だけど今言ったように、別に正義を持ってやってる訳じゃない。ただ単に真っ当な人間でいたいだけなんですよ、私は。」
「何が言いたいんだ貴様はあ!」
「ああ、結論を先に言わないのは無能の証明、と言う奴ですよね。ごめんなさい。私はこの性質に反して、それを貫くだけの力がなかった。誰かを捌こうとしても、それに備わる力が無かったんです。実際貴方と私では力の差がありすぎる…。
だからこそ編み出したんです、この魔法を。」
ヘルガは魔力を身に纏う。
背中に5輪の輪が形成される。
『魔法陣…?いや違う、魔力がまるで放たれていない。』
テュポンは防御を固めた。
しかし、その警戒ももはや意味を為さない。
既に決着はついているのだから。
「これから行うのは窮鼠が猫を噛むような行為じゃない…不条理をもって不条理を壊す、そう言う一つの不条理ですよ。
……大胆不敵な見えざる手。これを私はそう名づけました。」
彼女が話し終えた頃には、テュポンの体は崩壊していた。
「な…ぜ…?!」
「相手自分より強ければ強いほど、こちらが放つ魔力攻撃が強くなる、それだけですよ。逆に私の方が強ければ私に跳ね返ってきて自滅しますが。…1ヶ月に1度なんですよ?これ。」
テュポンは地面に打ち付けられる。
「…貴様あ!」
体を再生させ、ヘルガを睨みつけた。
「この魔能力が一回だけ…そう思っているようですが、残念ながら『対象が死ぬまで』続きますよ。」
光が瞬く。
やはり攻撃の軌道が読めない。
いや、そもそも読むことが不可能な魔能力なのだ。
「ぐぅぅぅぅ…!」
ヘルガの放った魔法攻撃は、テュポンの体を理不尽に貫く。
「………!」
ヴァイオレットは、奴はどうなっている?彼の脳裏に、ふとそんな考えが浮かぶ。
後方の城の中、2人は戦いながら、会話していた。
ギルバートがいつああなったのか、それは大体察しがつくだろう。奴が救助活動に参加しなくなってからだ。
元々どこか納得しきれなかった、彼の無意識の隔たり。それが孤立によってあらわになってしまった。
『妾はそれに気づいておった。じゃが奴は何度もそれを誤魔化してな、結局ある日まで分かりあうことができなかった。』
ある日?ある日というのはいつだろうか。
『誰にも言っておらぬからの、今見せよう。』
ある日の救助活動、無事に終えたと思っていた。
だが
「フランソワ……ヴァレスティナ…何故…?」
幼い頃からの眷属二人が、無惨な姿で発見されたのだ。周囲の探索を命じてからしばらく戻ってこなかった。
それで探した結果がこれだ。
妾の近くに2人が居たことは殆どの者の目についていたはず。だが村人は助けられた事も忘れ、一方的な都合で2人を殺したのだ。蝿が既に集り始めているその体から、定着した魔力が放たれる。
「………!ああああああ!」
その時だった。妾の魔法が覚醒したのは。
その場に定着した魔力を読み取り、眷属として顕現させる。単純だが、契約の手順をパスした、実質的に無限の戦力を生み出す事も可能な魔法。だが同時に、それらの記憶の全てを読み取ってしまう。脳内に2人の記憶が逆流し、激しい頭痛が襲う。その惨状をその身に焼き付けることになったのだ。
『お前の目に映っていた2人。奴らの中身はとうに空じゃった。何せ不死者から不死者は生み出せんからの。』
何も答えられない。
どうして今の今まで理解できなかったのだろう。ギルバートの、ヴァイオレットの心情を。
俺は今まで味わって来たじゃないか。なんのために戦ったんだ。なんのために救ってきたんだ。
なんと情けない、ふざけるな。こんな生き方、誰も望んでなどいなかった。俺も、彼女も、あの人も。誰にも望まれず、誰にも認められず、誰のためにも戦わない。
なんと無価値な600年だ。
「ありがとうー!」
「この国も安泰だ!」
「マリアナ様ー!」
国民の歓声。それが2人には受け入れられなかった、
『出て行け!』
『この国の害虫が!』
『早くそいつを殺せー!』
連中の称賛は、2人にとっては罵詈雑言に他ならない。
今更掌を返して称賛する都合のいい民衆、それがどうしても許せなかった。
「貴様の計画は失敗だよ、マリアナ。」
「……そう、なのね。」
彼女に動揺は無かった。
「ごめんなさい…本当に。私の力不足よ。もう一度…チャンスを貰えないかしら?」
「できるものか、そんな事が。」
