Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

生の逆転②

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5分前……
「はっはっはっは……さて、行くか。」
トラヴィスは破壊された司令塔の瓦礫をかき分けると、それとは別の方向を睨んだ。
が、突然、スピーカーから音が聞こえた。
『あー……聞こえるかい?』
おかしい。あのメリッサとか言う女の声だ。奴の死体はここにある筈。
足元の死体へ彼は視線を移した。その途端、メリッサだったはずの物は、火花を立てて煙を出し、機械が故障したかのような動きをし始めた。
「な……?!」
「教えてやろう。そうだな…始まりは半年以上前さ。入念に時間をかけて『この場にいる隊員全てと隊員の3割を模倣した傀儡』を作り出した。」
『傀儡だと?』
「はははは!私が傀儡師と呼ばれているのは別に隊員を傀儡のように操っていたからに限った話じゃないのさ。通り強固な糸を生成して傀儡を操れる魔能力からも来ている。君は知らないだろうね?何せ立場が上の人間でも知っているものは極々僅かだ。私は自身の体に遮断装置を常につけていてね、それも『大したことのない魔力量』に見せるくらいに調節した物を。」
『いつから…気づいた?』
「だから半年前だって言ったろ?まだ本格的な魔族の侵攻の予想など当然されてはいなかったが…魔族の出現率がほんのわずかに上がっていた。アレはつまり兵器開発を加速させたからだろう?その結果魔族の消費する魔力がこちらまで漏洩してきた。……そこまでやっているなど予想を立てるものはいなかったが、まあ実際そうだったからパーフェクトだ。」
『まさか…隠していた戦力まで…』
「せーかーい!ここに全部ある!……私の予想が確証に変わったのはドレイクらの襲撃事件さ。そもそも魔力防壁が貼られているのに彼らはどうやって突破したんだい?答えは満場一致だ。内通者がいる。内通者とならば人間だと皆思っていた。だが私は違う。仮に…仮にだ。『完全に姿形が真似られる魔族』がいたとしたら?ってね。…君はこちらに存在が知られている前提で動いて来た。実際コチラが隊員に施した細工をあえて取らなかったんだから。……だから此方も微妙に君に有利になる情報を定期的に流した。」
『なるほど……掌の上って訳か。』
「あ、因みにクレアからの伝言だ。身体中フケだから洗えってさ。川は西側にあるぜ?」
『クソッタレ…俺が1番気にしてることをおおお!』
巨大な爆発音により、音声は途切れた。
「よっしゃー!爆発されたら爆発し返す!ボンバーカウンターってね!」
「喜ぶよりさっさと指揮してください。」
フリークは真顔のまま言い放つ。
「分かったよ…クレア、行けるかい?」
「アイアイサー!待てよ?アイアイサーは船乗りの言葉か。」
突如、地面が傾き始め、中に空洞が現れる。
「さぁ…行くとするか!」
18箇所に設置されたゲートから、次々車が飛び出していく。
「通信、通じるかい?」
「ダメです……電波が遮断されています。魔力に関係しているのかも…」
「ふむ…私の魔力量なら出来る…となるとおおかた魔法出力の遮断といった所か。…周辺の全隊員に繋げた前!通信可能範囲は?」
「少なくとも18箇所とは通信できるッスよ。ただ全域は…」
「では私たちも移動しよう。…クレア!」
「了解!」
クレアは司令室の地面に触れ、魔能力を発動する。
司令室の形状が組み変わっていく。
「これは…」
「ああ…全部車に改造させてもらう。構造はちゃんと把握してるからね。そこんとこは大丈夫さ。」
車の窓から漏れる光に、レドは思わず目を細める。
「さて……あの魔族をどうするかだな。君はどう思う?レド君。」
「そうですね…壊れて再生と増幅を繰り返してるから、破壊されることで増えていくんじゃないですか?」
「と言うと?」
「簡単ですよ。こちらもそれを利用すればいい。メリッサさん、貴方の糸を使えないですか?…あそこです。」
「了解した!」
メリッサは車の扉を開けると、数百本の糸を魔族の群れへと放ち、数体の魔族を手繰り寄せた。
「それを出来るだけ多くの糸で包んでください。」
車は一直線に魔族の群れに向かっていく。
「今です!」
糸から魔族が一斉に溢れ出す。
正面の魔族とそれはぶつかり合い、互いに破壊と増幅を繰り返していく。車はそれらにぶつかる直前、右方向に舵を切り、ほぼ直角に近い角度で方向転換を行なった。
