Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

死の反転②

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「ははは!coolだぜ!アンタとなら戦う価値があるってもんだ!」
魔族は雷を纏う。
サリサはそれに答えるように、赤紫の雷を迸らせる。
両者は一才離れることなく、高速で撃ち合う。その速度は音速を超していた。空中に舞う土は空中で静止し、攻撃の一つ一つが致命傷となる。
サリサは斧を魔族に向けて振り上げる。魔族はのけぞるようにかわす。既にこの光景は数十回と繰り返されていた。
世界四大魔剣、ケラウノス。その斬撃は炸裂していき、毎秒2000回にも達する。そして斬撃の形はその都度変化する。故に斬撃を受け止めると言うことは、すなわち死を意味する。
しかし、魔族はその攻撃をひたすら回避し続けていた。
黄色い雷、ぶつかる紫電。羽田から見れば一瞬の動作が、両者にとっては泥沼そのものであった。
サリサは振り上げた斧を地面に突き刺したまま固定すると、その延伸力に体を乗せ、魔族の顔面に蹴りを叩きつける。
魔族は咄嗟に構えを取り、蹴りの角度を逸らす。が、速度は超音速。一撃が致命傷になりうる。身構えた姿勢のまま、魔族は吹き飛ばされ、空中に放り出された。
サリサはその隙を見逃さなかった。斧を地面から引き抜くと、おおきく振りかぶって魔族に投げた。
魔族は倒れ込む形で斧をかわす。しかしサリサに動揺の顔はなかった。彼女は人差し指を構え、指先から紫電を走らせた。その瞬間、斧が紫電に呼応する。電線のように正確に、かつ迅速に接続し合う。一瞬の発光の後、雷の柱が魔族の腹部を貫いていた。が、核を貫くことはできなかった。核の位置を把握されたと彼は既に悟っていたのだ。故に再び電撃の位置をずらし、致命傷を防いだのである。
ーしかしそれすら計算済みだった。投げた斧は電気を帯びている。彼女の電気と引かれあい、彼女の元へと斧は戻る。斧が切り裂く位置は、紛れもなく彼の核であった。
その瞬間、閃光が走る。斧は強く弾かれ、地面へ落下した。
サリサは寒気を感じ、魔族の方を見る。が、既に姿がない。
すると、身体中をバチバチ、とした感覚が襲う。まさかこれは。
『避けるべくは縦じゃない……横!』
本能的な感覚であった。特に根拠があっての回避方法ではない。ただ横に避けなければ、という、日々の日課のし忘れに気がつく程度のふとした感覚である。事実無根、その感覚は正しかった。彼女の目前、肩の真横を落雷が襲ったのである。もはや落雷と呼べるのかすら怪しかった。雷がドミノ倒しの様に次々と直線に落ち続け、一種の斬撃を作り出していたのだ。
地面が抉り取られ、深い谷底が形成されていた。
一撃でも喰らえば即死であることは、誰の目から見ても明らかであった。
サリサ先ほどとは一転し、魔族の攻撃から逃れようと後退を始める。魔族の狙いを逸らそうと木々に体を隠しつつ、止まる事なく動き回る。
落雷は容赦なく彼女を襲う。木々が次々燃やされていく。時期に隠れる場所も無くなるだろう。彼女自身それは自覚していた。
自覚していたからこそ、彼女の行動はただ一つ。
サリサは前進を始める。逃げも隠れもしない。羽田から見れば無謀と言う他ない行動。
魔族も同様の思考だった。そうか、自暴自棄か。魔族は右手に持った雷の剣を構えた。
振り上げるまで体感2秒。現実時間においては少数第一位にも満たない秒数。
ーサリサは直前で剣筋の方向を読み、左に避ける。が、魔族はそれを読んでいた。直前で横へと方向をシフトさせる。
サリサは咄嗟にしゃがみ、攻撃から逃れようとする。
間に合うはずも無い。攻撃からは逃れられない。
ー筈だった。
サリサは直前、身体の加速を解除し、地面を強く踏み込んだのだ。
サリサの頬を雷が掠める。
当然である。魔族の攻撃は超音速前提での動き。故に通常速度の彼女には対応していない。
雷が発光した瞬間、彼女は再び加速を始め、右手を上空に構える。
彼女の後方、回転しながら引き寄せられたそれは、紛れもなく雷の斧だった。
止まることなどない。サリサは迷うコトなく振り上げる。
ーが、その瞬間、横方向から迫っていた針が彼女の腕に突き刺さっていた。
超音速の彼女にとって、その動きは余りに遅い。しかし、魔族が攻撃から逃れる時間を作るには十分な要素であった。
しまった。加速を解除した瞬間に近づいていたのか。まさかもう一体いるのか?一体どこに。
そんな思考を相手は許してくれない。魔族は畳み掛けるようにサリサに迫る。サリサは後ろに下がる。が、背中を激しい痛みが襲う。背中を無数の針が突き刺していたのだ。
おかしい。アレに速度自体はなかった。一度ならず二度までも見逃すなんて。
魔能力か?一体何の?
