地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

最強最弱

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 アレスは、その場に倒れる3人に向けて槍を振り下ろす。あと1秒も立たないうちに自身が死を迎える事を悟った牛頭は咄嗟に、自分を含めた美琴と馬頭を瞬間移動させ、その攻撃から逃れた。その直後、凄まじい風圧が巻き起こり、槍の振り下ろされた場所に底無しの穴が形成された。

「はあ……はあ……!」

 ヨロヨロと、牛頭と馬頭は立ち上がる。もはや意識があるかどうかも怪しいだろう。だが、それでも戦うしかない。自らこの道を選んだのだから。美琴も、それに続くように立ち上がった。アレスは、そんな3人を睨みつける。

「貴様……避けたな?我が一撃をかわしてみせたな?」

 その表情と言葉遣いは、歴戦の戦士そのものだった。アレスはその表情を崩さぬまま、3人に向けて突進した。あまりにも早過ぎるその移動速度に、彼らは対応できなかった。咄嗟に前に出た美琴によって、突き出された進路は曲げられる。だが、かわりに彼の腹部は、槍によって削り取られてしまった。右腕に続き、腹部。体のあらゆる部位を削ぎ落とされた美琴に、もはや残る体力は無い。

「美琴!!」

 馬頭は、美琴の左手を掴むと瞬間移動し、追撃を浴びせにかかるアレスから逃れる。
 ……はずだった。アレスの背後に移動した彼女に向けて、アレスは即座に槍を突き立てたのだ。その攻撃により、馬頭の両足が吹き飛ばされる。

「馬頭ーーーー!!!!」

 そんな、死んでしまう。馬頭が、私の妹が死んでしまう……!それを見ていた牛頭は、咄嗟に前に出た。しかし彼女は、アレスの残る左手に捕まれ、上に持ち上げられてしまった。

「瞬間移動と言っても、相手の攻撃を読めば対策は造作もない事だ……。まずは君から殺すとしよう。」

 アレスは、冷徹な表情で牛頭の首を閉め始める。

「待って……牛頭……お姉ちゃん!!やめて!!やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 体を引きずりながら、馬頭は彼女に手を伸ばす。掴めるはずもないのに、手を伸ばした。牛頭はすでに、口から泡を吹いている。あと数秒で、彼女は死んでしまうだろう。どうすれば……どうすれば……美琴は必死で考えた。その時だった。アレスに、弱々しく突進する何者かがいた。

「……?」

 アレスは、自身の足元を見る。それは、自身より遥かに体格の劣る少年……納言だった。

「納言……」

 身体の再生能力があるとは言え、体力までは回復することができない。故に、納言の疲労はすでに限界にまで達しているはずだった。それでも、自分より遥かに強いはずの男に、彼は立ち向かっていたのだ。アレスは、牛頭から手を離すと、納言を左手で吹き飛ばした。

「がっ……!」

 彼はそのまま地面に倒れる。だが、またしても立ち上がると、再びアレスに掴み掛かった。

「少年……分かっているのか?君では……」

 アレスは、憐れむような表情で納言に言う。だが、それに対して彼は叫んだ。

「分かってるんだよ!!!僕じゃ……皆んなの役に立てない。どこまで行っても凡人だよ。でも……だからなんだって言うんだ!!戦わなきゃ……ここで戦わなきゃ……誰も助けられないじゃないか。」

 アレスは目を見開いた。この少年は、明らかにこの中で最も浮いている。だが同時に、誰よりも真っ直ぐな、戦士の目をしている。なんと自分は愚かだったのだろう。この少年を、みくびっていた。アレスは自身の愚かさを悔いると、納言に向けて構えをとった。

「すまなかった、君に謝罪しよう。君を1人の戦士として認める。名を、聞こうじゃないか。」

「浅倉納言。……お願いします。」

 納言は歯を食いしばり、自身を襲う果てしない恐怖を抑えながら言う。アレスは強く地面を踏み込むと、勢いよく槍を突き出した。その槍の衝撃により、納言の体はバラバラになった。だが、その直後に彼は体を再生させ、アレスに向かって突進する。

