地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天上編

神の炎

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 カンダタは、先ほどまで全身に走っていた痛みが消えていたことに気がつくと、ゆっくりと体を起こした。なんだ、これは、何が起こっている。彼は周囲を見渡す。黄金の盾を持ったアテナが、自身の前に立っている。これは、まさか。

「お前……神器を……!」

「ええ、そうよ。今までの私とは別人と思いなさい。」

 フン、とアテナは自慢げに言う。その場に他の2人も、倒れていた状態から起き上がる。余裕綽々の姿勢を崩さない彼女に対して、ラファエルはポージングを取る。

「なるほど……ここは少々厳しい……ですが、引き下がるわけには行かないと言うもの。」

 両者は少し睨み合った後、動き始めた。ラファエルは再び、アテナとの距離を詰め、懐に潜り込んだ。だが、詰めたはずの距離は、離《・》。これは、なんだ。ラファエルが戸惑うその一瞬の隙を狙い、アテナは手に持つ盾を彼に向かって投げた。咄嗟に彼は両腕でガードを取る。だが、その盾の衝撃は、上記を逸するものだった。その凄まじい衝撃により、ラファエルの体は建物の壁を貫通し、遥か遠くへと吹き飛ばされた。

「天使なんでしょ?飛んでみなさいよ。飛べるものなら、ね?」

 吹き飛ばされるラファエルにアテナは一瞬で追いつくと、盾を回収し、再びそれで彼を地面に叩きつけた。その衝撃により、地面に巨大な穴が開く。発生した熱は、地面を赤く染めていく。

『なんという攻撃力……!これが固有神器を解放した12神の力!』

「へぇ……噂には聞いてたけど、相当な耐久力ね。」

 地面に着地したアテナはそう言うと、容赦なく地面に倒れるラファエルに対し、盾を投げる。ラファエルは、この隙を狙っていた。先程距離が詰められなかったのも、おおかたこの盾の機能のせいだろう。ならば、この投げた隙を狙えば良い。ラファエルは羽を利用し、猛スピードでアテナに詰め寄ると、地面スレスレにのけぞって盾をかわす。盾は即座に踵を返すと、彼を超える速度で追尾する。だが、彼女に追いつく方が早い。これで、終わりだ。ラファエルは、全体重をのせて拳を振り上げた。しかし、彼の予想外の方向に自体は進んだ。

 不可視の盾。目に見えぬ壁。幾らでも表現のしようがある。全く見ることができない何かが、アテナの前にあった。

「知ってるでしょ?オリンポス12神の固有神器は能力が複数個ある。」

 そうか、これが格の違い、か。彼が諦めたその時には、もう遅い。自身に追いついた盾により、彼の意識は暗転したのだから。


「よし……」

 アテナは、戦闘が終了した事を確認すると、その場を後にし、3人の元へと戻った。


「さて……さっさと武器を回収しましょ。」

 にこやかな笑顔で、彼女は鞄を取り出す。なんと言う力。これが、本気を出したオリンポス12神。ゴクリ、と3人は唾を飲み込んだ。

 私は、何をやっているんだろう。ウリエル様に認められたい一心で、ここに来たのに。結局一方的にやられただけじゃないか。アイリスは拳をギュッと握りしめる。

「さて……手伝おうぜ、俺らも!」

 放心するカンダタと彼女に対して、ダンは励ますように肩をポンと叩いた。

「……ふぅ。よし、やるか。」

 パチン、とカンダタは自身の頬を叩くと、2人と共に武器庫の中へと入っていった。


「マフェットちゃん……これ、使うしかないよね?」

 ラファエルは、倒れた状態のまま、自身の手の中にあるボタンを握りしめる。

「仕方ないよ、ラファエルくん。」

 ラファエルは、右手にあるマペットで、ボタンを押した。


「ふぅ……これで終わりか。」

 全ての武器を集め終わった4人は、その場を撤収する準備を整え始める。その時だった。ドゴォン!と言う爆発音に似た何かの音と共に、周囲が大きく揺れた。

「なんだ……?!」

 一同は外に出る。すると、そこにいたのは、ギガンテスと大鼠の大群だった。

「まさか……特殊防衛措置を……!」

 アテナはボソリと呟く。特殊防衛措置……四大天使以上に許された機能。このギガンテスの大群は、そう言うことだろう。だが、大鼠は一体どう言うことだ?どう考えても関係ないじゃないか。

「そうか……大鼠は神性も吸収する……!ギガンテスの持つ神性に反応したのか。」

 ダンは、鬼気迫る表情で言う。カンダタは、心の中で敵の総数を数える。その数は50、否。100を超えている。地上の境界線を埋め尽くさんばかりのそれは、脱出が不可能になったことを裏付けていた。

「大鼠はどうにかなる……でもギガンテスは……」

 神性を吸収する。アイリスは、ガタガタと震え始めた。このまま、私たちは死ぬのか?

