Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

いつかの未来にサヨウサラ

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白い塊がそこにいる。白い塊がそこにいる。そこにいる。そこにいる。ソコニイルソコニイルソコニイルソコニイルソコニイルソコニイル…
「うん、まだマシだなあコイツらは。」
シロイカタマリガナニカイッテイル。
「龍!」
突然、突き飛ばされた。赤い液体が視界を埋める。
「エドワード……さん?」
肩を押さえている。赤いものが付着している。誰かの腕が彼の後ろに転がっていた。
ようやく悟った。あの腕があそこにあるのは、今彼が苦しんでいるのは僕のせいだ。
「あ…ああ……ごめ…」
いきなり後ろに引っ張られて、僕の言葉は遮られた。
メルケルさんが僕らの手を掴んだのだ。
「隊長に知らせないと……!早く…」
突如、会話を遮るように魔族が僕らの真横に現れる。
「逃げんなよお…楽しみてえんだからさあ!」
「あああああああ!」
前に飛び出したエドワードさんの腹部が切り裂かれる。致命傷である事など一目でわかるレベルだった。
「エディ!」
「……行け。少しだけでも稼ぐ。」
「待て…おい……エドワード!」 
森の木に血液が勢いよく浴びせられる。
「クソ……クソ!」
メルケルさんは最早こちらを向かない。
「他の……他の人たちは」
ベロニカさんが駆けつける。流石に余裕のない表情をしていた。
「生き残ってても数人しかいない。今の一瞬で全員やられた!……姉さん、ここは三手に分かれよう。」
「うん。……ごめんね。」
「謝んないでよ。……龍、君は1人で行かなきゃいけない。今、誰とも連絡が取れない。…通信が遮断されてるんだ、何らかの方法で。とにかく合流するんだ。あそこに射撃部隊と支援部隊がある。……誰かが辿りたければそれでいい。」
「メルケルさん……!」
もやは振り返る訳には行かなかった。エドワードさんは、彼は僕が殺したようなものだ。行かなければ、行かなければ……

「はあ……はあ……!」
メルケルは走っていた。姉さんは、姉さんは無事だろうか。そう何度も頭によぎった。魔能力で僕らはリンクしている。状態を感覚で知ることが出来る。あの感覚は、あの感覚だけは……
双子の姉、ベロニカ。姉と言うには彼女は余りにも情けなかった。そばにいないとすぐ迷子になるし、やたらと物を無くす。その癖お姉ちゃんだから、が彼女の口癖だった。
そんな姉が正直苦手だった。いつだって困るのは自分ばかり。どうして何食わぬ顔で過ごせるのだろう。嫌悪、とまでは行かずとも、よく思っていたかと言われると首を縦には振れなかった。
だがそんな関係に変化が訪れたのは10歳の頃だった。いつものように姉の散らかった部屋を掃除する羽目になった日。いつも通りだったのに、その日は妙に腹が立っていた。そして怒って家を飛び出してしまった。
姉に会いたくなくて、家に帰りたくなくて、行ったことのない道に行ってしまった。
それからは迷子だった。焦れば焦るほど日が沈んでいき、ついには完全に日が刺さなくなった。
糸が切れたように涙が溢れた。なんで飛び出してしまったんだろう。今更後悔しても遅かった。
その時ー
「みーつけた!」
後ろから、声が聞こえた。
振り返ると、いるはずのない姉がそこにいた。いつもと変わらない笑顔でそこにいた。
姉に泣きついていた。泣き叫んで謝罪していた。
帰りは2人で手を繋いで、その後親にこっぴどく叱られた。
思えば姉は自分よりよっぽどしっかりしていたんだ。
周りの同級生は、いつも姉を慕っていた。あまり友達のいない僕に比べて、人を惹きつける魅力があったのだ。
僕はそれを認めたくなかっただけ。姉より上だと思い込んで、そんな事実から目を逸らしていたのだ。
「お姉ちゃんがついてるから」
今でも相変わらず、姉は子供のようにそう言ってくる。
だけれどそれにすごく安心できるんだ。誰が何と言おうと、姉は僕よりしっかりしてる。そう実感できるから。
なのに、なのにどうして気づかなかったんだ。さっき姉が見せていた表情は、あの焦りに満ちた表情は、僕が一度も見たことが無かった事に。
