地獄の道の罪人ども

酸性元素

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獄卒公安編

残酷な真実

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 牢屋の中にて、マカは僅かに亀裂から見える天井の景色を眺めていた。この鉄格子や壁は、ボロボロだが瘴気や神性を封じるようにできている。なるほど、天使の力を封じられる牢屋はこれしかなく、その上使用する機会が無かったが故に廃墟化していってしまったのか。彼女は頭の中で納得した。

 ……果たして、カンダタさんたちは何をしているのだろう。もしや、私を助けに来るのか?いや、それは自意識過剰だろう。きっと彼らは私のことなど……彼女が目を瞑り、眠りに入ろうとしたその時だった。

「よお、あんたが堕天使って訳かい?」

 3mはあるであろう天井に頭をつける程の巨体な男が、鉄格子を掴んで揺らしたのだ。マカはビクッと肩を跳ね上げ、その男を睨みつけた。

「やめろ、龍三。あまり怖がらせるな」

 そんな時だった。巨体な男……龍三の後ろから、老人が顔を出した。老人は鉄格子に顔を近づけると、未だ警戒を解かない彼女に話しかける。

「天魔宮マカ……君の仲間はきっと来るだろう」

 掠れた声で囁くように言う彼のその言葉に、マカは動揺する。本当に、私を助けに?それを聞いて安心した反面、彼女の中には不安があった。幾ら天界を打倒できたとは言え、獄卒公安に勝てるのだろうか。獄卒公安は、元々天界の犯罪者にでさえ対抗する手段をもつと言われる。強さで言えば天界の神々と遜色ないはず。それを掻い潜って私を救出できるのか?私にそれだけの価値があるのか?様々な考えを、自身の頭の中で巡らせた。

「君は……自分の正体を知っているのかい?」

 老人は、落ち着いた口調のまま、彼女に問いかけた。私の、正体だと?一体この老人は何を言いたいんだ?マカは眉を顰めた。

「               」

 老人は、静かに、そして重々しく真相を語った。それを聞いた彼女は、大きく目を見開いた。今、この男はなんと言った?頭の理解が追いつかない。

「果たして彼らがそれを知ったとして、君を助けようなどと思えるかな?」

 老人は、表情ひとつ崩さぬまま、冷徹な眼差しで彼女を見つめる。その目つき、そしてその真相を前にした彼女は、ワナワナと震え始めた。私は……私には……

「あ~~……めんどくせぇ。なあ黄蓮《おうれん》、この女やっちまおうぜ!?」

 龍三は、未だ放心するマカを指差して言う。それに対して、老人……黄蓮は、口調を崩さないまま

「いや、辞めておけ。六道は元々邪魔な存在だった。奴らを誘き出すための罠としても使える」

 と彼に語った。彼は舌打ちすると、自身の中の興奮を抑えるために、後ろにある鉄格子を殴りつけた。その衝撃により、鉄格子は大きく捻じ曲がり、音を立ててその場に倒れた。

「フーッ……フーッ……あ~~マジでイライラする……。十郎……お前を今すぐに殴りてえよお……」

 龍三は、かつて自身に立ち向かった相手、鬼崎十郎の事を思い出した。奴が、奴こそが自分を満たしてくれた。それほどの相手に、未だ自分は巡り会えていない。今どこで何をしているか分からないが、今すぐにでも会ってこの拳を叩きつけたかった。

「落ち着け、龍三。……決戦の日は近い。それまでに用意をしておけ」

 黄蓮はそう言うと、牢屋から去っていった。龍三はその場に座り込むと、震える右手を押さえ込んだ。

「カンダタさん……」

 マカは、震える声でそう一言呟くだけだった。


「いやー、しっかし六道の連中、来るとしたら相当な馬鹿と言うか……」

 長髭の男は、茶を啜りながらそう呟いた。

「そんなにくつろいでる暇ないでしょ?」

「その通りピョン」

 2人の少女は、書類を整理しながら男に対して言う。男ははあ、とため息をつくと、机にもたれかかりながら天井を見上げた。

「しっかし可哀想だねーあの堕天使ちゃんも。局長もあそこまでする必要なんか……」

 男がそう呟いたその時だった。

「「……!」」

 2人の少女は、窓から見える黒い影に目を見開いた。まさか、まさかあれは……

「伏せて!!!」

 少女の1人が叫ぶ。次の瞬間、全ての窓ガラスが粉々に砕け散り、3人はその衝撃波によつて部屋の隅にまで吹き飛ばされた。3人は恐る恐る目を開き、窓から飛び込んできた対象をまじまじと見る。そこにいたのは、紛れもなく六道のリーダー……羽山額だった。

「やあやあやあやあ……不法侵入失礼しますよ……っとぉ!」

 額は両手に機関銃を握ると、3人に向けて発泡を始めた。3人はその場を転がりながら銃弾の追跡から流れると、その部屋を飛び出した。

「やばいピョン!いきなりラスボスクラスが来ちゃったピョン!」

「となると……来ますよ!アイツら!」

 少女は、廊下にあるエレベーターの方を見た。すると、そのエレベーターに表示された数字が動いている。

「まさか……」

 アラームが施設一面に鳴り響く。公安達は武装すると、動くエレベータに向けて銃を構えた。


 額がいるより下の階……3階にて、扉がゆっくりと開く。

「来るか……噂のカンダタとやらが……!」

 公安の男は、銃を強く握りしめ、警戒対象として知らされた男の顔を思い浮かべる。……しかし、そこにいたのは、弱々しい体つきの少年だった。

「あ……どうも……すいません」

 それは、小耳に挟む程度に聞いていた浅倉納言だった。納言は縮こまった姿勢のまま、ゴム弾の詰まったガトリング銃を乱射し始めた。銃の反動によって納言はその場に倒れ込むが、尚も彼は攻撃の手を辞めない。

 そんな彼に対して、公安達は銃弾を発射し始めた。統率の取れたその動きによって、寸分のズレなく、納言は撃ち殺されてしまった。

「対象の死亡を確認。繰り返す、対象の死亡を確認」

 隊を仕切っていた男が、無線機越しに司令部に知らせる。だが次の瞬間、死んでいたはずの納言は勢いよく立ち上がり、再び銃の乱射を始めた。

「馬鹿な……?!対象が蘇生した!速やかに対処し……」

 男が納言に銃を向けたその時だった。天井に張り付いていたカンダタが刀を取り出し、凄まじい速度で部隊員達を切りつけ始めた。

「か、カンダタだ!!カンダタが突然……」

 動揺する隊員達は、それを知らせるより前にカンダタによって意識を暗転させられた。そして遂に、その場に立つものが誰もいなくなった頃、納言はムクリと起き上がった。

「や、やりましたねカンダタさん……」

「いや、まだだ。来るぜ、本命が」

 カンダタは、廊下にいる2人の人影を指差した。

「嫌になりますね……」

「ぶち殺すピョン」


 2人の少女は、カンダタ達を睨みつけながら、それぞれの武器を構えた。

「行くぞ納言、合わせろよ?」

「合わせられっこ無いですよぉ……」

 カンダタの掛け声に対して、納言は弱々しく答えた。
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