 だが、怖気付がない2人がいた。アテナとカンダタ。2人は、それぞれの武器を構えると、襲い来る大鼠の大群を蹴散らしていく。

「何ぼさっとしてんだ!!さっさとやるぞ、こいつら!」

「ギガンテスだろうと……私の神性は通るのよ!!」

 2人は、目の前に迫るギガンテスに向けて武器を振るう。アテナの盾から放たれた神性は、ギガンテスの耐性を貫通し、その体をバラバラに破壊した。だが、当然これで終わりではない。次々と、巨人の軍勢は一同に襲いかかる。

「まだ来るかよ……この野郎!!」

 カンダタはギガンテスに飛び掛かると、糸で体を絡めとり、その頭部に刃を突き立てる。

「俺は神じゃねえからよお……よく考えりゃシンセイの耐性なんざ意味ねえよなあ?!」

 落下する勢いに任せて、彼は刀を勢いよく振り下ろしていく。

「おおおおおおおおおおおらぁ!!」

 ギガンテスの体は、縦にあっさり両断されてしまった。それでも彼は止まらない。張り巡らせた糸を伝って、次の巨人、次の巨人へと向かっていく。

「凄い……」

 アイリスとダンは、その光景に見惚れていた。天界の絶対的な防衛システムをあっさりと打ち砕いていく男女。もはやそこに疑いの余地などありはしない。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 カンダタは、息を切らしながら周囲を見る。敵は未だ、進路を妨げてくる。くそ、流石に体力の限界だ。カンダタは、大鼠に足を掴まれ、地面に叩きつけられてしまった。

「ぐぁ……!くそ、この!」

 彼は大鼠の体を両断すると、刀を構える。だが、自身を取り囲む数十体の大鼠を前に、冷や汗が垂れる。巨人と同時に、これを相手にするのか。彼は尚も、刀を振るう。一体、二体……凄まじい速度で切り裂いていく。だが、1人でやるには限界がある。暫くしないうちに、彼は大鼠の突進をくらい、武器庫の壁に体を叩きつけられてしまった。

「クソッタレ……!」

 ギガンテスと大鼠は、彼を見下ろすようにズンズンと近づいていく。

「カンダタ!くっ、どきなさいよ!!」

 アテナは、自身を妨害するギガンテスの大群を、拳一つで破壊した。しまった、間に合わない。自分が追いつく前に、カンダタが死んでしまう。彼女の脳裏に、男の顔が浮かんだ。自分が救えなかった、あの浮浪者の男。人形を娘と思い込んだ、彼。私に感謝してくれた、彼。もう二度と、間違えるわけにはいかないのに。

 その時だった。大鼠の大群を、アイリスとダンが吹き飛ばした。

「大丈夫か?!」

「さっさと進みましょう!」


 ダンは拳を硬化させると、大鼠を勢いよく殴りつける。アイリスは短剣を構えると、次々とそれらを切り付けていく。

「……助かった。じゃ、いっちょ円陣組もうぜ!」

 4人はそれぞれの背中をあわせ、襲い来る敵を蹴散らしていく。まだだ、まだ、突破する時ではない。敵の間に生じる隙間を、見定めるのだ。

 そして、ついにその時は来た。巨人と大鼠の間に、人数人分の隙間が空いたのだ。

「今だ、行くぞ!!」

 カンダタがそう叫ぶと同時に、一同は走り出した。どんどん隙間は小さくなっていく。その隙間を、カンダタはスライディングして通り抜ける。

 よし……このまま行けば……とマンホールに彼が手を伸ばしたその時だった。

 先ほどの十倍以上のギガンテスの大群が、地面から生成されたのだ。

「……?!くそ!あと少しだってのに……!」

 カンダタは舌打ちし、刀を構える。だが
 これはどう考えても……3人が半ば諦めかけたその時だった。

「どうも皆さん、お困りのようで。」

 彼らの前に、1人の天使が現れた。それは、紛れもなくウリエルだった。

「アンタ……やめろ!知ってるだろ?!そいつは神性を……」

「いや……あいつに任せておきなさい。」

「え?」

 アテナは、引き留めようとするカンダタの肩を右手で掴む。ウリエルは、腰についた剣を引き抜いた。そこから、紅蓮の業火が燃え盛った。

「基本的に他人の能力なんて私は覚えてないけど……あいつは別。あいつの能力は唯一無二だもの。あいつの神器の炎は……あらゆる耐性を貫通する。私の盾でさえ、それは防ぐことはできない。」

 アテナは、ウリエルの燃え盛る剣を見ながらそう語る。彼女は、上に剣を構えると、勢いよくそれを振り下ろした。一面を覆いつくさんばかりの炎は、全てを灰へと変えてしまった。

「さ、行きましょうみなさん!」

 ウリエルはくるりと4人の方を振り返ると、笑顔を浮かべてそう言った。
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