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魔人衝突編
孤独③
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「ねえ…なんかクマできてない?」
「え?…そうか?」
ベッドで煙草片手に会話をする。昨夜行為に及んだのに、朝から喫煙欲に駆られてしまうのは強欲だろうか、なんて事を思いながら俺は壁を眺めていた。
「ってかあんたバイトじゃ無かった?」
「え…?あっ!やば!ちょっとごめん…ホントに!」
俺はベッドから飛び起きると急いで服を見に纏い、彼女の家を飛び出した。
「え?ああ、はい。……おいケイン。新入り来るから頭に入れとけ。名前はレド.ケニーシュタイン…おい!」
「ああすんません!」
バイト先へと急ぐ途中シャーロットが何か言ったように聞こえたが、殆ど話は入ってこなかった。
「はあ…また遅刻だね。良いよもう来なくて。」
「えっと…その…すいません。」
「謝られてもさあ…困るんだよねえ!」
バイト先の店主が手に持ったチラシを机に叩きつける。
「はあ…くっだらね。」
そうため息をついたと同時に、突如巨大な揺れが辺りを包み込んだ。
「なんだ…?!この感じ…まさか魔族?!危険区域程の魔力が…?!いや、そんな事はどうでもいい。」
俺は駅の地下へと走る。急げ…急げ…早く…!いた!魔族だ!物干し竿を両手に持つと、魔族の背中を切り裂いた。
レド.ケニーシュタイン。生き残った少年はそう名乗った。だがその目を見て、その目を見て一瞬萎縮してしまった。だってその目には光がなかったんだから。
ーーーー
「貴方は僕に他人を信じてやれと言いましたが…逆に貴方はお人好しなんだ。…そんな生活ばかりだといつか限界が…」
何がお人好しだ。本当は分かってるくせに。
「分かってるよ。……んな事は分かってる。毎日バイトしても上手くいかないし、人助けしても見返りなんて感謝の言葉くらいだ。でもやるしかねえだろ?クレアは研究やら実験やら回復薬やらで事務所の金稼いでるし、所長は事務所をずっと支えてる。じゃあ俺は?何が出来るんだ?お人好しを取ったら何が残るんだよ…。残ると言ったらただ腕っぷしの良さだけの役立たずだ!…分かってんだよ。俺が口だけだって。」
自分に取り柄なんかない。そんな自覚ばかりが冴えて仕方がない。…俺はお人好しなんかじゃない。正直人助けとかバカバカしい。ほんと正直やりたくない。…だけど俺はこれしかないんだ。
「あー…クソっ…しんどいわ…」
「違いますよ。先輩はそんな人間じゃないです。少なくとも、僕は貴方の言葉に救われたんだ。……こんな感情になったのは初めてなので、正しい事なのかは分からないです。でも先輩の助けになりたいんです。…先輩が出来ない事を僕がやります。かつてシャーロットさんの出来ないことをやろうと貴方が決意したのと同じように。」
馬鹿じゃねえの?純粋ぶるなよ。ホントはそんなじゃねえんだろ?大体そんなの建前だ。
「…そっか。それがお前の目標ってやつか?」
「…今のところは。」
ああ、俺はこいつに劣等感を持ってるんだ。自分と違うと言う劣等感を。何せ芯が自分より通ってるから。
「ありがとな。…ちょっと元気出たわ。」
そんなの嘘。全く元気も出てない。むしろ落ち込んだ。
「あの…先輩。少し付いてきて欲しいところがあるんです。」
数日前まで目に光なんか無かったのに、その目は誰より輝いていた。
正直、コイツと一緒に居たくない。だけど自分みたいになって欲しくない。見守っても良いかもしれない、こいつの成長を。俺は自転車を持ってレドと並んで歩き出した。
「…一人でいいのか?」
「ええ。」
フランクの家のインターホンをレドは押す。
「ああ…貴方ですか。引っ越す準備をしていて…」
「謝らせてください。貴方の弟を…」
「良いんですそんなのは…」
「僕が謝らないと気が済まない。……全部僕の自分勝手です。」
自分勝手。そう、俺も自分勝手だ。なのに何故こんなにも違う?俺とこいつで何が違うんだ。
「あのさ…レド。なんでお前はこんなに苦もなく自分を保てるんだ?」
「…そのままでいいと言うふうに言ったのは貴方じゃないですか。……それに僕とて苦しいことの方が多いです。」