マリアナの腹部に刃が刺さる。
だが、それでも彼女は歩みを止めなかった。ジリジリとヴァイオレットから距離を詰めていく。
「……!」
途端に彼女を恐怖が襲った。
どうして、ここまで。もはや狂気と言っていい。
「ギルバート…なのね。もう一人いるんでしょう?」
尚も交渉を辞めない。
「っ……!」
気づけばその場から逃げ出していた。
わかり合おうとする事を、皮肉にも彼女は放棄してしまったのだ。
ギルバートは松明を持って村へと赴いた。
自分を迫害した村。ちょうどそこの近隣まで来ていた。
今がチャンスだった。彼の心は無色に染まっている。
「……」
炎は、油をかけた家に次々と燃え移っていく。
「………」
悶え苦しむ村人の声。
脱出した村人を、淡々と彼は殺していく。
「ははっ!」
虚しい。
「はははははは!」
虚しい。
「………」
虚しい、虚しい、虚しい。
復讐とはこんなに簡単だったのか
復讐とはここまで空虚なものだったのか。
もう辞めよう。面倒くさい。
ギルバートは生き残った者を放置し、村の外へと足を運んだ。
「助けて…」
少女の声が聞こえる。
「……?」
振り向いた先にいたのは、あの時魔族から救った少女だった。成長していたが分かる。確かに彼女だ。
「何故ここに…」
そうか、魔族に滅ぼされた村の生き残りは、他の所にたらい回しにされていくと聞く。そう言うことなのか。
「ギルバートさん…」
彼女は涙を流していた。
「………ごめん、本当に。」
「謝りたかったの、貴方に。」
ギルバートは顔を上げる。
「お母さん…貴方の事を悪く言ってた…だけど…ずっと貴方は辛そうで…悲しそうで…とてもそうは思えなかったの。お母さんが死んでからずっと考えてた…私の事を貴方が許してくれるのかって…」
ギルバートは少女を抱きしめた。
ああ、なんて事を。僕はなんて事をしてしまったんだ。
分かり合える人が居たのに。ここに居たというのに。
だけど、もう止められない。希望に縋っちゃいけないんだ。
放棄したからには、その道を歩まなければならない。
「…森の奥に逃げて。」
ギルバートは少女を突き放し、森の方を指差した。
「大丈夫、僕は必ず戻ってくるよ。」
少女は彼の前から去っていく。
そしてその直後、シャーロットが彼の視界に映る。
ああ、彼女は僕をどう思うんだろう。
怒るだろうか、悲しむだろうか、憐れむだろうか。
「ああ……なんだったんだろうなあ、僕の人生。」
一生僕は悪役で良い。うん、彼女が生きていられれば、それで良いのだ。
ギルバートは、涙を拭った。
「…!」
この男は何者だ。今まで誰にも押し負けた事などない私の剣を弾くものが、この時代にいたと言うのか。
「ふっ…!」
ノーマンは剣を振る。ランスロットの腕が飛んだ。
「む……」
空中で腕は繋ぎ直される。
すかさず繰り出された反撃を、ノーマンはあっさりとかわした。
「なるほど…ならば手加減は無しだ。」
アロンダイトの魔力が放出される。
「…ケインくん。」
魔力を貯めた一瞬の隙
ケインが懐に潜り込んだ。
ランスロットの肋骨が半壊する。
「ふー…あぶねー。」
ランスロットは未だ倒れる気配がない。
「何度も言うけど、僕は一度読み取った魔道具しか再現できない。…死霊に有効な魔道具とか今の時代ないからね。だから有効打はあくまで君だ、良いね?」
ケインは何も言わず、ただ一度頷いただけだった。
「流石にプレッシャーがデカいね。…行こう。」
二人はそれぞれ左右に分かれ、ランスロットを挟み込んだ。
「………」
物言わぬランスロットの脳裏には、身に覚えのない記憶が巡っていた。
あのエルフの女、何処かで…いや、どうでも良いだろう、そんな事は。今はただ戦うのみ。
「さあて…3体のドラゴン狩りか…しんどいね。」
クレアはため息をつく。
「良いですよ、僕もあれから色々改良したんだ。アレが通じればいけますよ。」
レドは銃をしまうと、腰についた装置を握りしめる。
「はあ…はあ…私は1人で倒す前提か?まあ良いだろう、やってやろうじゃないか。」
花織は刀を強く握る。
「2度と人など信じはせぬ。2度と誰とも分かりあわぬ。滅びろ、人間ども!!」
ドラゴンはそれぞれ攻撃を開始する。花織の剣戟をあっさりとかわすと、あらゆる鉱石を上回る強度の鱗を飛ばす。
速度は音速を超え、数は50以上。とても弾けるものではない。
