Heavens Gate

酸性元素

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レド編

何様

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ケイン、レド、クレアの3人は、マンホールを開け、地下へ入ると軽く歩き、一点の場所で立ち止まった。
「よし…この真下に空洞があんだな。…頼むぞ。」
「了解!」
クレアは体半分ほどあるドリルを取り出す。
「え?まさかこのまま掘り進めるつもりで?」
「まあどうせ後で修正できるし?ああ…水道に影響を与えない角度に彫るから大丈夫だよ!」
「……」
「君は『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』と言う言葉を知るべきだね。」
「魔道士の言う言葉じゃないな。」
「それじゃ…行くよ!」
クレアがそう言い、2人が彼女に掴まった時、レドはとあるものを目にした。
「……虫?」
それを観察しようとした瞬間、2人の体は強く下に引き寄せられ、腕が引きちぎられるかと思うかの様な引力にレドはふらつく。
「ははははは!これは前に推進する機能がついてるからねえ!速攻で下に着く!ただ3人で行くにはあまりにも狭いから顔は擦れまくるがね!!」
既に顔面が傷だらけであったため、2人は今更文句を言えなかった。
「さあ着くよ!3、2、1…」
クレアが1と言った瞬間、レドは自身の体が宙に浮くのを感じた。
「お前のカウントは何で毎回1秒ズレるんだよ!」
「ズレようがズレまいがこの高さじゃ関係ないだろう?つまりズレたのは君の責任だ!」
「何そのとんでもない暴論。」
落下している状態でする会話じゃないだろう。とレドは突っ込みたい気を抑える。
「……あ!そういやお前着地出来んの?!」
「え?」
「あ。マズイ君の魔力じゃ身体強化が皆無なんだった。」
「これ僕死ぬ奴ですか?」
「あー…どうしよどうしよ…割とマジでやばいぞこれ。そうだなんとか俺の魔能力で…」
レドが自身の死を悟り、自身の人生に終止符を打つ覚悟を決めようとした瞬間、突然壁が巨大な柱になり、量側から襲い掛かかった。
「うっそだろおい…ここで来んのか?!」
ケインは刀を壁に突き刺すと、もう片方の刀との間で重力を発生させ、上に上昇し、迫り来る柱を回避する。
「僕を助けたら先輩まで巻き添えを喰らう。自己を優先してください」
「てめえは何を…言ってんだよ!」
ケインはレドの言葉を意にも介さず、落下する彼の元に駆け寄り、両手で受け止めた。
「…ってぇ!……大丈夫か?」
「……」
「…んだよお前。」
「いえ…ありがとうございます。」
何故この人はこんなにも必死になって助けるんだろう。朝は僕にあんなにも苛立ちを覚えていた筈だ。僕を助けてしまえば今回の依頼に支障をきたしたかもしれないのに。いや、やはりこれも僕がおかしいだけか。普通の人間は助けて当たり前だと思うのだろう。レドはそう結論づけ、ケインに感謝の言葉を述べた。
「クレア!大丈夫か?」
「……ケイン氏!上!」
「上?ええ…なんでこうなるし…!」
上から迫り来る無数の柱を交わすために、ケインは再び飛び降りる。レドも流れるように飛び降りるが、着地する手段が無い事を思い出す。
「シュタイン氏!」
クレアは手に持った銃からフックを射出する。レドはそれをキャッチし、咄嗟に壁に刺さる柱にフックを射出する。フックはコンクリートに深く刺さり、レドは床に着くギリギリで落下が停止した。
「……こりゃどうやって戻る?」
「崩れ方的に登れるとは思んだけど……」
「そう言えば…!」
着地したところで上から迫り来る柱を回避できるわけではない事を思い出し、レドは天井を見る。すると、何故か一瞬、柱が降るのが止まっていた。が、その後すぐに動き始め、レドは自身の出せる最大速度で柱から逃避する。彼らの走る跡を追うように、次々と柱が降り注ぐ。逃げ惑う最中、彼は自身の近くの壁の中から何かがのぞいている様子を目撃し、ほんの一瞬動揺する。
