Heavens Gate

酸性元素

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シャーロット編

アイ、キボウ、セイギ④

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「報告します!東西の両軍が近々。国土を巡る戦争を行うとの情報が!」
マリアナの部屋に兵士が駆け込み、彼女に告げた。
「なんて馬鹿な……!ただでさえ魔族で混乱していると言うのに…!」
マリアナは呆れ返っていた。あの怪物、魔族の突然の登場により、隣国らもこの国を見限った。今やうちの仕事の9割は魔族退治になっている。そんな中で戦争をしようなどと、愚の骨頂としか言いようがない。
「今すぐ出発しましょう。」
マリアナは立ち上がり、屋敷を動かした。


「…フム…噂には聞いている。一度貴様らを引き入れようとしたものだが、流石に厳しいと止められたものでな。読みは当たっていたようだ。」
東軍の頭首は、マリアナを玉座から見下ろした。
「今この状況で戦争を始めようものなら、間違いなくこの国は終わります。今こそ対立をやめるべきかと。」
「断る。既に隣国からの支援を受けているのだ。今更引き下がれん。せいぜい慈善活動でもしておれ!」
結局、東軍、西軍の対応は同じだった。
「……」
マリアナは暫く何も話さなかった。
「まだ…終わってない…!まだ終わってないですよ。私達の今までが無駄だったなんて言わせない!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「……ありがとう。でもどうすれば良いのか…」
「今まで助けてきた人たちに協力を募りましょう!もしかしたらまた裏切られるかもしれないですけど……でも何とか…何とかなるはずです!」
「…アハハハハハ!ありがとう…最高よ貴方!うん、やってみましょう!」

「しかしなあ…」
「逆らったら殺されるし…」
村人は互いの顔色を伺い合っていた。
「チッ…!身勝手な…!」
ヴァイオレットは舌打ちをする。
「ここでどちらかが勝ったとして…ここでどちらかが勝ったとして、それで貴方達は報われますか?!きっとこの先も苦しめられて、最後には魔族に殺される。私たちが助けられるのにも限度があるんです。なら…ならせめて貴方達も戦ってください!貴方達の為に戦ってください!お願いします…どうか…!」
気づけば俺は、声を荒げて叫んでいた。別に国を救いたいとかの大義名分があった訳ではない。ただ単に、彼女を救いたかったから言った事だった。
しかしそれでも、村人は答えなかった。

「……こうなったら軍の侵攻を妨害するしかない。できれば武力無しで。」
マリアナの手は震えていた。
「大丈夫、私がついてますから。」
彼女の手を取り、俺は励ました。
「ええ…ありがとう…本当に…」
彼女はいつものように、優しく微笑んだ。

「報告致します!1里先、ドラゴンクロウが我らの侵攻を妨害している模様!」
「何?……仕方あるまい。殲滅しろ。」
「了解しました。」
「全く…平和ボケした屑どもが…」

「……攻撃の体勢に入ってる。」
俺は魔力を右手に込める。
「待って…!まだもう少し…」
「でも…!」
いつ来るのか、まさに一触即発だった。
その時、後ろから何かが聞こえてきた。
「え?」
これは、人の声だ。それも10人や100人のものではない。

今まで助けてきた者たちの行進だった。
「何?!」
「報告いたし…」
「必要ない!く…一体何をした?!」
「どう言った指示を…!」
「ここで殺してしまえば市民を巻き込んだとして隣国からの信頼が…クソ!」
東軍、西軍両方に渡って行われたこの行進は、誰の血を流す事も無く終わった。そして国は統治の動きに入り、ドラゴンクロウは実質的な支配権を獲得した。
「ありがとうー!」
「マリアナ様ー!」
かつて浴びせてきた罵声はどこにも無い。ようやく、ようやく報われたんだ。そう俺は安堵していた。
が、2つ隣にいたギルバート、そしてヴァイオレット。彼らだけは笑っていなかった。
「……?」
この時気づいていれば、あんな事にはならなかったのだろう。
あんな事には。