「ああ…まあそうだけどさ。」
「まあ僕がおかしいのは知ってますよ。だからまあその基準で言うと…ネジが緩み切ってないんじゃないですか?」
ーーーーー
「ハハハ!ネジの緩み…ねえ。ハハハハハハハハ!」
突如笑い始めるケインに魔族は困惑し、一歩後ずさる。
「あー…何つーか…色々思い出したわ。…元々俺はクソ野郎だ。足りねえよなあ…頭ん中の色んなやつがさあ!」
ケインは両手に握った物干し竿を空中に投げ、魔族の視線を誘導する。その一瞬の間に膝を曲げ、魔族の群れと間を詰める。魔族の喉元に刃を突き刺すと、体重を乗せて振り下ろし、核を破壊した。後ろから襲い掛かる魔族の腕を掴むと、そのまま後ろへ引きちぎり、引きちぎった腕の爪を眼球に突き刺した。
「ああああああああああ!」
発狂する。息が荒い。白い息が視界を覆う。ただひたすらに目につくものを斬っていく。
「…射程範囲だ。」
ケインは両手の平を勢いよく合わせる。
「辺獄方陣!」
魔族の体が次々と重力で押し潰されていく。
「通常じゃマーキングと一定時間が必要なクソ魔法だが…物干し竿があれば最小限のマーキングだけで事足りる。」
「やべえ…避けろケイン!」
エディが呼びかける。
7mはあるだろうか、巨大な魔族が10体ケインに襲いかかる。
「見たところStage3だが…いや4レベルの魔力か。」
ケインは大きく飛び上がると、魔族の腕を切り裂き、核を破壊する。
「図体でけえだけだろ…当たりやすい的だよホントによお!」
ケインは魔族の体から別の魔族へと乗り移り、次々と核を破壊していく。
「なんだあ…?大した事ねえなあ…。」
「か、かかれ!あいつはヤバい!」
2、30体の魔族が一斉にケインに襲いかかる。
「わかりきってんだよそんな動きはよお!」
ケインは物干し竿を長刀に変化させ、魔族の体を上下に切断した。
「死ねえ!」
魔族の爪を手で受け止め、ケインの手から血が滴り落ちる。
「はい…捕まえた!」
ケインは重力を付与した拳を顔面に叩きこむ。
「ってえなあ…魔族ってのは固えんだな皮膚がよお!」
何度もケインは拳を叩きつける。その度に血が飛び散っていく。
「うははは…ははははははは!はあ…はあ…」
口を開いて呼吸する。前のめりになって周囲を睨む。
「い、イカれてる…。まるで狂犬じゃないか…」
「これがドラゴンクロウか…」
ケインは地面を強く蹴ると、一心不乱と言わんばかりに刀を振り回す。
「ふふふ…はははははははははは!」
「こいつ…適当に見えて的確に斬ってやがる!」
魔族の青い血液がケインの身体中に付着していく。その姿は人というにはあまりに醜く、獣というには美しすぎた。
「はあ…ははは…あー…つまんね。」
身体中に血を浴びながら、ケインは頬を緩めて呟いた。
「ったく…ワラワラワラワラ湧きやがってよお…クソが…こちとら好きでここにいんじゃねえんだよおおおおおお!はあー……分かってるよ、全員そうだろ?全員好きでここには居ない。故にここで死ね。俺の為に死んでくれ。」
ケインは魔族を睨む。その形相に魔族は萎縮した。殺す事で自尊心を得ようとしている事など、ケインは心の底から自覚していた。
「ケイン…お前…っ…!やべえっ…!クソ…終わりか…」
エディが魔族数体に囲まれる。
「…っラァ!」
ケインは群れに飛びかかり、魔族たちを斬り裂いていく。
「くっ…!」
核が露出した魔族は、傷を右手で押さえる。
「邪魔だ…!」
ケインは魔族に抱きつくと、後ろの傷から核を取り出し、繋がれた神経を一つ一つ引きちぎっていく。引きちぎるたび、魔族が叫び声を上げる。
「ああああああああああああ!」
核を完全に引きちぎったケインは、右手で核を握りつぶした。
「はあ…はあ…お前何しようとした…?勝手に死のうとするな馬鹿野郎!」
ケインはエディの胸ぐらを掴む。
「俺を一人で死なせるな。勝手に一人で死のうとするな。……死ぬならせめて一緒に死んでくれ。もしくは俺に知られずに死ね。」
「なんだよそれ…」
「関わりたくないならそれでいい。だがこれだけ頭に入れといてくれ。……失って悲しむのはもう沢山なんだよ。…最後まで争ってくれ、俺のために。」