途端、身体中を寒気が襲う。姉に何かがあったんだ。
進まなきゃ、進まなきゃ、進まなきゃ……
言い聞かせても無駄だった。体は思わず引き返していた。
「姉さん……姉さん!」
そこにいたのは、地面に血を撒き散らした姉の姿。呼吸などない。目に宿る光は皆無。誰の目から見ても、ただの死体でしか無かった。
「ああ……あああああああ!」
何も聞こえない。何も感じられない。何も分からない。僕は、僕は一体どうすれば良いんだ。武器を振り上げる。
もはや勝つために攻撃などしていなかった。死ぬための、自暴自棄の攻撃だった。
そうして、僕の意識は途切れた。

龍は肌で感じ取った。ああ、2人が死んだ。
もはや希望など彼の頭にはなかった。自身が死ぬ時の言い訳を考えるばかりだった。
「よお、随分おせえなお前」
前に、立ち塞がっていた。白い体の怪物が。追いつかれたと理解する事すらままならなかったのだ。
「ま、死ねや。」
そう言って振り翳された魔族の斬撃は、彼のギリギリで逸れる。
「あ?」
「っ……ぶないなあ」
サリサは正面の魔族を睨む。
「……あはははあ!待ってたぜえこういう奴をよお!」
「龍くん、下がって。」
魔族は刃を振り下ろす。サリサは再びそれを受け止めると、上方向に向かって弾く。しかし、衝撃をいなしきれず、後ろへとよろける。
『なんてパワー……!速さも尋常じゃ無い!』
魔族は止まらず斬撃を繰り出す。サリサは後退しながら刃を受け止めていく。
反撃ができない。時期に限界が来る。サリサは表情筋をこわばらせる。
ーが、魔族が捉えた一瞬の視界にあるものが映った。斬撃の雨の中、袴の女が紛れ込んでいたのだ。
「!」
魔族は正面に剣を構える。刃をすり抜けるように、斬撃が魔族の体に走った。
『硬い……!仕留めきれなかった!』
花織は魔族の視界から逃れるように、その場から姿を消す。
「ほお……この感じだと……もう1人か?」
魔族は右手を上に上げる。ケインの斬撃はあっさり受け止められ、空中に彼は放り出された。
「マジかよ……!」
ケインは着地すると、魔能力を咄嗟に使用する。
が、魔族はそれを意にも介さず、彼に襲いかかる、速度に一才の変化は見られない。
サリサが間に割り込む形で、魔族の攻撃を防いだ。
「このまま行くよ!」
ケインは最小限の動きで頷く。
サリサが攻撃を弾き、ケインがカバー、花織が不意打ち…
これを繰り返しながら前進していく。
部隊まではそう遠く無い。支援のできる場所までこのまま持ち堪えれば良い。
ケインの魔能力の重複により、徐々に魔族の動きは低下していく。幾ら此方の動きに慣れたところで、その頃には攻撃に対応できなくなっている。
3対1のローテーション。時には順序を変えながら、着実に前進していく。
『玄式流……月の朧』
不規則の歩幅、一瞬にして独自の縮地。花織は地面を蹴る。魔族の右腕は吹き飛んだ。サリサは空を舞う剣をすかさず叩き落とす。が、彼女が瞬きを一度終えた頃には、剣と右腕は再生していた。
『その剣……固有能力かよ!』
サリサは咄嗟に後方に飛び、剣戟を回避する。
「そろそろ……そろそろ合流でき……」
サリサは後ろを向き、龍を確認する。が、その先にいた彼は、その場に呆然と立ち尽くしていた。
『……?いったい何が…』
最悪の未来が頭によぎった。そしてその未来予想図は、見事に的中してしまった。
森を抜け、サリサが目にした光景は、到底受け入れ難いものだった。
部隊が居たはずの場所は、火の海に呑まれていたのだ。
「連絡手段が遮断されたんじゃ無い……そもそも連絡する人間がいなかったんだ…」
龍は膝から崩れ落ちる。
「まだ……行ける。ここで倒さなきゃ。こいつはここで、やらなきゃ!」
サリサは再び斧を構える。
「作戦は変更。こいつはここで倒す。何としてでも止める!」
サリサは防御の姿勢から一転し、魔族に斧を振り上げる。彼女のその声が震えていた事は、その場にいる全員が知っていた。しかし気にする暇すらない。
『ケイン君の魔能力で遅くなってる……!ならつけ入る隙はある!』
魔族はそれに合わせるように、サリサに向けて剣を振り翳す。
ーが、剣は地面に引き寄せられるようにサリサからそれる。
「させるか…!」