明日が来ると、信じていた。
何をしようかと思っていた。
目を覚ました時の天井は、ひたすら真っ赤に燃えていたのだ。
「え…?」
マリアナの部屋に駆け込む。
その中には、腹部から赤黒い血を流す彼女がいたのだ。
「何…で…?」
「止めて……ギルバートを…ヴァイオレットを止めて…!」
マリアナを運び出し、門の出口で待機している騎士に預ける。
「ギルバートとヴァイオレットは…!?」
「え…マリアナ様…!何故…分かりません…今朝から彼らは何処にも…」
「くっ…!」
全速力で走る。どこにいる。どこにいるんだ。
森の先で、巨大な煙が上がっていた。
まさか。まさかまさかまさかまさか。
「シャーロット……ごめんね。やっぱり無理だった。」
炎に包まれる村の前に、ギルバートは立っていた。
「え…?いや…だって…ホラ…。嘘だよね…?誰かがやって間に合わなかったとか…そう言う…」
「ううん、僕がやったの。僕が全部。」
「嘘言うなよ!信じない。私は信じない!」
「そっか…じゃあここで死んでくれ。」
ギルバートは俺に襲いかかる。
「待って…待ってって…ちょっと…!」
必死でブレードをかわす。
「僕は知ってるんだ…!なんとなく分かってた!だっておかしいじゃないか!あんな荒れ地のど真ん中に、少女がまともに生きていけるわけがない!君は…君は…」
「やめろおおおお!」
咄嗟に右手が出てしまった。そしてその手から放たれた魔力は、彼の心臓を破壊した。
「あ…あ…」
「ゲホッ!君は……君はこの国を滅ぼした兵器.ラプラスだ。」
急激に記憶が遡る。そうだ、人を殺した。大量の人を。そして逃げ出して、さも善人のように振る舞った。
「愛だの希望だのと君たちは掲げていたけど…僕は全然理解できなかった。愛で世界は救えない。愛でパンが買えるのかい?愛で死人は蘇るのかい?そうはならない。逆だよ、シャーロット。愛に僕らは縛られて、希望に全てを打ち砕かれるんだ。」
ギルバートはそう言うと、足元の花を踏み潰し、俺に近づく。
「ああ…あああああ…」
右手の震えが止まらない。止まれ、止まれ、止まれ、止まれ。
ドサ、と音がする。ギルバートの死体が、そこには転がっていた。
「なんて事を…なんて事を…!」
「嘘……なんで…?」
後ろから声が聞こえる。まさか。
「なんで…」
少女が1人、俺を見ていた。
「お姉ちゃんがこの国を…ギルバートさんを…」
「違っ…!待って!お願いだから話を聞いて!」
「嫌!来ないで!来ないでぇ!」
逃げ惑う少女は騎士に縋り付いた。
「ど、どうしたんだい?こんなに震えて…」
「あの女が…あの女がギルバートさんとみんなを!」
「は…?!」
「違うんです…話を…」
「止まれ!クソ!亜人め!やはり信用ならなかった!」
騎士達は俺に一斉に剣を向ける。
「もう沢山だ……もう沢山だよ…私の話を聞いてよ!」
「黙れ大量殺人者め!」
せめて、せめてマリアナ様は連れて行かないと。
俺は己を奮い立たせ、立ち上がる。
隙を見計らい、荷車に乗せられた彼女を抱き抱えると、森へと逃げ込んだ。
弓矢が背中に刺さる。痛い。痛い。痛い。
なんでこんな思いしなきゃいけないんだ。私が一体何をしたって言うんだ。
川の下流にたどり着き、そこで傷の手当てをする。
「はあ…はあ…ああああ…」
涙が止まらない。どうしてこんなことになったんだろう。
「シャー…ロット?」
「マラアナ様!意識が…」
「何があったの…?」
「ギルバートが村を燃やして……私が彼を…」
「そう…ごめんなさいね……貴方にばかり背負わせてしまって…」
「違う!全部背負ってきたのは貴方だ…貴方は何も悪くない…私は…私は貴方の国を…」
「…知っていたわ、全部。」
「え?何で…何で…!」
「最初は勿論、危険視したわ。だけどね、貴方と接するうちにわかったのよ。この子は誰よりも脆いんだ、って。そう思ったらほっとけなくなっちゃった!それだけよ!ホントに。」
「ああ…あああああ!」
「聞いて…貴方の力で人を殺しても、罪を作っていたとしても、それはおかしなことじゃない。人は常に誰かを殺して、罪を作っているものよ。『生きる』と言うのは、それの贖罪なの。私の贖罪はここで終わり。貴方のラプラスとしての罪もここで終わり。
だからね、シャーロット。貴方のやりたい生き方でいいの。自分を許せる方法で、自分のできるやり方で、貴方の事を許し続けなさい。
…貴方に姓をつけていなかったわね。そうね…この言葉を忘れないように…潔白な罪ギルティ.ホワイトにしましょう。
シャーロット.ギルティ.ホワイト。これが貴方の名前よ。」

