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獄卒公安編
巻き込む覚悟
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事務所に戻ったカンダタ達は、一旦風呂に入り、状況を整理する事にした。どう行動に移すか、それ以前にどのような状況なのか、把握しきれていない部分が彼らにはあったためだ。
「……」
カンダタは、ソファに座ったまま下を向き、黙りこくっていた。彼に声をかけられる状況ではない、と納言はそれを遠目から眺めていた。そんな空気を押し切り、額はカンダタに質問する。
「君……これから何をするつもりだい?」
それに対して、カンダタは沈黙を貫く。2人は、その口から出る答えがわかっていた。
「君……1人でも乗り込むつもりだね?」
「……」
ギュッとカンダタは膝の上に作った拳を握りしめる。図星だった。仮に誰も協力してくれないとしても、俺は乗り込むつもりでいる。
「……あんたら、一緒に乗り込んでくれないか?」
カンダタは、額にそう提案する。だが、彼が出した答えは残酷なものだった。
「君は何も解っちゃいない。現実がね」
彼を見下ろすような態度で、額は言葉を続ける。
「まず、僕らは元々獄卒公安に目をつけられている。幾ら僕や君が強くったって対策を練られるだろう。つまり一筋縄では行かない。……それに、これで仮に彼女を助けたとして、その先はどうする?このまま地獄で追われる身にでもなるのかい?他者をそんなリスクに巻き込めるほど、君にそんな度胸があるのかい?」
これもまた、図星だった。自分は元々最悪の罪人。幾らでも罪など被ってもよかろう。だが、他者に罪を着せられるほど自分は落ちぶれていないし、その勇気もありはしない。黙り込むカンダタに、額はズンズンと迫る。
「良いかい、カンダタ君。何かを助ける事は、巡り巡って誰かを敵に回すのさ。その覚悟がないのなら、他人を思う事などやめてしまえ」
今までに見た事のない程冷徹な口調で額はセリフを吐き捨てる。その余りに一方的な物言いに、納言は思わず立ち上がっていた。
「が、額さん……何もそこまで言う事じゃ……カンダタさんはマカさんのことを思って……」
「納言くん、君はどうなんだい?」
「え?」
突然問い詰められた納言は動揺し、一歩後ずさった。
「君は、戦う覚悟ができているのかい?君は、誰よりも死ぬ覚悟ができている人間だ。幾らでも死ねるからね。だが、戦う覚悟ができていない。そんな君には、これから一生罪と戦うだけの覚悟があるとは思えない」
そう言い放たれ、納言は絶句した。いざという時以外、自分が前に出たことなどなかった。自分など、微塵も役に立たないと思ってきたからだ。だが、これまでの戦いを得て、自分も役に立てるのではないかと思い始めた。だがそれは、自分の奢りだ。いつ死んでもいいと言うだけの考えと、戦うと言う好意を混同させてしまったのだ。
「良いかい、君たちは甘すぎる。自分さえ良ければいいと言う考えに囚われすぎているんだ。自分さえ罪を被ればいい?自分などいつ死んでもいい?甘ったれるな!!それは大事なものを焼き払うのと同等の行為だ」
額は、大声で2人に言い放った。それに対して、2人は何も言い返せなかった。そんな彼らに対し、額は普段の優しい笑顔へと戻ると、
「なんて、言ってみたんだけどね。僕も他人のことなど昔は気にしていなかったし、自分のことさえどうでもよかった。良いかい、2人とも。自分だけを犠牲にするやり方をしていたら、いつか大事なものを失う。他人を巻き込む覚悟を持つんだ」
と2人に言った。シーン、と沈黙がその空間に広がる。だが、その空気を押し切るように、カンダタは
「あーーーーーーーーくそ!!!!」
と叫び声を上げ、自身の頬をパンと強く叩くと、勢いよく立ち上がり、
「なんか色々吹っ切れたよ、額。言われた通り巻き込みまくってやろうじゃねえか!」
と自慢げな表情で言い放った。それに対して、額はニヤリと笑い返し、
「いい心意気だ。……で、何かアテはあるのかい?」
と彼に問いかける。カンダタはフッフッフッと笑い、人差し指を上に立てて声高らかに言った。
「1人、いるぜ?最強の警備員がな!」
とある大学の宿直の中で、1人茶を啜る鬼の姿があった。その名は、鬼崎十郎。彼は突然押し寄せたくしゃみにより、口に含んでいた茶を全て吹き出してしまった。
「……噂話か?」
そう冗談めいた独り言を彼は漏らすが、それが冗談でなかったことを知るのはそのすぐ後のことであった。
………………………………………………
「さて……局長、奴らは動き出しますかね?」
とある部屋の中、髭の長い男は、白髪の老人に問いかける。
「さあな……まだ分からん。だが、直ぐに刑は実行するべきだろう」
老人は、落ち着いた口調のまま、彼に返答した。
「奴らの周辺への調査、終わりましたよ」
