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魔人衝突編
予兆②
しおりを挟む「ひゃははははは!来たぜ来たぜ魔導師様がよお!」
突然上空から声がし、花織は刀を構え、自身の元へと落下して来た刺客に対して防御を取る。
「……知性魔族か。」
「その通り!その通りだぜえ?!」
「知性魔族の被害がこの国で多発しているとは聞いたが…」
「良いか?コイツァ『流れ』なんだよ!俺らの時代が来てんのさ!」
「なるほど…知性魔族がこの先大量に押し寄せてくる訳だ…貴様はどうやら…『組織』に属している訳ではないらしいな…とすれば貴様は何だ?」
「そうだぜ?俺個人の行動さ。怖いかい…?やっぱ人間だもんなあ…怖えよなあそりゃ…」
「く…クククククク…ははははははははははははははははは!ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!待ってたよおおおおおお!この時をずっっっっっっっっっと待ってたよお!!!」
「あ"?」
「さあやろう!やってしまおう!もう護衛などどうでもいい!何時間でも何ヶ月でも殺し明かそう!ああ…楽しみで仕方ない…無知性ではない…知性だ…。ケインばかりがずっと奴らと…ああ野郎だけが奴らと…ああ許せん…許せんとも…私の獲物を一人で殺そうなど断じて許せんとも!」
「こいつ…イカれてんのか?」
「ああイカれてるだろうイカれているともそうさとことんイカれている!だからどうした言いたいものさ!殺し会いたいそれだけだ!なんでも良い!なんでも良いぞ?どんな手段でも殺しに来い!あらゆる武器で殺しにこい!」
花織は地面を踏み込むと、刀を魔族へと振り上げる。
「防ぐか…?防ぐだろうなあ…さあ次はどうする?次は…」
ブツブツと呟きながら、斬り裂いた魔族の方へと振り返る。が、そこに居たのは、抵抗する間もなく体を無数に斬り裂かれ、肉塊になって消滅する物体だけだった。
「ああ…そうか…しまったな…期待しすぎてしまった。Stage5との対峙は希少とは言え、国公は年に数回は対応している…。それに苦戦するようでは人類など守りきれんか…。分かっていたが…国公が問題なく対応出来るなら…明らかにStage5classCのコレに苦戦する訳がない…。」
花織は落胆し、地面にへたり込んだ。すると、10体以上の無知性魔族が、花織たちを渓谷の崖から囲み始める。
「はあ…そうかそうか…まあ見たところStage3はある…先程よりはマシと言えるだろう。これ以上…幻滅させてくれるなよ?!」
花織は再び刀を引き抜くと、高らかと笑い声を上げながら、襲い魔族へと飛びかかった。
ーーーーーーーーー
「……なんでテメエは帰って早々血まみれなんだ?」
事務所に入ってきた花織の足元に滴る青い血液を見て、ケインはため息をついた。
「えー…偶然…カブトガニの血の採集を…しており…」
「その血のかかり方だとカブトガニを斬った事になるんだが…それは割と問題になるんじゃないかい?」
やはりクレアはため息混じりに言う。
「……魔族を斬るのが楽しくなり……気づいたらこうなっていました。」
「なんか…うん…風呂入れ。」
シャーロットは頭を掻きながら、風呂場を指差して言った。
「……彼は?」
「おい風呂入ってからソファ座れって…あああああああ!」
ケインの言葉を意にも介さず、花織はレドの方を見ながらソファに座る。
「……今年入った新人だよ。かれこれ2ヶ月って辺りか?」
「二ヶ月…思ったより生き残っていますね。大抵どっかしらの依頼で銃撃に合うだので死ぬのに。」
「……強いとか思われてる感じですか?申し訳ないですけど僕の成績は下の方でしたよ。…魔能力も殆ど良くわからないですし。」
