地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

最高神

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 話し合いを、する?何を言っているんだ、こいつは。カンダタは、自身の目の前に座るゼウスに対して眉を顰めた。だが、一向に体は動いてくれない。ゼウスの圧倒的なオーラを前に、体が強張っている。

「アテナよ……よくここまで来た。お前なら立ちはだかる障壁を突破できる、そう思っていたぞ」

 ゼウスは続けて、アテナを讃え始めた。なんなんだ、こいつは。話し合うどころか褒め称え出したぞ。カンダタの猜疑心はさらに深まっていく。対するアテナも、同様に緊張を隠すことができずに居た。だが、このまま何も言わないわけにもいくまい、と彼女はゆっくり口を開いた。

「お父様……貴方は記憶を操作されています。本来私たちは戦うべきでは……」

 彼女の言葉に対して、ゼウスは動揺することは無かった。ただ、自身の顎髭を人差し指と親指で弄り、

「ふむ……」

 と声を漏らすように言っただけだった。そして少しの間考えたのち、彼はアテナへの返答を返す。

「にわかには信じがたい話だ……記憶を操作されているとはな。それで、今回操っている黒幕がいる、と?」

「ええ、そうです。だから……」

「オリンポスを統治しているのは我々12神のみだ。すまんが、心当たりは無いな」

「え?」

 ゼウスの回答に、アテナは顔を強張らせた。心当たりが、無い?ならば、何故尚更敵対などしている?なんらかの形で洗脳されているのは確かだろう。だが、それを行った張本人が居ないと言うのは……

「仮にいるとしよう。だからと言って、お前たちを通すわけにはいかん。なぜなら、敵であるからだ」

 ゼウスはゆっくり立ち上がると、自身の玉座に置かれた斧を手繰り寄せた。まずい、来る。動き出す。最高神が、遂に攻撃を開始する。にもかかわらず、2人の体は動いてはくれなかった。そんな彼らに対して、ゼウスは言葉を続ける。

「アテナ……そして名も知らぬ男よ……お前たちを敵と見なそう。……来るがいい」

 白い稲妻が、部屋に落ちる。それは途轍もない地響きを起こし、ゼウスの上へと落下した。その電撃は彼の身体中を巡り、鎧のように、そして血液のように周りに纏われ、循環し始めた。

「雷帝激斧《ケラウノス》!」

 ゼウスは、神器の名を詠唱する。まずい、来る。来る来る来る来る来る来る来る…………
 動け……動いてくれ……!必死で体を動かそうと、2人は脳で体に命令を下す。だが、まるで見えない縄で縛り付けられたように、一向に体は動いてはくれない。

 ようやく体が動いたのは、斧が振り下ろされる直前になってからだった。

「ああああああ!」

 カンダタは思わず叫んでいた。そしてほぼ無意識と言える行動で、黒牙神帝《ブラック・ラース》を発動していた。アテナは咄嗟に前に盾を突き出し、襲いかかる雷撃から自身とカンダタの身を守る。そして、雷撃は振り下ろされた。

 詠唱も何もない、単なる攻撃。その一撃により、部屋全体は消し飛び、アテナとカンダタは部屋の隅にまで吹き飛ばされた。アテナの盾は、全ての攻撃を確実に防ぐことができる最強の盾。故にゼウスの攻撃であれど破壊はできない。そう、破壊自体は。

 とは言え、衝撃そのものの吸収も盾の能力には含まれている。しかし、その吸収能力でさえも、ゼウスの一振りは貫通した。アテナとカンダタは、いつのまにか吐血していたのだ。

「なんだ……これ……ゲホッゲホッ!」

 受け流しきれなかった衝撃が、体に直に響いてきたと言うのか。

「アテナ……あれやるぞ!!」

 アテナはコクリと頷き、カンダタと共に前に走る。これ以上喰らうのはやばい。なら、前に出るしかない、2人は上に飛び上がると、ゼウスの襲い来る追撃に対しての構えを取る。アテナは盾を前に構え、振り上げられた斧の衝撃を全て、自身に集中させた。当然、彼女の体は悲鳴をあげ、全身から血が噴出する。だが、これでいい。

「カンダタ……今……!」

 掠れる声で、アテナは言った。攻撃の防御を生じた僅かな隙。そこを狙い、カンダタは全身全霊の一撃を構える。自身の出しうる全ての瘴気を使っての一撃……それが、ゼウスの首元を捉えた。

「羅生門!!!!!」

 だが、信じられないことが起こった。首元に通るはずだった刃は、一切通っていなかった。

「そんな……嘘だろ……?!」

 カンダタは絶望した。自身の全力が、ポセイドンにさえ通じたあの一撃が、こうもあっさりと……

「さらばだ、名も知らぬ男よ」

 カンダタは咄嗟に右に避ける。だが、間に合わなかった。彼の右腕と右足は切り落とされ、そのまま地面に落下した。

「カンダタ……?ねえ……答えなさいよ!!カンダタぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 大量の血を流し、その場に倒れる彼は一向に動くことはなかった。そこにあるのは、絶望のみ。何一つとして、希望はありはしない。
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