Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

1824③

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「ーーーして、一週間前から魔族生息領域における魔力反応が増加しており、精密化をおこなった結果、推定2万もの魔族が集まっている計算になります。さらに一帯につきの平均魔力網度は98、魔力硬度は68、魔力密度は81です。Stage5の平均の値がこれであるため、今まで対処してきたものたちが尋常でない量来ると言うことになります。魔族がここまで集まった前例は魔人戦争以来であり、魔族が再び侵攻してくる可能性があるという事です。…魔族らは一つの組織となっているとみて間違いはないでしょう。…そもそも彼らの生物的習性から見て、軍としての統治力は我々人間より高い。魔人戦争では規模自体が少数であったが故に対処できましたが、ここまでの量が一気に侵攻するとなるとかなり厳しい。…しかしながら、魔人戦争で数万の魔族を殺し、魔女と謳われたシャーロット.ギルティ.ホワイトが戦力に加わり…」
メリッサは、上層部を交えた会議室にて熱弁する。
「…お前らなんで怪我してんだよ。」
等のシャーロットは会議を横目に、顔に怪我を負うケインと花織を冷めた表情で見ていた。
「だってこいつが…!」
「そこ!静粛に!」
唐突に浴びせられたメリッサからの怒号に、思わずケインは背筋を伸ばした。
「…ったく、終わってるぜこの時代は。…どいつもこいつも覇気ってもんがありゃしねえさ。」
シャーロットの隣に立っていた老婆がボソリと呟いた。
「言うて50年前も始まる前は平和ボケだったろ。…まあ家族を守るだのの意識がねえのは事実だが。」
シャーロットは、そんな老婆の呟きに小声で返す。
「…?」
一体誰だ?ケインと花織は不思議そうに彼女を見つめる。
「ジロジロみてんじゃねえよガキども。……へえ、あんたらは違うねえ。とことん瞳が腐ってやがる。」
老婆は、さも嬉しそうにケインと花織を見る。
すると、ギィ、と扉が開き、本来なら気まずそうに入るであろう場面に、全く気まずさなど無い足取りでレドが入ってきた。会議室に沈黙が走る。
「あ、すいません遅れました。」
レドからの軽い謝罪が告げられた途端、上層部から罵声が飛び交う。
「貴様!会議をなんだと思っている!これは緊急だぞ!」
「これだから無所属は!」
レドはそれらを意にも介さず、ケインたちの元へと歩いて行った。
「ははは!もっと腐った奴がいた。…随分な奴らが集まってるねえシャーロット。…つーかもう2人いたはずだろ?どこ行ったんだ?」
「クレアは知らん。あいつがこんなとこに参加するとは思えんからな。あとジークはとっくに独立してる。前行ったろうが、ボケたか?」
「ああ…そうだったかい。…時間の流れってのは恐ろしいねえ。」
「アンナ.マクラウドさんですか?」
「ええ、そうだよ。」
「後で話があります。…なので会議が終わったら少しお時間をいただけないかと。」
「アンナ.マクラウド…!神級魔道士で異名は『死神』!」
花織は驚愕したな表情で一歩下がる。
「ははは…アタシの顔は国公でも知らねえ奴が多いんだよ。何せ殆ど仕事してねえからな。……オーラが無さすぎるって顔だな。こう言うスキルは必要なんだよ、この仕事上じゃあな。…後小僧、良いぜ、付き合ってやるよ。アンタにゃ面白えもんを感じる。邪魔するもんは全員ぶち抜くって言うドス黒い信念をな。」
「ありがとうございます。」
「戦力の確保としては?」
「国公が3万、フリーランスが1万になります。…しかしあの量からするともっと必要かと。」
上層部の質問にヴェルサスは、冷徹さの入り混じった声色で返す。
「奴らはいつ動き出すかわからん!早急に…」
「それで全滅しては元も子もない。……私の意見が気に入らないなら貴方がたが私を総括から降りさせれば良い。今までそうしてきたでしょう?」
「クククク…」
アンナは突如、杖に体重をかけて下を向き、ケタケタと笑い始めた。
「露骨に怖気付いてやがるよ。アイツの実力は軍の中でも随一で、尚且つ統治力あってこの軍も成り立ってるからなあ。気に入らねえモンを消すようなクズ連中でも中々押しきれねえんだよ。」