俺はマリアナの亡骸を埋めた。
涙を拭う。
立ち上がる。
やり残した事は沢山ある。ならその一部分だけでも、やり遂げてみせる。
再び俺は走り出し。立ち止まることも、座ることもない。
ただ真っ直ぐに走った。
「……シャーロットか。」
「そうだよ。」
「殺したのか?ギルバートを。」
「そうだよ。」
「そうか…」
いつかの荒野、ヴァイオレットが立っていた。
「陛下、下がってください。ここは私が。」
ランスロットは、俺の前に立ち塞がった。
「良いのか?死ぬぞ?」
「こちらのセリフだ小娘が!貴様が触れていいはずが無い!」
「強がりやがって……テメェの真意はどうなんだランスロット!」
「関係はない…ただ付き従うのみ……!もう2度と同じ事はしない。」
「そうか…じゃあ死にな。」
ランスロットの半身は、俺の魔法で消し飛ばされた。
「………!想像以上だな。」
「そりゃそうだ。俺は国が10年以上かけて作り出した最終兵器だからな。」
「だからどうしたと言うのだ!」
不死者が地面から顔を出す。
が、
それらはあっさり消し炭にされ、ヴァイオレットにまで行き届いた。
「あっ…がっ…!」
「……ごめんな、ホントに。でもこれが俺の覚悟だ。…見ていてくれよ。」

数万を超えるであろう数の騎士が、俺の前に立ちはだかる。
「止まれ!お前は何だ?どっちなんだ…?」
「シャーロット.ギルティ.ホワイト。別名ラプラス。この国を灰にした元凶だ。」
周囲に緊張が走る。
「嘘だろ…?!」
「そんな…!」
「嘘じゃねえよ?ヴァイオレットとギルバートを操ってマリアナを殺したのも俺。ああ…理由が聞きたいか?気に入らねえからだよ。口先ばかりで希望を述べやがる。その姿勢が大変気に食わなかった。ただそれだけだ。」
「…魔女め。」
「殺せ!今すぐその魔女を…!」
「へえ、殺してみろよ。」
魔力を解き放つ。
途端に周囲は萎縮した。
「結局希望ばっかりでなーんも解決しなかったな、ホント。あの女はつくづく無能だったぜ。」
「…かにするな。馬鹿にするな!マリアナ様を!」
周囲から罵声が飛び交う。それでも俺を攻撃しない。
「そうかいそうかい…せいぜい信じれば良いさ、お前らの愚かなオクサマを。……どけ。」
騎士達は武器を向けるばかりで、防ごうともしなかった。
勝手に退いていく騎士の間を俺は通る。
「………!」
人知れず、森の中で泣いた。もう何も残らない。もう何も。
人に蔑まれようが、何だろうが、そこにいる人を助け続ける。そう決めたんだ。だったらやるしか無いじゃないか。
立ち上がる。
地面を蹴る。
川に飛び込んだ。
息などできない、しようともしない。
ただ流れるだけ。
ただ生きるだけ。
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