「なるほど……その再生力……面白い!!」

 アレスは笑みを浮かべると、自身の神器の能力を発動した。

「火槍雷天誅《マーズ・オブ・インパクト》!」

 先ほどとは比べ物にならない程の衝撃波が、あたり一面を吹き飛ばした。

「くっ……なんだ、これは……!!」

 美琴、牛頭、馬頭の3人は、巻き起こる砂埃に目を瞑る。そして再び視界が晴れた時、その場に横たわる納言の姿があった。

「こ……の……」

 それでも尚、彼は立ち上がる。仲間のために、立ち上がる。

「なるほど……この攻撃を受けて生きているとは……人間で生きていたのは君が初めてだよ。」

「はあ……はあ……!」

 納言は体を引きずりながら、アレスに近づく。勝算など、万に一つもない。それでも良い。やるしか無いんだ。

「納言……もうよせ!君の体が限界を迎える……」
 美琴は、納言に向かって叫ぶ。それでも、彼は歩むのを辞めない。そして遂に、アレスを目前にして納言は倒れてしまった。

「ここまでか。いい勝負だったよ、納言。」

 アレスはそう言うと、その場に横たわる美琴たちの方を向く。……その時だった。突如立ち上がった納言が、自身の心臓部へと手のひらを押し当て、瘴気を時はなったのだ。

「……?!まさか、この時を狙って……」

 美琴達との修行によって会得した、唯一の技。それを、納言は叫んだ。

「魔瘴炎帝《デモンズ・ソウル》!」

 心臓部から、凄まじい瘴気が解き放たれる。彼に埋め込まれた悪魔の瘴気が、アレスの全身を覆い尽くした。その凄まじいまでのしょうきは、後方にある塔の一部に傷をつける。

「はあ……はあ……はあ……!」

 勝った、これで……!納言は自身の勝利を確信した。だが、現実はそうは行かない。全身に傷を負った状態のアレスが、そこに立っていた。

「なるほど……これが君の奥義か。見事だったよ、納言。」

「そんな……まだ……!」

 あの技は一日一回きりの大技。二度の発動はできない。どうすれば良いんだ。納言は、ワナワナと震え始める。そこに、先ほどまでの勇ましさは無かった。だが……新たな戦士が、彼の肩に手を置いた。

「大丈夫だ……納言。ありがとう。君のおかげで、僕は気付かされた。」

 それは、美琴だった。彼とて、満身創痍の筈。どうやって、戦うというのだ。

「なるほど……次の挑戦者か。良いだろう。君も私を楽しませてくれるのかい?」

 アレスは槍を美琴に構える。対する美琴は、ゆっくりと口を開いて語り始めた。

「僕はずっと……これを抑えておくべきものだと思っていた。だけど違った。仲間を巻き込まないとか、自分が嫌われるとか、そんな事ばかり考えていた。だけど……仲間は僕を信じてくれた。僕のために戦ってくれた。だから……僕も僕を信じることにした!!」

 美琴は、自身ののありゃが解放させる。今度はブレーキなどいらない。駆け抜けるように、力を解き放つ。理性は白くは染まらない。体は大きくなどならない。失った右腕と腹部は、急速に再生する。そんな彼の体は、白い人型の虎へと変わっていた。凄まじい瘴気と神性が、彼から解き放たれていたのだ。

「これは……そんな馬鹿な……!このオーラ、私たちに匹敵する!!」

 アレスは、美琴から放たれるオーラを前に驚愕した。対する彼は、ゆっくりと口を開く。

「今度は僕の番だ、12神。桃源郷の白い虎……見せてあげるよ。」

 そう言うと、美琴はゆっくり歩き始めた。アレスは、美琴との距離を急速に詰めると、槍を突き出す。だが、その槍は途中で停止した。信じられないことに、その槍先を、美琴が掴んで止めていたのである。そんな、馬鹿な。と驚愕するアレスを、美琴は勢いよく殴りつけた。彼は地面に叩きつけられ、地面に底のない穴が形成された。

「さあ、立てよ12神。ラウンド2と行こうじゃないか!」

 美琴はそう言って、アレスを挑発した。
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