「なるほど……目には目を…と言う奴か。」
「ええ…あの魔族の群れ、前方にしか動いていないんですよ。斜め方向とかはありますけど。だから此方から放てば壁になる。」
「成程…ではなぜわざわざ場所を指定したんだい?」
「一定の場所でしかアレは増幅していないんですよ。なので、幾つか増えると決まっている場所があるんじゃないかと。」
「ではアレを狙えば増幅は止められると言うわけか…」
「ですけどそれは現実的じゃない。一掃できる程の攻撃をしようにも出力を遮断されてるから出来ないし、シャーロットさんは音信不通。……何もできていないあたり何かされてるんだ。かと言って動き回るアレのウチの特定の数体を複数同時に叩けと言うのは不可能に近い。と言うかそもそも破壊されて増幅してるんですから、その都度的は変わる筈。一体狙うのも難しい。」
「そうだな…私もこれほど遮断されては少々キツイ。…仮に全部殺せたとして、増幅した魔族が全て消える保証などない。…仮に残るとしたら、残った魔族を結局相手にせざるを得なくなる。」
「じゃああれは後回しですね。…問題は魔力を遮断しているこの結界と、確認されたアレらだ。…恐らくアレらは6の中でも最強レベルだ。」
「どうするんです?遠くにいる方はまだ放置できる余地がある。……だけれどもう一方はそう遠くない位置にいる。……何か対策があるんでしょう?」
「ああ、今頃向かっているだろうね、彼女の性格なら。……アン、聞こえるかい?」
『少将…?何を…』
「君はどこにいる?」
『上空にいる魔族を狙撃できないかと…今向かってます。』
「ビンゴだ!あらかじめ彼女にはね、どこで何が起きても良いように比較的安全な地帯で待機させてもらっていたんだよ。ホラ、捕虜に色々聞いただろ?彼らは皆『知らない』の一点張りだった。私は彼らが嘘をついているようには見えなかったものでもしかしたら、とね。彼女の狙撃能力は一流だだ。……セシル班長はいるだろ?彼の力を…」
『いえ…それが…突然消えてしまって…』
「?!いないとはどういう…」
『さっきまで居たのに…突然消えてしまったんです…訳が分からない…。』
「もしかして。」
「何か心当たりがあるのかい、レドくん。」
「勘です。……アレがいる場所に連絡を。」

「なんだ…?テメェは。」
「んだよ……なんだよこれは!」
セシルは錯乱した。突然視界に現れたあの怪物。死にかけている仲間。その数秒後、彼が取った行動は逃避であった。
「クッソ…!世話焼けるぜホント!」
その場に倒れる龍を抱え、セシルはグウェルガンドから距離を取る。
「よく分からねえが…まあ殺せば良いだけか。」
グウェルガンドはセシルを追う。が、次の瞬間、彼の体は地面へ落ちていった。
「へっ!馬鹿かよ!森の中じゃあ俺の魔能力は最強だ。…最強は言い過ぎか。」
森の木々が次々とグウェルガンドを縛り付けていく。千切ればちぎるほど数を増すそれは、彼の動きを止めるのに十分だった。
「セシル…さん…」
「どういう事だお前…?この状況…」
「まだ…2人…」
「ああ?!最悪だよ本当にもう…」
セシルは周囲の木々に『目』を張り巡らせる。
『あれがセシル班長の黒鋼…定着させた生命を際限なく複製する魔能力…』
「そこか!」
セシルは魔能力でケインと花織を手繰り寄せると、遮断装置を起動し、岩陰に隠れて座り込んだ。
「はあ…はあ…!どういうこっちゃこれは…おい、お前だろ。えーっと…劉龍だったな。」
「待って…死ぬ…」
「あー待て待て待て治してやるから…ホレ。」
セシルはケイン、花織、龍の体に黒鋼を『定着』させると、欠損した部位を修復した。
「痛っ…!はあ…はあ…」
「ああ、玄式花織だったか…マジかよお前。両足欠損して意識あるとか引くわー…」
「治す瞬間がとてつもなく痛いのはどうにかならないんですか?」
「ならん。…立とうとするなよ?俺はなんでも治せるが、機能は100%再現できてる訳じゃねえ。だからお前の体は直ぐには受け付けない。早くて半日、普通で1週間だ。…ケインと龍は四肢の全部を修復した訳じゃねえからな、戦えるっちゃ戦える。」
「ケインさんは…生きているのですか?」
「生きてるさ、少なくともお前よりはな。」
「良かった…」
花織は岩にもたれかかり、安堵した。
「で、龍。お前は何をした?」
「僕の魔能力です。…僕は対象を転移させる転移魔法が魔能力なので…それを魔法陣で拡張して『対象の所有物を媒介に転移させる』魔法を使ったんです。…誰でも良いから来てくれって奴でしたけど。」
