地獄の道の罪人ども

酸性元素

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獄卒公安編

生殺与奪

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「マカさんが……攫われた?!」

 突如突きつけられた事実に、カンダタは驚愕した。一体どう言うことだ。俺が離れている間に何があったと言うのだ。カンダタは、納言に無言で詰め寄ると、その肩を掴み、顔を目一杯近づけ、

「どう言うことだ?!一体全体何があったらそんな事に……」

 と周囲の目も気にせずに叫んだ。すっかり縮こまってしまった納言は、その質問に答える事ができないでいる。その時、興奮するカンダタを宥めるように、2人の間に額が割って入った。

「僕が説明するよ。君がいない間からの一部始終をね……」

 そう言って、額は静かに語り始めた。

 30分前……


「取り敢えずくじ引きで決めた訳だけど……僕らが地獄に行くって感じでいいのかな?」

 美琴は額に聞く。それに対して、彼はああ、と一言返した。

「よし……じゃあ取り敢えず行くとするか。それまではマカ、しばしお別れさ!」

 美琴は決めポーズを取ると、牛頭と馬頭を連れてその場を後にした。彼らは、ゼウスたちにもらった地獄への手形を手に待ち、地獄へのエレベーターに向かって行く。そう言うふうに話し合いで決めたのだ。

「さて……取り敢えずこのメンバーで日輪で手がかりを探すわけですけど……どうします?」

 マカは、額と納言に向かって言う。2人はうーんと腕を組んで考え込むような姿勢を見せる。やはり、いざ探せとなっても中々分からないものである。

「まあ、カンダタ君が戻ってきてからで良いんじゃないかい?」

 おどけるような表情で額は言った。

「まあ、それもそうですね。……ちょっとお手洗いに行ってきます」

 マカはそう言うと、少し先にあるトイレに向かっていった。しかし、それから10分経っても、20分経ってもマカが帰ってくる事はなかった。女性トイレは並ぶとはいえ、ここまで時間がかかるのはいくらなんでもおかしい。そう感じた2人は、マカの行った女性トイレに向かっていった。

 すると、トイレの入り口の前に、一つの鞄が落ちていた。それは紛れもなく、マカのものだった。彼女の名前が書いてあるから、間違いない。

「これってマカさんの……落としたんですかね?」

「いや……これは……」

 額は視力を集中させると、瘴気の流れを見る。そこには、何かと揉み合ったような瘴気の痕跡が残っていた。

「まずいね、納言くん。マカちゃんが誘拐された」


 話の全てを聞いたカンダタは、ギュッと拳を握りしめ、

「あんたがいながら、なんでこんな事に……」

 と力無い声で額を責めた。彼は申し訳なさそうに頭を下げる。

「すまない。まさか彼女が誘拐されるなど、思ってもいなかった」

「美琴達に連絡しねーと……」

「いや……無理だよ」

 携帯電話を取り出すカンダタを、額は引き留めた。何故、と言う顔で自身を見るカンダタに対して、額は説明する。

「僕も連絡しようとしたんだ。だが、電波の不良なのか何なのか分からないが、どう言うわけか繋がらないんだ」

 繋がらない……実質的に仲間との連絡が不可能になってしまった事を意味した。

「と、取り敢えず瘴気の痕跡を辿ってみましょう!途切れるかもしれないですけど……出来るところまでは……」

 納言は、重い空気を払拭しようと、できるだけ明るい口調で2人に対して言う。

「……そうだな」

 カンダタは、納言の意図を察し、ぐっと堪えるような表情でそう返答した。


 とある場所の地下室にて……

「ここは……」

 マカは、牢の中へと押し込まれた。彼女はキョロキョロと周囲を見渡す。雨水がちょろちょろと壁からは漏れ出し、鉄格子はすっかり錆びついている。まさに、絵に描いたような牢屋だった。

「こんなところがあるなんて……」

 現代のこの時代に、中世さながらの酷い施設が配備されている場所など、想像できなかった。ここは、一体どこなんだ?彼女は必死で考えるが、一向に答えなど出ては来ない。

「やあ、君が堕天使かい?初めて見たねえ」

 彼女の前に、髭を生やした男が座り込んだ。長身の細身な体に服越しでは感じられるが、実際には引き締まった筋肉がその体に秘められているのがわかる。

「ここは誰ですか!貴方達は……!」

「時期にわかるさ、堕天使ちゃん。君の罪も、すぐに裁かれる」

 そう言うと、男はその場を後にした。再び牢屋で1人になった彼女は、徐々に自身に近づいてくる恐怖に身を潜めた。


「なんて事だ……!」

 その場にある瘴気を辿る過程で、額はとある事実に突き当たり、その場に膝をついた。

「な、なんだよ……」

 それに動揺したカンダタは、額に聞く。彼はゆっくりと口を開くと、その事実を静かに語った。

「今回彼女を誘拐したのは……犯罪組織でもなんでもない。公安のエリート部隊、獄卒公安だ」

「……?!」

 納言とカンダタの2人は仰天した。公安だと。そんなものを、これから相手にしなければいけないと言うのか。

 何処からか吹く冷たい風は、これから起こる状況を予兆させていた。
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