ケインは地面を蹴ると、魔族の軍勢に向かっていった。
「え?…そうか?」
ベッドで煙草片手に会話をする。昨夜行為に及んだのに、朝から喫煙欲に駆られてしまうのは強欲だろうか、なんて事を思いながら俺は壁を眺めていた。
「ってかあんたバイトじゃ無かった?」
「え…?あっ!やば!ちょっとごめん…ホントに!」
俺はベッドから飛び起きると急いで服を見に纏い、彼女の家を飛び出した。
「え?ああ、はい。……おいケイン。新入り来るから頭に入れとけ。名前はレド.ケニーシュタイン…おい!」
「ああすんません!」
バイト先へと急ぐ途中シャーロットが何か言ったように聞こえたが、殆ど話は入ってこなかった。
「はあ…また遅刻だね。良いよもう来なくて。」
「えっと…その…すいません。」
「謝られてもさあ…困るんだよねえ!」
バイト先の店主が手に持ったチラシを机に叩きつける。
「はあ…くっだらね。」
そうため息をついたと同時に、突如巨大な揺れが辺りを包み込んだ。
「なんだ…?!この感じ…まさか魔族?!危険区域程の魔力が…?!いや、そんな事はどうでもいい。」
俺は駅の地下へと走る。急げ…急げ…早く…!いた!魔族だ!物干し竿を両手に持つと、魔族の背中を切り裂いた。
レド.ケニーシュタイン。生き残った少年はそう名乗った。だがその目を見て、その目を見て一瞬萎縮してしまった。だってその目には光がなかったんだから。
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「貴方は僕に他人を信じてやれと言いましたが…逆に貴方はお人好しなんだ。…そんな生活ばかりだといつか限界が…」
何がお人好しだ。本当は分かってるくせに。
「分かってるよ。……んな事は分かってる。毎日バイトしても上手くいかないし、人助けしても見返りなんて感謝の言葉くらいだ。でもやるしかねえだろ?クレアは研究やら実験やら回復薬やらで事務所の金稼いでるし、所長は事務所をずっと支えてる。じゃあ俺は?何が出来るんだ?お人好しを取ったら何が残るんだよ…。残ると言ったらただ腕っぷしの良さだけの役立たずだ!…分かってんだよ。俺が口だけだって。」
自分に取り柄なんかない。そんな自覚ばかりが冴えて仕方がない。…俺はお人好しなんかじゃない。正直人助けとかバカバカしい。ほんと正直やりたくない。…だけど俺はこれしかないんだ。
「あー…クソっ…しんどいわ…」
「違いますよ。先輩はそんな人間じゃないです。少なくとも、僕は貴方の言葉に救われたんだ。……こんな感情になったのは初めてなので、正しい事なのかは分からないです。でも先輩の助けになりたいんです。…先輩が出来ない事を僕がやります。かつてシャーロットさんの出来ないことをやろうと貴方が決意したのと同じように。」
馬鹿じゃねえの?純粋ぶるなよ。ホントはそんなじゃねえんだろ?大体そんなの建前だ。
「…そっか。それがお前の目標ってやつか?」
「…今のところは。」
ああ、俺はこいつに劣等感を持ってるんだ。自分と違うと言う劣等感を。何せ芯が自分より通ってるから。
「ありがとな。…ちょっと元気出たわ。」
そんなの嘘。全く元気も出てない。むしろ落ち込んだ。
「あの…先輩。少し付いてきて欲しいところがあるんです。」
数日前まで目に光なんか無かったのに、その目は誰より輝いていた。
正直、コイツと一緒に居たくない。だけど自分みたいになって欲しくない。見守っても良いかもしれない、こいつの成長を。俺は自転車を持ってレドと並んで歩き出した。
「…一人でいいのか?」
「ええ。」
フランクの家のインターホンをレドは押す。
「ああ…貴方ですか。引っ越す準備をしていて…」
「謝らせてください。貴方の弟を…」
「良いんですそんなのは…」
「僕が謝らないと気が済まない。……全部僕の自分勝手です。」
自分勝手。そう、俺も自分勝手だ。なのに何故こんなにも違う?俺とこいつで何が違うんだ。
「あのさ…レド。なんでお前はこんなに苦もなく自分を保てるんだ?」
「…そのままでいいと言うふうに言ったのは貴方じゃないですか。……それに僕とて苦しいことの方が多いです。」
「ああ…まあそうだけどさ。」
「まあ僕がおかしいのは知ってますよ。だからまあその基準で言うと…ネジが緩み切ってないんじゃないですか?」