「……マジかよ、そりゃとんでもねえ魔能力だな、本当に。
…なんでそんなのが1部隊に留まったんだ?特殊精鋭部隊に行くだろ普通…ああすまん、独り言だ。…所有物ってのはあれか、俺の黒鋼か。」
「黒鋼?」
「ああ…内通者が居ると聞いていたんでな、隊員全員に極上の黒鋼をつけておくように言われてたんだ。お前らに俺の声が届いたのもソレのお陰だ。」
突然、無線機が鳴る。
「……!はい!」
『当たりか。セシル君、状況は?例のclassSはどうなった?』
「一応足止めは出来てます。…ただ限界は近い。」
『そうか。……君たちで対処は可能か?』
「厳しいかと。」
『そうだろうな。…安心した前、後方支援役はいる。…レナ.ロックベルト。彼女の感覚拡張を使用する。君の黒鋼なら彼女と触れる事は可能なはずだ。…正直此方としてもそっちに割く戦力を最小限にしたいんだ。』
「出来るとすれば……ケインか。おい、聞こえるか?」
「ええ…まあ…ちょっとフラフラですけど…」
「俺が強化する。まあ代わりに1週間はロクに動けねえが…」
『…流石だ。敵の情報を送ってくれ。分析して送る。それまでは時間を稼いでくれ。』
「了解!おい、離れるぞ!できるだけ奴から遠ざかる!……奴について教えてくれ。なんでもいい、全部役に立つ。」
セシルは龍から詳細を聞く。次第に彼の表情は強張りを見せていく。
『どういう事だ?魔法がロクに効かねえのは知ってるが、あの巨体であの速度は道理に合わねえ。サリサ隊長が防戦一方って事はマッハ30は超えるはず…だがソニックブームが起きるなら空気の壁で周囲のものは吹き飛ぶ…。実際隊長の攻撃は基本全部吹っ飛んでく。……だが奴はそれがない。触れたものだけを壊したらしいじゃねえか。ましてやあの巨体。Stage6なら人の大きさの筈だろ!普通体がデカすぎて魔力の消費が馬鹿にならねえ!あの巨体なら尚更だ。
そして核を操作できる点。アレがやばい。どうやってるから知らんが魔族を倒す手段を失ったようなもんだ。クソっ!知れば知るほど化け物だな。魔法のあの異常な耐性じゃ丸ごと吹き飛ばせやしねえ!……やはりシャーロットの解放を待つか?いや間に合わねえ。あの速度と破壊能力じゃそれまでに全滅だ。』
セシルは考えを巡らせながら魔能力で情報を送る。
「うむ…」
メリッサは考え込んだ。
「……」
周囲に緊張が走る。
「うん、無理だな!あー無理だこれ!」
全てを投げ出したような彼女の発言に、周囲は頭を抱えた。
「うーんこれは…正直方法が見つからない…速度は強化しまくればどうにかなるが…それ以外がどうにも…」
「あの…一ついいですか?」
レドが呟くように割って入る。
「何かあるのかい?」
「レナさんの魔能力…セシルさんの魔能力を介してリンク出来るんですよね?他者の感覚の拡張と共有が彼女の魔能力であるなら…他の誰かの感覚を同時に対象に追加できるんじゃないですか?」
「……?」
メリッサを除くほとんどは首を傾げる。
「ですから…あれは物凄い速度ですけど…強化しまくれば速度にはついていけるんですよね?だとしたら問題になるのは処理能力だ。サリサさんの場合脳の処理も同時に強化していた。なら処理能力を上乗せすれば、それを再現できるんじゃないですか?動体視力も自体は強化可能なので解決できますし。」
「……誰がやるんすか?それ。それを長時間続けたら脳が焼き切れる。」
エドガーの言葉に周囲は押し黙った。
「僕がやります。処理能力に関しては僕が1番高い。そうでしょ?メリッサさん。」
「ああ…そうだ。それで行こう。」
「な…!?マジっすか?!そんな躊躇いなく…」
「まあやらなきゃいけませんから。…僕程度が死んでも案外足枷にはならないですよ。」
「イカれてんなあもお…」
直視し難い凶器に、エドガーは思わず顔を覆った。
「流石にセシル氏だけだと難しいからね、補助装置を使うよ!良いね?」
クレアはレドの後ろに立ち、そう問いかける。レドは返事をせずに、ただ縦に頷いた。
「よし…作戦は伝えた。」
「メリッサさん…この後の事を色々…」
「…?」
レドはメリッサに耳打ちする。
「……!それは…分かった。改めて…これより、最大脅威魔族殲滅作戦を開始する!」
魔導士達は、向かっていく。明日の空へと、向かっていった。
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