サリサは左腕を後ろに回す。その瞬間、腕に触れんばかりの距離に針が出現する。サリサは咄嗟に針から逃れる。
これは追跡しているんじゃない。設置されていたんだ。
サリサは動きを止め、斧を構える。下手に動いてはいけない。状況を見るんだ。
が、突如閃光が視界を包み、雷が彼女の左肩を掠めた。
直撃は避けたが、最早彼女の左腕は上がらない。熱で焼き切れた肩からは出血さえない。どう言うコトだ。視野には入っていた。なのに見ることができなかった。
目眩がする。針の毒か。動きすぎると死ぬ。魔能力はある程度読めた。なら……
サリサは斧を投げ、加速を解除する。何かを弾く音が聞こえる。魔力視覚に全ての集中力を注ぐ。視力を極限まで研ぎ澄ませる。恐らく魔族は次の瞬間自分を襲うだろう。見えはしないが、次の雷に向けて攻撃を備えている。
だが見つけた。あそこにいる。斧を投げた方向にサリサは今までと比にならない速度で加速する。
閃光が光る。直前でかわせたのだろう。体の感覚が消えてきた。毒は既に全身に回っている。
木々を掻き分け、潜んでいた魔族に斧を振る。
魔族の両腕が切り裂かれた。
彼女の全身を針が襲う。最早気にならない。畳み掛けるように振り上げろ。
しかし斧は届かなかった。全身の毒は彼女の握力を完全に奪っていた。
「ふいー……あぶねーあぶねー……まさか一瞬で見抜かれるたあな……まあお前の体感からしちゃ長いんだろうが。」
魔族はサリサを見下ろすように言い放った。
「お察しの通り、俺の魔能力は『一定領域内で対象に盲点を一つ自由に作り出す』能力さ。』そして毒針は速攻で回る毒。麻痺じゃねえだけ安心しな。ブラックマンバだのヤドクガエルだのにゃ負けるが十分早く回るぜ?」
魔族はゆっくりしゃがむと、サリサの心臓部に針を構える。
「おい……ヴリック。殺すのか?そのやり方はcoolじゃねえ。そいつは戦士さ。首を狙え。」
「針で首が落とせるかよ。つーかよアリアード……一対一で負けた上での勝利でお前は戦士と言えるのか?」
「戦争とはそう言う物だ。俺にとっちゃ戦いとは数など関係ない。……少なくともウチのエースはこの状況はモノともしねえよ。」
「そうかよ。だが心臓を狙っ…」
ヴリックの首はずり落ちていた。そして流れるように、彼の体は13回に及んで切り刻まれた。
「まだ……動けるのか?!」
「……」
「まさか……体に電気を流して無理やり!」
アリアードは笑っていた。ここまでの相手とやりあえるのか。
「はははは!Wildだ!Wildだぜお前!だったら俺も答えよう!」
彼の右目に火が灯る。魔殲により増殖した魔力が当たりを包む。
「使わないのか?魔殲を。」
「……使えない。どうやら人生に絶望しきれてないらしいからね。」
力なくサリサは答える。
空中に雷の剣が生成されていく。2、4、8……乗算式に増えていく。
サリサは木を蹴り上げ、斧を上へ持ち上げ、アリアードの目前に迫る。そこにタイミングを合わせ、無数の剣が彼女を囲みこんだ。
『最高にcoolだったぜ……だが惜しい。残念だったな。』
雷が彼女を包囲する形で襲う。が、その瞬間、彼女は持ち上げた体制のまま、斧で雷を受け止める姿勢に移行した。
それは無意味である。いくら上等な武器でも受け止められない。雷は斧を貫通する。
そう思っていた。斧は雷を吸収したのである。
一度見せれば警戒される。故にここまで隠していた。
「超常魔法.天地躍動ノストラード.ヴェルサドラム!」
サリサは攻撃が止んだ瞬間、前方の魔族に視線を移し、力一杯振りかぶった。
落雷、と呼ぶには役不足であった。
太古の人類が天誅と呼んだその一撃。まさにそれを体現するかのような威力。それが大地を轟かせた。
熱によって膨張した空気による突風は、周囲の気を吹き飛ばし、その凄まじい衝撃は、底の見えない穴を形成した。
「………perfectだ。」
アリアードは満足そうに笑みを浮かべ、裁きの熱に飲み込まれていった。
サリサは着地すると同時に、そのまま膝から崩れ落ちる。
解毒剤はあの魔族が持ってる筈。行かなきゃ。なんとか行かなきゃ。ヴリックの方向をサリサは向く。