「……分からない?分からないとは?…何か特殊な条件が?」
「…ある程度の予想は付いてはいるんですが…初めて発動できたのがつい先日ですのでなんとも言えないです。でも条件があるのは確かですね。」
「……魔力値は?」
「平均中の平均です。小数点第四位までピッタリ0です。」
「…筋肉も魔導師としては殆どついていない……分かりました。鍛え直しましょう。」
花織は机をドンと叩く。その衝撃により青い血液が飛び散り、ケインとシャーロットは顔を抑えた。
「貴方とて戦闘力が必要でしょう?出ないとこの先生き残れないしここに貢献できない。ならば今一度学ぶべきです。」
「……貴方はまだ僕が戦う場面を見ていないでしょう?なのに自分の方が強いと決め込むんですか?何というか……随分と自己評価が高いんですね。」
「うっ…」
「貴方…武士?侍?の家系らしいですが…少なくともそう言った家系の剣技なら自身を驕り高ぶれなどと言う方針は教えないでしょう?」
「つまり貴方は自分の方が強いと?」
「いいえ?ほぼ確実に貴方が強いと思いますよ?」
「………なんだかなあ…なんか…なんか腹たつ…」
花織は首を傾げた。
「そうやって他者を先入観で決めつけるって言うのは……貴方の戦闘狂な面々に反映されてるんでしょう?相手が強いと言う先入観で先走るからそうやって押し進めてしまう。……貴方魔族と戦って満足しましたか?……もしかしたら『期待はずれで心底ガッカリしている』んじゃないですか?恐らくあなたは僕を鍛えたいんじゃなくて、僕の強さを見て自分の好奇心と期待を満たしたいだけなんだ。何もかもが先入観で成り立っている。自己欲求で成り立っているクレアさんと一緒だ。」
「………自覚はあります。」
「そうでしょうね。ここにいる人間は自分の歪みを自覚している、でしたっけ?」
レドはクレアにそう問いかける。
「ああ…まあそうだね。」
クレアはニヤニヤと笑いながら堪える。
「とは言えまあ…それが悪いとは思いませんよ。……本当に。」
「…そういう貴方も他人の事を一切考えていないでしょう?」
「…ええ、そうですよ?僕は貴方をまだ信頼しきれていないので。…僕がここにいるのはここが好きだからであって、別に貴方と関わりたい訳じゃない。」
「……分かりました。では私はあなたに積極的に関わっていきますので!」
花織は勢いよく立ち上がり、あたりに血液を飛ばすと、そう高らかに宣言した。
「……そうですか。」
「それとケインさん!……後で少し。」
「…ハイ……ワカッテマス…」
枯れた声で答えるケインにレドは何かしらの事情を感じたが、詮索する気など起こらなかった。
ーーーーーー
「…料理ですか?」
フライパンを用意するレドの背後にから、花織が話しかける。
「……いきなり後ろから話しかけないでください。」
「お手伝いします!」
「あー良いです良いです…」
「料理くらいは嗜んでいます!ほら!」
花織はフライパンをコンロに置くと、なんの工程もなく火を点火した。
「だったら油を引いてから火をつけるくらいして下さい!」
レドは自身の出せる最大限の声量で叫ぶ。
洗濯物を取り込むとき、買い物に行く時、アルバイトに勤しむ時、ひたすらに背後について回る花織に、レドは限界を感じ始めていた。
「……あの、降参するので辞めてください。」
「降参?殺し合いに降参とは?」
「これを殺し合いだと思ってたんですか?」
「いや…他者と関わる際は殺し合いと同等だと…」
「随分と物騒な家系にお育ちで…」
「…まあ分かりました。私の勝ちという事で。」
花織は勝ち誇ったような表情でソファに座る。
「初めから勝負とは言ってないんですが…」
「所で…貴方は本当に成績が下の方なんですか?」
「…どういう意味ですか?」
「……いえ、忘れてください。随分と中身のない事をお聞きしてしまいました。」