花織の剣は砕け散った。
ヘルガの身体中から血が流れ出る。
クレアの防御壁はもはや意味をなさない。
「あの大言壮語は何処へ行った?人間よ。」
「………」
ヘルガは沈黙を貫く。
「運が悪かったな。我が名はテュポン。最強と言われた竜だ。あの頃よりは弱いがな。……貴様はその程度で勝てるとでも思ったのか?どこまで人間は我々を侮辱する!」
かつてわかり合った唯一の人間、ドラゴンクロウ。しかし最後には、奴らは私を裏切った。
「同胞を殺される痛みがわかるか?信じたものに裏切られる痛みがわかるか?のうのうと生きてきた貴様らにわかるものか!!!!」
テュポンの魔力が周囲を破壊していく。
「これは…先月のStage6.メルディベールのアレに匹敵する…!まずいよヘルガ氏……!君じゃどう考えても…」
「……」
それでも彼女は歩みを止めない。
血を流し、平衡感覚などとうに失っている。
「……だからなんだ、と言う話です。私は間違っていることは間違っているとしか基本的に考えられないんですよ。幾らテロリストに情を誘うような報道がされても、全くもってそれが理解できなかった。客観性というかなんと言うか、そう言うところが欠けてるんだと思います。
だからせめて私は、勧善懲悪に徹しようと思った訳です。理不尽な暴力には正義の建前を持って接するし、多分死刑囚の死刑執行のボタンは躊躇いなく押します。だけど今言ったように、別に正義を持ってやってる訳じゃない。ただ単に真っ当な人間でいたいだけなんですよ、私は。」
「何が言いたいんだ貴様はあ!」
「ああ、結論を先に言わないのは無能の証明、と言う奴ですよね。ごめんなさい。私はこの性質に反して、それを貫くだけの力がなかった。誰かを捌こうとしても、それに備わる力が無かったんです。実際貴方と私では力の差がありすぎる…。
だからこそ編み出したんです、この魔法を。」
ヘルガは魔力を身に纏う。
背中に5輪の輪が形成される。
『魔法陣…?いや違う、魔力がまるで放たれていない。』
テュポンは防御を固めた。
しかし、その警戒ももはや意味を為さない。
既に決着はついているのだから。
「これから行うのは窮鼠が猫を噛むような行為じゃない…不条理をもって不条理を壊す、そう言う一つの不条理ですよ。
……大胆不敵な見えざる手。これを私はそう名づけました。」
彼女が話し終えた頃には、テュポンの体は崩壊していた。
「な…ぜ…?!」
「相手自分より強ければ強いほど、こちらが放つ魔力攻撃が強くなる、それだけですよ。逆に私の方が強ければ私に跳ね返ってきて自滅しますが。…1ヶ月に1度なんですよ?これ。」
テュポンは地面に打ち付けられる。
「…貴様あ!」
体を再生させ、ヘルガを睨みつけた。
「この魔能力が一回だけ…そう思っているようですが、残念ながら『対象が死ぬまで』続きますよ。」
光が瞬く。
やはり攻撃の軌道が読めない。
いや、そもそも読むことが不可能な魔能力なのだ。
「ぐぅぅぅぅ…!」
ヘルガの放った魔法攻撃は、テュポンの体を理不尽に貫く。
「………!」
ヴァイオレットは、奴はどうなっている?彼の脳裏に、ふとそんな考えが浮かぶ。
後方の城の中、2人は戦いながら、会話していた。
ギルバートがいつああなったのか、それは大体察しがつくだろう。奴が救助活動に参加しなくなってからだ。
元々どこか納得しきれなかった、彼の無意識の隔たり。それが孤立によってあらわになってしまった。
『妾はそれに気づいておった。じゃが奴は何度もそれを誤魔化してな、結局ある日まで分かりあうことができなかった。』
ある日?ある日というのはいつだろうか。
『誰にも言っておらぬからの、今見せよう。』
ある日の救助活動、無事に終えたと思っていた。
だが
「フランソワ……ヴァレスティナ…何故…?」
幼い頃からの眷属二人が、無惨な姿で発見されたのだ。周囲の探索を命じてからしばらく戻ってこなかった。
それで探した結果がこれだ。
妾の近くに2人が居たことは殆どの者の目についていたはず。だが村人は助けられた事も忘れ、一方的な都合で2人を殺したのだ。蝿が既に集り始めているその体から、定着した魔力が放たれる。
「………!ああああああ!」
その時だった。妾の魔法が覚醒したのは。
