地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

最後の審判

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「さて……君たちはここに来るまで……罪を重ねてきた」

 ヘスティアは、落ち着いた口調で語り始める。そんな彼女を前に、2人は思わず一歩引き下がった。来るのか、攻撃が。2人は武器を引き抜く。だが、それに対して彼女は

「ああ、落ち着いて。戦いたいわけじゃないんだ」

 と2人を宥《なだ》めた。信じていいのか、と2人は互いの目を合わせ合う。だが、彼女に敵意がない事を悟ると、武器を自身の腰に納めた。そんな彼らに対して、ヘスティアは言葉を続ける。

「うむ……いい心構えだ。今から僕が行うのは、謂わば審判……君たちの犯した罪の精算だ」

 仄かな笑みを浮かべつつ、そう言った彼女に対して、カンダタは質問する。

「清算……?どーゆー事だ。敵意がねえといっときながらそんな事を言うたぁな……矛盾してる」

「いいや、していないとも。僕はね……君たちの覚悟を知りにきた」

 カンダタの質問に対して、ヘスティアは表情を崩さずにそう答える。そして、徐々に周囲の景色が移り変わっていく。なんだ、これは。困惑する2人に対して、ヘスティアは話し始めた。

「さて……ここは何処か、わかるかい?」

 移り変わった景色は、ボロボロの住居だった。壁面には、夥しい量の血飛沫が上がっている。カンダタは、その景色に既視感を覚えた。

「君は……人殺しだね?それも大量の人間を殺した」

 ヘスティアはそう言うと、カンダタに顔を近づける。彼は拳をぎゅっと握りしめると、

「ああ」

 と静かに肯定した。カンダタが、これをやったのか。それを始めて知ったアテナは、険しい表情をするカンダタの方をじっと見つめた。そしてヘスティアは、今度はアテナの方へと視線を移す。すると再び、周囲の景色は移り変わった。

「アテナ……君は随分と他者に迷惑をかけてきたね。ポセイドンもそうだが……他にもある。それに……もっと隠していることがあるんじゃないか?」

 ヘスティアは、アテナに顔を近づける。アテナは、それに答えられなかった。ずっと自分の中に秘めていた思い。隠しきれなかった内情……それを、ヘスティアに見抜かれかけている。

「君はゼウス神を本当は……」

「 やめて!」

 アテナは、真実を話そうとするヘスティアを突き飛ばした。知られたくない、自分の中に留めておこうとしていた事。それを、他者に知られる事が嫌だった。特に……カンダタには。

「残念だ……アテナ。ここにいる彼は、自分の罪から逃げようとしなかった。なのに君は、一向に罪から逃げている。実に悲しいよ」

 アテナは、下唇を噛み締めた。分かっている。そんな事は、自分が一番よく知っている。

「アテナ」

 そんな中、彼女に話しかける声があった。それは、彼女の隣に立つカンダタだった。今まで見たこともないような、優しい目つきだった。そんな目つきで、彼はアテナの名を呼んだのだ。そんな目を……そんな目を見てしまえば、彼女は答えざるを得なかった。徐々に、ゆっくりと口を開く。

「私は……私の親友は……」

 それをゆっくり、彼女は語り始めた。自身のずっと隠していた真相。それを、震える声で。
 それを聞いたヘスティアは、満足げに微笑むと、周囲の景色を元に戻した。

 まさか、このまま行かせてくれるのか、と2人は目を丸くする。そんな2人に対して、彼女はため息混じりに答える。

「そうだね……君らの記憶をのぞいてわかった。僕らは……記憶を操作されてるんだろう?僕は家を守る神さ。だから……この先ここに来るものがいたら、それを止める役目がある。……ゼウス神の事は、君らに任せたよ」

 そうか、この神は気づいてしまったのか。いや……気づかなかったとて、きっと同じ行動をとるだろう。そんな気がする。カンダタは、若干の笑みを浮かべ、アテナと共に階段を登り始める。

「ヘスティア……ありがとう」

 アテナは、彼女に対して感謝を告げる。彼女は仄かに笑みを浮かべると

「君に感謝してもらえる日が来るとは……正直思わなかったよ」

 とやはりため息混じりに答えた。


 ………………………………………
 階段を登りながら、2人は会話していた。

「なあ、アテナ」

「何よ」

 アテナはカンダタに対して、若干不満げに眉を顰める。それを無視して、彼は言葉を続ける。

「見ての通り俺は……人殺しだ。一生かけても洗い流せない程の、な。それでもあんたは、俺といてくれるのか?」

 それに対して、アテナは深いため息をつくと、

「何よ今更。私も似たようなものよ。一昔前だったら、私の気に入らないやつは全員殺してたわよ。用は似たもの同士なの、私たちは」

 と言った。それを聞いたカンダタは、満足そうに笑みを浮かべると


「そうか……似たもの同士、な。悪くねえ表現だ」

 と返す。自分の内情を知ってもなお、こうやって話してくれる。そんなカンダタを、私は……いや、留めておこう。話さない方が言い事の方がこの世の中は多いのだから。

 そうして2人は、塔の頂上にある巨大な扉の前に到着した。開こうとするまでもなく、扉はゴゴゴゴゴ……と音を立ててゆっくり開いた。

「ふむ……君たちか。どうぞ、入りたまえ」

 その広い部屋の奥、玉座に座るのは、巨大な白髭を生やした老人だった。これが、ゼウス。見るだけで分かる。明らかに別格の瘴気と神性を纏っている。カンダタは、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「お父様」

 アテナは、カンダタと共にそこにゆっくり歩き始める。

「まあ、座りたまえ。いい紅茶を仕入れてあるんだ」

 落ち着いた口調でゼウスは、巨大なテーブルを指差す。そこには、3人分のティーカップが並べられていた。あれに座れと?この状況で?カンダタは困惑した。だが、いつの間にか、彼は机に座っていた。どういう事だ、まさか、あまりの瘴気と神性を前に、体が勝手に動いたと言うのか?

「さて……話をしようじゃないか」

 ゼウスは、相変わらず落ち着いた口調で話し始めた。

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