Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

孤高に立ち尽くす、その瞳は②

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15分前…
「ぐっ!…っらあ!」
グウェルガンドの剣を交わす。その度刀で斬りつける。
無意識に近い感覚で繰り返されていく。
『サポートガン積みってのは頼もしいな…しかし…ここまで意識が研ぎ澄まされると気持ち悪りぃ!』
ケインは魔力視覚を発動する。
魔力を感覚で捉える魔力感知、その更に先の感知能力。
その名の通り魔力を視認する。己の体と周囲の魔力との差を視覚に映し出す高等技術…。
遮断装置でさえも誤魔化すことのできない、人間にのみ許された技術を、ケインは既にモノにしかけていた。
『先輩、そこに叩き込んで!』
レドの声が彼の脳内に響く。
「分かってんよ!」
ケインは両足の筋肉に力を込める。
『ああもお…!勝手に加速すんなっつーの!』
『ボヤいてる暇あったら協力しましょうよ!』
レナとセシルの会話に、ケインは思わず顔を歪める。
「数人同時に…頭で話すな!」
グウェルガンド両腕を切断し、その勢いを保ったまま彼の胸元へと飛び込む。
切り裂いた胸、核らしきものが出現する。
「ここ!」
地面に着地した直後、畳み掛けるようにケインは飛びかかった。
が、彼の剣戟によって、攻撃は一歩手前で逸らされた。
「クッソ…!再生能力早すぎだろ!」
『作戦を変えましょう。一撃に集中させるんです。手数が多いとコチラの攻撃に慣れてしまう。』
『自分から迫ってくる感じじゃないぜ、アレ。…動き回ってぶった斬れって訳か?』
『そうです。…行きましょう!』
ケインは地面を蹴る。周囲の森を駆け回り、グウェルガンドを撹乱する。
それでもケインの姿を彼は捉え続けていた。
『動体視力どうなってんだよ…!なら…無理3人とも!振り回すぞ!』
レド、セシル、レナは固唾を飲んだ。
ケインは速度の限界を超え、更に加速する。サリサの限界速度すら超越し、周囲の木々へと乗り移っていく。
グウェルガンドの首は動いていない。この隙だ。反撃の隙すら与えない。ケインは彼の背中へ飛びかかり、勢いよく切り裂いた。
「ここに…叩き込…」
剣戟が、飛んできていた。視認できるかどうかの次元ではない。
ケインは両者における圧倒的な力の差を再認識し、その直後、意識が途切れた。
受け止めた刀ごとケインは吹き飛ばされる。吐血する。致死量へと到達したであろう出血。最早命などないに等しい。
「あ…え…?」
呂律が回らない。視界が霞んでいる。やっとこさ戻った意識は皆無に等しい。
『っ…!あああ!』
レナの叫び声が聞こえる。感覚を共有した彼女にもこの激痛は伝わる。
『先輩…!』
レドの精神力を持ってしても、声に震えが出るほどのダメージ。ケインがまともに済むはずがない。
ケインは霞んだ視界でグウェルガンドを見る。
鎧が、白から黒へと変わっている。
「ふぅ…ちょっと焦ったぜ?今のは。まあ…アレだ。ラスボスってのは複数形態残してるモンなんだぜ?勝ったと思った瞬間が殺し合いの負けだ。」
ナニヲイッテイルカワカラナイ。
ナニガオカシイノカワカラナイ。
ナゼワラウ。
ナゼワラウ。
ナゼワラウ。
オレハコンナニクルシイノニ。
オレハシヌキデヤッテルノニ。
ユルセナイ。
オレヲワラウノヲユルサナイ。
ケインにもはや意識などない。
今持ち得るのは本能だけ。
だが、
だがその反応が、彼の能力を飛躍させた。
グウェルガンドの剣戟を、ケインは交わした。否、交わす前に動いていた。当然無傷では済まない。現に彼の右耳は吹き飛んだ。
だが、止まらない。
「殺す…!殺してやるよ…グウェルガンド…!」
無意識に出た言葉は、彼自身の本質だった。
笑っていたのだ、彼は。
命の駆け引きを楽しんでいた。
否定したあり方を肯定していたのだ。
「はははは!なんだよ…テメェも同類じゃねえか。」
驚くほど早い剣戟、
しかし、彼は難なく対応していた。
「先輩…?!おかしい…繋がっている筈なのに…全く接続できていない。セシルさん側の視力なら応答できるのに…」