「あー……クソが…!俺を馬鹿にしやがって!」
仕留めきれていなかった。生きていた。戦えるほどの力は無い。それでも斧を取る。立つ力も無いのに立とうとする。
「ははははは!滑稽だぜ!……死ねよ。」
ヴリックは魔殲を解放する。
盲点を作り出す能力ではない。今度は存在の有無までコントロール出来る。触れていていようが触れていまいが好きなタイミングで出現させられる。しかし彼は隠すことはしなかった。背中から生成した針を一斉にサリサに向けていた。
針がサリサへ向かって飛ぶ。
彼女を即死させようと、死んだ後も突き刺し続けようと襲いかかる。
が、激しい金属音と共にそれは弾かれていた。
袴を着た少女。刀を両手に握っている。
「な…に?」
「ずるいじゃないかあ……6とやらせろと言ったのになあ……」
「ははは…ごめんね。」
「いや、良い。仮としておく。帰ったら貴様と戦わせろ。」
花織は両手の剣を握る。
「この……!」
ヴリックは針を消し、花織の全身に針を出現させる。
が、その対象は消えていた。背後へ視線を移す。彼の背中の針は、もれなく全て切り刻まれていた。
「な……!ぐあああ!」
体力の血液が反射する。立っていた木々が青色に染まる。
「ほら、解毒薬だ。回復薬もここに。」
花織はサリサの頭を自身の膝に乗せ、顎を手で支えると、解毒薬と回復薬を順番に飲ませていく。
「てめえ……!よくも!」
「良いのか?もう一人いるぞ?」
花織は不適な笑みを浮かべる。
その瞬間、彼の背後から2つの刀が迫り、空中の針を全て叩き落とすと、彼の首元を冷徹に襲った。
「くっ…!」
ヴリックは木から落ちる形で剣戟をかわし、落下した大勢のまま針をケインに向けた。
が、彼が操作したはずの針は、彼自身に突き刺さっていた。
ケインが叩き落とした針が彼の魔能力に上書きされたのである。
「っそがあ!」
ヴリックは無我夢中で魔能力を発動させる。ケインは魔力視覚で彼の魔力を視認する。
『お前の真価は身軽さでも戦闘センスでもない。魔力のコントロールだ。覚えておきな。』
仮にそうだとするのなら、俺はー
ヴリックが魔能力を発動した瞬間、彼の魔力に重力を付与し、彼の体内に逆流させた。
「あっ…!あああああ!」
魔法神経に魔力が逆流し、ヴリックの全身に激痛が走る。
「魔力の逆流…?!どうやって……ははは!ケインよ、貴様は飽きさせんなあ、私も混ぜろ!」
花織はヴリックの元へと駆け出す。
ケインは地面に着地し、未だ空中にいるヴリックを見る。
両者は刀を構える。
合図はない。ただ振り被るだけ。
ー3つの斬撃が魔族を捉えた。
青色の血液が反射し、雨のように降り注ぐ。
「ふう…ありがとね、2人とも。」
「いえいえ……ホントに…」
「私の方が先だったよなあ?!なあ!」
花織はケインに詰め寄る。
「それで別に良いよ。」
「貴様にプライドは無いのかあ!」
「何言ってもダメやんけ!」
ケインは顔を顰めた。
「ははは……うん、体ももう動かせる。第一班、状況は?」
『魔族、殲滅完了!死亡者4名、負傷者5名!」
「……了解。第二班、応答せよ。」
『こちらも魔族殲滅完了!死亡者…』
「……ま、なんやかんやうまく行ったんじゃねーの?」
「……気持ち悪いなお前。」
花織は目を細めてケインを見る。
「んだと?!」
「お前がそんなに安心しきった表情を浮かべるのは初めて見たからな。……ずっと余裕がないように見えた。本当に良かったよ。……本当に。」
花織は優しく笑う。
「気持ち悪いなお前。」
ケインは思いっきり顔を顰める。
「オウム返しだと貴様!無礼者!打首物だぞ!」
「へへへへ…」
心の底から孤立感を感じなかった。久しぶりだ、この感覚。
幸福感とはこう言うものか、とさえ思っていた。
ーーその瞬間、3人の耳に声が響く。
『おい!逃げろ!』
セシルの声だった。何故、そう思った頃には、既に始まっていたのだ。
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