ケインの魔能力によって剣ごと地面に押さえつけられた魔族はサリサの剣戟を咄嗟に左手で受け止める。
しかし、魔力を集中させた刃にその腕は切り裂かれた。
そのまま左肩まで届いた斧を、魔族はのけぞるように回避する。
『……見つけた!』
左肩、核の位置を3人は確認する。
「……なるほどなぁ。良いぜ、ちょっと本気出すわ。」
魔族がそう呟いた途端、あたりを膨大な魔力が包み込んだ。
「本気じゃなかったってか…!」
ケインは唾を飲み込む。その直後、彼の目の前に魔族が迫っていた。
彼は咄嗟に剣で受け止める。
が、そのまま押し出される形で彼は吹き飛ばされる。
「っ……!」
サリサは反射的に左にかわす。彼女の前髪を斬撃が切り裂いた。
全身に力を入れ、斧を振り回し、攻撃を受け止めていく。殆ど勘に近かった。回避する事など不可能。かと言って受け止めることすらままならない。殆ど詰んでいた。
ー1人であったなら。
一瞬魔族の動きが鈍化する。ケインの重複した魔能力が更に重なり合ったのだ。
サリサは全身全霊で斧を振る。魔族の右手首再びは吹き飛ばされた。
それに合わせる形でケインは地面を蹴り、木々を移動していく。
「ああああ!」
魔族に向けて『物干し竿』を投げる。魔族の首元を刃が掠め、重力が更に増していく。多量の出血により魔族は一瞬よろめいた。
花織は刀を構える。
『玄式流…八咫ノ雫やたのしずく!』
水面に雫が落ちるかの如くの一瞬の動きであった。落ちる雫は八咫の大きさ。一才の無駄なく、自然の摂理の様に、斬撃は魔族の左肩を切り裂いた。
「避けた…?!やはりこいつ……事前に動いて……」
しかし肩は切り裂いた。後は斧を振るうだけ。サリサは斧を握り、地面を蹴った。
魔族は右腕を再生させ、剣をサリサに振り翳す。彼女の腹部を刃が捉える。途端、血液が鳩走った。しかし前進は止まらない。今この場では、即死でなければ軽傷と化す。彼の左肩に彼女は斬撃を
ーだが、彼女の動きは止まった。無い。先ほどあった核が無い。
『まさか……核を移動させられる…?!』
そう気づいた頃にはもう遅かった。魔族は不敵な笑みを浮かべると、サリサに再び剣を振り、彼女の右腕を吹き飛ばした。そのまま後ろに吹き飛ばされ、サリサは木に体を叩きつけた。
「っ……!あああああああ!」
出血する右腕を押さえる。しかし抑えるべき腕はどこにも無い。
おかしい。明らかに先ほどより早い。全く見切れなかった。
「何……してんだよ!」
ケインは刀を手繰り寄せ、魔族に剣を振り翳した。
ーが、刀はまるで飴細工を指で押したかのように、あっさりと砕けてしまった。
ケインは咄嗟に魔能力を発動する。が、一才速度の変化はなかった。
『どうして……さっきまでは効いていたのに…』
ケインは魔族の変化に気づいた。白と黒の肌のみだったその体は、白い鎧に包まれていたのだ。
魔族は自身の爪でケインの腹部を貫く。彼の体から血が溢れ出し、土へと染み込んでいく。
突如魔族は動きを止め、目を細めると、ケインの顔を睨みつけ始めた。
「どーっかで見覚えあると思ったらよお…テメェか。俺の弟殺した奴。…俺はグウェルガンド.ゼルべナード。クロロフォートの兄だよ。」
魔族の顔は笑っていなかった。たった一つの殺意に満ちていた。
「やめろ……!やめろお!」
花織は地面を蹴る。彼を殺してはいけない。彼が死んだら私はー
グウェルガンドに斬撃を浴びせ、花織は着地する
…筈だった。
着地に使用するその両足は、彼の剣によって切断されていたのだ。着地する手段を失った花織は、前進する勢いを殺すことができず、地面を転がる。
「う…ぐ…ああああ!はあ…はあ……やめ…ろ…!」
花織はグウェルガンドを睨み、這いずりながら前に進む。
「お前は良いわ。……完全に見切ったしな。……お前は最後な。」
グウェルガンドのは爪をケインから外し、彼を地面に放り出すと、冷酷に言い放った。
「……飽きたわ、殺すのは。」
グウェルガンドは、放心したまま立ち尽くす龍の方を見る。
「あ…あ…あああああ!」
龍は背を向けて逃げる。死にたく無い、死にたく無い。死にたく無い……………
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