「矛盾してないかい?それ。」
クレアの声がレドの耳に届く。
「おかしいのは分かってます…だけれどとにかく…理解不能な状況なのは確かです。…今までの先輩、いや、今までの誰よりも彼は強い。」
「そうか…!意識を失ったからか。人の脳とは全てが使われているわけじゃない。彼は意識を失った事で脳が100%解放されたんだ!…或いはこれは…彼の潜在能力の覚醒なのかもしれない。」
グウェルガンドの剣戟は、振り翳す毎に速度が減速していく。
『これは……こいつの重力か?いや、んなもんは腕力でどうにでもなる。そもそもそれらしい負荷がかかってねえ。』
「ふぅ…!はははははぁ!」
ケインの笑い声の直後、重力によって彼の両腕は捻り潰された。
「腕ばっか狙いやがって…この単推し野郎が!」
グウェルガンドは即座に腕を再生させると、両手それぞれに剣を生成し、周囲のもの全てを巻き込んでいく。
が、ケインは突然、攻撃をやめた。
そして両手を空に構え、小声で何かを呟いた。
その直後、上空に穴が出現する。
「…?!なんだ?このちっせえ穴は。10cmもねぇじゃ…」
穴は周囲を飲み込んでいく。選別の2文字など何処にも無し。
グウェルガンドとて例外ではない。
が、空中に浮かび上がった彼の行動は至って冷静だった。
2本の剣を握ると、自身を吸い寄せる穴を睨みつけた。
「これは…中性子星か?」
レドの呟きに、クレアは顔を顰める。
「はあ?!中性子星?!彼の魔能力は重力だろ?!中性子星が作れたらもはや質量操作じゃないか!……まさか、そもそも魔能力の内容からして違ったのか?」
「だとしても、あの質量は異常だ。あの形は中性子星にあまりにも酷似している。」
グウェルガンドの十字架型の斬撃は、中性子星を切り裂いた。
彼の姿は先ほどとは違う、白と黒の虎柄の鎧。当然能力もまるで別物。
化け物だ、と周囲の誰もが思った。星を斬るに等しい行為を、奴は難なくやってのけたのだ。
「ふぅ…マジで危ねぇ…。楽しくなってきたがよお…だがお前は弟の仇だ。同情も敬意もねぇ。」
グウェルガンドは仇へ剣を向けた。が、彼は答えない。
それどころか、立ってすらいない。死体のように倒れていた。
「あー…そうかよ。火事場の馬鹿力とか言う奴か?とっくのとうに虫の息だったって訳だ。…今度こそ死ね。」
最早驚きも悲しみもしない。あとはコイツを殺すだけだ。
だが、それでも運命は覆る。
「よぉ、待ちな。」
1人の男が、立っていた。
「…誰だ?」
「ジーク.ハイドラッド。まあ今倒れてる奴の仕事仲間兼先輩さ。」
「良い加減にしろよ…俺はコイツを…殺すんだよぉ!」
グウェルガンドが剣を振りかざす。
が、その動作を開始する直前、衝撃によってそれは止められた。
「まあ落ち着きな。向こうも流石に厳しいと思ったらしくてね、援軍として送られた。」
彼の背後から、次々と砲撃が放たれていく。
グウェルガンドはかわす事すらせず、全てを体で受け止めた。
「効かねえか…しゃあねえ、ケインを治療しろ!回復上限いっぱいまでな!」
治療部隊がケインを回収した。
「テメェ…!てめえええええ!」
「なあ…知ってるか?30年以上前に行われた悪魔の実験…。」
「あ"?」
「強力な魔道具への適合者を生み出すために、子供の体に改造を施して適合者を見つける悪魔の実験さ。
俺もそれの被害者でね…クローン培養で作られた数ある自分の内の1人。親の名前も当然知らん。俺が選ばれた理由ってのはなあ、魔道具の能力の関係上、紫外線への耐性が必要だったからだ。だから黒人の俺が使われた。まあ他の人種もいたんだが、主に何人もの俺が犠牲になった。そして58人目の俺が適合したんだが…残りのクローンはどうなったと思う?当然みんな殺されたよ。他の種類のクローンたちはどうなったかっつーと…全員裏社会に流れていったのさ。
買い取った奴らはなんでもしたさ。殺しも陵辱でもなんでも、な。
結局生き残ったと分かってるのは、デボラっつー奴だけだ。だがそいつも身体中を魔装機関にせざるを得ないほどの体にさせられた。
身体中の組織構造を改造させられた分、通常の魔装機関じゃすまなかった。結局そいつも今じゃ裏社会の住人だよ。」
「何が言いてえんだテメェは!」