花織はそそくさとレドの前から立ち去る。…確かに体力的に見て成績が振るわないのは納得できる。だが私に言い放ったことといい、彼について回る何かがある。
「…知りたいかい?」
自身の部屋に向かおうとする花織の前にクレアが立ちはだかる。
「……まあ知りたいです。」
心の内を彼女が読んでくるのはいつも通りだ、とあまり花織は驚かなかった。
「まあ彼はね…言ってしまえば行動が極端で、かつ冷酷極まりないんだよ。自身の大事なもののために何もかもを切り捨てられる…そういう人間だ。」
「…そうは見えませんが。」
「少し丸くなったんだよ。2ヶ月前なんか日常生活ではほとんど関わろうともしなかった。…彼には父と母が居た。…まあそれは誰でもそうだね?裕福とは言えずとも、ある程度には幸せだった。だけど彼は先天的に異常だった。故に両親に異常性を察知されたのさ。……そしてその結果問題行動を起こして、周辺から孤立した。……でも彼の行動全ては家族のためなんだ。母親が近隣の同世代の子供と友達になる事を勧めたから、彼らが怖がっている犬を撲殺し、会社が燃えて無くなって自暴自棄になり、虐待を振るうようになった父親を殺した。」
「……!」
「だけどそれが家族を不幸にした。母親は周囲からの影口で精神を病んで病気になって死んだ。」
「……」
「君も同じだろう?君も良かれと思ってやった行動のせいで兄が…」
「それ以上は言わないで。」
「…分かったよ。兎に角、彼は君が思う以上に繊細なのさ。……これ、彼の成績を気になって調べてみたんだよ。」
クレアはプリントを花織の前に差し出す。
「………筆記が全て一位…?でも終盤の成績は落ちている。」
「母親が死んだあたりだね。彼を知る人物に聞いたんだが…」
『レド…あーあいつね。殆ど喋んないし殆ど表情筋動かないんですよ。……クソキツい訓練の後にも全然キツそうな表情してなかったのは流石に怖かったですよ。成績的に確実に疲れてるとは思うんですけど。…朴念仁って言うにも流石に愛想なさすぎるって言うか。』
『あの人寮にも泊まらずに毎日自分の家帰ってたらしいですよ。なんでも母親のためとか。まあ最後の一年は普通に寮で過ごしてましたけど。…ウワサだと母親のために毎日とか…。国公も国公でそういう面の優遇ぐらいさせてくれれば良いのに…。意外と良い奴だったのかなあ……』
『うーん…あんまり印象残ってないですけど…あ、そーだ!アタシ養成時代の時の筆記試験も国公魔導師の筆記試験もあの人の近くだったんですけど、いつもなら一瞬で解いて天井眺めてるのに、国公魔導師の試験の時……なんか全然動かないなーって思ってチラッと見たんですよ。……そしたらこうやって下向いたまんま一切動いてなかったんですよ。』
「……」
「彼は大事なものを守りたいだけだよ。…それが依存という形で現れただけでね。」
「……ありがとうございます。」
花織は立ち上がると、クレアに頭を下げ、自身の部屋に戻っていった。
「ふう…関係が崩れちゃったら元も子もないよ…」
クレアは安堵し、肩の力を抜いた。
ーーーー
「あの…花織さん。」
「…なんでしょうか?」
「やっぱりどこかで訓練みたいなのが必要だと思うんです。…僕の魔能力については理解しておいた方が良いですし。」
「…フフン!」
「あ、調子乗った。となると俺も巻き込まれる感じか…」
ケインは項垂れる仕草を見せてそう言う。
「では今から行きましょう!屋上です屋上!」
花織は満面の笑みでレドの服を引っ張り、どこからか取り出してきた屋上の鍵を右手に、そのまま彼を引きずり始める。
「…ケインさんも来て下さい!」
「アッハイ」
悟りを開いたような表情でケインは立ち上がった。
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