さも当然のように秘密裏に行われてきたであろう行為を暴露するアンナに、思わずケインは顔を顰めた。
「で、シャーロット、君からは?」
「どんくらいの量を俺に?」
「…最低でも6000かな。」
「…あっそう。頑張りまーす…」
シャーロットは項垂れながらそう言った。
ーーー
「で、どんな話だい?…つーかなんでこいつまでいんだよ!」
「クレアさんを交えないと成立しないと言いますか…。」
「はははは!彼女は私を嫌ってるんだよ!まあまあ過ぎたことじゃ…」
「てめえの自作の銃の実験で射撃訓練場ぶっ壊れまくってんだよ!」
アンナはクレアの胸ぐらを掴むと、唾を飛ばして捲し立てた。
「いやー…貴方は最強のスナイパーじゃないですか。貴方の魔力構造は常人とはかなり違っている訳で…魔力網と硬度の解析が進めばもっと良い物が作れると…」
「全く反省してねえなあほんとに…」
アンナは呆れた様子で彼女の胸ぐらから手を離した。
「クレアさんの魔能力って持ち主に最適な武器を生み出すんじゃないんですか?」
「え?ああ…正確には『解析した遺伝情報に基づいて物体の設計パターンを構築する』と言う魔能力だからねえ…解析した事のない物体や魔力網に関しては正直パターンが多すぎてうまくいかないことも多いんだよ。」
「……」
「あ、今あんまり役に立たない能力なんじゃないかって思ったかい?!」
「ギャハハハハ!間違ってねえだろ!」
「実験とは失敗の繰り返しじゃないか!その本文の否定なんてセンスが色々と…」
「話が進まないんですけど…あのー…」
レドは2人のやり取りを眺めているしかできなかった。
ーーー
「…なるほど。分かったよ、出来るだけやってみる。」
レドの要望に対し、クレアは不満なさげに答えた。
「ったく…アタシについてこれんのかい?随分弱そうだけど…」
「弱いですよ。最悪魔道兵にさえ負けます。」
「……よく数ヶ月もあんなとこで生き残れたなお前。」
「……それはどうも。」
「そんじゃ時間になったら呼んでくれや。…あとはアンタらでどうにかしな。」
アンナは椅子から立ち上がると、ゆったりとした足取りで去っていった。
「……彼女はねえ、昔は殺しが怖かったらしいんだよ。」
「なんですか急に。」
「いや…彼女は恐れているんだ。自分の若い頃とは正反対の君にね。殺しをしても全く罪悪感など感じなさそうな君に…」
「別に罪悪感がないわけじゃないですよ。僕は父親を殺したことに罪悪感を感じている。もっと他に方法があったんじゃないかとも感じてる。…ただアレが間違いだったとは思わない。……というか僕は言うほど人を殺した事はないですよ。父親と…後は1人だけです。」
「前から思ってたけど…君の思想は魔族と人間の器用貧乏って感じだよねえ…」
「…と言うと?」
「魔族は純粋とも言えるし、機械的でもある。認識の不安定感が少ない。……組織の上下関係が人間より明確で、なおかつ厳格。そして身内等には協調性が高い。…曰く彼らは階級が平等な者同士で互いにできる事を探しているらしい。…そう言う点はまるで新生代当初の人間文明だ。人間の方は組織の上下を差別化しきれない癖に身内で歪み合いばかり…。…君は他者を差別もしなければ贔屓もせず、かと言って感情がないわけでもない。こうしてみたら随分などっちつかずじゃないか。」
「…言い方的に魔族の習性を評価しているように見えますが?」
「そうだね、私は彼らの習性は人間社会に必要だと思ってる。何をするにも反対から入って、挙句の果てには反逆者気取り…こんなものばかりだ。」
「……」
「わかり合いたい訳では無いよ?…そもそも彼らは私たち人間に根本的に敵対心があるからね。…彼らに取っては私たちは家に侵入したゴキブリのようなものだ。」
「あなたは……魔族に何を期待しているんですか?」
「うーん…彼らに対しては…強いて言うなら礎かな?」
「礎?」
「ああ、私たち人間がこの先発展していくためのね。……おっと、用事があるんだった。」
クレアはそう言うと、レドの目の前から消えていった。
「……行かなきゃ。」
レドはクレアの居なくなって暫くしない内に椅子から立ち上がり、その場を後にした。
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