「完了だぴょん」
2人の少女は、書類を持って部屋に入ってくる。
「クックック……いつ戦わせてくれるってんだい?」
部屋の天井にまで頭が届くほどの巨体の男は、老人に問いかける。
「……もう時期来るとも、その時は」
老人は、口調を変えずにそう答えた。
「……」
カンダタは、ソファに座ったまま下を向き、黙りこくっていた。彼に声をかけられる状況ではない、と納言はそれを遠目から眺めていた。そんな空気を押し切り、額はカンダタに質問する。
「君……これから何をするつもりだい?」
それに対して、カンダタは沈黙を貫く。2人は、その口から出る答えがわかっていた。
「君……1人でも乗り込むつもりだね?」
「……」
ギュッとカンダタは膝の上に作った拳を握りしめる。図星だった。仮に誰も協力してくれないとしても、俺は乗り込むつもりでいる。
「……あんたら、一緒に乗り込んでくれないか?」
カンダタは、額にそう提案する。だが、彼が出した答えは残酷なものだった。
「君は何も解っちゃいない。現実がね」
彼を見下ろすような態度で、額は言葉を続ける。
「まず、僕らは元々獄卒公安に目をつけられている。幾ら僕や君が強くったって対策を練られるだろう。つまり一筋縄では行かない。……それに、これで仮に彼女を助けたとして、その先はどうする?このまま地獄で追われる身にでもなるのかい?他者をそんなリスクに巻き込めるほど、君にそんな度胸があるのかい?」
これもまた、図星だった。自分は元々最悪の罪人。幾らでも罪など被ってもよかろう。だが、他者に罪を着せられるほど自分は落ちぶれていないし、その勇気もありはしない。黙り込むカンダタに、額はズンズンと迫る。
「良いかい、カンダタ君。何かを助ける事は、巡り巡って誰かを敵に回すのさ。その覚悟がないのなら、他人を思う事などやめてしまえ」
今までに見た事のない程冷徹な口調で額はセリフを吐き捨てる。その余りに一方的な物言いに、納言は思わず立ち上がっていた。
「が、額さん……何もそこまで言う事じゃ……カンダタさんはマカさんのことを思って……」
「納言くん、君はどうなんだい?」
「え?」
突然問い詰められた納言は動揺し、一歩後ずさった。
「君は、戦う覚悟ができているのかい?君は、誰よりも死ぬ覚悟ができている人間だ。幾らでも死ねるからね。だが、戦う覚悟ができていない。そんな君には、これから一生罪と戦うだけの覚悟があるとは思えない」
そう言い放たれ、納言は絶句した。いざという時以外、自分が前に出たことなどなかった。自分など、微塵も役に立たないと思ってきたからだ。だが、これまでの戦いを得て、自分も役に立てるのではないかと思い始めた。だがそれは、自分の奢りだ。いつ死んでもいいと言うだけの考えと、戦うと言う好意を混同させてしまったのだ。
「良いかい、君たちは甘すぎる。自分さえ良ければいいと言う考えに囚われすぎているんだ。自分さえ罪を被ればいい?自分などいつ死んでもいい?甘ったれるな!!それは大事なものを焼き払うのと同等の行為だ」
額は、大声で2人に言い放った。それに対して、2人は何も言い返せなかった。そんな彼らに対し、額は普段の優しい笑顔へと戻ると、
「なんて、言ってみたんだけどね。僕も他人のことなど昔は気にしていなかったし、自分のことさえどうでもよかった。良いかい、2人とも。自分だけを犠牲にするやり方をしていたら、いつか大事なものを失う。他人を巻き込む覚悟を持つんだ」
と2人に言った。シーン、と沈黙がその空間に広がる。だが、その空気を押し切るように、カンダタは
「あーーーーーーーーくそ!!!!」
と叫び声を上げ、自身の頬をパンと強く叩くと、勢いよく立ち上がり、
「なんか色々吹っ切れたよ、額。言われた通り巻き込みまくってやろうじゃねえか!」
と自慢げな表情で言い放った。それに対して、額はニヤリと笑い返し、
「いい心意気だ。……で、何かアテはあるのかい?」
と彼に問いかける。カンダタはフッフッフッと笑い、人差し指を上に立てて声高らかに言った。
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「……噂話か?」
そう冗談めいた独り言を彼は漏らすが、それが冗談でなかったことを知るのはそのすぐ後のことであった。
………………………………………………
「さて……局長、奴らは動き出しますかね?」
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「奴らの周辺への調査、終わりましたよ」
「完了だぴょん」
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「クックック……いつ戦わせてくれるってんだい?」
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