「おい!魔力感知されてんぞ!遮断装置くれ!」
「ほい!シュタイン氏も!」
レドは2人の会話によってその動揺が途切れた。3人は装置の電源を入れ、魔力放出を切る。が、一向に途絶える気配はない。
「マジか…!どうすんだこれえ!」
「…まさか!」
レドは壁の隙間を見る。そこを魔装銃で撃ち、彼は
「上です!」
と2人に呼びかけた。
3人は隙間に上がる。
途端に降り注ぐ柱は止んだ。
「はあ…はあ…どうなってんだ?」
「きっと…いや確実に、魔力感知じゃない。…監視されていたんだ。これに。」
レドは自身が銃で撃ち抜いた対象を指差す。その対象は、紛れもなく人だった。いや、人だったものだった。体は銃によって削り取られ、ピクリとも動かず、死後硬直が既に始まり、体中の血管が浮き出ていようと、それは紛れもなく人と言われていたものであった。
「これは…何だ…?!」
「少し離れて。……あと静かにね。音で気づかれるかも。」
クレアは死体を調べ始める。レドは何か考えるような仕草を見せた後、
「これ…もしかして死んでから数日経ってたりします?」
「……少なくとも数日は経ってるね。……と言うかそれ以上かもしれない。…!まさか…」
クレアは何か気づいたようで、懐から書類を取り出し、死体とそれを見比べる。
「やっぱりか。」
「…どう言う事だ?」
「行方不明者、でしょ?」
ケインの質問を遮るように、レドはクレアの出した結論を代弁した。
「ああ…だいぶ見た目は変っちゃいるが…紛れもない。これは行方不明者の1人だ。」
「誘拐した人間をこんな地下まで連れてこられた理由は…多分これにあるんだと思います。対象になんらかを寄生させるかして操作して連れてきて…」
「それをするならどこでどうやってやったんだよ。」
「地下水道でやや小さめの虫を見ました。確定は出来ませんが…ああ言った類のものだと予想できます。被害者の気分が悪くなったのは…即効性じゃなくて遅延性だったからなんだと思います。なので性質によっては被害者はもう全員死んでるかと。」
「そうか…」
「ここで喋ってるとまた見つかる。移動しよう。」
そうクレアが言いかけた瞬間、足場が突如崩れ去り、再び地形が変化する。
「ウッソだろ…!」
「……あそこにも居るのか。」
レドは操作される死体のうち一体を確認し、頭部を銃で撃ち抜く。途端、その動きは止まり、3人は安堵の胸を撫で下ろした。改めて周囲を見渡すと、人工物と変わりない精巧な空間が広がっている。
「……」
「ありがとうシュタイン氏。」
「おかしいな。うん。おかしい。」
「…何がだい?」
「少し場所を変えましょう。」
レドの提案に2人は同意し、その場から離れたところで会話を再開した。
「さっきもそうだった。僕がフックでぶら下がった時に一瞬だけ僕のところへの攻撃が止んだ。そして今回も。まあこの死体はゾンビとでも言うとして、ゾンビが撃ち抜かれた瞬間に攻撃が止んだ。ゾンビで視覚を共有してるとしても変だ。」
「……そうか。幾ら見えなくても大まかな場所さえ分かってりゃ物量でゴリ押ししにくるもんな。」
「じゃあこうしましょう。………」
「……それは信じていいのか?」
「君は知らないだろうが…彼は少なくとも常人よりは頭がキレる。今じゃ一番有効な手立てと言える。」
「…分かったよ。」
ケインは頭を掻きながらレドの提案を呑んだ。
ーーーーー
「ここか…」
フランクは恐る恐るマンホールを開き下へと降り、そして、しばらく歩いた先にある深い穴を見下ろした。
「……待ってろよ。お兄ちゃんが助けてやる。」
フランクは深い穴をゆっくり降りていった。
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