ーーーーー
「ハハハ!ネジの緩み…ねえ。ハハハハハハハハ!」
突如笑い始めるケインに魔族は困惑し、一歩後ずさる。
「あー…何つーか…色々思い出したわ。…元々俺はクソ野郎だ。足りねえよなあ…頭ん中の色んなやつがさあ!」
ケインは両手に握った物干し竿を空中に投げ、魔族の視線を誘導する。その一瞬の間に膝を曲げ、魔族の群れと間を詰める。魔族の喉元に刃を突き刺すと、体重を乗せて振り下ろし、核を破壊した。後ろから襲い掛かる魔族の腕を掴むと、そのまま後ろへ引きちぎり、引きちぎった腕の爪を眼球に突き刺した。
「ああああああああああ!」
発狂する。息が荒い。白い息が視界を覆う。ただひたすらに目につくものを斬っていく。
「…射程範囲だ。」
ケインは両手の平を勢いよく合わせる。
「辺獄方陣!」
魔族の体が次々と重力で押し潰されていく。
「通常じゃマーキングと一定時間が必要なクソ魔法だが…物干し竿があれば最小限のマーキングだけで事足りる。」
「やべえ…避けろケイン!」
エディが呼びかける。
7mはあるだろうか、巨大な魔族が10体ケインに襲いかかる。
「見たところStage3だが…いや4レベルの魔力か。」
ケインは大きく飛び上がると、魔族の腕を切り裂き、核を破壊する。
「図体でけえだけだろ…当たりやすい的だよホントによお!」
ケインは魔族の体から別の魔族へと乗り移り、次々と核を破壊していく。
「なんだあ…?大した事ねえなあ…。」
「か、かかれ!あいつはヤバい!」
2、30体の魔族が一斉にケインに襲いかかる。
「わかりきってんだよそんな動きはよお!」
ケインは物干し竿を長刀に変化させ、魔族の体を上下に切断した。
「死ねえ!」
魔族の爪を手で受け止め、ケインの手から血が滴り落ちる。
「はい…捕まえた!」
ケインは重力を付与した拳を顔面に叩きこむ。
「ってえなあ…魔族ってのは固えんだな皮膚がよお!」
何度もケインは拳を叩きつける。その度に血が飛び散っていく。
「うははは…ははははははは!はあ…はあ…」
口を開いて呼吸する。前のめりになって周囲を睨む。
「い、イカれてる…。まるで狂犬じゃないか…」
「これがドラゴンクロウか…」
ケインは地面を強く蹴ると、一心不乱と言わんばかりに刀を振り回す。
「ふふふ…はははははははははは!」
「こいつ…適当に見えて的確に斬ってやがる!」
魔族の青い血液がケインの身体中に付着していく。その姿は人というにはあまりに醜く、獣というには美しすぎた。
「はあ…ははは…あー…つまんね。」
身体中に血を浴びながら、ケインは頬を緩めて呟いた。
「ったく…ワラワラワラワラ湧きやがってよお…クソが…こちとら好きでここにいんじゃねえんだよおおおおおお!はあー……分かってるよ、全員そうだろ?全員好きでここには居ない。故にここで死ね。俺の為に死んでくれ。」
ケインは魔族を睨む。その形相に魔族は萎縮した。殺す事で自尊心を得ようとしている事など、ケインは心の底から自覚していた。
「ケイン…お前…っ…!やべえっ…!クソ…終わりか…」
エディが魔族数体に囲まれる。
「…っラァ!」
ケインは群れに飛びかかり、魔族たちを斬り裂いていく。
「くっ…!」
核が露出した魔族は、傷を右手で押さえる。
「邪魔だ…!」
ケインは魔族に抱きつくと、後ろの傷から核を取り出し、繋がれた神経を一つ一つ引きちぎっていく。引きちぎるたび、魔族が叫び声を上げる。
「ああああああああああああ!」
核を完全に引きちぎったケインは、右手で核を握りつぶした。
「はあ…はあ…お前何しようとした…?勝手に死のうとするな馬鹿野郎!」
ケインはエディの胸ぐらを掴む。
「俺を一人で死なせるな。勝手に一人で死のうとするな。……死ぬならせめて一緒に死んでくれ。もしくは俺に知られずに死ね。」
「なんだよそれ…」
「関わりたくないならそれでいい。だがこれだけ頭に入れといてくれ。……失って悲しむのはもう沢山なんだよ。…最後まで争ってくれ、俺のために。」
ケインは地面を蹴ると、魔族の軍勢に向かっていった。
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