Heavens Gate

酸性元素

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シャーロット編

アイ、キボウ、セイギ③

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「……シャーロット、じゃな?」
「ヴァイオレット…さん。」
「さんはいらん。呼び捨てで良い。」
「ええっと…ありがとうございました。」
「敬語も要らん。」
「貴方はどうして私を助けるの?……何処の馬の骨とも知らない私を…」
「助けて当然…と言えば嘘じゃな、似ていたからじゃよ。」
「……?」
「ボロボロになって、この世の何もかもがどうでも良い、と言うその顔が、かつての妾に似ていたからじゃ。」
「……」
「やはり気になるか。」
かつて彼女の吸血鬼一族は、それはもう栄えていたのだそう。一族の領地はもはや一国に匹敵するほど。そんな家系で生まれた彼女も、将来を期待されていた。
だが、そんな中、突然国は彼女らを襲った。怒りがある訳では無い。ただ単に戦争の脅威になるから、と言うだけの理由。自分の配下の9割は炎で燃やされ、彼女はその場から逃げ出したのだそう。
「火傷跡、見るか?」
冗談半分、と言った感じで彼女は腕の火傷を見せた。
黒ずんだ痛々しい火傷跡が姿を表す。
「銀を燃やした炎だよ。そうなれば吸血鬼にも効く。」
「……」
「復讐しか妾の頭には無かった。故にあやつの語る思想には当初吐き気を覚えたものじゃ。……だが配下は復讐など考えているだろうか、とふと考えた訳じゃ。そうなると全てがバカらしくなっての、ついていくのも悪くない、とな。」
なんて人間は身勝手なんだ、と言う怒りが湧いてきた。逆にどうして今まで無かったのだろう。どこか封じてきたような…。
「人間が憎いか?シャーロットよ。」
「…怒りはある。」
「じゃろうな。…じゃがな、マリアナもまた、失ったものなのじゃよ。」
「うん…何となく分かる。」
「奴はな…国を失ったのじゃ。一国が突然滅び、国内が分裂し、未確認の生物に今、国土は滅ぼされかけておる。」
「え?」
「知らんのも当然じゃ。爆発じゃよ。城が中心となった爆発で国の半分以上が焼け野原になった。」
「…………!」
頭痛がする。何か、あるはずの無い記憶が脳内で点滅する。
「……?どうした?」
「い、いや…何でもない。」
気のせいだ、絶対に勘違いに決まってる。それと自分が関係があるかも、なんてのは勘違いだ。必死に自分に言い聞かせた。

朝、当然屋敷が揺れた。
「……!」
もしや、移動を終えたのか?
「到着いたしました、シャーロット様。皆様がお待ちしております。」
「え?!ああすいませんすぐに支度します!」
乱れる髪など気にならないほどの勢いで準備をし、メイドの後を追った。
「ここら一帯の集落が次々と破壊されている…これは皆一度は耳に入っていると思います。……今回はその救助活動、および原因の究明を目標とします。」
シャーロットにも一度耳に入った話だった。原因不明、正体不明。得体の知れない脅威が迫っている事は何となく感じていた。

いくつかに分かれた騎士団は、森の中に入る。
到着した集落は、想像以上の有様だった。
数日が経過したであろうその場には、当然生存者はおらず、皆無惨な姿で死に絶えていた。
「………」
不思議とそれに恐怖は覚えなかった。
「死体を見たのは初めてではないのじゃな。」
「ええ…多分。」
ヴァイオレットの方は見れなかった。見たら何かが終わる気がしたから。
「陛下、これは…」
「ああ、そうじゃな。」
ランスロットは死体の腹部を見る。
4本の爪痕がそこには刻まれていた。
「自体は想像以上、と言ったところじゃの。」

「……!あれは…」
村らしき場所から、黒い煙が上がっていた。
「行かないと…」
ギルバートは村の方へ向かう。
「え…?」
そこにいたのは、得体の知れない化け物だった。人を無作為に襲う、見るものの恐怖を掻き立てるような化け物が。それも一体ではない。8…9…10体。
「……!」
怪物は襲いかかる。
咄嗟にギルバートは魔能力を発動した。
両腕から魔力のブレードが生える。
怪物の右腕が切り裂かれる。
が、勢いは止まらない。それは即座に体勢を立て直すと、ギルバートの首に爪を立てる。
赤い血飛沫が上がる。大丈夫、まだ致命傷じゃない。
地面にブレードを突き刺すと、振動を加える。
足場が崩れ、怪物はバランスを崩した。
今だ、首を狙う。怪物の首は地面に転がった。
「はあ…はあ…これなら…」
しかし、即座に頭は再生してしまった。
まずい。死ぬ。ここで死んでしまう。
彼はそう確信した。
が、怪物の爪は彼から逸らされた。
「…?」
足元を見る。数人程の騎士が転がっていた。
「…………!」
そんな、僕を庇って。
感情を押し殺し、ギルバートは怪物の半身を切り裂いた。
「これは……」
体の中に丸い球体を目撃する。
彼はそれを見逃さなかった。間髪入れず、ブレードを球体に突き刺す。
怪物の体は跡形もなく消えた。
「これだ…これが弱点だ。…だけど数人がかりでどうにかなる強さじゃない。」
ギルバートは騎士の方を向く。
言葉は交わさなかった。とにかく救助に向かわなければ。
「お母さん…お母さん…」
怪物が子供を睨みつけている。
ギルバートは子供を突き飛ばした。
右肩に爪が食い込む。もう上がらないだろう。
「逃げて…早く…」
布を肩に巻く。応急処置にもならないだろう。
「ふぅぅぅぅ…」
一瞬の読み合い。その後、怪物の体にブレードが刺さる。
それの体は崩れ去った。
「これで2体目…」
ギルバートは周囲を見渡す。
他の騎士達も、続々と怪物を倒している。
「何とか…なるのか…さ、君はこっちに…」
子供を抱き抱え、村の外に目を運ぶ。
が、次の瞬間、彼の目の前に新たな化け物が降り立った。
『やばい…こいつはやばい…!数でどうこうなるものじゃ…』
ブレードは砕かれ、ギルバートは勢いよく転がる。
「ぐっ…!くぅ…」
畜生、死にたくないなあ。人間なんか助かるからこうなったのかなあ。
死を覚悟したその時、突如発生した土煙が、彼の視界を覆い尽くした。
「ヴァイオレット…!」
「よく1人で持ち堪えたものじゃ。配下ポイント100点をくれてやろう。」
「配下になった覚えないんだけどなあ…」
ヴァイオレットは影から配下を放出する。
「うむ、お前で良い。来い。」
配下の1人の体が変形し、巨大な鎌となり、彼女の手元に来る。
「さあ来い…獣よ。調教してやろうじゃないか。」
怪物は咆哮を上げると、ヴァイオレットに襲いかかった。
「緩いの。あくびが出る。」
それの両手足はあっさり切り裂かれ、続けて縦に切断された。
「そこの丸いやつ!それを破壊してくれ!」
「成程、脆いんだか硬いんだかよう分からんの、お前。」
怪物の攻撃を片手であっさりといなしていく。
いなすたびに傷が付き、青黒い血が土を塗りつぶしていく。
「刃を通すに値せんな。どれ、拳で相手をしてやろう。」
ヴァイオレットは鎌を元に戻すと、魔力も何も纏わぬまま、拳で装甲を砕いていく。
拳の衝撃ごと、怪物の核は押し潰された。
「……やはり群れるのか。」
同胞を殺された恨みか、周囲の怪物はヴァイオレットを睨んでいる。
「まあ妾も暇じゃ、幾らでも相手をしてやる。」
ヴァイオレットは剣を握る。
が、怪物はヴァイオレットから突然視界を逸らした。
「……?!まさか騎士の方を…」
騎士の方にはシャーロットがいる。まずい、奴の戦闘能力は皆無だ。
「……!」
シャーロットは突然飛びかかった怪物に萎縮し、咄嗟に右手を前に構えた。
次の瞬間、周囲を覆いたくさんばかりの巨大な爆発が、怪物を吹き飛ばした。
魔族の群れは空へと打ち上げられ、欠片の一つも残らず消えてしまった。
「…え?」
周囲に暫くの沈黙が訪れた。


村の生き残りは20人ほど。親を失ったであろう子供も多かった。
「こ、こっちに近寄らないで!この化け物!」
女の叫び声が周囲に響く。
「いや、彼は竜人でして、村を襲ったアレとは無関係の…」
「なんの根拠があるのよ!娘を殺そうとしてたんでしょ?!アタシは騙されませんからね?!出ていって!ここから!」
ギルバートの助けた子供の母親だった。
そしてその恐怖は伝播していく。
「だいたい何で亜人なんかに助けられなきゃ行けないんだ…」
「何をせびられるか分からんぞ…」
「出ていかせよう、ここから。」
投げられた石が次々と体に当たる。
ギルバートは俯いたままだった。

「なんでこんな目に遭わなくちゃ行けないんだ…!アイツらに家族殺されて…それでも僕は助けたのに…!」
ギルバートの嘆きが屋敷中に鳴り響いていた。
「………」
ヴァイオレットは何も言わずに窓を眺めている。
せっかく助けたのにこの言われようだ。恐らくこんな事をもう何回も繰り返しているのだろう。
「………」
その夜はなんとなく眠れず、屋敷の中を彷徨いていた。
マリアナの部屋を通り過ぎようとした時、彼女の部屋から蝋燭の灯りが見え、足を止めた。
無意識のうちにドアをノックしていた。
「ああ…ごめんなさいね、散らかってて。」
泣いていたのだろう、彼女の目は赤く腫れていた。
「あの…えっと…私は何にもしてあげられないですけど…その…あんまり抱え込まない方が良いと…」
「別に抱え込んでなんか…」
「目、晴れてますよ。」
「……バレちゃったか。ごめんなさいね、ホント…ホントに…」
咄嗟に彼女を抱きしめていた。このままだと何処かに行ってしまいそうで、誰かに壊されてしまいそうで、彼女が眠るまで背中を摩っていた。
「お母さん…行かないで…」
か細い声で彼女は寝言を吐いた。
この人は何があっても見捨ててはいけない。私は最後まで共にいよう。この時そう決意した気がする。

ギルバートは暫く屋敷に留まる事となった。
差別する訳では無いが、やはり混乱を招いてしまうし、彼がこれ以上傷つくのも良くない、と言う配慮体だった。
「別に大丈夫だよ。……僕は平気だから。」
案外いつも通りの彼で、俺たちは心底安心しきっていた。

そして3年が経ち、俺たちの活動もようやく評価されていっていた。
支持するものも一定数でいたし、仲間も徐々に増えていった。
俺はその時16歳を迎え、エルフの成長を終えた。
当初は自身の魔力に混乱したものだが、その成長と共にある程度コントロール出来るようになった。
「……最近その服ばかり着てるわね。」
「ええ…まあ。何度も言いますけど聖職者じゃないですよ?」
修道服がいつしか俺のお気に入りの服になっていた。あの人が1番最初に選んだ服だから、と言う安直な理由ではあるが。

「…………」
だが日が経つにつれ、ヴァイオレットと口をかわすことは殆ど無くなって行った。
「ねぇ……最近なんか…」
俺の言葉を無視し、彼女はその場から立ち去ろうとする。
「ねぇ!……なんで無視するの?」
「話す気はない。」
ヴァイオレットは俺の手を払いのけると、その場を後にした。
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