「ああ…すまんな。俺の話は長いとよく言われてる。まあ要するに、だ。今まで何人もの俺が殺されるのを俺は見てきた。その都度俺は思ったわけだ。
俺は一体なんのために生きれば良いんだ?とな。
自分が生き残って心底安心したが、それから自分はどうなるんだ?なんて言う恐怖しかなかった。誰に従って誰のために生きていくんだ?なんてな。
…だがその時思い出したんだ。前の俺は、前の俺たちは俺にどんな感情を向けていたか。
…俺はクローンの中じゃ1番弱虫でな。いっつも泣いてたんだ。
俺より下の番号のやつ、俺より上の番号のやつは……死ぬと分かった時、俺に希望を振り撒いたんだ。俺に生きてほしいと言ったんだ。」
「感動話か?下らねえ!」
「感動なんぞ誘っちゃいないさ。だがよ、それを思い出した時に俺は思ったんだ。自分に希望を振り撒かれたなら、自分がそれに応えないといけない、てな。だが別に誰かのために戦う訳でもないぜ?自分に言われた以上、自分が自分のために戦わなきゃいけない。殺されていった俺たちの為に、俺は俺でい続けなきゃ行けないんだ。」
「ただの自己中野郎じゃねえか…!」
「そうだよ!俺は俺のクローンを家族とも他人とも取れなかった!いまだに自分が死ななくて良かったと思ってるよ!だがそれが俺たちの願いだ!全員が俺に希望を抱いたと思うか?!俺に憎悪も抱いた!だから俺が恐怖するのも、クズで居続けるのも俺への償いなんだよ!」
「説教は終わりか?いや、説教ですらねえな。ただの自分語りだ。」
「ここからさ、話は。
良いか、グウェルガンド。誰かのために戦うのはやめろ。」
「は?」
「テメェの仇に弟を巻き込むなっつってんだよ。」
「何がわかるってんだよテメェに…!家族もいねぇテメェに何がわかるってんだよ!」
「復讐で満足するのはテメェだけなんだよ!復讐を俺は否定しねぇ!俺も実験をした奴らを殺した!だが復讐が誰かのためになるとか思うな!救えるのはテメェだけだ!……それが弟への救いになると思ってんなら、俺はお前を許しはしねぇ!そんな気色悪い言い訳を並べるな!」
「終わりか?…残念だったな、俺には響かなかった。」
「そうかよ。……直ぐに分かるさ、青二才。」
ジークは右手を上に構える。
灼陽の聖剣ガラティーン!」
はるか上空、燃え盛る剣が彼の右手へと降り立った。
「それは…王剣《エクスカリバー》の姉妹剣か。知ってるぜ?その剣は太陽が出ていないとその真価が発揮できない。あいにくまだ日は出ちゃいねえ。」
「俺はな、体に太陽の発する魔力を詰め込まれている、いわば人型の太陽だ。故にずっと太陽の恩恵を受けられる。」
「……そうかよ。じゃあ斬るのか?そのナマクラで!」
グウェルガンドは剣を振り翳した。が、ジークがとった行動は、予想を遥かに覆すものだった。
「いや、殴る。」
ジークは剣を仕舞い、ポージングを取ると、グウェルガンドの懐に拳を突き出した。
パンチの衝撃は彼の体を貫通し、後方の木々全てを吹き飛ばした。
「っ…てぇぇぇぇ…!」
グウェルガンドは思わず腹部を抑え、絞り出すような声で喘ぐ。
「ほー…俺のジャブで吹っ飛ばねえのか。やっぱりclassSはちげーな!」
倒れかかった体への、容赦のないアッパー。脳の構造の違いゆえ、顎を殴られても脳は揺れない。しかし、ダメージを与えるには十分だった。
「テメェ…!」
「いやー…ノーマンがここに来る予定だったんだがよ…近接戦じゃあ俺のが数段上だってアイツが言うから…なっ!」
ジークはステップを踏み、照準を定める。
直後、ジャブが容赦なく浴びせられていく。ミシンのように正確無比に、駆逐艦隊のような破壊力で。
『2…4…8…』
パンチの回数を脳内でカウントする。
「う…ぐ…!」
大きなダメージはひとつもない。だからと言って対抗できない。挑発するには十分。
『16、32、64、128…』
「ああああ!」
冷静さを失ったグウェルガンドは、一心不乱に飛びかかる。が、彼の拳は止まらなかった。
『256 512 1024 2048…』
最後の一撃により、ついにグウェルガンドは吹き飛ばされた。
「…16384。」
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