その場に定着した魔力を読み取り、眷属として顕現させる。単純だが、契約の手順をパスした、実質的に無限の戦力を生み出す事も可能な魔法。だが同時に、それらの記憶の全てを読み取ってしまう。脳内に2人の記憶が逆流し、激しい頭痛が襲う。その惨状をその身に焼き付けることになったのだ。
『お前の目に映っていた2人。奴らの中身はとうに空じゃった。何せ不死者から不死者は生み出せんからの。』
何も答えられない。
どうして今の今まで理解できなかったのだろう。ギルバートの、ヴァイオレットの心情を。
俺は今まで味わって来たじゃないか。なんのために戦ったんだ。なんのために救ってきたんだ。
なんと情けない、ふざけるな。こんな生き方、誰も望んでなどいなかった。俺も、彼女も、あの人も。誰にも望まれず、誰にも認められず、誰のためにも戦わない。
なんと無価値な600年だ。
「ありがとうー!」
「この国も安泰だ!」
「マリアナ様ー!」
国民の歓声。それが2人には受け入れられなかった、
『出て行け!』
『この国の害虫が!』
『早くそいつを殺せー!』
連中の称賛は、2人にとっては罵詈雑言に他ならない。
今更掌を返して称賛する都合のいい民衆、それがどうしても許せなかった。
「貴様の計画は失敗だよ、マリアナ。」
「……そう、なのね。」
彼女に動揺は無かった。
「ごめんなさい…本当に。私の力不足よ。もう一度…チャンスを貰えないかしら?」
「できるものか、そんな事が。」
マリアナの腹部に刃が刺さる。
だが、それでも彼女は歩みを止めなかった。ジリジリとヴァイオレットから距離を詰めていく。
「……!」
途端に彼女を恐怖が襲った。
どうして、ここまで。もはや狂気と言っていい。
「ギルバート…なのね。もう一人いるんでしょう?」
尚も交渉を辞めない。
「っ……!」
気づけばその場から逃げ出していた。
わかり合おうとする事を、皮肉にも彼女は放棄してしまったのだ。
ギルバートは松明を持って村へと赴いた。
自分を迫害した村。ちょうどそこの近隣まで来ていた。
今がチャンスだった。彼の心は無色に染まっている。
「……」
炎は、油をかけた家に次々と燃え移っていく。
「………」
悶え苦しむ村人の声。
脱出した村人を、淡々と彼は殺していく。
「ははっ!」
虚しい。
「はははははは!」
虚しい。
「………」
虚しい、虚しい、虚しい。
復讐とはこんなに簡単だったのか
復讐とはここまで空虚なものだったのか。
もう辞めよう。面倒くさい。
ギルバートは生き残った者を放置し、村の外へと足を運んだ。
「助けて…」
少女の声が聞こえる。
「……?」
振り向いた先にいたのは、あの時魔族から救った少女だった。成長していたが分かる。確かに彼女だ。
「何故ここに…」
そうか、魔族に滅ぼされた村の生き残りは、他の所にたらい回しにされていくと聞く。そう言うことなのか。
「ギルバートさん…」
彼女は涙を流していた。
「………ごめん、本当に。」
「謝りたかったの、貴方に。」
ギルバートは顔を上げる。
「お母さん…貴方の事を悪く言ってた…だけど…ずっと貴方は辛そうで…悲しそうで…とてもそうは思えなかったの。お母さんが死んでからずっと考えてた…私の事を貴方が許してくれるのかって…」
ギルバートは少女を抱きしめた。
ああ、なんて事を。僕はなんて事をしてしまったんだ。
分かり合える人が居たのに。ここに居たというのに。
だけど、もう止められない。希望に縋っちゃいけないんだ。
放棄したからには、その道を歩まなければならない。
「…森の奥に逃げて。」
ギルバートは少女を突き放し、森の方を指差した。
「大丈夫、僕は必ず戻ってくるよ。」
少女は彼の前から去っていく。
そしてその直後、シャーロットが彼の視界に映る。
ああ、彼女は僕をどう思うんだろう。
怒るだろうか、悲しむだろうか、憐れむだろうか。
「ああ……なんだったんだろうなあ、僕の人生。」
一生僕は悪役で良い。うん、彼女が生きていられれば、それで良いのだ。
ギルバートは、涙を拭った。
0
なろう版https://ncode.syosetu.com/n0704io/?p=2カクヨム版https://kakuyomu.jp/works/16817330669013450484
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる