Heavens Gate

酸性元素

文字の大きさ
上 下
54 / 133
シャーロット編

守るべきもの、壊されるもの③

しおりを挟む
「また来たよ。」
「白々しい…」
危険区域周辺、龍の耳に陰口が届く。
「こんにちは。」
雨宿りにしかならないような即席の住居、その中から1人の子供が顔を出す。
「またアンタ?」
「うん、アンタ。」
「…別に良いって。」
魔族の被害で家族を失い、1人暮らす彼。孤児院に行く事もせず、ここで暮らしている。
「なんで来るわけ?」
「僕がやりたいから。なんと言うか……いつか君たちが安全に暮らせる様になりたいから、まずは交流から始めようって。」
「みんなアンタの事を媚び売りだってよ。ちょっと前まで来てたあの女と同じだって。」
「ああ……その人ね、僕の隊の隊長だよ。」
「へー……じゃあアンタの部隊は慈善活動でもしてる訳?」
「してないよ?そもそも僕以外全員死んだ。」
「……!」
少年は絶句した。
「まあその人の意思を受け継ぎたいって思ってて、それで僕が変わりに来たんだ。……ここは危険区域の中でも最も貧しいと言われてる……どれぐらいなのか自分の目で確かめたいし…」
「帰れよ。」
「え?」
「帰れって!何が確かめるだ……今まで何してきたと思ってんだよ!」
「…………」
雨が降り始めた。龍は雨に打たれる。傘くらい持ってくれば良かったかなあ。
心はそれでも崩れていない。進まなきゃ……進まなきゃ……。

結局雨宿りすることにした。そろそろ日も暮れる。早く止んでほしいのだが。
「国公使えねー!」
龍は固まった。
「いやまあ頑張ったとは思うけどさあ、もうちょっとどうにかなんなかったのってカンジ。」
「俺ンチとかこの前の揺れでガラス割れたんだけど。」
男2人組が横に並んで歩いている。こいつらか。
気がつくと、龍は銃を握っていた。
いや、これでは足りない。
雷撃の斧を取り出す。
お前らに何が分かるって言うんだ。何もしなかったくせに。危険区域から遠ければ遠いほど金持ちな傾向にあるこの国。ガラスが割れるレベルの揺れであればコイツらは中心に比較的近い富裕層。
お前らがいるから…お前らがいるからみんな…。
龍は足を止めた。
いや、ダメだ。やっちゃいけない。こんな事は。


「龍くん?龍くん?」
ノーマンは龍の部屋をノックする。だが、部屋は間抜けの殻だった。
「?どこに……」
ノーマンは屋上に上がる。
「………やあ、何してるの?」
「わあああああ!えっとそのなんと言うか……」
「魔道具の訓練って感じかな?今幾つくらい適合してるんだっけ?」
「えっと…18です。」
「18…末恐ろしいね。じゃあこうしよう。毎晩僕と撃ち合う。勿論魔道具はナシね。」
「それで良くなるんですか?」
「そりゃそうだよ!そもそも魔道具はその元となる武器をベースに発動するからね。その武器の使い方を覚えればより強くなれる!自分で言っちゃあなんだけど、武器の使い方に関しては僕は最適だよ?」
「………お願いします!」
「よし、交渉成立!じゃ、始めよっか。」
「え?今から?うわああああ!」
結局一度も勝てないまま、この夜は終わった。
「何か辛い事でもあったのかい?」
ノーマンは聞いてきた。
「まあ…はい…」
「辛かったら相談しなよ。……絶対話を聞くからさ。」
「はい……」
なんだか心が洗われた気がした。


危険区域に再び赴くと、あの少年が転がっていた。
それも痣だらけで。
「大丈夫?!ねぇ!」
「う…あ…」
意識が朦朧としている。
早く介抱しなければ。
一日中少年はうなされ続けていた。
龍は勿論目を離す事はない。
そして日が沈んだ頃、彼は目を覚ました。
「良かった……目覚ました…」
「……なんで?」
「え?」
「なんで助けたんだよ?……あんなに辛く当たったのに…」
「だって困ってたから…。」
「………お人よしだよ、アンタ。本当に……」
少年は泣き始めた。
「ええええ?!ちょ、待って…なんか酷いことしちゃった?まだ痛い?」
「うるさい…」
少年は龍を軽く小突いた。
「その……なんて言うか……」
「ごめん。」
「え?」
「出てけって言ってごめん。」
「別に気にしてないって…」
「…………ジョシュア。おれの名前、ジョシュア。」
「……そっか、よろしくね、ジョシュア。」
このまま、ここから始めよう。僕が変えていけば良い。
龍は月を見て笑った。





それはいつもの朝だった。朝に起きて、顔を洗う。
だが窓に映った光景は、彼女の全てを放棄させた。
空に浮かぶ謎の島、そこから放たれる魔力を視認してしまったのだから。
そうして、彼女は姿を消した。
彼女が外に出る時は、いつも誰かに事前に知らせる。
だがその時は、誰も知らない。誰も知らない彼女がそこに居たのだ。
「………来るか、シャーロット。」
島の中の城。玉座に座る1人の吸血鬼は、そう言ってほくそ笑んだ。
しおりを挟む

処理中です...