地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

持ってる奴ら

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 ドライガルは槍をカンダタの前に突き出す。彼は咄嗟に右によけてそれを回避し、その体勢のまま、下から上に刀を振る。ドライガルはのけぞってそれを回避すると、地面に槍を突き刺し、それを利用して回転すると、カンダタに蹴りを浴びせた。

 彼は右手の甲でそれをガードすると、左手で刀を振り上げる。ドライガルは槍を地面から引き抜くと、振り上げられた刀を槍先で受け止めた。バチバチ、と火花が散り、両者の刃は拮抗する。

「お前ら!今のうちに行け!こいつは俺が相手する!!」

 カンダタは、自身の後方にいるアテナと天使たちに向かって叫ぶ。彼女たちはコクリと頷くと、そのまま2人を無視して前に進んで行った。

「なるほどな……やるじゃねえの、カンダタ。俺と同格レベルってわけか。」

「ぬかせ。……テメェが下だ犬っころ!」

 両者は部下の拮抗をやめると、お互いに距離をとる。緊張が走る中、それを緩和させるかのように、ドライガルはカンダタに質問を投げた。

「なあ、時にカンダタ。持ってるやつと持ってないやつの違いってのは分かるか?」

「さあな、んなもんは知らん。」

「……正解はな、手の内を最後まで隠せる奴の事さ。……神器解放!」

 ドライガルは、カンダタとの距離を急速に詰まると、自身の神器である槍の能力を解き放った。カンダタは後ろに下がって槍の間合いから逃れようとする。だがどういう訳か、その間合いは伸《・》。突如間合いが変化した槍は、カンダタの心臓部に向かって伸びる。カンダタは咄嗟に刀でそれをガードするが、後ろに勢いよく弾かれてしまった。

「まだ終わらねえぜ?!」

 ドライガルの攻撃は止まらない。バランスを崩したカンダタに向けて、彼は槍を振る。カンダタは下に伏せる事でそれをかわし、その姿勢のままドライガルの足に向けて蹴りを浴びせる。だが、槍の長さは再び変化する。槍は地面に当たると、ドライガルの体を持ち上げ、その蹴りから彼を回避させた。空中に浮かび上がった彼は、飛びかかる形でカンダタに槍を突き立てる。カンダタは転がりながら、襲い来る槍の連撃をかわしていく。

「この……!」

 カンダタは起き上がり、刀を振り上げて槍を受け止めようとするが、そこには槍先は無かった。間合いが元に戻っていたのだ。くそ、なんでやりづらい。彼は舌打ちし、ドライガルから距離を取る。

「分かるぜカンダタ、お前は持ってるやつだ。隠してるんだろ?手の内を。」

 ドライガルは、ニヤリと笑ってカンダタに言う。

「お前みたいな三下に見せてたまるかよ!」

 カンダタはドライガルとの距離を詰めると、凄まじい速度で剣戟を交わしていく。だが、終始間合いの変化する槍に、真っ向から立ち向かえるわけもない。彼の体には、徐々に傷がついていく。

「分かるか?カンダタ。持ってないやつってのはな……使うべき時に手の内を隠す奴のことさ。」

 ドライガルは、心底失望したような表情を見せると、自身の神性を解放させた。先ほどとは比べ物にならないほどの速度で、槍が飛ぶ。まずい、避けられない。そう察知したカンダタは、咄嗟に蜘蛛の糸を貼っていた。

「上等だよ……手の内見せてやる!!」

 カンダタは蜘蛛の巣を貼って飛び上がると、その槍をかわし、空中で回転しながらドライガルの右腕に深い傷をつけた。大量の赤血が彼の腕から噴出する。

「痛っ……てぇぇぇぇぇ……!」

 ドライガルは、腕を抑えて後ろによろめく。そんな彼に対して、カンダタは言い放つ。

「よお、ドライガル。手の内見せてやったぜ。」

「なるほど、な。だがよ……本当に能のある鷹ってのは爪以外も隠すんだぜ?」

 ドライガルは自身の傷を治療すると、ニヤリと笑う。それに対してカンダタは眉を顰める。

「擬似固有神器・解放!BlackLanceブラック・ランス!」

 ドライガルの槍が黒く染まる。なんだ、と動揺するカンダタは、刀を強く握った。

 槍が伸びる。もうすでに見慣れた流れだ。対応できないはずはない。彼は後ろに下がってそれをかわす……その時だった。前に突き出されたはずの槍先は、彼の背後に移動していた。

「……?!」

 カンダタは、咄嗟に刀でそれを弾くが、完全にその進路を晒す事はできず、その槍先は、彼の右瞼《みぎまぶた》をかすめた。僅かばかりの血がそこから出る。

「さあて……こここらだぜ?カンダタ。」

 ドライガルはニヤリと笑うと、彼に向けてそう言った。

「擬似固有神器……ここまで厄介とはな。」

 カンダタは、思わずそれに笑い返していた。


 ……………………………………………

「フハハハハハハハ!!どうだ!手も足も出まい!」

 アストラルは、剣の連撃を牛頭と馬頭に浴びせていく。

「ごめん……」

「隙だらけ。」

 双子は一瞬のうちに彼の後ろに回り込むと、その後頭部をゴツンと殴りつけた。

「思ったより楽勝だったね。……同じ階級でも天使たちの力に差があるのは事実らしい。」

 フー、と美琴はため息をついて言う。

「いや……以前の私たちなら苦戦していました。美琴さんのお陰です。」

 牛頭は、美琴に感謝の言葉を告げる。彼は何も言わずに、彼女の頭をポンと叩いた。

「と、取り敢えず倒しましたし……行きましょう。」

 納言は、おどついた様子で言う。一同はコクリと頷くと、塔の方へと向かっていった。

「なるほど……アレが反乱軍ですか……」

 その様子を、空の上から見ている者がいた。それはその場からシュン、と音を立てて消えていった。上空に吹く風は、その不穏な雰囲気を助長させていた。
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